帰国子女の英語力と日本語力の表れ方 ①

帰国子女の英語能力と日本語能力について、ごく身近な帰国子女のサンプルを肴に述べてみたい。

サンプル:息子と娘、姪二人、義妹(おまけ)
(身近すぎてすみません。当然の如く、身近特権で当人たちにサンプルにさせて貰う承諾は受けておりませんので)



世の中の人々は、「帰国子女」と一括りにするが、実は「帰国子女」とは様々である。
先ず大きく別れるのは、

・現地校/インターナショナルスクールでの教育を受けた
日本人学校(小学校・中学校)に通った

の違いだろう。それぞれの家庭で事情はあると思う。
個人的には後者は、「やっていることは日本の公立校と同じ」と思うので、今から述べる「母国語と、外国語とのせめぎ合い」とは関係ない。

ここではあくまでも、同じく海外で英語教育を受けた子供の、英語力と日本語力の表れ方、とそのバランスについて見てみたい。
では、先ずサンプルの背景説明を。

息子:中高一貫校の中三で渡独。インターナショナルスクールの9年生から11年生の終わりまで3年間在籍

娘:小学校6年生で渡独。インターナショナルスクールの6年生から8年生の終わりまで3年間在籍

姪A:誕生後数ヶ月で渡米。小学校受験直前で帰国するまで5年余滞米。3歳〜5歳の3年間現地幼稚園に在籍。

姪B:日本で幼稚園の年少組途中で渡米。現地幼稚園、現地小学校に通い、小学校4年生で帰国し、日本の学校に通う。

義妹:姪二人のママ。彼女自身も小学校5年生から中学校2年生まで4年間アメリカで暮らした経験あり。

また全員、幼稚園や学校では英語を使っても、一歩家に帰ったら、家族間ではこてこての日本語生活を送っていたものと思われる。


日本語ではない環境に放り込まれた入った年齢順に、「英語と日本語のバランス」を見てみると、


姪A:
6歳で帰国した時には、姉妹で遊ぶ時は英語。日本語は意思疎通には問題はなかったけれども、伯母の私が贔屓目にみても明らかに、同年代の女の子に比べて語彙や喋り方が幼い感じだった。日本では小学校入学前に、平仮名片仮名は勿論漢字も相当読める子供も多いが、姪の場合はそれは少々遅れていた、と思う。けれども、その後それは徐々に同年齢の子に追いつき、更に本好きが功を奏して、6年生になった頃には作文が得意になり国語の成績は校内でトップクラス。逆に英語は殆ど覚えていない、という。中学校での英語教育に入る時には、ほぼ「ゼロからの出発」であろう。英語に限らず、6歳で帰国した彼女は、5年間住んだアメリカの家や幼稚園やアメリカで旅行したところも全ては「ビデオとアルバムの中の記憶」でなのである。


姪B:
アメリカで現地の小学校に行ったため、土曜日は毎週補修校に通った。一口に「補修校」というけれども、アメリカ人の子供と月曜日から金曜日まで現地校で勉強して、その上土曜日に日本人学校の補修校に行き、そのたった土曜日一日間で、日本人学校の同じ学年の生徒が月曜日から金曜日まで勉強していた一週間分を学ぶ生活、というのは、親と子双方にとってかなりハードなものである。下に小さい弟妹がいたりすると、預けたり面倒みてもらえる頼る親戚もない海外で、一家挙げて総力で取り組まなければ続かない。しかし、ここで親が音を上げて、「現地校一本に絞って、日本語は家で親が教えればいいから。」と諦めてしまうと、小学校低学年の場合、漢字や九九が壊滅状態となり取り返しがつかなくなってしまう。姪も、補修校の他に公文にも行き、また日本から取り寄せた漢字ドリルや国語のワークをやっていたようだ。英語圏に一生住むのならともかく、数年で日本に帰国することがわかっているのならば、親はいかなる犠牲を払ってでも(自分の楽しみの時間を削り、日本語の本や問題集を発注してamazonに多大な資金を貢ぎ)、「日本語の読み書き」だけは身につけさせなければならないと思う。義妹と本人の頑張りのお陰で、帰国してからの順化は順調で、英語力保持のために英会話を習ったせいか、帰国後3年で中学校入学、日本の学校英語教育が始まった時には、英語をまだ覚えていて、スムーズに入れたらしい。家族の中では一番英語の発音が綺麗ともいう。


こうして姪たち二人を見ていると、3歳違いの姉妹でも状況はかなり違うということがわかるだろう。
子供はスゴい、小さければ小さいほど適応能力が素晴らしい。
一日のうち起きている時間の3分の1から2分の1の時間、全くの英語環境にいると、母国語の日本語も覚束ないのに、幼児のレベルで「聞く」「話す」ことはバイリンガル状態になるようだ。
ところが、逆も真なり、で、今度は日本に帰国した時に、日本語に慣れるのも早いということで、それは取りも直さず、英語を忘れるのも早い、ということである。
もしかしたら、幼稚園生〜小学校低学年くらいの駐在ならば、もし現地にあるのならば、日本人幼稚園、日本人小学校に通った方が、母国語の日本語がしっかり学べるかもしれない。
小学校低学年で現地校に入れる場合、気をつけなくてはならないのは、親が決死の覚悟で日本語の読み書きを教えることが大事、ということ。
後に、息子や娘の帰国生友人関係で見た例だが、小学校低学年からずっ〜っと英語環境で勉強してきて、英語は文字通り「ネイティブ並み」、家庭内では日本語なので、多少おかしいところがあるけれども日本語の会話も普通にOK、というお子さんで中学生が、例えば書いた日本語は全部平仮名、日本語の文庫本や漫画は好きでたくさん読んでいるけれどもそれは全て漢字のルビを読んでいるからであってルビなしだと漢字は読めない、とか。普段会話している分にはドメス(domestic)の日本人と遜色ないけれども作文とか文章を書く段になると、日本語で論理的に筋の通った文章が書けない(勿論漢字も全然書けない)というお子さんもいる。
親の決死の覚悟と献身的家庭内日本語教育があって初めて、日本に帰国してから、英語力と日本語力のバランスが最適になる、ということだろう。
それから、科学的根拠はネットでぐぐっても見当たらないが、よく言われている英語の発音についての(俗)説がある。

8歳、遅くとも10歳までに英語環境にいれば、ネイティブ並みの発音と耳を身につけることができる。それ以降はいくら頑張ってもネイティブ並みの発音は難しい

私はこれに関して最初は眉唾だと思って疑っていたのだが、どうやら当たっているような気もする。身近なサンプルだけでなく、今まで個人的に聞いてきた例だと、
「ウチの子小学校低学年の時までアメリカにいて幼稚園とか通っていて英語で遊んでいたのに、帰国して英語はすっかり忘れちゃって、中学校になっても英語の成績はイマイチだったんだけど、センターのリスニングだけは勉強しなくても出来るのよ。」
というのは、よく聞くことである。
ということは、言語としての英語は忘れてしまっていても、英語を聞き取る能力、そして恐らくはその聞き取った発音を真似して発音する能力は残るのかもしれない、8歳以前に英語環境に住んでいれば。
念のために、来年から導入されるという一週間にたった1時間の「外国語活動」(それも11,12歳の5,6年生に)なるものではこれ(英語を聞きとり再現する耳力)は獲得されうるはずもないし、巷の子供向け英会話教室でも同じく不可能であるのは言うまでもない。それよりも、その貴重な一時間を日本語でのディベートとか読書(中学生になったら、携帯いじる時間に読書は浸食されることは目に見えている)とか、に振り向けてほしい。その日本語力こそが、やがて学ぶ外国語に生かされてくると思うのだが。
そして、中高の英語教育では、ネイティブ並みの発音とヒアリング力の会得は到底無理であることをもう一度付け加えておく。

続きは、帰国生の英語力と日本語力の表れ方 ② にて。