東京大学の推薦入試の詳細を見て感じた8つの疑問

東京大学平成28年度の入試から行う推薦入試の詳細が発表になりました。

平成28年度推薦入試について(予告)
今までも、メインストリームの前期入試の他に、後期入試というものがありました。
後期入試は、科目や配点の移り変わりもあり、「英語読解力やら数学的解析力やら論述力を問う」などと色々と建前はつけていましたが、一貫して「前期入試でまさかの不合格だった受験生の救済」というものでした。
後期試験も前期試験同様、センター試験の点数で「足切り」があるわけですし、その足切り最低点は得点率9割に迫るものです。
それが、今回の入試改革である推薦入試は、前期試験の遥か前、センター試験の遥か前に行われます。
つまり、言葉は悪いですが、「青田刈り」ですね。
東京大学、お前もか、という感ありです。
しかし、この青田刈り、いえ、推薦入試ですが、東京大学側の意向が実現するのかどうか、私の疑問を書いてみます。

一つ目の疑問。

欧米の有名大学へ合格できる高校生のおこぼれを集めることになるのでは?
今回の推薦入試で、推薦に際して求めている書類等は、学部によって違いますが、大方の学部で提示しているのは、
数学オリンピック、科学オリンピック等々の大会での入賞歴、TOEFLやIELTSのスコア
です。
東京大学、間違っていると思います。わかっていないと思います。
TOEFL100点、IELTS7点(←薬学部、医学部医学科、医学部健康総合科学科が示しているスコア)のスコア所持者で、数学オリンピックや科学オリンピック入賞者って、ハーバードやイェールに十分アプライできる高校生なんですよ?
彼らが、好き好んで東大の推薦入試を受けるでしょうか?それも薬学部や健康総合科学科?
被ってしまうんですよ、欲しい高校生が。
しかも、TOEFL100点IELTS 7点やら数学or科学オリンピック入賞やら、という素晴らしい結果を高校生の間に持達成した日本人高校生は、そんなにいない=希少だと思われるのですが、推薦入試にこういう条件を挙げることによって、却ってそういう希少な高校生が海外の有名大学への進学を考えるきっかけになってしまい、結果的に東京大学は「欲しい高校生」を逃してしまうことになるのでは?と思いますね。
東大は、この推薦入試を導入するにあたって、ハーバードやイェールのアドミッションのスケジュールを考慮したのでしょうかね。
この東大の推薦入試には、

・学校長が責任をもって推薦できる者
・合格した場合、必ず入学することを確約できる者
・推薦入試の書類審査と面接の後に行われるセンター試験で、「概ね8割」以上の得点をとること

という「縛り」が付いています。
3番目の条件などは、何の為の推薦入試?と思ってしまいますが、それは後述するとして、注目すべきは2番目の条件です。
アメリカの名門大学の出願には、「Early Action」というものがあって、各大学によって少しずつ条件は異なりますが、例えばハーバードやイェール大学だと、11月1日が締切で、それぞれの大学へ「専願」で出願できます。
「専願」ですから、一般の出願よりは有利だと言われているのですが(それでも競争率はもの凄く高い)、それの合否の通知は12月半ばに来ます。
ハーバードとイェールのサイトをちょろっと見た限りですが、この2校は、「専願」の中には、「アメリカ以外の国での出願は含まない」となっています。
つまり、ハーバードかイェールに「専願」で出願して、アメリカ以外の国である日本の東京大学の推薦入試に出願することは可能なのです。
東京大学側には、出願時の制限はないですからね。
ということは、こういうことが可能になります。

11月1日までにハーバード、イェールその他の海外有名大学に、「Early Action 」で専願出願

11月上旬 東京大学の推薦入試に出願

12月半ばに、ハーバード、イェールその他の大学から合格通知を貰う

東京大学の推薦入試を辞退する

東大の推薦入試の最終合格者の発表は2月なので、合否が決まる遥か前の12月半ばに辞退しても、「合格したら、必ず入学を確約できる者」という条件には反しませんよね。
まだ合格していないんですから。
困った立場に立たされるのは、各高校の校長先生でしょう。
他の大学の推薦入試でも言われることですが、合格が決まってから辞退したりすると、「来年後輩が受験する時に影響が出る」「自分さえ良ければいいのか?」とか、如何にも日本らしい浪花節で脅されたりするのですが、この東大の推薦入試については、合格が決まる前なんですし、論理的にはOKなことだと思います。
また、開学以来初の東大合格者を目指す高校ならともかく、東大合格者数番付上位10位に載るような高校だと、校長先生の立場からすると逆に、推薦入試で一人合格者を稼いでも仕方ないわけで、寧ろ海外有名大学に合格する可能性が高い生徒には、東大の推薦入試など勧めずに、第一希望を海外有名大学にするように指導するでしょう。
推薦するとしたら、「海外有名大学には行ける実力はないけど、東大の推薦入試には引っかかるかも」という生徒になるのではないかと思われます。
生徒の立場に立ってみても、これから海外の大学に行こうとする生徒が、浪花節のような学校の都合に縛られていてどうするのか?後輩だろうが、校長先生の立場だろうが、蹴散らしてチャンスを掴んでこそ、「グローバル人材」というものです。
ハーバードやらイェールやらに入学してから彼らのライバルになる、インドやバングラデシュからアメリカの有名大学に進学してくる生徒は、もっともっと多くの同級生を出し抜き蹴散らして、入学を勝ち取ってくるのですから。
つまり。
東大の推薦入試は、海外有名大学の滑り止めになってしまうのでは?
もしくは、
海外有名大学に合格する実績や語学力はないけど、東大の推薦入試なら何とか合格する、という生徒を集めるだけのものになるのでは?
という恐れがあるのです。
これは、この推薦入試に、TOEFLやら科学オリンピックの入賞歴やら、という条件を付けたことで、東大が墓穴を掘ってしまったからなのです。
本当の意味で優秀な高校生を青田刈りしたいのならば、各予備校がやっている、東大オープンやら東大実践模試で、学年に拘らず「総合1位」をとった高校生にすべきでしたね。
高校2年生の夏や秋の模試でもOK、という条件にしたら、もっとgap yearも有効に使えるかもしれないのですけどね。
・・・本気になさる方がいるとマズいので予め申し上げておきますが、上3行は「冗談」(それもたちの悪い)です・・・。



そして2つ目は素朴な疑問。

東京大学の看板とも言える、前期教養との整合性は?
そもそも東大が学部ではなく、科類で入学者を募集するのは、大学に入学した後、前期教養の間に幅広い分野の知見に触れることによって進路を決めることが重要である、ということなんでしょう(実際は、点数による振り分けであっても)?
入学前に学部を決めるなんて、前期教養の意義とは何ぞや?になりませんか?
「推薦入学者に対するカリキュラム・ポリシー及び入学後の措置」というのを見ていると、前期課程から「専門科目の早期学習」とか「早期受講」という文字が見られますが、大学入学後の2年間はみっちり「教養課程」で学ぶことが、東京大学のウリじゃなかったんでしょうか?
同じ大学で、ペーパーテストの入試で合格した学生と、推薦入試で合格した学生とでは、施す教育のポリシーが違うのでしょうか?
いえいえ、最初にリンクを貼った推薦入試のアドミッション・ポリシーには何故か

この教養教育において、どの専門分野でも必要とされる基礎的な知識と学術的な方法が身につくとともに、自分の進むべき専門分野が何であるのかを見極める力が養われるはずです。

と、まるで入学前から学部別に選考する推薦入試とは真逆のことが書いてあるのです。
つまり。
この推薦入試は、前期教養の意義とは相反するもの、なのです。



3つ目は、推薦入試で入学後に起こる問題

推薦入学した学生は、転部や専攻を変えることが出来るのか?
2つ目の疑問と関連しますが、各学部への推薦入試合格者は、東京大学が誇る駒場の前期教養の授業において、運命的出会い(学問上の、ですよ)があっても、入学後は専門を変えることができないのでしょうか?
前期教養の意義を考えると、例え推薦入試で入学した学生であっても、「前期教養を学んでいる間に気持ちが変わって専門を変えて転部したい」というのならば、認めないわけにはいかないですよね?
しかし、そうなると、各学部の中で比較的推薦入試が簡単そうな学部を選んで入学し、入学後に「気持ちが変わって」医学部医学科に進学することも可能なんでしょうか?
↑ もしこういうことが可能になるとしたら(前期教養の建前から言って可能なはず)、予備校や塾など受験界隈が騒然とすることでしょう。
つまり。
今までの東大の教育に、この推薦入試は上手く練り込めていないのです。
推薦入試を今後も押し進めていくのならば、前期教養やら進振りやらが変わらなくてはなりません。
逆に今までの東大の教育を堅持するのならば、そもそも推薦入試は不整合なのです。
まあ、そんなことよりも、平成28年度から実際に推薦入試を経た学生が入学してくるのならば、少なくとも彼らに対しては責任を持って受け入れ態勢を整えておくべきでしょう。
前述のように推薦入学者の大学入学後の扱いについてもしっかり定めておかないと、現状の後期入試入学者に対してですら、根拠のない優越感を持っているらしい前期入試入学者から不満、批判が巻き起こり、この推薦入試の制度自体が早々に崩壊してしまうかもしれません。



4つ目の疑問

東大は優秀な学生を集める本気が本当にあるのか?
というのは。
この推薦入試には、変な「縛り」がもう一つあります。
それぞれの高校で、校長先生が推薦できる生徒は、「男女各1人、合計2人まで」というものです。
これには補足があり、「男女いずれのみしか在籍しない学校においては、推薦できる人数は1人まで」となっています。
この奇妙な、一見「男女平等」風の「縛り」。
如何にも東大らしい、お役所的考えですね。
考え方が一回り古いのではありませんかね?
この「縛り」は、「男女各1名にして、女子生徒が推薦される機会を男子と均等にして、東京大学が女性活用に対して積極的な姿勢を見せよう」という浅知恵、失礼、お考えからきたのでしょう。
これこそが、男尊女卑なんです、なんちゃって男女平等なんです。
「別学の高校なら1人しか推薦されないのに、共学の高校に限って2名推薦される」というのもとても奇妙なことですが、東大が考えていることはこうです。
「共学の高校からの推薦枠は、能力的には当然(と・う・ぜ・ん)男子2人になるところだけど、女子も一人入れてあげる、だって東大は先進的な大学だから。」
いや〜、まだ何気にこういう考えの方がいるんですね、集団で。
「共学の高校で、推薦されるべき優秀な高校生が女子2人の場合、女子2人が推薦される機会を奪う可能性がある
ということには思いが至らないんでしょうかね?
正しい人数設定は「各学校1人」でしょう、天下の東大なんですから、せめて学校一の秀才を集めなくては!
一番じゃないと駄目なんですよ、二番では駄目なんです、東大ですもの!
まあ、そもそもこの推薦入試には単純な不平等があるんですよ、首都圏には一学年の生徒数が500人近い男子校があったり、地方の共学の県立高校で一学年80名というところもありますから、先ず高校から推薦される時点で公平性という点では色々と問題があるのに、「男女各1人、合計2人まで」と、そこだけ律儀に数だけ合わせても駄目なんですってば。
人数だけ合わせても、東大の推薦入試には小保方さんは入学してきませんよ。
つまり。
東大は、優秀な高校生を獲得したいという本気度がまだ不十分である、のです。
男子であろうが女子であろうが、一人でも多く、学校一の秀才を全国からかき集める、という気迫がまるで感じられません。



疑問5つ目。

推薦で入学して、何か「お得」なことがあるのか?
ここで私が言う「お得」とは、極めて下世話な話で、授業料免除、とか、入学金半額、とか、設備が整って大学にも近い寮に優先的に入寮できる、とかそういうことですが、そういう特典は何もないようですね。
東大側は、「前期教養の間から専門科目が学べる」とか、「大学院の科目を早く受講できる」とか、「留学を奨励する」とか、を、高校生が有難がる「お得」なものだと上から目線で考えているかもしれませんが、これって本当に今の高校生、大学生にとって「お得」なんでしょうか?
これだと、例えば早稲田や慶應が同じ時期に同じ条件で推薦入試をやって、合格した優秀な高校生には、入学金・授業料免除、生活費支給、学生寮無償、とやったら、地方の学生ならば、東大よりもそちらを選ぶんじゃないでしょうか?
早稲田と慶應、私立大学の強みを生かして優秀な高校生を入学させるチャンスです。
ましてや、海外の有名大学が繰り出してくる豪華な奨学金に太刀打ちなんてできないじゃないですか。
最初に言ったように、この東大の推薦入試に合格する可能性がある高校生と、海外有名大学に合格する高校生は、まるで被っているんですよ。
大学の世界ランキング、ネームバリュー、教育環境、研究水準、学生寮などの設備、どれをとっても、東大はハーバードやイェールだけでなく、アメリカの数多の有名大学にはかないません。
それだけでも東大はハンディがあるのに、何も「お得」なことがなければ、例えばハーバードやイェールにも自費で留学させられるくらい経済的に恵まれた家庭の高校生で、尚且つ、TOEFL100点、科学オリンピック入賞歴がある都内の私立中高一貫校に通う高校生は、最初からこの東大の推薦入試に出願するメリットは全くなく、こういう高校生を海外の有名大学にとられてしまうことになるでしょう。
逆に、海外有名大学に行ける実力があるけれども、経済的にそれが出来ないという生徒をかき集めなくてはならないのです、この推薦入試で。
それにしては、いかにもショボい「お得」感です。



疑問6つ目。

学生を育てるのが大学ではないのか?
何が悲しくて、「留学経験」とか「TOEFL」や「IELTS」とかを、東大はこの推薦入試では求めるのでしょうか?
経済的に豊かでない家庭からでは、高校生で留学など無理でしょうし、TOEFLは1回受験するのに225ドルかかるテストであること、IELTSはそれ以上の受験料が必要でしかも限られた都市でしか受験できないこと、それを東大は知っているのか?
皆様の東京大学、明治以来青雲の志を抱いた学生、仮に貧農の生まれであっても優秀でさえあれば受け容れて、国家のためになる人材を育ててきた東京大学ではなかったのか?
もう既に出来上がっている高校生、留学経験があったり、海外で暮らした経験があり、高校生でTOEFL100点のスコアを取れるような、しかも数学オリンピックや科学オリンピックで既にオフィシャルに才能が認められている高校生を、東大が集めてどうするのですか?
既に何らかのお墨付きを持っている高校生を推薦入試でとるのならば、早稲田や慶應もとっくにやっている訳で、それと同じ事を東大がする意味はあるのでしょうか?
東大が探してくるべきなのは、
将来外交官になるのを夢見ているけれども、TOEFLが行われている会場に行くのに半日かかるド田舎の秀才高校生で、海外経験どころか生まれてこの方「外人」に一度も会ったことがなく、インターネットで英語勉強しました、という高校生であったり、
同じくド田舎の天才高校生で、田舎すぎて数学オリンピックや科学オリンピックの存在さえ知らなかったけれど、理数的思考力はずば抜けたものがある、という高校生であったり、なのでは?
東大のアドミッション・オフィスが、日本津々浦々、地方の高校を回り、校長先生に、こういう高校生を「どうぞ東大に推薦してください」と頭を下げてお願いするべきなんじゃないでしょうか?
映画「マイフェアレディ」のヒギンズ教授のように、訛り丸出しのイライザのような、地方に埋もれている天才や秀才を発掘して、教育を施すだけではなく、エリートとしての身の処し方、振る舞い方までも、東大の教育の中で身につけさせ、イライザを見事社交界にデビューさせたように、グローバルに活躍する人材に育て上げる、という気概は、東京大学には最早ないのでしょうか?



疑問7つ目

何故、運動枠を作らなかったのか?
この推薦入試は、「学部学生の多様性を促進し、それによって学部教育の更なる活性化を測ることに主眼を置いて実施します」とありますが、推薦される要件として、何故、数学オリンピックや科学オリンピックの入賞経験はOKで、「甲子園出場経験」は駄目(とはっきりは書いていないけど)なんでしょうか?
例えば「甲子園出場経験」がある高校生で、出身高校の校長先生の推薦があって面接を突破すれば、入学させればいいではありませんか?
そういう学生が野球部に入れば、目下連敗続きの東大野球部が悲願の一勝をあげることができるかもしれません。
何より、それが「秋入学」やら「グローバル化」だのと、バタバタもがくよりも、効果的な東大起死回生への突破口になりはしませんか?
野球枠で学校長から推薦される高校生は、勿論地方の県立高校もあるでしょうが、意外に、早実とか慶應塾高からも推薦入試を受ける野球部員が出てくるかもしれません。
今まで、特に首都圏では、中学、高校の段階で、優秀な生徒の一部分は、早稲田や慶應の付属校に流れてしまっていましたが、そういう付属校から優秀な高校生を東大に呼び込む端緒になりはしないでしょうか。
推薦入試の運動枠で大学付属校から東大に入学する学生が出れば、その他の推薦入試でも、一般入試でも、という流れもできるかもしれません。
受験マシーンのような中高一貫校出身者とはまた違った優秀な学生を入学させることになり、ひいては、「多様性の促進」と「更なる活性化」に繋がりますよ。
何より、東大野球部が一勝すれば、いやいや、関西と違ってせっかくの入れ替えなしの東京六大学リーグにいるのですから、東大がリーグ優勝すれば、これは盛り上がりますよ。
在校生だけでなく、卒業生も、そして東大を目指す受験生も。
プライスレスな宣伝効果になります、ノーベル賞受賞者を出すよりもインパクトが大きいかも。
素人のオバサンである私でも、これくらい考えつくのに、では何故「運動枠」がないのか?
それはやはり突き詰めると、東大にも東大生にも、「ペーパーテストで優秀であることが一番の価値」という拭おうにも拭えない強固な価値観があるからだと思います。
どんなに「多様性」とか言っても、所詮この価値観が東大内部にある限り、推薦入試は失敗すると思います。
この推薦入試を成功させるためには、推薦入試で入学させた学生を、大学が肝を据えて育てる覚悟が不可欠だと思いますが、運動枠がないということは、結局は腰が引けているのではないでしょうか。
「多様性」と言っても、それはペーパーテストで入学した秀才というメインディッシュの添え物であるパセリでしかないのならば、この制度の将来はないでしょう。



疑問7つで終われば数がよかったのですが、仕方なく疑問8つ目

受験生である高校生にとっては、これが一番引っかかるところだと思いますが、
書類審査を通過し面接で上手くいった感触があっても、その後のセンター試験で8割取らないと落とされる
というシステムになっているのは、何故なのでしょう?
これでは、「多様性」も何も、形ばかりの書類審査と面接ではないでしょうか、結局はペーパーテスト重視?みたいな。
従来から私立大学の推薦入試でも、「早い時期に推薦入試の合格を出すと、その後学生が勉強しなくなり、学力が低下する」と言われていますが、東大も同様に、早い時期に推薦入試の合格を出すと、その学生が遊んでしまうのではないかと疑っているんでしょうか。
それとも、自らが書類審査して面接して合格を出した高校生が、センター試験で8割取れなかったら、東大自らの「選抜眼」よりもセンターの点数を優先する、ということなのでしょうか?
どちらにしても、情けないというか、悲しい話です。
推薦要件にTOEFLなどを課して合格させるのならば、さっさと12月の半ばに最終合格者を発表し、「入学式までは海外でボランティアをするなり、何でも好きな事をやってね。」くらいやったらどうですか?
東大に推薦入試で合格すべき優秀な高校生が、センター当日まさかのインフルエンザで追試験はノロウイルスとかで、8割取れなかったら、「はい、さようなら」なんでしょうかね。






今までは、入試制度が変わる度に振り回されるのは、受験生の側でした。
しかし、今回の東京大学の推薦入試についての発表を見るに、この推薦入試は東大側が受験生に見限られるものだと思いました。
東京大学が欲しいと思い描いている高校生は、この入試制度を利用しないでしょう。
却って腹を据えて海外の大学に行くことを真剣に考え始めるのではないかと思いました。
超高校級に優秀な高校生にそう決意させるのは、この推薦入試の概要に透けて見える東京大学の真意そのものが、そうさせるのです。
「世界中から、日本中から、一人でも多く、将来リーダーになるべき優秀な高校生を集めよう」という本気が見られないのです、この推薦入試の内容は。
受験生でなくとも、些かショックでもあります、「秋入学」だのグローバル化」だの言っていたけど、東大の本気はこの程度なのか!?というショック。
結局、何だかんだ言っても東大は、今まで通り、センター試験でミスをせずに高得点、且つ、高校1年から予備校の東大受験生向けの授業で鍛えて二次試験をそつなくこなした、「ペーパーテストの鉄人」が欲しいのです。
大学側はそういうペーパーテストの鉄人が、日本の優秀なリーダーになるといまだに考えており、当のペーパーテストの鉄人たちも、「東大合格」というトロフィーだけで、就活も世渡りもやっていけるといまだに思っています。
ペーパーテストの鉄人たちもまた、大学から大事にされていないことに気がついてほしいものです。
ペーパーテストの鉄人たちを東大の教育で鍛え上げて、世界に出て行けるリーダーを作る気はなさそうです、だって、早期の専門受講やら留学やらは、推薦入試で募集する、既にスコアや評価を持っている学生専用のようですから。
推薦入試で入学させる学生に対しても、東大は、大した特典も与えないケチっぷりの上に、転部の自由も許さないつもりのようですし、推薦入試で得た多様多彩な人材で大学を改革する、という考えさえもさらさらなく、お皿の上のパセリ扱い同然です。
もう一つだけ言っておきます。
平成28年度の入学試験が終わって、初夏の風が吹く頃、各高校がホームページの「進学状況」に、卒業したばかりの生徒の大学進学状況をアップするのですが、東大の推薦入試の責任者は、片っ端からチェックしてみるべきだと思います。
先ずは東大合格者数番付上位の進学校で、「海外の大学」に進学した人数がどれくらいいるのか?
今でも、灘やら開成やら桜蔭やら筑駒やら学附やらから、海外の有名大学に進学していますよね。
もしそれが加速していたら、東大の推薦入試は失敗、ということになるでしょう。
だって、海外の有名大学に進学するような高校生こそが、東大が欲しい人材なんでしょ?
逃げられた、ということですものね。
冗談抜きに「大学教育の国内空洞化」の流れを、東大の推薦入試が作り出してしまわないように願うばかりです。