私の《センターリサーチ》リサーチ・・・東大文系を例にして・・・

足切り山鳥の尾のしだり尾の
    切られし夜をひとりかも寝む

和歌の意味:山鳥のたれさがった尾のように長い長いセンターリサーチの表で足切りが確定して、ひとりさびしく寝ることかなあ 
注:足切りされた夜長に独り寝をする東大受験生(男子)のわびしさを詠んだ歌

これは「共通一次以前」世代の夫に私が「センターリサーチ」の見方をレクチャーしていた時に、夫が詠んだ歌です(本歌取りの技法を用いていることは受験生ならばわかりますよね)。


さて、如何に予備校や塾がお商売で動いているか、つまり「教育産業」なんて看板かけていますが彼らは畢竟「資本主義の論理」で動いているということ、加えてもっともらしく彼らが提示する情報が如何にいい加減であるかということを、東大の足切り点予想を例にして考えてみたいと思います。
先ず、私が必死に(たかだかこの表をブログに貼るのに苦労した、という意味で)いい加減に(予備校が出している数字を転記する作業における熱意という意味で)作った表をご覧ください。
19日の夕方に各予備校がネット上で出していた資料を印刷してその数字を転記したので、間違っていたり、その後訂正が入って変わっていたらご容赦ください。
ていうか、ぶっちゃけそんなに正確さを要求される資料でもないですしね。
それから我が家の特性上(全員文系\( ^o^ )/ )、文系についてのみ考察を加えていくことをお許しください。


代ゼミ:センターリサーチ参加者数 405,249名
 基準点は下限点
 Aライン…合格可能性80%、 Bライン…合格可能性50%、 Cライン…合格可能性25%

学部 日程 センター満点 A判定基準点 B判定基準点 C判定基準点 足切り通過ライン
文科一類 前期 900 882 824 734 725
文科二類 前期 900 873 815 734 729
文科三類 前期 900 869 810 747 743
理科一類 前期 900 864 806 752 747
理科二類 前期 900 860 801 743 738
理科三類 前期 900 887 828 752 747
理三以外 後期 800 780 752 724 720


河合塾:センターリサーチ参加者数 415,789名
各募集単位での合格可能性判定の基準点(下限点)。
 A判定:合格可能性80%以上
 B判定:合格可能性65%
 C判定:合格可能性50%
 D判定:合格可能性35%

学部 日程 センター満点 A判定基準点 B判定基準点 C判定基準点 D判定 足切り通過ライン
文科一類 前期 900 837 819 798 774 701
文科二類 前期 900 828 810 789 765 739
文科三類 前期 900 828 810 792 774 748
理科一類 前期 900 828 810 789 765 735
理科二類 前期 900 819 801 780 756 725
理科三類 前期 900 873 855 834 810 736
理三以外 後期 800 768 752 736 720 714

駿台・ベネッセ:センターリサーチ参加者数 433,039名
A=合格可能性80%以上、B=合格可能性60〜79%以上、C=合格可能性40〜59%

学部 日程 センター満点 A判定基準点 B判定基準点 C判定基準点 D判定 足切り通過ライン
文科一類 前期 900 835 819 795 775 690
文科二類 前期 900 830 810 790 770 730
文科三類 前期 900 825 805 785 765 745
理科一類 前期 900 830 805 780 755 740
理科二類 前期 900 830 805 780 755 705
理科三類 前期 900 850 830 815 800 670
理三以外 後期 715


3社でお見積もりの数字が余りにも違うっ!ことに驚いてしまいます。センターリサーチ参加者数ではそんなに差がないのに、例えば文一のA判定基準点は、最高代ゼミの882点に比べて、最低駿台・ベネッセの835点と実に50点近くの差です。特に問題なのが、足切りボーダーラインで、代ゼミによると文一の足切りボーダーラインは725点なのですが、駿台・ベネッセだと690点。710点前後の受験生はどちらを信じたらよいのでしょうか?他にも3社の差が際立っている点は、各科類の足切りボーダーラインの点数の設定です。点数的には、文一<文二<文三 は同じなのですが、代ゼミだと、「文三 と文一の差=18点」なのですが、駿台・ベネッセだと、「文三と文一の差=55点」です。でも、引っ越し料金のお見積もりじゃないんですから、数字の根拠と受験生に対する説明が欲しいところですね。これでは「決断」の何の役にも立ちません。

(注:駿台・ベネッセのセンターリサーチ個人票裏に書いてある、「勇気ある『決断』が、大いなる成果を生む。」というお節介な言葉。)

それから個々の判定も、素人の私には疑問だらけです。例えば代ゼミは文一のA判定(合格可能性80%)基準を「882点」と出していますが、これって900点満点なのですから6教科7科目で「18点」しか間違えていない超人的点数で得点率98%で誰が何と言おうが「センターの怪人」ならぬモンスターなのですが(余談ですが、リこれにリスニングの点数を足して900点を超えることを『K点越え』というそうですが)、これを「A判定下限点」だと言うのです、代ゼミさん。「80%」という数字が何を示しているかは、代ゼミに限らずどこの予備校も明示してくれてはいません。「882点」の生徒が10人いたらそのうちの8人が二次試験も突破できる確率が80%なのか、過去におけるこの点数と同じポジションの生徒が二次試験で受かっていく確率なのか、この点数の生徒が二次試験当日ノロウイルスにも新型インフルエンザにも罹らず無事二次試験での合格点を上げる確率なのか、二次試験当日駒場の隣の席に可愛い女の子/超イケメン(この言葉はキライです*1)が座って舞い上がって実力が発揮できないことがない確率なのか、全く不明です。真面目に考えても、この点数を110点満点に圧縮したら「107,8点」。さて、A判定下限のセンター素点よりも150点も低いセンター得点「730点」でも文一の足切りは余裕でパスだと思いますが、この場合110点満点に圧縮して89点。たった11点しか違わないのです。しかし代ゼミはセンター730点はC判定(合格可能性25%)以下だとおっしゃるのです。
また、同じ882点をとった場合でも、その高得点が「昨秋以降、二次対策をおざなりにしてセンター対策ばかりやっていた結果の高得点」なのか、「センターだろうが二次だろうがとにかくデキる天才くんの高得点」なのかで、合格可能性は全然違ってくるのではないでしょうか?前者ならば、センター882点でも全然「合格可能生80%」とは言えません。
後期の足切りについてもまた然りです。3社の後期の足切りボーダーライン予想は「714点〜725点/800点満点」ですが、これって今の段階でわかるものなのでしょうか?私の頭で考えても、例えばこれから行われる前期の二次試験の難易度によっても結果が変わってくるのではないか、と思ってしまいますけど。仮に今年の二次試験がとても難しくて、早い時期からセンター対策ばかりやっていて二次対策がおざなりだった生徒には太刀打ちできない難問ばかりだった場合、センターで800点以上の高得点を取ってセンターリサーチでA判B判もらった生徒がバンバンまさかの前期不合格になり、そうなるとそれらの生徒が後期にも出願していれば後期の足切りボーダーラインは上がることは必定。反対に、前期二次試験がセンター後にしゃかりきにやれば間に合うような割に易しい問題揃いで、センター対策を後回しにして二次対策に血道をあげていて結果センターがイマイチの生徒が得意の二次で追い上げることができなかった場合、センター高得点層が順当に合格して抜けていくので、後期のボーダーラインは下がるはずです、説明が最後になってしまいましたが、後期の第一段階合格者(つまり足切りされずに二次試験が受けられる人)からは、前期合格者は自動的に除かれますので。ということは、今この段階で後期の足切りの予想点を出してくることそのものが胡散臭いのみならず、受験生を惑わせているとしか思えないのです。

事程左様にこのセンターリサーチって、少なくとも受験生に安心も決断の根拠も与えないものなのではないでしょうか?

(注:これは代ゼミのセンターリサーチの表紙です。「受験生諸君のご健闘を祈ります。」の後の「沈着・細心・大胆」という言葉は何を意味する?・・・)


さて。
それから話は戻りますが、何故センターの足切り点数が文一<文二<文三なのか、僭越にも考えてみました、市井の一受験生の母として。
普通、こう思いませんか?

「あれ?文科一類、ってのが確か法学部で、官僚や裁判官になりたい人が行くところじゃなかったっけ?でもこの表の中では足切り点が一番低いんじゃない?文科三類ってホリエモンとか高田万由子とかが出たところだったと思うけど、あれこっちの方がかなり足切りの点数が高いけど、覚え間違いだったっけ?」

と思われるのではないでしょうか?いえいえ、間違ってはおりません、それがマトモな感覚です。役にもたたない知識ですが、一応思いっきりざっくりと復習しておくと、東京大学に場合、

文科一類:法学部 
文科二類:経済学部
文科三類:文学部・教育学部

ということになります。そうですね、将来官僚や弁護士、裁判官を目指すはずの人が行く文科一類が文系学部の中で一番足切り点が低いって、どうなんでしょう?っていうか、未来の日本の枠組みを背負って立とうという人間には(その時には人口も減っているでしょうから)出来るだけ優秀な人材を用いたいところですが、大丈夫なのかしら?という疑問も出るでしょう。どう考えても、不思議ですよね、ていうか、実際には今も昔と変わらず文一は最優秀な(あくまでも受験に限ってですけど)受験生が集まっているはずなのです。それは合格者最高点や平均点を見れば、明らかに文一の方が高いことでわかります。では、足切りボーダラインの逆転はどうしてなのでしょうか?

私の仮説:「東大ブランド」のバブル

これは以下の二つの理由があると思われます。

・第一の理由 「『東大合格者◯◯名』が高校や塾や予備校を測るわかりやすい指標になってしまっていること」
ドラゴン桜の影響は絶大で、「東大」は受験界のルイ・ヴィトン的ブランドになりました。腐ってもルイ・ヴィトン、ならぬ、どこの学部でもいいからとにかく「東大」ということが、価値を持つようになってしまったのです。GUCCIFENDILOEWEじゃ駄目なのです、誰でも知っているLOUIS・VUITTONでないと価値をわかってもらえないから!大学名の知識に詳しくない方(「DQN」に代表される方々)にも、「東大」という名前ならわかってもらえる。同じく、ひいおじいちゃんにも、ひいおばあちゃんにも、その他大勢の親戚の皆様にも、「東大」ならば、「それはどこにある大学なのかえ?」と言われずに済みますし。偏差値では僅かな差でも、「京大」「一橋」とでは、大学名の破壊力が違うのです。
文系学部で言うと、国立志望で法学部志望の優秀な受験生の中で、「文一だとちょっと危ない」レベルの受験生は「京都/一橋/大阪(以下、「旧帝大」が続く)の法学部ならば余裕で合格だからそっちを受験」というのが従来の順当な志望の決め方なんですけど(勿論、本当は今でもそれが順当な決め方ですよ!)、学部の志望を変えてでも「文三(合格者最低点も平均点も文一よりはかなり低い)なら東大に行けるかも」ということで「東大」の「文三」を受験する、というケースが増えている気がします。
マスコミ、と言ってもこれは例年2月の末から系列の週刊誌で品なくじゃんじゃん「東大合格者高校別人数速報」みたいなのを出している、普段はもっともらしい教育論を唱えている大新聞数社ですが、ここでも一応科類別合格者も出ていますが、結局はどこの科類とかは関係なく東大合格者合算で高校のランクをつけて、「東大バブル」を煽っているのですよ、全く。
私立の進学校も、上述のマスコミにおける価値観(学部関係なしに、とにかく「東大◯◯名」だけで学校が評価されてしまう)に引きずられずにはいられないでしょう。それぞれの生徒のことを考えた教育を一生懸命実践したところで、(マスコミが代表する)世間に評価されるのは、「東大合格者◯◯名」ですから、ドラゴン桜以降今の日本。東大に合格しそうな学力レベルの生徒が学年で30名いたとして、あなたが仮にその私立学校の校長先生か理事長だったなら、学部なんてどこでもいいから合格しそうなところの東大の学部をその30名全員が受験してくれればよいとは思わないでしょうか?それによって翌年のその学校の偏差値までが影響を受けるのですから。
そして塾や予備校も同様です。中学入試の塾のランクが何故か同じように「開成中◯◯名合格」(日本人はどうもLouis・Vuittonのようにわかりやすいブランドが好きみたいです)で全て測られているのと同様、予備校も「東大◯◯名合格」というのが、次の年のお客様、おっと、生徒集めに大きく影響するので、高校よりも更に何より「東大に何名合格させるか」ということに命懸けてます。だから個々の生徒それぞれの事情、向き不向き、家庭の事情、将来の展望など予備校や塾は知ったこっちゃありません。文一はボーダーだけど文三は通りそうならば文三を勧め、同じく一橋の法学部ならば余裕で合格しそうな生徒にも「東大の文三にチャレンジしてみれば?」と勧めるというものです。これは仕方ありませんね、塾や予備校はお商売なのですから。例えば、塾・予備校が合併や統合を進めている激戦地の首都圏では、新興の塾や予備校が「◯年で東大合格者を◯◯名に伸ばします」と営業のためなのか無謀な公約(?)を広告しているのが見受けられますし、現に今回センターが終わってから一体幾つの予備校・塾から「センターの自己採点を教えてください」という電話が娘にかかってきたことか。その中には、もうとっくに辞めてしまった塾とか、数回「お試し講習」に行っただけの塾とか、季節講習を取っただけの塾とかもあるのですからね。とにかく塾も予備校も成り振り構わず、進学校に通っている在籍生&かつての在籍生に電話をかけまくっているとしか思えません。そしてまさにセールスの電話と同じで、その中で東大合格者が出たら「合格者一名」としてその塾にカウントされてしまうのでしょう。

・そして第二の理由は、東京大学の進学振り分け制度」
この本来の趣旨は、「入学後の進路選択の幅を広げる」(←デジタルパンフレットの募集要項で見られます)ということで本来ならばよくできた制度だと思いますが、受験生にかかるとこれが誘惑の魔法の言葉に聞こえるようです。これも思いっきりざっくり言うと、本当は文一や文二志望だったのだけど、センターが振るわず(といっても世間的に見れば大した高得点なのですが、予備校の資料にビビってしまってそう思い込んでいることが多い)、かと言って今更他の大学に志望を変えられない→そうだ!文三に入ってから、勉強頑張って進学振り分けで法学部に行けばいいんだ!それに教養学部に行って国際関係とかに行く手もあるし!と思う、受験を前にして不安になった本来文一・文二受験生が文三に出願するという流れがあるのでは?という想像。そしてこのことは、大学で「これ」を研究しようとしかと思い定めて文三を受験しようと思っている、本来の文三志望生への「足切り点高騰」のとばっちり、という形になってしまうのでしょう。この「進学振り分け」の制度の趣旨は全く違うものでしょうし、大学に入学してからも同級生(しかも東大生の)と成績を競っていくのは厳しいことなのですけどね。



このように「東大ブランド」だけが上がり、それが「とにかく東大に入れば学部はどこでもよい、一番入りやすそうなところ=文三に出願する(但し文系仕様\( ^o^ )/)」ということに繋がっているのではないかと思うわけで、それが歪んだバブルであることを予備校が一番良く知っているはずだと思うのですけど。予備校が出した文一と文三足切り予想点の差( 文一<文三 )を見て振り回される受験生を思うと、胸が痛むと同時に、何故こうなった?と思わずにはいられません。

本当にこの予備校のセンターリサーチって必要なのでしょうか?
大学入試センターが中間発表する今年の平均点と、各大学の過去数年の学部別合格者平均点・最高点・最低点・足切り最低点のデータがあれば、出願するにあたっての情報としては事足りるのではないでしょうか?
いくら無意味な数字を並べられても、最終的にどこに出願するかしないかは「どういう考え方で決断するか?」にかかっているのですし、それこそは予備校や塾は決して教えてくれないもので、そもそも彼らにはそれを教える能力などありません。今こそ、学校の先生に相談するべきなのです、先生の出番です!ただ共通一次試験実施以降、予備校からの情報に依存してきた学校に、自信を以て教え子に進路を指し示すことができる先生がどれほど残っているかも疑問なのですが、悲しいことに。



以上が不肖私の「センターリサーチ」リサーチでした。