何が悲しくて、日本の官僚の採用にTOEFLを導入しなければならないのでしょうか?

何が悲しくて、日本の中枢を支える国家公務員の試験に、「アメリカの大学で学ぶに足る英語力がどの程度あるかを測る試験」であるTOEFLを課さなければならないのでしょうか?
ちなみに、TOEFLとは、アメリカの大学に「入学」できるかどうかの語学力を測る試験であって、「卒業」レベルではないのですから、それを日本の立派な大学を卒業した(院卒もいる)、未来の日本の官僚に受けさせるって、国辱ものではないですか?

朝日新聞5月5日朝刊

政府は「キャリア官僚」の採用試験で、2015年度(16年度入省)にもTOEFL(トーフル)などの民間の英語試験を採り入れる方針を固めた。成長戦略の一つとして海外で活躍できる人材を育てるため、まず官僚の英語力を高めるという。昇進にもTOEFLなどで一定の点数を求める案が出たが、現役官僚に「不安」と「抵抗」が広がり、見送ることになった。

 かつての国家公務員採用1種にあたる「総合職」の採用試験で採り入れる。最近は毎年約2万5千人が受験し、約1500人が合格している。

 今の採用試験は英文読解が中心になっている。今後は、ヒアリングなどの英会話を含めた英語力をはかるTOEFLなどの点数(スコア)を反映させる。採用試験の際に点数を提出させることなどが検討される見込みだ。どの程度の点数を求めるかは今後決める。TOEFLのほか、民間企業が社員の評価などにつかう英語力テスト「TOEIC(トーイック)」なども採り入れる可能性がある。


もし、これからはアジアの時代で、中でも中国との関係が最重要であるから、国家公務員試験に中国語検定試験(HSK)を課す、ということになったら、それこそ日本中が大騒ぎになると思うのですが。しかし、HSKは「大学入学レベル」測るためのものではありませんから、本当はまだマシなのです、受験料もTOEFLに比べてかなり安いし。

受験料が出たついでに言わせてもらえば、国家公務員総合職を受ける毎年約2万5千人がすべからく1回の受験料が225ドルのTOEFLを受験することになりますが、以前にも書いたように*1、このTOEFLという試験は「1回受けて終わり」、という試験ではなく、問題に慣れたり、よりよいスコアを目指して数回受ける性格のテストであり、しかも受験後2年間しか有効期限がないので、良いスコアが出ても期限が切れたら受け直す必要があるのですが、官僚を目指す日本の若者2万5千人が、全員1回しか受験しなかったとして、5,625,000ドル、(アベノミクスが続いて1ドル=100円になったとして)ざっと5億6千万円以上、もし全員が3回ずつ受験したとしたら、その三倍の金額が、さら〜っとアメリカの団体ETSに流れ込むのですよ!日本の官僚を採用するたびに、アメリカの団体に15億円の収入があるってどうなんですか?これが、もし中国語試験(HSK)を国家公務員の試験に課すことにして、中国語の検定試験をやっているよくわからない中国の団体の収入になるとしたら(TOEFLよりは受験料安いですが、それでも億単位の金額になると思われます)、一部方面で発狂する人がいるのではないでしょうか?それくらい、変なことなのですけどね。日本はアメリカの属国でもないのに、どうしてこんなみっともないことをしようとしているのでしょうか?


そうして、「大学入試にTOEFLを導入」という問題でもそうでしたが、高額の受験料のこと、誰が負担して、それがどこの収入になるのか?ということに関しては、何故国民に対して全く報道されないのでしょう?不思議です。


しかも「成長戦略の一つ」と言うのならば、戦略的バランスを考えれば寧ろ、中国語やアラビア語やロシア語も取り入れてほしいものです。何故に英語だけなの?経済面だけでなく、領土の問題で近隣諸国と交渉する時に、相手の国の言語に強い人間に厚みがなければ(外務省の◯◯スクールの人たちだけでなく)、交渉で勝利することなどできないでしょうに。
それに、結果として「官僚が英語で交渉できるようになる」ことだけが達成されればそれでよいのでしょうか?その手段としてまるでアメリカの属国のようにTOEFLをそのまま持って来て使うことが是か非か、政治家は真剣に考えているのでしょうか?


さて、「子どもの日の朝刊の一面に何でこのニュース!」とか思いながらこの記事を更に詳しく読むと、奇妙なことに気がつきました。

政府の産業競争力会議で、三木谷浩史楽天会長兼社長ら民間議員が3月、
「多くの企業が採用試験でTOEFLなどの点数を提出させている」
として、採用試験や幹部への昇進に反映させるよう提案した。

さてさて、この黄色斜字の部分ですが、これを本当に三木谷氏が言ったのならば、国家公務員採用試験にTOEFLを導入すべく、企業の採用試験で実際に書かされるのはTOEFLではなくて圧倒的に「TOEIC」のスコアの場合が多いのに、わざとTOEFLに誘導しているように読めるのです。
以前にも書いたことがありますが*2三木谷氏は「理想的な帰国子女」であり、かのHBSことハーバードのMBA(出願時には、TOEICではなく勿論TOEFLが必要)を持っていらっしゃるのですから、TOEFLTOEICを間違えるはずがありません。
内言語を英語にした楽天も社員の英語能力を測る指標はTOEICだそうです、TOEFLではなくて。
それは推測するに、リーディングとリスニングしかないTOEICだけれども、先ず受験料が安いこと(社員は何回も受験するわけですから)と、「ビジネスで使う英語」ということならばTOEFLはそぐわないことを三木谷氏は当然ご存知だからだと思うのです。
ですから、もし本当に「国家公務員試験TOEFL」と発言していたとしたら、これは何故なのか、知りたいところです。
勿論別の可能性もあります、朝日新聞の記者*3の無知によるミス。
朝日新聞の記者が、三木谷氏の発言の中のTOEFLTOEICを間違えたとしたら、これまた問題で、こんな初歩以前のことに関してミスを犯すようならば、この問題について記事を書くのは今後遠慮して頂きたいですね。
・・・しかし、天下の朝日新聞1面のトップの記事、しかも署名入り、ということを考えると、これが記者のミスである可能性は低いかもしれません。とするならば、自社楽天でもTOEFLではなくTOEICで英語能力を測っている三木谷氏が、何故TOEFLを国家公務員の採用試験のみならず昇進試験にも反映させるように提案したのか、その理由が知りたいところです。
この産業競争力会議のメンバーを見てみると、TOEFLTOEICの違いや、各々の受験料、実際今それらの試験がどのように使われているか、について詳しい知識を持っていると思われるメンバーは、失礼ながらごく僅かではないかと思われますが、それでも三木谷氏以外に、ローソンの新浪氏や、経済産業大臣の茂木氏などがいるはずなのに(彼らは、海外のビジネススクールや大学院を受験する際にTOEFLを受験しているはず)、疑問を抱かなかったのでしょうか?
1回の受験料が225ドルでスコアを上げるために3回受験すれば8万円近くが吹っ飛ぶTOEFLですが、今の時代、2万5千人の人間に8万円近くの金額を消費させようと思ったら物凄く大変であることは、企業人である三木谷氏も新浪氏もよく理解されていると思いますが、それを国家公務員を目指す若者2万5千人に半ば強制するような提案なんですけどね。そしてくどいですが、その受験料はアメリカの団体に流れるということも理解されているはずなのですが。



つらつら考えてみるに、そもそもは英検が悪い!という結論に達しました、私。
英検がオワコンになっていることが、国家の中枢を担う人材の採用試験に、アメリカの大学へ入学するための英語試験を使わねばならない破目になりそうな、一番の原因でしょう。
長年、英検はライバルがいない殿様商売にあぐらをかいていたんですよね。高校受験の内申書に「実用英語検定3級」と書くために、全国津々浦々の中学生が受験したものです。そう言えば松田聖子がアイドル時代に「英検3級もってます」と言っていたのを覚えています。1979年に通産省(当時)の肝いりで、古臭く大雑把な「級」ではなく、点数のスコアで表される英語力テスト「TOEIC」が出来た時に、危機感を抱くべきだったんでしょう。
その後、根本的に改善すべき2点を改善しなかったことが、今日の凋落を招いたともいえます。
一つ目は、「級」。「準1級」がいつの間にか出来てる、と思ったら、「準2級」とか「5級」とか、訳わからないんですよね、受験者としては。いつまでも「級」にしがみついていないで、さっさと点数で表すスコアにすべきでした。
二つ目は、3級以上では二次試験に面接があるのですが、面接官の差が激しい、面接官によって運不運があるのでは?という受験生の不満。つまり受験生にとって公平には見えなかったことを改めなかったこと。スピーキングだけでもwebでやるとか、早く手を打つべきでした、もう手遅れですが。
・・・なんかこう書いてくると、日本の製造業の経営の失敗を論じている感じですが、いえいえ、ピンチはチャンス!英検、復活です!(←これまた経営論で出てきそうですが)
中国が北京オリンピックの時に、公共英語等級考試(Public English Test System、PETS)と呼ばれる独自の英語検定試験を作ったのは有名(?)な話です。中国は、TOEFLをそのまま使ったりしなかったんですね。中国のプライドが、「アメリカの大学でやっていけるかを測る英語能力試験」などを引っ張って来て使うことを、許さなかったんでしょう。
英検も、今までの一切を捨てて、これからの日本人のための英語能力試験を新しく作るべきなのではないでしょうか?
そして、それを大学入試でも就職試験でも公務員の採用試験でも昇進試験でも使えばよいのです。


これまで私は、狭い範囲では、「英語能力を測る試験は、TOEICではなくTOEFL」だと思ってきました。
「狭い範囲」というのは、例えば子ども達が受験したいわゆる「帰国入試」や「留学」や「院試」という場面です。
それらの選抜において、英語能力を測るのに相応しいものはやはり「TOEFL」だと思います。
しかし、そのTOEFLが、毎年40万人が受験する大学入試や、国の中枢を担う国家公務員の試験に相応しいとは、受験料の問題も勿論ありますが、決して思えません。
また、企業の中で英語能力を測る場合、決してTOEICがその目的に相応しいとは思えないのですが、何度も受験すること(故に受験料が高額だと負担になる)、英語能力が分かりやすく表されること(「級」という大雑把なものでは評価しにくい)、を考えると、今現在ではTOEICしか見当たらないのも事実です。
憲法を改正、更には日本人の手による新憲法を制定しようというパワーがあるのならば、是非中国を見習って、日本独自の英語能力試験を新設(英検の改造でも可)してほしいと思います。
何より、「アメリカに多額の受験料が流れるTOEFLよりもマシ」ということで、9条改正には大反対の社民党共産党の賛成も、これに関しては得られることも確かでしょうし。
政治家の役目は、目先のことだけではなく、10年後50年後100年後の日本を俯瞰して、政治を行うことだと思います。そこが企業人とは異なっていなければならないのに、「社内英語化」が成功しているか否かの評価も定まらない企業を経営する一企業人の提案をそのまま簡単に、国家の中枢を担う国家公務員の採用に取り入れることはやめて頂きたいものです。
前述の産業競争力会議のメンバーには、「社内英語化」などせずとも立派にグローバル展開している大企業のトップの方が何人もいらっしゃるのですから、是非軽挙妄動に走ることなく、国家100年の計を立てて頂きたいと願います。





亡くなった明治生まれの祖母は、法学部に入学したばかりの愚弟に病床で
「高文を受けられるように、よく勉強せなあかんよ。」
と言ってましたっけ(愚弟は祖母の願いも空しく?民間企業に勤めておりますが)。「高文」とは「高等文官試験」のことだとその時に初めて知りましたが、明治以来、国に仕える官僚を登用する試験であった「高文」の流れを汲む「国家公務員総合職」の試験なのですから、呉々も日本という国のプライドを持った試験であってほしいものです。