「東大文一足切りなし、最低点203点」から見えてくること

センター試験については、今までも散々書いてきたので、今年はもう書くこともないだろうと思っていたら、

東京大学は、25〜26日にある文科1類の2次試験(前期日程)へ向け、受験者の一部を大学入試センター試験の成績を基に門前払いする「第1段階選抜」を行わないことを決めた。規定の倍率に達しなかったためで、2000年度入試以来13年ぶりという。
                                                 朝日新聞



というニュースを見てしまいました。
更に足切りがなかった文一の最低点が203点である(センター試験900点換算)ということで、当日2月13日検索ワードの上位に「203点」が急上昇するほどの話題です。勿論一番盛り上がっているのは、受験生界隈ですが、彼らの殆どが、「203点で文一に出願」は「ネタ」もしくは記念受験だと思っているようです。






というような意見が多かったのですが、大学受験は誰にとっても人生の関ヶ原です。いくら何でも「ネタ」だけで、18.000円の受験料払ってセンター試験を受けて、前期・後期それぞれ1校しか受験できない国立大学ですが、その一つに東大を選んで無駄になると思われる受験料17,000円を更にわざわざ払って受けるでしょうか?おまけに、高校から厳封した調査書を貰って願書と共に出願するのですが、それを「ネタ」のためだけにやるでしょうか?もし、本当にこの足切り最低点203点(←これは東大に出願するどころか、センター試験の点数としては相当低い点数です)を取った生徒が、親にも先生にも言わずに一人で黙々と「ネタ」だけのために、願書を書き、受験料を振込み、調査書と共に郵便局から書留速達郵便で送ったのだとしたら、その受験生の寒々とした気持ちに、私は逆に同情してしまいます。


では、もし「ネタ」でないのならば、この203点とは何だったのか?
数は少ないですが、こういう意見もありました。






こういうTweetが何を示しているかというと、受験生は自己採点のみを根拠に出願させられており、マークミスしていても(それが科目名のマークミスという大事故であっても)本人はわからないままの出願である、という事実です。
今回はたまたま文一が足切りがなくて、203点という驚愕の最低点が露見しましたが、東大の他の科類でも、その他の大学の足切りにおいても、こういうケースはあると思うのですね。自己採点と実際にとった点数に誤差があるとして、それが数百点分の誤差になると、これは多分、一部のマークミスというよりは、選択科目の科目自体をマークミスして零点になってしまったのではないかと思います(参考:解答用紙について|大学入試センター)。その場合、自己採点は、自分がマークした解答をメモした問題用紙で行うのですから、受験生本人は気がつかないでしょう。自己採点の点数を自分の点数を思い込んだまま(文一に出願するくらいですから、自己採点では700点以上800点近かったかも)出願したのかもしれません。
これに限らず、二次試験が終わって最終的に合格/不合格が決定して、4月になってやっとセンター試験の点数開示(成績開示料800円!)が届くのです。その時になって「えっ、センター試験、自己採点よりも10点も低かったんだ!」ということは、多々あるのではないかと思います、センター試験の受験生は57万人にものぼるのですから。ちなみに、自己採点と実際の得点が違っていた受験生がどれくらいいるか、その違いは何点くらいだったのか、という統計資料は当然の如く取れませんし、この点について、共通一次試験の時代から30年以上経ちますが、大学入試センターが受験生のために配慮しようとしてくれた形跡はありません。要するに、マークミスした受験生の自己責任、ということです。マークミスは当然個人の責任ですが、ミスした結果の点数を知らされないまま二次試験に出願させるというのは、あんまりではないでしょうか?

21世紀が始まって既に10年以上経つというのに、日本では人生の大事な決断が行われる大学入試において、未だに共通一次試験が始まった30年以上前の1979年当時と同様、「受験生には正確な点数を知らせないまま、二次試験を出願させる」という、情けないことが行われているのです、しかもそれを牛耳っているのは、予備校の「センターリサーチ」です。これは如何にも受験生を軽くみているというか、未来を担う若い人材に対して失礼というか、私は理解に苦しみます。
足切りを設けている各国立大学は2月の初旬にセンター試験の点数を元にして足切りをするのですから、各大学には受験生のセンター試験の点数が開示されている訳です。一方、「センター利用入試」を設けている私大にも2月上旬には、出願した受験生のセンター得点は開示されそれを元に各私大は合否を決定するのです。それなのに、当の受験生には自分の正確な得点を知らせないまま出願・受験を強いる、というのが、現状の国立大学及びセンター試験を利用している私立大学がやっていることなのです。
そして、仮に結果的に自己採点が正確であったとして(それがわかるのは4月になってから)、出願時には受験生は「もしかしたら、マークミスしているかも・・・?」という不安を抱えたままの出願になりますから、その不安な心理故に予備校の「センターリサーチ」という「ガマの油売り」にすがってしまうのです。
センター試験プラス二次試験」という国立大学の入試はやり直しのきかない一発勝負であり、一点でも合格点に届かなければ容赦なく不合格になるシステムです。その厳しいルールを甘受し、且つ「1年に1回だけ」というプレッシャーがかかるセンター試験に臨んでいる受験生には、何故正確な自分の得点を知る権利、知った上で二次試験に出願する権利すらないのでしょうか?




そして、もう一点、この「東大文一足切りなし、最低点203点」から見えてきたことは、予備校のセンターリサーチなる予想は全く当てにならないという、今更のことでしょう。去年、一昨年と、受験シーズンにこの事に関してエントリーを上げていますので、詳しくはそちらを見ていただきたいのですが、今年は、この「文一足切りなし」もどこの予備校も当然ながら予想できなかったのですし、「理一の足切り点予想」も、どこも大外れだったようですね。

駿台 河合塾 代ゼミ 東進 実際の足切り点/満点
理科一類 715 719 711 715 574 /900
理科二類 725 725 729 725 690 /900

予想と結果の誤差がプラスマイナス10点、即ち上下20点の幅くらいは仕方ないかも、と思いますが(それでも受験生にとっては人生の選択を左右する大問題!)、今年の理二の予想は、どの予備校も揃いも揃って25点以上外し、理一は150点以上!!外しています。
理二の場合だと、センター試験が700点くらいの受験生は、各予備校の予想を信じるのならば、どの予備校も自分の得点よりも10点以上高い足切り点を予想しているのですから、出願を見送ったことでしょうし、理一に至っては、結果的には600点でも足切りクリアだったのですが、710点くらいの受験生ですら、予備校の予想を見ればとても出願する勇気はなかったでしょう。
そういう受験生に、予備校は何と言って詫びるのか?否、今までもどんなに予想を外しても反省もしなければ、また厚顔無恥に翌年もセンターリサーチという名の無意味なシステムで受験生を翻弄するのです。


予備校が行う「センターリサーチ」がなければ、受験生は二次に出願する指標がなくて困ってしまうでしょうか?
私はそうは思いません、逆に例えば今年などは、「センターリサーチ」の予想点数に影響されて700点の得点がありながら、理一や理二への出願を見送ってしまった受験生がいたであろうことを考えれば、「センターリサーチ」は受験生を翻弄するものでしかないと思います。大学入試センターや各大学がほんの少しの労をとれば、予備校の「センターリサーチ」など必要ないのです。受験生が自ら判断できるような、統計上の数値を出願前に公表することが何故できないのか?
例えば、College Boardという、アメリカの「大学入試センター」みたいなところは、各大学に入学した学生(つまり合格者)のSATの点数の分布を、受験生の参考になるように十分に、且つ詳し過ぎる弊に陥ることなく伝えています*1。これを見ると、Harvardに入学した学生の殆どは、Critical Reading、Math、Writingの3科目のどれもで、800点満点で87%から満点、即ち点数だと700〜800点の高得点をあげています。一方、科目別に見ると、Critical Readingでは699点以下の学生が22%、MathやWritingでは20%もいます。これでわかることは、Harvardに出願する際にSATだけで見れば、オールマイティに9割から満点の点数がとれれば言うことはありませんが、例えMathが苦手で9割とれなくても、残りの2科目がMathのビハインドを埋めて合計スコアを9割以上に持っていけるだけの点数がとれていたら大丈夫。けれども、皆が皆秀才が集まるHarvardで、9割取れない科目が3科目中2科目あると、数字的に無理、ということです、もっともこのSAT以外にも、高校の成績とか(何と87%の入学者が高校時代のGPAが3.75以上の化け物です!!!」)、エッセイとか他にも入学審査の対象になるものがあるので、日本とは一概に比べることはできませんが、私が感動するのは、受験生自身が自分で見極めることができるような数字の資料は示しつつ、点数による大学の序列化ができないようにSATの点数の合計点は曖昧にしているところです。もし、合計点を示したなら、例えばHarvardの入学者のSATの点数の最低点は2300点とか一度一つの数字を出してしまったらその数字が一人歩きして、他の大学と比べられて即序列化されるだけではなく、2300点以下の受験生は出願する意欲を失ってしまい、その中に埋もれている才能ある学生を採るチャンスを逸してしまうでしょう。それを防ぐための曖昧さ、とも受け取れます。

逆に予備校の「センターリサーチ」はまさに、受験生のチャンスを潰しているのです、「第一志望は、ゆずれない」だの「自分の夢まで自己採点しないでください」だの予備校は言っていますが。と同時に大学側にとっても受験生のdiversityを損ねる結果になっているのです。例えば今回のセンターリサーチによる東大の足切り点の予想は、本来理一志望だった600点代の受験生が志望通り出願するチャンスを潰しました。逆に、東大にとっては、数学や理科の素晴らしい才能があるけれども今年のセンター試験の国語で爆死してしまった優秀な受験生を失ってしまったのです。しかも予備校は、受験生の「自己採点」という不確実なものを材料にして「センターリサーチ」を行っているのですからね。大手予備校が軒並み150点以上理一の足切り予想点数を外した、という衝撃の結果がかすんでしまうほどの、「文一足切りなし、最低点203点」という今年の結果で、受験生が予備校の「センターリサーチ」の欺瞞に気付いてくれれば、と思います。




大学受験という人生の節目において、自分が納得できる受験をしてほしいのです。
出願する大学を決める時、ちゃんと「自分自身を見つめる」という過程を経た上で決めてほしいのです。
例えばセンター試験の自己採点の点数。それはあなたの今年の1月19日と20日の実力を示すものです。それ以上のものでもなく、それ以下のものでもない。だけど、今年の入試はその点数(不本意であろうと会心の出来であろうと)で勝負するしかないのです。
これほどの大事な勝負どころなんですから、予備校の「センターリサーチ」なぞに振り回されることなく、自分で自分の点数と今までやってきたことを冷静に見つめ直し、選択肢を一つ一つ吟味して、一番納得ができるものを選んでほしいのです。


そして受験生が自分自身で納得ができる受験をするために必要不可欠なことは、前述の二点、

・受験生は二次出願の前にセンター試験の点数を知ることができる
・受験生が自身で十分に判断できるように、大学入試センターや各大学が資料を提供する

このたった二つのことくらい、受験生のために整えることはできないのでしょうか?





小学校や中学校から私立、大学受験の経験なし、という2世議員が多い現政権ですが、自民党の公約にも「教育を、取り戻す」と謳ってある訳ですし、一方多くの官僚の方々の出身大学である東京大学文科1類への受験生の出願が、毎年のように大外れの予想を出す予備校に牛耳られ受験生が翻弄された挙げ句足切り無し、最低点203点」になってしまったことを官僚の方々に是非とも憂えて頂いて、上記2点を早急に何とかして頂きたいところです。




センター試験に関する過去のエントリー


2011年

「センター試験」雑感 大学入試は今のままでいいのでしょうか?

私の《センターリサーチ》リサーチ・・・東大文系を例にして・・・


2012年

平成24年度センター試験前夜 斜陽の国では入試改革はできないのでしょうか?

大学入試センター試験の自己採点集計を私企業である塾・予備校がやっているのは何故?