「あまちゃん」の震災の描き方と、2020オリンピック東京招致決定

かつてないほどの人気と話題を集めているNHK朝の連ドラ「あまちゃんですが、先週放送された第23週「おら、みんなに会いでぇ!」は、先週の初めの月曜日にあの3.11の震災が起こることが予告編でわかっていたので、多分全国の「あまちゃん」ファンの皆様と同じようにハラハラしながら、2013年9月2日月曜日、私は朝7:30にはテレビの前に正座しておりました(総合テレビの8:00からの放送を待てずに、7:30のBS放送を見るために)。
結果はご存知の通り。
あの震災のニュース映像を一切使わずに、クドカンこと宮藤官九郎氏は、3.11を描ききりました。


原発事故」という言葉はドラマ中には出てきませんでした。
ドラマの中でアニメで説明された3.11後からゴールデンウィークあたりまでの世の中の動きの中でも「原発事故」というものはなく、「風評被害」と「デモ」いう言葉が、「原発事故」から一番近いものでしたが、それさえも単なる「風評被害」「デモ」であり、「原発事故による放射能汚染の風評被害」でも「反原発デモ」でもありませんでした。

原発事故をスルーした!」とか、「さすが御用放送!」という、この演出を非難する意見もネット上では見られましたが、私は、表現者である宮藤官九郎氏の、考えに考えた末の描き方として、あれでよかったのではないか、と思います。
っていうか、「どう表現するか」は表現者に委ねられているのですから。
視聴者のお好みに合わせる必要はありませんし、「視聴者」と一括りにできるものでもありません。
宮藤氏だって、どう表現すればどう反応されるか、については予想はし尽していたことでしょう。
それを全部勘案した上での、あの表現だったのだと思います。

朝のお茶の間ドラマ、という制約もあったでしょう。
私は、あれで良かったと思います。
自身が宮城県の出身だという宮藤官九郎氏の、最大限のこだわりをもった震災の描き方だったと思います。



私は、あの描き方に別の思いを抱きました。

あまちゃん」に描かれた3.11後の日本とは、実はパラレルワールドではないか?
と。そしてそのパラレルワールドとは、
巨大地震に襲われ、1000年に一度の津波にも襲われたけれども、実は原発事故はなかった、別の世界の日本。
あまちゃん」の中では、家や田畑や線路までも流されても、翌日3.12から皆で必死に頑張って、震災から6日後に北鉄は一区間ながら運転を再開します。
実際は、震災の翌日12日には、福島の1号機で水素爆発、14日には3号機で同様に水素爆発。地震でひどく揺れたけれども停電がなかった都内の人々は、1日中テレビとネットに張り付いて、この情報を見ていました。
あまちゃん」の中では一足飛びにゴールデンウィークまで時間が進みますが、その間は、東京にも放射能の雨が降り、飲料水から放射性物質が検出されて都内の一才未満の乳児にはミネラルウォーターのボトルが配られたり、計画停電が行われ、「反原発デモ」がどんどん大勢の人を集めるようになっていた、日本の歴史の中で前代未聞の出来事が立て続けに起こった時期でした。
もし、原発事故がなかったら、3.11後にそれらは全くなかったのです。

そうだったなら、どんなに良かったことか。
未曾有の災害ではあったけれども、東北の方々の粘り強さ、そして我々日本人が得意とする「目標に向かっての真面目な努力」があれば、復興はもっと早く、もっとシンプルだったことでしょう。
土壌や河川の放射能検査、校庭の土を剥がして入れ替えたり家屋や庭や道路の除染に、膨大な資金と人力を注ぎ込む必要もなく、それを本来の「復興」に振り向けることもできたことでしょう。
被災地以外の人々も、食品の産地を気にすることなく、東北産のものをどんどん買って復興の一助にすることができたでしょう。


・・・と思いながら先週の「あまちゃん」を見て、週末には2020年夏のオリンピック開催地の決定がありました。
一つ前のエントリーで書いた通り、私は「東京招致」には反対であり、「『復興』を東京招致の道具に使うことに反対」「まだ安全な状態ではない原発を抱えての開催には反対」「隣国関係が最悪の中での開催反対」「東京の酷いインフラを考えれば、オリンピックよりそちらにお金を使うべき」というのが、反対の理由でした。

だから、IOC総会のプレゼンテーションでの安倍首相の力強い発言

フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません。
(英語)
Some may have concerns about Fukushima. Let me assure you, the situation is under control. It has never done and will never do any damage to Tokyo.

(英語の方が「力強さ」がマシマシですね。)
を聞いた時には、面食らってしまいました。
私と同様に、漫画家のやくみつる氏も、

これまで首相が国民に向かってあのような自信に満ちた話をしたことがあるだろうか。

と違和感を述べていました。本当にその通り!
本当に日本の総理大臣と同じ人物なのでしょうか。
日本の国民、とりわけ被災地の方々は、首相のこの責任感溢れる言葉を今まで聞かせてはもらえなかったのですから。
ついこの間の7月の参院選の時も、「第一声は福島から」と福島で応援演説のマイクを握りながら、「原発」については何一つ踏み込んだ発言をしなかった、我らの日本国の首相が、世界に向かってはあのように力強い発言をなさることを、国民は喜んでいいのか、悲しんでいいのかわかりません。

しかし、一国の首相がこう宣言したのです。
そうして、多少のおべんちゃらもあるでしょうが、「首相のプレゼンが東京招致の決め手となった」という報道も多いのですから(英語のスピーチをこれだけ練習するのならば、日本語の滑舌も何とかしてほしいところ)、もう安倍首相は後には引けないはずです。

東京招致が決定して、もう時間は7年後に向かって進み始めています。
決定以前は反対していた人も(私を含む)、それぞれがそれぞれの思いを以て、オリンピック開催へ進まなければなりません。

色々と懸念があって「東京招致」に反対の意見を持っていた私ですが、この安倍首相の国際公約とも言うべき力強い発言を聞いて、逆に、俄然プラス思考になってきました。
だって、もしかして2020年のオリンピックが東京で開催されるということは、私が懸念していたことに関して良い方向に働くかも?と思い始めたからです。




「汚染水も含めて原発をコントロール」と安倍首相が確約しているのですから、漁協や漁連の方々も、避難地域の方々も、この国際公約を果たせるように、どんどん要望できますよ。
必ず、原発港内0.3平方キロメートルの中に、汚染は封じ込めて頂きましょう。
福島原発廃炉工程表に基づいて、オリンピックの開催と前後して行われる「使用済み核燃料」の取り出しも、それよりも遥かに危険度が高い「溶解した核燃料」の取り出しも、国が全面に出て、今度こそ「チームジャパン」で行われることでしょう。

ただ、気になるのは、ブエノスアイレスの前、G20に出発する直前に以下のようなことが報道されていたことです、既にオリンピックのニュースの陰に隠れてしまっていましたが。

安倍晋三首相は、民主党政権が掲げた「原発ゼロ」政策を見直す考えを示していたが、10〜20年程度にわたる国のエネルギー政策の方向性を示す基本計画に明記することで、原発を基幹エネルギーとして活用する安倍政権の姿勢を明確にする。
2013.9.5 MSN産経ニュース

↑ 本来ならば、これに猛烈に怒ってもよい民主党があの体たらくですからね。それをわかった上での政策転換なのかもしれませんが(今までだって、「原発ゼロ」にする気なんてこれっぽっちもなかったでしょうが)。
危惧されるのは、「オリンピックを成功させるためには、電力が安定的に必要。だから原発再稼働。」ということになりはしないか、ということです。ちゃんとした国民的議論もしないうちに、「オリンピックの成功のため」という誰もが反論できない錦の御旗を掲げられて、気がついたら日本中の原発が動いていた、ということにならないかとても不安です。この最悪のシナリオだけは、避けなくてはなりません。何もオリンピックだけが人の世の至高の価値ではありません。それ以前に、国民の命、安全が何より優先されなくてはなりません。「生きている間に東京でのオリンピック見たい」という、利己的欲望にとらわれて、子々孫々にまで禍根を残すことになりませんように。
っていうか、死に体の民主党にとっては、これが起死回生の最後のチャンスかもしれませんよ。「原発の再稼働」には反対・慎重だけれども、「景気対策」を重視して昨年暮れの衆院選も7月の参院選自民党に投票した人も少なくないと思います。「オリンピックを理由に、軽々に原発を再稼働させてはいけない」という良心を持った国民に期待して、先頭に立って断固政府に抗議して党の存在感を示して頂きたいものです。それが出来なかったり、共産党にリーダーシップを奪われたら、それこそその時が民主党のオワリです。


そして、オリンピック東京招致が決まったことで、隣国との関係をぎくしゃくさせている安倍首相のタカ派的姿勢も少しは和らぐことが期待されます。
何故なら、オリンピックを成功させるためには、これからの7年の間、隣国との衝突もあってはならないシナリオです。
未だ隣国の大国中国とも、また韓国とも首脳会談すら行っていない安倍首相ですが、これからは「世界の発展、国際理解、平和に共存すること」というオリンピズムに則って、行動して頂けるようです。くれぐれも隣国にボイコットされるようなみっともない不手際はなきよう。またオリンピック期間中に、北朝鮮からミサイルを打ち込まれたりしないように、ということもお願いしておきましょう。
・・・と書いてみると、こういうことを冗談ではなく半ば本気で心配しなければならないほど(東京オリンピックの時はこんな懸念はなかったはず)実は隣国関係はかなり深刻でかなり異常だということですね。これもオリンピックの東京開催が決まったからこそ見えてきたことかもしれません。

ヘイトスピーチに関しても、これまたオリンピック精神に全く反するものですから、オリンピックの会場となる東京のど真ん中近くの新大久保(ヘリテージ・ゾーン?)でそのようなことが行われないよう、即刻厳しく対処して頂けると信じています。


都知事よりも百倍流暢な英語で、ビデオでプレゼンをした小谷実可子氏の会場紹介によると、湾岸地域にオリンピックセンターや選手村をはじめ、多くの競技場が建設されるようですが、オリンピックをやる以上、地震があった場合の津波対策や液状化対策も抜かりなく万全を期して建設されることは確かでしょう。東京オリンピックの時のような、手抜き工事や劣悪な資材を使った工事は今回は心配することはないでしょうね。ゼネコンや建設会社にとっては、「50年に一度」来るか来ないかの、素敵な季節が今から始まります。
しかし、小谷氏が、オリンピックセンターから徒歩で20分以内で移動できる」と説明している湾岸地域の施設ですが、オリンピックが開催される2020年の7月から8月にかけて今年並の猛暑になったとしたら、私はとてもあの湾岸地域で徒歩移動などする気にはなれません。どこかに辿り着く前に、日干しになるか、熱中症でぶっ倒れてしまいそうです。万が一にも、日本人は勿論海外からの観客が湾岸地域の歩道で行き倒れにならないよう、技術の粋を尽くして対策をお願いしたいところです。
今年の5月、乙武洋匡氏が、銀座のイタリアンレストランで入店拒否された一件は記憶に新しいところですが、オリンピックとパラリンピックを開くのですから、お・も・て・な・し」の心を表すべく、都内の飲食店のバリアフリー化も急速に実現するに違いありません。


東京のインフラも、オリンピック招致によって少しは改善されると思いたいです。
首都高は、「撤去」して安全で環境と景観を考えたものに「新設」なぞしていたら、いくら「This is cash in the bank.」と猪瀬都知事が言う「大会開催準備基金」を全額45億ドルと、同じく銀行に眠ったままの14億円にのぼる「尖閣諸島寄付金」を足してもとても足りないでしょうから、残念なことに表面だけお化粧する「改修」に留まると思いますが、一般道はもう少しマシになることを期待しています。
この際なので、防災も考えて、道幅を大幅に広げて、大きな通りは最低でも3車線にプラス、バス専用レーンと駐停車専用車線、街路樹のある広い歩道と別に自転車専用レーンを備えた道路建設をお願いしたいところです。両側のビルは「オリンピックの御紋が見えぬか!」と脅してばんばん立ち退き及びセットバックさせて、ついでに道路に面したファサードやビルの階数は統一させてくださいね。

また、猪瀬都知事はプレゼンの中で、

輸送面でも、交通網がすでに整備されており、確実な能力を有しています。この大会が開かれる2020年の東京では、誰もが、常に時間通りに目的地へ到着することができるのです。

とおっしゃっておりますが、都知事として首都圏の朝夕の殺人的ラッシュをご存知ないのではないか、少し不安になりましたよ。
質疑応答でも、

東京には1000kmの鉄道があります。その鉄道は毎日2,600万人を運んでいます。時間も正確で、3分間隔で正確に運行されております。

とおっしゃっていましたが、私もプレゼンターの方を真似てここで私が実際に聞いた印象的エピソードをご披露したいと思います。


中学受験をして都心の学校に40分ほど電車に乗って通うことになった中学1年のお嬢様がお母様にこう言ったそうです。「今朝も遅刻しちゃった。電車が止まっちゃったから。最近電車で怪我する人が多いのね。」「怪我?」とお母様。すると「だって、『人身事故』って言ってるもの、怪我じゃないの?」という答。お母様は、とても「それは怪我じゃなくて『人身事故』というのは、電車に飛び込んで自殺する人のことよ。」とは、言えなかったそうです。


どうして東京は「人身事故」がこんなに多いのか?
どうして東京に住む私たちはそれに麻痺しているのか?
これは様々な政治の貧困が合わさった政治の責任であると思いますので、猪瀬知事がプレゼンテーションで世界に向かって約束した通り、東京の電車はオリンピック期間中だけでなく、人身事故などない、everyone will arrive on time… every time の交通機関にして頂きたいと切に願います。


そして、7年後には猪瀬氏も74歳、立派な高齢者です。
7年後に猪瀬氏が、公用車を使い、スタジアムの特別席に案内されるであろう都知事の座にいらっしゃるのか、はたまた一私人として杖をついてエスカレーターがない駅も多い都営地下鉄に乗ってスタジアムに向かわれるのかどうかわかりませんが、その時には、東京の高齢化はもっともっと進んでいることでしょう。
スタジアムでの観戦は子どもたちや若者に譲って頂くとしても、猛暑のオリンピック期間に、高齢者の方々がせめて熱中症にならないよう、そしてオリンピックの狂騒の中誰にも気付かれずに孤独死する高齢者が続出しませんよう、都知事として施策を行って頂けますよう。


あれ?オリンピックが東京に招致されたことで、何だか全てのことが解決しそうではありませんか?


オリンピックの東京招致が決まったことで、逆に東京がプレゼンテーションで売り込んだことを実行・実現させなくてはならない、という縛りが出来たのです。
これだけのプレッシャーはなかなかありません。これを逆に利用して、過去20年閉塞していた日本の社会を変えるきっかけに利用しない手はないと思います。



現実は一つで、パラレルワールドなるものはありません。
東日本大震災は起こってしまいました。
それに加えて、現実の世界ではレベル7の原発事故も起こってしまいました。
パラレルワールドの「あまちゃん」の中ではそういう場面は出てきませんでしたが、もし実際の現実通りのドラマだったとしたら、例えば小泉今日子演じる春子や薬師丸ひろ子演じる鈴鹿ひろみは、東京でずっとテレビに張り付いて原発の動向を固唾をのんで見守っていたと思います。
私は3月11日からの数週間、「これは何かの夢に違いない」「目が覚めたらきっと違う現実があるはず」と、いい歳した大人なのに、テレビの原発事故の報道を見ながらずっとぶつぶつと呟いていました。
けれどもどんなにそう思っても、現実は現実、それは時間で埋められていきます。
その中で生きていくしかない、ということを、「あまちゃん」の震災の描き方で逆に気付かされました。


震災からの復興や、コントロールされているとはとても言えない汚染水問題を抱えた原発事故。
こういう問題があっても、2020年のオリンピックの開催地は東京に決定しました。
「2020年にオリンピックがマドリッドイスタンブールで開かれる」ということは、既にパラレルワールドの世界です。
私たちの現実は、2020年東京でオリンピック開催、です。
「オリンピック・ムーブメント」とは、今回の招致プレゼンでも盛んに使われた言葉ですが、即物的な意味でも、これから莫大なお金が動き、様々な人の思惑が交錯し、政府の政策さえ軌道を変えられることを余儀なくされるほどの、「ムーブメント」なんですね、オリンピックとは。
「災い転じて福となす」
「転んでもタダでは起きぬ」
いにしえの人は、うまいこと言いますね。
オリンピックへ向けて動き始めた様々なことが、被災地と原発と、そして7年後の日本にとって良い影響を及ぼすことになりますように。