乙武氏の一件から導かれること 「東京で2020年のオリンピック&パラリンピックの開催は無理である」

もう無理でしょう、2020年のオリンピックとパラリンピックを東京で開催するのは。



 


2020年オリンピック&パラリンピックの東京開催招致のビジョンとして、以下のようなことを掲げているらしいのです、世界に向かって*1

東京の都市としての魅力を最大限活用した大会

・都市生活に溶け込み、選手と市民との距離が身近に感じられる大会。

・食やサービスが世界トップククラスである東京を楽しめ、都心部の既存施設や仮設施設を有効活用したコンパクトで、環境負荷が少ない大会。

世界の人々に日本や日本人の良さを感じてもらう大会

・自国選手だけでなく、他国選手の素晴らしいパフォーマンスにも拍手を送れるような、世界一の観客が声援を送る大会。

・世界の人々に日本の魅力をアピールし、共生社会の模範となることで、日本人自身が日本に誇りを持てるような大会。


上記のどれもこれも無理でしょ、今の東京都と都民では。

乙武氏の一件を見るだけで、パラリンピックに出場する「選手と市民との距離が身近に感じられる」大会になるとは思えませんし、「食やサービスが世界トップククラス」なんて誰が信じるのかと思いますし、障碍者に冷たい我々日本人が「世界一の観客」なぞなれませんし、「共生社会の模範」どころか世界レベルに遠く及ばないのですし、「日本人自身が日本に誇りを持てる」都市東京だとは思えないのですが。
一体どうしたもんでしょうね。

今回の一件で、乙武氏や障碍者の方々に対して書くに耐えない暴言をネットに書き込んで人たちを特定して、オリンピックの期間首都圏追放、首都圏立ち入り禁止にして、どこか東京から遠く離れたところで、強制的に障碍者を介助するボランティアにぶちこみますか?

これまた今回の一件で至極真っ当な意見を述べたら「在日」と罵声を浴びせられた「在英」のMay_Roma氏を、JOCと東京都が国費でお迎えして帰国していただき、オリンピック及びパラリンピック期間中「最高顧問」として、都内の障碍者差別に目を光らせていただきますか?

何より、ブログでとりわけ酷い記事を書いていたかさこ氏が、昨日わざわざ銀座まで足を運んで当該のイタリアンのお店を取材してくださったようですが ↓ 。

乙武氏ツイートの銀座の店に行き、店主に取材しました

写真満載のこの渾身のレポートが致命的でした。
今までJOCも猪瀬東京都知事もひた隠しにしていたことが、白日の下に晒されてしまいましたものね。
東京では、有名店でさえバリアフリーで食事できる店が本当に少ない
という事実。
猪瀬知事が発案して今はどこにあるのかこれからどうなるのかわからない尖閣買い取り募金の14億円を都下の飲食店のバリアフリー改装に全額投入したとしても、これから2020年までに都内の全ての飲食店を、オリンピックを観戦に来日する海外の障碍者の方々、パラリンピックに参加する海外の障碍者アスリートの方々が気持ちよく飲食できるように改装することは、不可能です。


無理でしょう、どう考えても2020年に東京でオリンピックとパラリンピックを開催するのは。

猪瀬知事が、「ハード・ソフト両面において、他の立候補都市よりも東京がオリンピック&パラリンピックに相応しい」というようなことをどこかで発言していましたが、大変残念なことに、
ハード面(東京の飲食店は全然バリアフリーじゃない)においても、
ソフト面(困っている障碍者を助ける人が少ないどころか、障碍者に対して差別的発言をネットに山のように書き込まれる)においても、
全くマドリッドイスタンブールの足下にも及ばない低レベルなのですから、2020年のオリンピック&パラリンピックは東京では無理、ですよ。
これを書いている現在、まだ猪瀬知事やJOC、政府も今回のことを等閑視というかスルーしていますが、大阪市長の直近の例もありますし、海外メディアがこれを取り上げるのは時間の問題かと思われます。不名誉な事実(日本は障碍者差別大国であるということ)が報道される前に、立候補を取り下げるのも一案かと思われます。



乙武氏を批判する意見の中で、もっともらしく聞こえるものに以下のようなものがありました。

・事前に、電話で「車椅子で大丈夫か?」と確かめなかったのが悪い。障碍者側にも気配りが必要。

・競争の厳しい都内の飲食店では、小さな店がバリアフリーに改装する余裕などない(資金的に)。

・料理人一人とフロア係一人で回っているような店では、マンパワー的に障碍者に対応するのは無理。

・善意のお客や通行人が車椅子を運んだとして、乙竹氏や運んだ人が怪我をしたらどうするのか?火事や地震の時は、どうやって逃げるのか?

・お店の名前を挙げてtwitterで批判したのは、フォロワーの多さから考えても、お店へのダメージを考えても良くなかった。傲慢なのではないか?



はいはい、ごもっともです。日本人特有の細部に至るまでの気遣いに溢れたこれら全ての理由を都民の大多数が肯定するのならば、オリンピック&パラリンピックの東京開催は更に何十億光年の彼方へ遠ざかってしまうでしょう。


日本人英語できませんから、外国人の方が事前に英語で「車椅子OKか?」とお店に電話しても無駄というものですし、大体、欧米の障碍者の方は、「ぺこぺこ平身低頭して恐縮しまくって健常者に気を遣いまくらないと手助けしてもらえない」という状況に全く慣れていないと思われますから、事前にお店に「車椅子OKですか?」なんて電話しないでしょう。普通の人と同じ「アポ」だけで、当然食事できると思っているでしょうから。とすると、東京では「無理」ですよ、オリンピックもパラリンピックも。


「都内の飲食業は激戦で、不況で客単価も下がっているのに、店の改装費なんて出せない」「バリアフリーの設備はビルのオーナーの意向次第で、テナントはどうにもできない」「しがない個人経営の店では特別な対応はできない」等々、店自体をバリアフリーにすることは「無理」「無理」「無理」だと各々の店の店主が言っている限り、その店は障碍者の方が入れない店のままなんですから、これもオリンピック招致のビジョンに反しますよね。「無理」なんでしょう、「無理」にしておきましょう、小さなレストランがバリアフリーに改装するのは。でもそれならば、マンパワーで補えば済むことなのに、それも「無理」とおっしゃる。ということは、東京でのオリンピック&パラリンピック開催は「無理」なのです。
つい昨年オリンピック&パラリンピックを開催したロンドンはというと、May_Roma氏によると、

だそうで、ロンドン市内の飲食店を全てバリアフリーに改装することなく低コストでいとも軽やかに問題を解決しているようですが、ボランティアでちょっと手を貸した場合の怪我や天災の心配にまで気が及んでしまう細やかな国民性の日本では、こういうお手軽で賢い解決は「無理」でしょう。

そして乙武氏がtwitterで顛末を呟いたことを問題にする方々も多いのですよね。SNSというのは、こういう体験に基づく事実の書き込みを控えるべきものなのでしょうか、そもそも。それはフォロワーの多寡とは関係ありません。乙武氏が自分が実際に体験したことを書き込めるものがSNSであり、また店主自身も説明とお詫びを書き込むことが出来るものがSNSだと思いますが、もしオリンピックやパラリンピックを東京で開催したりした日には、twitterfacebook上に、海外からの参加者や観戦者が、それこそ東京で体験したこと、食べたもの、行ったお店について様々な言語で世界に向かって投稿するでしょう。それを制限することはできません。とすると、「twitterに晒されると、極小の店は潰れてしまう」と心配する方々がいらっしゃる限り、無理でしょう、オリンピックとパラリンピック



私個人は元々、東京でのオリンピック&パラリンピックの開催には反対でした、他の理由で。
東京に住んで、東京の街中を少し歩いてみれば、「今、莫大な予算を使って、オリンピック&パラリンピックを東京でやっている場合ですか?」と思ってしまうからです。
ところが「私個人の意見とは異なって、大方の都民が賛成して結果、東京にオリンピック&パラリンピックが招致されれば、それはそれで喜ばしいことだ。」という私のおめでたい思いは、今回の乙武氏の一件で吹っ飛びましたね。
パラリンピックのアスリートに拍手と声援を送る都民が、実は内心では障碍者を差別していてネットに酷い書き込みをしているのではないか?お祭りムードに湧く繁華街の飲食店も、オリンピックという商売かき入れ時の「ハレ」の時以外は実は自国日本の障碍者にすら冷たく厳しい人たちなのではないか?つまり、「東京で行われるオリンピック&パラリンピック」とは壮大な偽善ではないのか?そんな東京に開催する資格があるのか?・・・と疑ってしまいそうです。少なくとも、ネット上であれだけ乙武氏、障碍者の方に酷い暴言を吐いていた方々は、表面はともかく内心はちっともパラリンピックなんて応援するはずがないのですから。
私はこの疑念を拭い去って、心晴れやかに2020年に東京でオリンピック&パラリンピックを観戦できるのでしょうか?


・・・と考えてくると、やはり行き着く結論はここになります。

「東京で2020年のオリンピック&パラリンピックの開催は無理である」