日本のお父さん、お母さん、大学入試や国家公務員の採用にTOEFLが導入されてよいと思いますか?

去る3月21日に、自民党の「教育再生実行本部」から以下のような提言がなされたのですが、異論が続出したそうで、一週間後の28日に早くも朝令暮改ならぬ「提言の了承を見送る」決定がなされたとか。
最初の提言は以下のようなものです。

大学受験資格にTOEFL 国内全大学対象 自民教育再生本部、1次報告へ
MSN産経ニュース 2013.3.21 01:30
 自民党教育再生実行本部(遠藤利明本部長)が国内全ての大学の入学試験を受ける基準として、英語運用能力テスト「TOEFL(トーフル)」を活用する方針を固めたことが20日、分かった。月内にまとめる第1次報告に明記し、夏の参院選政権公約に盛り込む。

 対象は、全ての国公立大学と私立大学。大学の学部ごとに点数基準を定め、クリアした者に受験を認める。たとえば、東京大学文科一類(主に法学部に進学)の受験資格は「TOEFL○○○点以上を獲得した者」と定め、公表する。点数基準は各大学に自由に定めさせる。TOEFLは英語圏の大半の大学で留学志願者の英語能力証明として使われており、留学の活発化を通じて国際社会に通用する人材を育成する狙いがある。

 TOEFLの導入は、実行本部が、安倍政権の大学入試改革の目玉に位置づける施策の一つ。英文読解を中心とした現在の高校の英語教育のスタイルを一変させる可能性もある。このため、教育現場に混乱を来さないよう平成30年度ごろからの導入を想定している。

 日本では英語能力試験としてTOEFLのほか、受験者が最も多い「実用英語技能検定(英検)」や、英語によるコミュニケーション能力を測る「TOEIC(トーイック)」などが実施されている。実行本部は、結果がそのまま海外留学の申請に転用できるTOEFLを採用することにした。

TOEFLは、東京大学大学院の大半の研究科で入試の際に成績の提出を義務付けられている。また、政府は15日の産業競争力会議で、平成27年度から「キャリア」と呼ばれる国家公務員総合職の採用試験にTOEFLを導入する方針を打ち出している。

 実行本部では、英語で意思疎通できない日本人が多いことを問題視する議論が出ている。2月の会合では楽天三木谷浩史社長兼会長が「英語ができないため日本企業が内向きになる」と述べ、大学入試へのTOEFL導入を提案していた。


この最初のニュースが報道されるや否や、

「国会議員の立候補資格に『TOEFL◯◯点以上を獲得した者』とすべき」
「国会議員は全員TOEFLを受験して結果をホームページで公開すべき」

といった意見をネットで見て、思わず笑ってしまいました。
この提言をまとめた自民党教育再生本部に属する議員の方々の中に、TOEFL受験の経験がある方が果たして何人いるのか、知りたいところですし、

提言案によると、受験や卒業に必要なTOEFLの基準は大学ごとに規定。特に国際水準の研究を目指す大学を約30校指定し、TOEFLで7割以上の高得点を卒業要件に要求。国家公務員の採用でも一定以上のTOEFL成績を条件とした。
                                           中国新聞 3月23日


という報道も見ましたが、「TOEFL 7割以上」というと、ibtのスコアで84点ですが、「国際水準を目指す大学30校」というと、旧帝大早慶だけでなくそれ以外の大学を加えての30校だと思いますが、はっきり言って東大に限って言っても「学部卒業生約3000人全員がTOEFLのスコア84点以上」というのは無理だと断言できます。ましてや他の29校の大学の「卒業要件」なんかにした日には、日本中が大学卒業できない学生で溢れかえりますよ!!!
自民党教育再生本部の方々は、TOEFLが120点満点だということくらいはご存知なんでしょうね?
おまけに、こんな無体な卒業要件を決められたとしたら、大学生活は「TOEFLで84点とる」ことだけに明け暮れることになり、専攻している研究や学問はなおざりになってしまい、著しく日本の科学技術や社会科学研究のレベルが下がることでしょうね。本当にそれでよいのでしょうか?

新しい信仰:TOEFL

というエントリーを、山内康一みんなの党衆議院議員が書いていらっしゃいますが、自民党教育再生本部の面々は揃いも揃って、この「新しい信仰」であるTOEFLに感染してしまったかのようです。



我が家の子ども二人に、帰国受験&就活&院試&留学などなどのために二人合わせて合計10回以上TOEFLを受験させてきた経験から(はい、受験料は全て親持ちです)、私は親として(出資者として)、今回の自民党教育再生本部の提言には、断固賛成できません。


今の学生の親が学生だった頃には、英語の能力試験と言えば「英検」しかなくて、このTOEFLやよく似た名前のTOEICなどなかったわけで、殆どの親御さんは、そもそも最近急に聞かれるようになった「TOEFL」という試験についてよくわかっていらっしゃらないのではないかと思います。

ということで、10回以上の受験料を払わされた私が、私と同じ親世代の日本のお父さん、お母さんのために先ず最低の基本的知識をまとめてみました。


英検:1963年に文部省(当時)の肝いりで作られた日本英語検定協会という財団法人(現在は公益法人)が実施する試験。筆記とリスニングの一次試験と面接(スピーキング)の二次試験に分かれている(4、5級は二次試験なし)。検定された能力は未だに1級〜5級という前世紀の遺物的「級」で表される。有効期限なし。

TOEIC:1979年に経団連通産省(当時)の肝いりで、TOEFLを作っているETSが作った英語能力判定試験。リスニングとリーディングのみ。能力は990点満点のスコアで表される。受験者の殆どは日本人と韓国人で日本と韓国以外では通用しない*1。しかし日本では就職、昇進に幅広く使われている。事実上、有効期限なし。

TOEFLアメリカの非営利団体ETS(English Testing Service)が実施する試験。現在行われているインターネットベースの試験(いわゆるTOEFL ibt)では、リスニング、リーディングに加え、ライティング、スピーキングによって英語能力が測られる。120点満点のスコアで表される。Fランではないアメリカの大学に留学するには、必ず求められるテスト。大学院、MBAをとるためのビジネススクールに入学する場合も必ず必要。有効期限2年。


では、TOEFLという英語能力試験がどういうものであるか、という前に、日本のお父さん、お母さん、TOEFLの受験料幾らかご存知でしょうか?
以下、TOEFLのテストセンターのページより引用。

受験料

締切日によって受験料が異なります。

Regular registration 受験日の7日前まで :225USドル
Late registration 受験日の3日前まで(オンライン)受験日の前営業日17時まで(電話):260USドル(225ドル+手数料35ドル)
Rescheduling 申込済みのテスト日やテスト会場の変更 :60USドル

※去年から日本円での支払いも可能になったようです。また受験料は予告なく変動します。

1$=90円で計算したとしても、1回の受験で20,250円です!(←センター試験5教科7科目の受験料より高いということを教育再生本部の議員の面々はご存知なのか?)
そして、TOEFLは何度でも受験できるのです。少しでもいいスコアを出すために、「もう一度受験したい」と子どもが望めば、親心としては、自分は襤褸を纏い粗食で凌いでも何度でも受験させないわけにはいかないでしょう。そうして、TOEFLのスコアは受験後2年経つと無効になります(TOEFL実施機関のETSの陰謀としか思えませんが)。例えば高校3年でせっかく良いスコアを出しても、留学とか就職とか(自民党案では国家公務員の試験にもTOEFLを義務づけるとか?)大学院の受験では受け直す必要があります。その時も1回の受験で済むかどうかはわかりません。自民党案は、要するにそれにかかる費用を親に丸投げしているのです。
帰国生の受験やら、グローバル化している企業の入社に際して、TOEFLのスコアを要求してくるのは、まだ理解できます。ライティングやスピーキング能力を見るためには、他を見渡してもTOEFLに代わる英語能力を測る適切な指標がないからです。けれども、大学入試、公務員試験という、その世代の多くの高校生、大学生が受ける試験において、高額の受験料がかかるTOEFLを全員に課す、というのは、一体何を考えているのか?
そして、TOEFLという試験は「慣れ」と「経験」が如実にスコアに出る試験ですから、経済的事情でTOEFLを1回しか受験できない学生よりも、何度でも受験できる学生の方が有利です。ということは、取りも直さず、親の経済格差が結果に表れてしまうことにならないでしょうか。




そして、これも日本のお父さん、お母さんにおいてはご存知ない方が多いと思うのですが、TOEFLを実施しているETS(English Testing Service)とは、日本の団体ではなく、アメリカの非営利団体なのですが、巨大な独占的利益を上げていながら証券取引委員会に財務状況を届けなくてもよい謎の団体なのですよ(そのETSからライセンスを買って、日本人と韓国人しか受験しないガラパコス試験であるTOEICという試験を実施しているIIBCというのは日本の団体ですが、これについては黒い噂しかないのはこの際置いておきますが)*2
大学志願者数が年約74万人として、自民党の最初の提言案通り、日本の全ての大学がTOEFLのスコアを入試に課すとしたら、一人が1回しかTOEFLを受験しないとしても、225$×74万人=166,500,000$、即ちざっと計算しても毎年166億円弱をアメリカの「非営利団体」ETSに払う、ということなんですよ。

実際はもっと親は受験料を支払う破目になり、更に莫大な金額がETSに流れ込むことでしょう。

我が家の子どもたちが経験した帰国入試で言うと、帰国入試ではTOEFLを要求されるのですが、現在の帰国入試では大学が今回の自民党教育再生本部の提言案のように「学部ごとに点数基準を定め、クリアした者に受験を認める。たとえば、東京大学文科一類(主に法学部に進学)の受験資格は『TOEFL○○○点以上を獲得した者』と定め、公表する。」ということにはなっていないのですが、それでも、「慶應や東大はTOEFL100点で足切りされる」というまことしやかな情報もあり、それらの大学を目指す受験生の殆どはそのスコアをクリアするために何度もTOEFLを受けます。1回の受験で100点をクリアできた受験生も、更に高スコアを目指して受験します。大体何回くらい受験するか、と言うと、
TOEFLを大学入試で義務づけるとどうなるか? ー統計学+ε:米国留学・研究生活
をWilly氏という方が書いていらっしゃって、私同様、TOEFLが大学入試に導入された場合日本人の受験生がアメリカのETSに払う受験料を試算していらっしゃいますが、Willy氏は、「各受験生が5回試験を受け」た場合を想定していらっしゃいます。Willy氏は、推察するに大学院受験でTOEFLを受けられたのだと思いますが、高校生でなくアメリカの大学院を目指すというかなりの英語力があるそういう方でも自然に「5回」という回数を想定しているのです。5回受けると10万円ですよ・・・。
TOEFLが「何度も受ける」試験になっているというのは、前回の受験時よりも英語力を高めて高スコアを狙うという目的もありますが、これもまたWilly氏が指摘されているように、ライティング能力を測るエッセイや、出されたトピックについて話すスピーキングのテストにおいて、「自分が暗記しているトピック」や「得意な分野のトピック」が、受験した時にたまさか出題されれば高得点が狙える、というこのテストの性質によるものです。例えば帰国生らしからぬジャパニーズイングリッシュ全開の愚息が出した空前絶後の高スコアは、スピーキングのトピックが彼の得意なコンピューターに関するものであった時でした。逆に、「全く予想していなかったトピック」「日本語でも知識がない分野のトピック」だと、エッセイを書いたり喋ったりできなくてスコアが取れないのです。またそれ以外でも、学校の行事と重なって疲れている時とか(集中力が要求されるTOEFLの試験は長丁場)、隣のブースの受験生の声が大きくて気が散ってしまって集中出来なかった時とか、ウチの娘に至っては「試験会場まで土砂降りの雨の中歩いて行ったら靴の中にまで水がしみ込んで気持ち悪くて試験に集中できなかった」と抜かしたりして、そうやって不本意なスコアが出ると、「もう一回受験したい。次はもっと高いスコアが出るはず。」という心理になるのですね、受験生は。そうなると、親の方としても、クレジットカードを更に擦り減らして(受験料はカード払い)、この高額の受験料をとるテストを受けさせることになるのです。ましてや、大学・学部毎に点数基準が決められたりしたら、その基準を満たすまで何度もトライしたいのが受験生の心理ですからね。勿論、そうやって高額の受験料を払って何度受けても行きたい大学の基準を満たすスコアが取れなくて、他の科目の実力関係無しに「TOEFL」だけが理由で志望大学を変えなくてはならない受験生も大勢出て来ることでしょう。


TOEFLの受験料を実際に払う親の立場から言うと、今でさえ大学受験は勿論、中学受験や高校受験に際しても学校以外の塾や予備校にお金を払って子どもに勉強させているのに加えて、更にTOEFLの高額の受験料のみならず、TOEFL対策のために塾などにお金を払う破目になることは目に見えてます。しかも入試科目はTOEFLが課される英語だけが試験科目ではありません。数学や理科だってあるのです。今回の自民党教育再生本部の提言で、一番頭にくるところは、本来は受験の準備も含めて教育は学校でなされるべきであるのに、教育の向上を親の財布に丸投げしているところですよ。


大学入試のシステムは、国の在り方を示す大事なものだと思います、フランスのバカロレア然り、ドイツのアビトゥア然り、アメリカのアドミッションシステム然り。
その大事な大事な大学入試の改革について議論している与党自民党教育再生本部の皆様の知見が余りにも皮相的、貧しいのではないでしょうか?
日本の大学入試の実情、TOEFLという試験についての知識に欠けているとしか言えません。
どうしてみすみすアメリカの「非営利団体」に多額のロイヤリティを未来永劫毎年払う結果になる「教育再生の提言」などするのでしょうかね。
そして、日本の大学を卒業して将来の日本の中枢を支える国家公務員の試験に「アメリカの大学に入学するための英語テスト」を課す、という国辱ものの提言は、本当にやめて頂きたいです。「アメリカに押し付けられた憲法」を改正しようというのならば、日本国の「国家公務員」登用試験にアメリカの「大学」入学用の試験であり尚且つ受験料がごっそりアメリカの団体に入るTOEFLを導入するとか、そういう恥ずかしいことを与党議員が提案するのは、どうなんでしょう?まるで「TOEFL教」という新興宗教にハマってしまったかのような妄言から冷めて、日本の現実と将来を見て政策を考えて頂きたいところです。例えばTOEFLではなく、ガラパコス試験になってしまっている「英検」に大幅にテコ入れして、新たに英語能力試験を自前で作ることを考えたらどうでしょうか、「アメリカに押し付けられた憲法改憲する」よりも遥かに容易だと思うのですが。
前述のWilly氏も

もしも政府が英語教育を本当に改善したいのであれば、
実用的な英語試験の開発を自ら行うべきだろう。

現状のまま、TOEFLの受験を全受験生に義務づければ、
受験者は大学受験生だけで50万人程度になる。
各受験生が5回試験を受け、毎回約2万円の受験料を払えば、
それだけで毎年500億円の受験料がETSに落ちる計算になる。
政府が少しばかりの予算をつけて検討すれば、
TOEFLと同じ程度に英語の運用能力を図ることのできる試験を開発し
公正に運用することも十分できるのではないだろうか。

とおっしゃっていますが、全く同感ですね。そうして、何度も受験することを考えて受験料を極力抑えることは勿論、親の経済力と関係なく受験できるような配慮も必要だと思います。



で、やっとTOEFLという試験についての具体的説明になりますが、この試験は簡単に言うと
「英語が母国語でない学生が、アメリカの大学でどの程度やっていけるかどうかを測る語学試験」
です。ですから、英検やTOEICとは違って、試験問題のシチュエーションとして、ビジネスの場面やら観光の場面などは出てきません。あくまでも、アカデミックの場における母国語でない英語の運用能力を問われる試験です。
「グローバル、グローバル」と叫んでいるだけで、殆どの授業は日本語で行われている日本の大学、入学しても「アカデミックの場で英語が必要とされる」場面がまるでない日本の大学の入学選抜試験において、このTOEFLは課すに相応しい試験でしょうか?
実際に大学入試にTOEFLを導入するのならば、先ず教える側の大学教員全員にTOEFL受験を課すべきでしょうね(そうして、また莫大な受験料がアメリカのETSに流れるわけですが)。
TOEFL枠」を作って、英語の試験をTOEFLのスコアで代替して出願する受験生をある一定数採る、というのなら、まだわかります、しかしそれならば、他の言語(中国語や韓国語、フランス語やドイツ語)の枠も同様に作るべきでしょう。
今回の自民党教育再生本部の提言について、アメリカ在住の作家冷泉彰彦氏が書かれた
大学への「TOEFL」導入案、総論はいいが各論は?
の中にもこういう一節がありました。

日本という国は、何も英語圏からだけ学んで現在の姿があるのではありません。今回のTOEFL導入で、ヨーロッパの諸言語をはじめ、中国語、韓国語、アラビア語といった日本が世界と関わってゆく上で重要な言語に関する教育が疎かになり、そうした言語の能力を持った人材が軽視されるようではいけないと思います。


これには全く同感で私も元々、「英語も大事だけれども、『グローバル化』というのならば尚更『一億総英語狂』になるのではなく、英語の達人と同様、中国語や韓国語、ロシア語やアラビア語に堪能な日本人が増えていかなくてはならない」と思っています。寧ろ、学校における語学教育が英語に偏りすぎるのは、日本という国にとってリスクだと思っています。「総論ではTOEFL導入に賛成」なさっているこの冷泉氏ですが、各論を読んでみると「反対」とも読めるのですが、それよりも冷泉氏の主張の中で残念なのは、「親が払う受験料」についての視点が全くないことですね。


さて。
そもそも、「社会に出た時に通用する英語力」を子どもが身につけるのは、子ども本人及び親の自己責任であり個人の努力に負うものなのでしょうか?
大学を卒業する学生の英語力は、大学が大学教育の中で身につけさせるべきものであり、学生個人の「努力」は必要かもしれませんが、個人が「大学の授業料」以外に多額のお金を投じて身につけないと公務員試験も受けられない、というものであってはいけないのではないですか?
高校を卒業して社会に出る学生の英語力についてもそうです。高校を卒業して就く仕事を想定して、そのレベルで困らない英語力を身につけさせるのは、高校の教育の中で行われるべきものでしょう。
それを「TOEFL導入」という安直な方法で、親に丸投げしてしまうのは、本末転倒ではないかと思うのです。
大学入試にTOEFLを課すと言いますが、今でさえ高校での教育はいっぱいいっぱいで、どこをどう捻ったらTOEFLに対応した授業が出来るのか甚だ疑問です。くだんの提言にはTOEFLに対応した教員の育成には一言も触れられてはいません。こんな提言が万が一実現されでもしたならば、いきおい、生徒は学校を身限り、「TOEFL対応」の塾や予備校に流れ、益々学校教育は軽んじられ、親は益々の出費を強いられ、益々親の経済格差がそのまま子どもの英語力の格差になり、難関大学への進学は親の経済力に見事に相関したものになるでしょう。
これが「教育再生」としたら噴飯ものです。



日本のお父さん、お母さんが
「英語が出来ないと、これからの世界に乗り遅れるのではないか」「英語が出来ないと、大学にも行けないのではないか」「TOEFLで良い点を取るためには、小学生の時から英会話教室に行かさなければいけないのではないか」
と焦る気持ちもわかりますが(実際、自民党の提言は親の不安を煽りますし)、ここで頭を冷やして、冷静に考えなくてはならないと思います。
英語ばかりに気を取られ、限られた教育費を英語だけに注ぎ込むことが、本当に子どものためになるのか、日本の将来の姿に良いことなのか、親として考えなくてはならないと思います。



・・・と言っていたら、日本のお父さん、お母さん、愚かしい方向に物事が進んでいるようです。
自民党教育再生本部もさすがに自分たちの浅知恵を恥じて、「提言の了承を見送り」という報道がなされたと思いきや(3月28日)、ところがどっこい、先日4月4日になって「提言を大筋で了承」したとのこと!!!
この「自民党教育再生本部」の本部長とやらの遠藤利明議員が、批評家荻上チキ氏がパーソナリティを勤めるPodcastで言っていることをgorotaku氏という方が書き起した
日本人はスピーキングが苦手-bluelines
というエントリーがあるのですが、これを読んで頂ければわかると思いますが(実際にPodcastを聞いて頂いても)、このおじさんこと自民党教育再生本部長遠藤氏自身がTOEFLを受験したことがないのは一目瞭然なのは勿論のこと、不肖私が上に書いたTOEFLに関する基本的なことさえもどこまでわかっていらっしゃるのか、怪しいものです。親が払うことになる高額の受験料についてもわかっていらっしゃらないんじゃないでしょうか?「留学に使えるんですよ。」の一点張りですからね。今回の提言の根拠ってこれしきのことなんでしょうか?
書き起して下さったブログ主のgorotaku氏も書いていらっしゃるように、TOEFLのライティングやスピーキングでは、何より「英語で論理的に書く/話す」ことが求められているのですが、遠藤氏は英語力以前に、日本語ですら論理的に相手に話すことができない方のようです。
そんな方が本部長を務めている「教育再生本部」の提言で、日本のこれからの教育が決まっていくとしたら、背筋が寒くなりますね。
この教育再生本部も、実際に英語が堪能で、過去にTOEFL受験経験があり、英語教育について真に日本の将来に有益な提言ができる人材を、TPP問題やら沖縄問題やら経済問題方面の対処に取られてしまって、本部長の遠藤氏を以てして「留学に使えるんですよ。」しか国民に説明できない体たらくになっているとしか思えません。アメリカのTOEFLをそのまま日本の大学入試や国家公務員試験に導入する、というのは、自民党的にはこれこそ自虐史観じゃないのでしょうか。
とにかく、自民党にも本人及び子弟が留学経験があったりして、もうちょっとマトモにこの問題について考えられる良識ある議員の方々も大勢いることと思いますので、速やかにこのトンデモ提言を取り下げてほしいものだとひたすら願うのみです。


自民党教育再生本部の迷走や妄言は置いておいて。
親は子どもの英語教育をどう考えたらよいのか、無限にあるわけではない教育費をどう配分したらよいのか、については別のエントリーで考えたいと思います。

*1:2008年度においては、TOEICのみについては約90ヶ国で実施され、日本で約171万人、韓国で約200万人、総計で約500万人が受検した。「TOEICWikipediaより

*2:TOEICの利権と国際ビジネスコミュニケーション協会@ArtSaltのサイドストーリー