「大外れの足切り最低点予想を出した予備校の責任」から考えること


中学入試の季節が終わり、本格的に大学入試の季節が始まりました。
昨日は、東京大学の第一次選抜、即ちセンター試験の得点による「足切り」が発表されたようです。
今年は「大荒れ」というか、予備校各校の「センター試験自己採点集計システム」による予想が「もうこれは予想ではない」と言えるほどの外れっぷりで、社会的責任はどうなるのか?とまで思ってしまいます。
「受験勉強の手助けをする」という本来の「塾・予備校」の務めを大きく逸脱して、「情報」を売りにしてきた「企業」です。気象予報士が前日にしたお天気や気温の予想が外れた時でさえ「お詫び」やら「外れた理由の説明(言い訳)」があるのですから、受験生の進路であり人生に関わる「予想」が大外れだった場合「お詫び会見」は当然だと思いますし、予備校が出した「情報」で今年の受験を不意にした多くの受験生に対して補償すべきだと思いますが、勿論そんなことは露ほども予備校は考えておらず、きたるべき春期講習に一人でも多くの新しいお客さんを呼び込むことが、目下の「お商売」の目標でしょう。
実は去年も外れまくりだったのですが*1、今年どれくらい予想が外れたかと言うと、

代ゼミ 駿台・ベネッセ 河合塾 実際の足切り最低点
文科1類 716(-5) 695(-26) 690(-31) 721
文科2類 747(+77) 755(+85) 745(+75) 670
文科3類 752(+120) 750(+118) 749(+117) 632
理科1類 752(-18) 770(±0) 758(-12) 770
理科2類 729(-14) 745(+2) 730(-13) 743
理科3類 752(+46) 755(+49) 765(+59) 706

括弧内は実際の足切り最低点との乖離です。

±5点までは誤差内として、その誤差内に収まっているのは三カ所だということがお分かりですよね。しかもこの外れっぷりがハンパじゃない、最大で120点(900点満点中)外しているのです、あれだけ母数の多さを誇っているのに!
各予備校が一番力を入れている筈の東大の足切り予想でこの様です(他大学は推して知るべし、です)、本当にこれは「予想」なんかじゃありませんね。
「被害者」は、
予備校の足切り予想点を信じて出願したら足切りされて二次は門前払い、で試験さえ受けられない受験生
だけではありません(今年は倍率が低かったので足切りされた受験生の数それ自体《←それでも各受験生にとっては大問題です》は多くなかったかもしれませんが)。
予備校の足切り予想点を信じて自己採点が予想点よりも低かったので涙を飲んで他大学に出願した、という受験生
もまた「被害者」なのです、今年はこちらの方が多かったのではないでしょうか?何せ、三桁の外れっぷりなのですから。
彼らの進路について、「企業」として代ゼミ駿台河合塾はどういう責任を取るのでしょうか?きっと「受験生の自己責任」と言って責任回避するのでしょうが、「情報」を売っている企業として、しかも「教育」や「入試」の「情報」を売っている企業として、せめて反省なり、お詫びなりあって然るべきではないでしょうか。


受験生は怒っていい、と思います。
保護者も怒っていい、と思います、当然でしょう。
塾・予備校に授業料を払ってきた今までの金額を総計した上で(きっと学校に払ったよりも多額ではないですか?)、普通に企業にクレームをつけるようにクレームをつけても当然だと思います、保護者としても。まあ、何故かこの産業の場合、「親心」という心理的弱味を握られているので保護者の方もなかなかそういうことに至らないのをいいことに、今日まで来ているのだとも思いますが。
国こそ、或る意味その国の在り方が表れる最高学府の入学試験において、塾・予備校という私企業の「自己採点集計システム」の跳梁跋扈を怒るべきであり、また受験生が大学入試センターから自分の正確な点数を知らされないまま「自己採点」の不安を私大のセンター利用試験の合否でやっと払拭する、という国辱ものの現状を何とかすべきなのです。


現役受験生も勿論ですが、東大目指して余計に勉強してきた浪人の受験生で、「予備校の予想を信じて出願して足切りされた」人も「予備校の予想を信じて志望を変えたら、実は変えなければ東大の二次が受けられた」人も、憤懣やるかたないでしょう。二次試験に向けて勉強してきた自分の実力をシンプル且つストレートに試す機会さえ与えられなかったのですから。これだけ塾・予備校が情報をバラまいているのですから、決してあなたたちの「自己責任」なんかじゃありません。悪いのは、塾・予備校であり、しょぼい大学入試システムを行っている日本という国であり、そしてそれをずっと見過ごしてきた大人です、しかも誰も責任をとってくれません。怒ってよいと思います。今回運良く足切りされなかった受験生も、同じく怒ってください、あなたたちも別に塾・予備校の予想点のお陰で足切りをクリアしたわけではないのです、そんなもの(予備校のセンター・リサーチ)必要なかったということなのですよ。18歳以上に選挙権を認めるべきだという意見があり、私はそれに賛成です、そうすれば、これからの日本を背負っていく若者の怒りで教育システムがマトモになるかもしれない、と思うので。エスカレーター式に小学校から大学まで行ったような政治家二世三世には入試改革も教育改革もは無理ですから。

しかし。
怒るならば、怒りの気持ちがあるのならば、大学入学後に塾や予備校でバイトをしたり、「合格体験記」を書いてお金を貰ったり、ということはやめませんか。「今までやってきた受験勉強が生かせる」「手っ取り早くお金が手に入る」と思うかもしれませんが、それ自体が塾・予備校に利用されているのであって、そのお金は当然現状の塾生や予備校生の授業料に転嫁されているのですよ、お商売なんですからね。それでも「みんなやっているから」と塾や予備校で、賃金に値する労働というには遥かにラクな労働で(ファーストフードのバイト時給と比べてください)高額のバイト料を稼ぐ側になってしまったら、あなたにはもう「怒る」権利はありません。

塾や予備校が自らを「教育産業」というのならば、何故理想の学校を作らないのでしょう?「理想の小学校」「理想の中学」「理想の高校」を作ればよいではありませんか?そうしないのは、現状の方が、「儲かる」からであり「責任がない」からではないでしょうか?今回のセンター試験足切り点予想大外れだって、これが「高校」ならばもっと深刻でもっと責任を感じなくてはならないでしょうから。
塾や予備校が本当に日本の子どもたちのことや教育の未来を考えるのならば、では首都圏だとどこでも「駅前徒歩数分」の好立地にある塾や予備校の校舎をばんばん「保育所」にするというのはどうでしょう?そして大学生をアルバイトにどんどん雇ってくださいな。子どもを預けて共働きしないと生活していけない若い世代のお父さんお母さんに感謝されること請け合いです(そしてバイトの大学生も数年後そういう立場になるのですし)。


そして大人もまた、真剣に「教育」ということについて考えなくてはならないのでしょう。確かに国にも個人個人にも、他に大事な問題は山積みですが、それを言い訳に後回しにしてよい問題ではありません、「教育」とは。
この入試の季節だからこそ、もう一度徹底的に考えるべきだと思ったことでした。
とは言いながら、去年も似たようなことを書いていますので、宜しかったら参照のほどをお願いします。



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