「この道しかない」という政党に投票すべきなのでしょうか?


奇しくも、昨日12月8日は73年前に日本軍が真珠湾を攻撃した日ですが、あの戦争も、「ABCD包囲網によってジリ貧になるくらいなら、『この道しかない』」ということで始められた戦争でした。

解散前、絶対安定多数を猶に超える295議席を有していた最大与党が「この道しかない」というこんな前のめりのキャッチフレーズを使うことに驚きますが、嘗ては「様々な意見の持ち主がいて自由闊達に議論ができるのが自民党」と言っていたのではなかったのでしょうか。自民党内には、最早「他の道=alternatives」を示す気概のある政治家はいないのでしょうか。


このタイミングでの解散・総選挙の大義を問う声が多くありましたが、、それは解散後の安倍氏の会見によると、

消費税の引き上げを18カ月延期すべきであるということ、そして平成29年4月には確実に10%へ消費税を引き上げるということについて、そして、私たちが進めてきた経済政策、成長戦略をさらに前に進めていくべきかどうかについて、国民の皆様の判断を仰ぎたいと思います。

私たちが進めている経済政策が間違っているのか、正しいのか。本当にほかに選択肢があるのかどうか。この選挙戦の論戦を通じて明らかにしてまいります。そして、国民の皆様の声を伺いたいと思います。

だそうなんですが。
本当に「この道しかない」のか?
「この道しかない」なんてことは、どんな世界にもありません。
バイパスや獣道でなくても、同じ目的地へ導く道は一つではありません。
経済にド素人のオバサンが幾つか書いてみましょうか。

1)今年の春の増税を見送るべきだった、という道
 →そうすれば、せっかく回復の兆しを見せていた景気が腰折れになることもなかったでしょう。

2) 今年の春の増税を3%でなく、1%かせめて2%にしておくべきだった、という道
 →そうすれば、駆け込み需要の反動も3%上げて8%にした現実ほど酷くなかったことでしょう。

3) 来年春の増税を見送るのではなく、予定通りに10%に上げる、という道
 →そうすれば、今すぐ対策を打つべき少子化対策や介護問題に取り組む財源を確保できるでしょう。

4) (これは極論ですが)今年の春に10%に上げてしまうべきだった、という道
 →そうすれば、駆け込み需要もその反動の乱高下も一度きりで済むだけでなく、社会保障の財源を早めに確保でき、安定的に社会保障の拡充ができたでしょう。


既に幾つかの他の道もあったわけです。
為政者は「道は一つではない」と謙虚に認めた上で、どの道をとるべきかを国民に示すべきであるのに、安倍氏の手法は、「この道しかない」と先に決めつけた上で、借り物の理論武装をとるのが常です。
そして、彼の理論はわかりやすく破綻しており、

アベノミクス(と書くのも恥ずかしい)が成功しているのなら、来年春の増税を見送ることはないわけで、来年春の増税を見送るということは、アベノミクスが失敗していることを認めるものである

アベノミクスが成功していると強弁するのなら、反対論を押し切ってでも来年の春、予定通りに増税して、社会保障費の財源を確保すべきである

どちらにしても、既に安倍氏自らが失敗を認めているのも同然なのではないでしょうか。



安倍氏は幹事長や官房長官として小泉元総理のパフォーマンスを身近で見ていて、あの郵政選挙の熱狂を夢見ているのかもしれません。
あの郵政解散大義なき選挙と言われましたが、それがまだマシであったと思える今回の選挙の大義のなさ。
安倍氏が大好きな国際会議で同席してきた各国の首脳も、安倍氏の行動は理解できないものだと思います。
ライバルSPDとの連立を余儀なくされているメルケル首相、同じく保守党だけでは過半数がとれず自由党と戦後初の連立内閣で政権を執っているキャメロン首相、社会党は単独で過半数に近い議席を持ちながら現在史上最低の支持率に喘ぐオランド大統領、そして先月中間選挙民主党が敗北してレームダック状態が懸念されるオバマ大統領、彼らの中で誰一人として、衆議院では単独安定多数、参議院でも連立与党で過半数を占めている政権の長である安倍氏の解散を理解する首脳はいないでしょう。
それでも、この選挙に大義はあるのか。



世論調査では、自民党が圧勝との予測が出ています。
「この道しかない」という言葉よりも、「景気回復」という言葉に国民は一番望みを託しているのだと思います。
特定秘密保護法案に反対であっても、集団的自衛権行使の閣議決定に反対であっても、靖国神社参拝に反対であっても、原発再稼働に反対であっても、先ず目の前の優先事項は、明日の自分のお財布です。
給与や年金に、国民がこれほど不安を抱いている時代が嘗てあったでしょうか。
「年金は100年安心」と高らかに与党(自民党公明党)が言っていたのは、たった10年前のことです。
「生涯非正規」「ワーキングプア」「子どもの貧困率」「老後破産」「貧困老人」・・・これらの言葉も10年前にはまだありませんでした。
だから、今日本国民の大多数が、選挙で投票するにあたって一番重要視するのが「景気回復」であるのは当然ですし、だからこその自民党圧勝という選挙結果の予測でしょう。
しかし。
この国民の支持が選挙の後、どう利用されるか、想像がつきませんか?
国民は、「景気回復」を恃んで自民党に投票しても、議会において圧倒的多数を得た自民党政権は、「国民から信任を頂いたから」と、他の政策も思うがままに進めることができるのです。
2年前、2012年暮れの選挙がそうではなかったでしょうか。
あの時も安倍氏は「景気回復」を前面に出して勝利したのですが、実際、景気が回復する前に、憲法改正やら靖国神社参拝やら原発再稼働やらが出て来たのではなかったでしょうか(私は憲法改正には賛成ですが)。



私は2009年の政権交代選挙、民主党が圧勝したあの夏の選挙においても自民党に投票しました。っていうか、それまでずっと自民党に投票していたのです。
しかし、安倍氏の人格、政策共に全く支持できるものではなく、どうしても今回の選挙で自民党に投票する気になれません。
2009年の時には、胡散臭く見えた民主党ですが(実際、胡散臭い方々もたくさんいますが)、最低ラインのところでマシに見えてきたほどです。彼らは、党首が靖国神社に参拝したり、なし崩し的に原発を再稼働したりはしないでしょうから。
今回の選挙で不思議なのは、辞任した松島みどり元法務大臣小渕優子元経産大臣が自民党から公認候補として立候補していることです、そしてそれをマスコミが大きく取り上げないこと、です。
松島氏に関しては「大臣を辞職するのは仕方ないとして議員を辞職するまでのことではない」ということだったのでしょうが、何と言っても松島氏は法務大臣の職にありました。その彼女が、わかっていて公職選挙法に明白に違反する(「それは団扇ではない、討議資料である」と言い張ったことでわかります)行いをしたことが問題なのであり、公認するにあたって自民党の中では議論はなかったのでしょうか?なかったんでしょうね。
小渕氏に至っては、東京地検が捜査中じゃないんですか?それでも公認するのが、自民党なんでしょうか?なんでしょうね。



「この道しかない」というキャッチフレーズも、多分安倍氏本人ではなく、世耕氏やスピーチライターの面々が考えたことなのではないかと思いますが、元々は、TINA(イギリスの元首相マーガレット・サッチャー氏の口癖の、There is no alternative. の頭文字)なんでしょう。
安倍氏(というより安倍氏のスピーチライター)は今までもあちこちのスピーチでこのTINAを愛用していますが、TINAで押し進めたサッチャー氏の政策が今どういう評価を受けているか、という事に関しては、スルーです。
否、安倍氏はTINAと口では言っていても、日和って増税を延期してしまうのですから、もし「鉄の女」サッチャー氏が存命なら「鉄の信念がないのなら私の口癖を使う資格はない」と一刀両断されてしまうのではないでしょうか。


少々脱線しますが、私がいつも呆れてしまうのは、こじれにこじれた日中関係について、安倍氏は「いつでも対話のドアは開いている」と自己陶酔気味に語ることです。それならば、相手に対する外交的儀礼というものはどうなっているのか?と。
昨年の暮れ、12月26日に安倍氏靖国神社に参拝したわけですが、この日は毛沢東の誕生日、しかも生誕120周年でした。わかっていてこの日に参拝したのなら、「対話のドアは開いている」どころか、とても挑発的な行いですし、認識していなかったのなら途轍もない無知であり、外交を行う資格はありません。
(ついでに、アメリカでは12月25日でクリスマス当日にお騒がせしたことになります)
また先月のAPECが北京で開催されるにあたって中国を訪問することになった安倍氏が、「中国は、地球儀を俯瞰する外交をしている私にとって50番目の訪問国」と誇らしげに語っているのも、本当に外交を行う資格があるのか、聞いている国民である私の方が恥ずかしくなりましたよ。今、世界中を見渡して(地球儀を俯瞰してみて)、どこの国の首脳が、中国に向かって「あなたの国は50番目の訪問国」と言うのか?
各国首脳とホスト役の習氏がそれぞれの会談の前に報道陣に向けて握手する場面では、当然の如く、日本だけ、日本の安倍氏に対してだけ、背景には日本の国旗もなく、目さえ合わさず、安倍氏の「お会いできて嬉しい」という言葉も無視、という中国側の冷たい対応でした。
しかもその場面で私が又しても呆れたのは、安倍氏のネクタイの色、です。

黄色のネクタイ! 外務省はチェックしなかったんでしょうか?いやいや、「どんとらふ、しゃら〜っぷ!」の外務省ですからチェック機能なかったんでしょうが、きょうび、取り立てて中国の歴史や文化に詳しくなくても、「黄色」が中国で意味するものくらい知っていますよ。元々は、黄色は皇帝の色であり皇帝以外が黄色の装束を身につけることが禁じられていた・・・のようなことは、歴史オタじゃなくても知っていることでしょうし、また中国に旅行したり仕事で行ったことがある人ならば、今の中国では、真逆の意味、日本語で言うと「ピンク映画」とかの「ピンク」に相当する色が「黄色」だということも、知っているでしょう。
なのに、黄色のネクタイ!そりゃ、習氏の顔色は変わりますよ。国家主席でなくても、こんな教養が欠如した無礼者とは金輪際友好的になれるはずがないと思います。



本筋から離れましたが、「この道しかない」と安倍氏が言い募る経済政策ですが、今どの政党が政権についても第一に取り組むことは、経済政策であり、社会保障であることは変わりないわけで、その意味では、安倍氏の「景気回復、この道しかない」というのは正しいかもしれません。
寧ろ、逆説的なのは、いくら解散した当の本人が「アベノミクスを問う選挙だ!」と言い張っても、選挙の結果次第で大きく変わるのは、経済政策や社会保障ではなく、外交だったり、安全保障だったり、憲法問題だったり、エネルギー政策という、安倍氏が巧みに争点から外していることに関してだと思うのです。
となると、有権者が第一に考えなくてはならないのは、実は「景気回復」ではなく、その他の論点でではないでしょうか。
その他の論点こそ、自民党及び公明党が安定多数、絶対安定多数をとるかとらないかで、大きく変わるのです。
となると、候補者が誰であっても、政党がどこであっても、苦渋の選択をせざるをえなくなります。
私は2012年の選挙で、目をつぶって「かいえだ」と書きました(東京1区に住んでます)。
夫はその選挙では、「オートマティスム=自動書記」で「やまだ」と書いたそうですが、今回は心を無にして「かいえだ」と書くそうです(海外企業のM&Aを仕事にしているので、この円安に怒り心頭)。
「人物本位」というのは、中選挙区制時代の過去の遺物と自分に言い聞かせています。
自民党が、安倍氏や麻生氏等を一掃して、元の「自由闊達な議論が出来る政党」に戻れば、また選択肢として考えたいと思いますが、「この道しかない」という硬直した視野狭窄の政党に、今の時点で投票する気はありません。



選挙結果の予測通りになれば、今年も2012年のように寒々しい気持ちで年の暮れを迎えることになるでしょう。
景気を良くしてもらって明日の財布が少しでも潤うようにと願って国民の大多数が支持した安倍政権によって為された施策の中で、2012年からの2年間に単なる「気分」以外に実質何か良いことがあったのかどうか、考えると鬱々たる気持ちになりますが、それでも今年一年無事で過ごせただけ有り難いと思わなければならない今の日本ではないでしょうか。