朝日新聞と講談社のコラボ広告:「私立一貫校は幸せのプラチナチケットか?」雑感


朝日新聞が、先週に引き続き、私の御用新聞になってくれたようだ。
今日の夕刊の真ん中辺りに、講談社とのコラボ大型特集で、教育問題についての広告記事があるのだが、今週のテーマは

「私立一貫校は幸せのプラチナチケットか?」

だった。↑この疑問文は、漢文で言う「反語」というヤツで、
「〜か?いや、そうではない。」、つまり、

「私立一貫校は幸せのプラチナチケットか?いやそうではない。」

と読みたいところだ。
中学受験については、民間から杉並区の公立中学校の校長に就任した藤原和博氏が、高校受験・大学受験の意義については、メンタルトレーナーで元シンクロの選手田中ウルヴェ京氏が、小学校受験の危険性については、東京大学準教授の開一夫氏が、語っている。


中学校受験について語っている藤原氏.。
今まで氏がやっていることとか(公立中学校で希望者に塾講師による授業を受けさせる)、あまり賛成できなかったし、そもそもリクルート出身(しかも東大卒で)というだけで偏見(?!)があったし、一体何を考えて何を教育の理想としてやっているかが私にはわからなかったのだけれども、今回は「その通り!」と膝を打つことばかりであった。
私の経験からも、中学受験は親の受験、ということは明らかで、母親がスケジュール管理、体調管理、プリントの整理、お弁当作りと送り迎え、というだけでは不十分で、もっと踏み込んで、母親自身が、子供の苦手分野を強化するためにプリントやテストの過去問を編集する、実際の入試の解答用紙と同じ大きさのものを用意して(特に算数)それに問題を解かせる、適当なインターバルをおいて復習をさせて記憶の徹底をはかる、といった、いわば母親が「ミニ・和田式」*1を実践できないと、超難関中学には子供の力だけでは合格できない。
そうして入学した、均質な私立中学の環境で子供が「居心地よくなる」ことは、決して子供のためにはならないと、氏は主張する。
加えて思うに、この現状は親側にとっても色々と問題を孕んでいて、先ず育児休暇ではないが
「どうして母親だけ?」ということになるだろう。そう、現状の中学受験は無駄に進化しすぎて(ガラケーのように)、母親が専業主婦でないとなかなか難しいのである。フルタイムで仕事を持っている母親だと、どう頑張っても今の中学受験のシステム(塾の授業が、入試の上のレベルを目指そうとしているうちに、とんでもなく高度なものになっていること←慧眼藤原氏も指摘しているが)では子供を合格させるのは無理、である。一方中学受験生である小学校高学年の親の年齢は、第一子でも40歳まさにアラフォーで、仕事が一番忙しい年代なのではないだろうか?このアラフォー世代で、高学歴層で時代の先端を走り夫婦で共にフルタイムで働いてきた父親母親は、自分たちは専業主婦の母親のサポートのもと、あらゆる受験を勝ち抜いてきた世代だと思うのだけれども、自分たちが親になった今はそれを次の世代にはしてやれないわけである(息子の友達のお母様で歯医者さんだった方が、二人のご子息の中学受験の間、それぞれ2年間ずつ午後の診療をやめて受験生のサポートに専念した例を知っているけれど)。しかも、今は中学受験の準備期間が長くなっている。
下手すると(?)小学校6年の間ずっと塾通い、というケースもある。となると、賢明なる親ならば、一つの可能性、即ち
「中学受験をせずに、高校受験で勝負する。」
を導くのではないだろうか?
ビジネスと同じく、コストとパフォーマンスを考えると、中学受験は余りにもりスキーだし、かけたコストの割には成功の可能性は低いし、仮に成功したとして大学受験というまた新たな問題が、中学入試が終わった直後から始まる。そう考えると、公立中学から高校受験、という道は、なかなかコストパフォーマンスが高い、という結論に至ると思うのだが。勿論、公立中学には色々と不満があるだろうが、それは保護者が参加して解決できることもあるはずで、またそういう社会活動こそが今求められているのではないかと私は思う。それでその公立中学が少しでもよくなれば、公立中学を選ぶ子供も増えるだろうし、そうすればよい循環で、今の異常な中学受験のための塾通いも沈静化するだろう。仮にその公立中学校が予想以上に思わしくない状況でも、「3年間」である。もし本当に最悪ならば、学校を見限って高校受験に向けて勉強する、という手もある。しかも高校受験は、親の受験でなく子供本人の受験なので、親の手助けは要らない。それに比べて私立の中高一貫校は「6年間」。これはもしその学校が合わなければ途轍も無く長い。途中に高校受験もないので、子供自身にも目標も救いもない。
(参考:拙稿 極めて個人的意見 中学入試で第一志望が不合格だったらどうするか?,
       「何が何でも中高一貫」の必要は全くない,
       「中学受験に向いている子」と「私立中学に向いている子」とは違う話,
       中学受験と子供の幸せ
教育改革でどこから手をつけるか、という問題があって、「大学入試」なのかはたまた「就職活動」なのか、ということもあるが、案外、「公立中学」を改革して魅力的なものにすれば、芋づる式に連鎖的に、様々な問題が解決するのではないか、とも思わされる、藤原氏の談、であった。



メンタルトレーナーの田中氏が話している、「ポジティブ・プッシング8箇条」も、お受験こと小学校受験や中学校受験ではとても大事なことだと思う。お受験塾や中学受験塾ではこの問題には触れないから。
受験する前に、否、受験準備期間中に、何度も親子で、

「◯◯と△△という学校は、あなたにとっても合っているいい学校だと思うから、入学試験にチャレンジしてみましょう、応援するから。でももし二つとも運悪く駄目だったら、☆☆(公立)に行ってまた勉強しましょうね。」
と万が一のことを考えて、念仏のように唱えるべきだと思う、リスク回避のために。
「この学校じゃなきゃ。」「この学校が最高。」と親が思い込みすぎると、不合格の時に、親は勿論、子供がそこから価値観を変更できなくて苦しむ。それから人生が始まるのに。
実際、小学校受験/中学校受験は、親の意志によるもの、若しくは誘導されたもの、なのであるから、親は我が子に対して全ての責任を負う、という意味でこのメンタルケアこそ必要であり、その後の子供の人生にとっても「受験そのもの」よりも大事なことである。



最後に開氏が小学校受験の危険性」について語っているのだが、述べられている例を見てもまだ理解できなくて(「ウチの子の発達は早いから大丈夫。」と思っているあなた!)、それでも小学校受験に走る親に一言。
小学校受験ほど、コストとパフォーマンスの割が合わない受験はない
のですよ。「勉強すればするほど効果が出る」のは高校受験と大学受験。何故ならその時点ではもう「発達段階の差」がなくなっているから。それに比べて、お受験は、子供がその発達段階に達していなければ、いくら教えても、いくら演習を積んでも無駄なのである。念のため言っておくと、この段階で発達が「早い/遅い」は将来の学力とは何の関係もない。
とすると、膨大な金額をお受験塾に注ぎ込み、また貴重な幼稚園時代をお受験の準備で暗黒にして、他の兄弟姉妹の生活も犠牲にして、それでも入れたい小学校ってどこですか?
しかも、小学校中学校は義務教育で、更に今年から高等学校の授業料も実質無償化されている日本で、私立の学校にそこまでお金を払うよりも、もっとコストパフォーマンスの高い教育費の使い方、というのがあると思うのけど。


この広告の最初の一面の漫画で、母親が
「はやいうちにいい学校に入ればあなたがラクできるのよ。」
「私たちはあなたに幸せになってもらいたいのよ。」
と子供に言うのに対して、桜木が
「その受験で幸せになるのは、子どもじゃなくてあんたたちだろ!!」
と返しているのだが、21世紀のこの時代、「ラク」をすることが子どもにとって良い事だと信じている親は既に死亡フラグだし、親の「幸せ」は「ウチの子は、◯◯中学に行っている。」という見栄だけであって、「自分が本当に行きたい学校で自分を発揮できている。」という子どもの幸せとは別物だ、ということを、あらゆる親は自覚すべきである。

いや〜、朝日新聞にしては、とてもいい広告だったと思う。
このインパクトが多くの親の目に触れることを祈る。

*1: