Schönes Mai(美しき5月)とドイツ人の顔についての考察


ドイツ語には「Schönes Mai」(美しき5月)という言葉があって、私はずっとそれはメンデルスゾーンの歌曲の中にあったのだと思い込んでいたのだけど、メンデルスゾーンの歌曲をいくら探しても(Google様の協力のもと)無いと思っていたら、記憶違いで、シューマンの歌曲であり、元の詩はハイネ *1だった。
3月以降不順な天候が続いた後のこのゴールデンウィークのお天気は、四季温暖な国の日本人でさえ心が躍るほどの爽やかさであるけれども、長い長い冬の末にやっと迎えるドイツの春はまた格別、である。
ドイツの春を語るには、先ず夏の終わりから始めなくては。日本人の感覚だとはっきり言って、ドイツの8月は「秋」である。「夏」である7月とは気温も景色もガラリと変わる。8月に入ると下り坂を転げ落ちるように季節が冬へと転がり始める。8月の終わりには暖房を入れる日もちらほら。9月、10月、と暖かい日もあるけれども、雨は多く太陽の出番はぐぐっと減る。10月の終わりには「もうすっかり冬」である。
駐在員の間で言われているのは、ドイツに転勤になって奥様をはじめ家族を呼び寄せる時に、「秋に家族をドイツに呼び寄せてはいけない。」のだそうだ。何故なら、それから暗くて長い冬が始まる訳で、慣れない外国暮らしで「鬱」になったり耐えきれずに日本に帰ってしまう奥様もいるから。らしいのだけれど、それには激しく納得してしまう、ほどのドイツの冬の暗鬱さ。逆に5月など最高の季節に呼び寄せると、どんなに冬が暗くても「あの」美しい5月が巡ってくるのだから、と耐えられる、と。まあ、とにかく冬は暗い、寒い。「美しい5月」を説明するために「冬」を語っている今でさえ、思い出したくないくらい、暗い。だから、春が来た時の歓びは、殆ど動物的本能で喜んでしまうくらいの嬉しさなのである。

ドイツの春は、いきなり来る。日本みたいに、「三寒四温」とか「梅の次が桃で、桃の次が桜」という風に、奥ゆかしくしずしず季節がやってこない。
ハイッ、今日から「春」です!
という感じで、何の前触れもなくいきなりクロッカスや水仙が道ばたのあちこち、庭のあちこち、街のあちこちで咲き始めるのである、本当に「いきなり」!その辺もドイツらしい(?)と言えば言えなくもないのだけれど、冬の間暗かった世界が一挙に明るくなる。街の至るところで、いきなりクロッカスや水仙が「腫れ物出物ところ構わず」といった感じで花を咲かせるのである。




本当に世界が一気に明るくなる、ドイツの春なのである。

夫の会社のドイツ人女性に聞いたことがある。
「あのクロッカスや水仙は、誰かが植えたのか?」
と。意外なことに答えは、
「Nein, nur kommt !」
だった。「kommt」というのは、英語の「come」と同じ、つまりクロッカスも水仙も植えたものではなく、「come」した、ということ!
大いに眉唾な答えであるけれども、いきなり咲き始めるその感じはまさに「kommt !」

ところで突然ですが、ドイツ人の子供というのは世界中で一番可愛くて愛くるしいのではないかと私は思う。世界国別可愛い子供ランキングでは絶対にドイツは1位!である。この場合の「子供」、とは、よちよち歩きの2歳くらいから(ドイツ人の赤ん坊は、髪の毛が全くなくて禿げちゃびんで可愛くないのである)10歳くらいまで、だろうか。ドイツ人の子供は、金髪(それもくりくりの巻き毛)の子供が多く、透き通るようなほっぺたに青いガラス玉のような目、また手足はぷくぷくと肉付きがよく(ソーゼージとチーズとじゃがいもをたらふく食べるせいに違いない)、「食べちゃいたい!」くらい可愛い。イメージで言うと、教会などにあるラファイエロなんかの絵画に描かれている「天使」!



↑こんな感じです、ドイツの子供たち。

では「天使」が成人した大人のドイツ人男女はどうだろうか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・「天使」でないことは確か、ではないでしょうか、これは私の偏見ではなく、世間一般的な評価として。
最近流行っているマンガ「テルマエ・ロマエ*2では、「平たい顔族」と言われている日本人から言わせてもらうと、成人ドイツ人は皆剣呑な顔をしている。「剣呑」とごまかしてしまったけれども、子供にもわかる単語を使えば、「コワい顔」をしている。ラテンのフランス人、イタリア人、スペイン人とは比べ物にならないくらい剣呑だし、偏屈なイギリス人でもドイツ人に比べれば遥かにフレンドリーな顔付きかもしれない。ドイツ人は男性も女性も年齢を重ねるほど目は深く落ち込み(対、平たい顔族)、その反対に鼻は高く鋭く尖り(対、平たい顔族)、皮膚はかさついて艶がなくなるのである。一度地下鉄の4人掛けの向かい合った座席で、私の目の前の席は、ヘンゼルとグレーテル」の魔法使いのおばあさん、横には、「白雪姫」のリンゴ売りのおばあさん、そして斜め前にはメフィストフェレス、というメンバーだったことがあるのだが、「平たい顔族」の私は内心、「いつ釜茹でになるのか?(オーブンで焼かれる?)」、「いつ毒リンゴを売りつけられるのか?」、「いつ地獄への招待状を渡されるのか?」とドキドキであった。
画像を示して説明する勇気は私にはないので、テレビでドイツ人の政治家とかが出ていたら、見てみてください、私が言わんとすることが理解して頂けるものと確信しております。

あんなにカワイい、赤ん坊だったドイツ人なのに!
世界一カワイい赤ちゃん大会チャンピオンだったドイツ人なのに!

どうして大人になったらコワい顔になってしまうの?
(↑素朴な疑問です、他意はありません)

そこで東洋の「平たい顔族」である私が立てた大胆な仮説:

ドイツ人は世界一可愛く生まれるのだが、冬の厳しさによって、ひと冬ひと冬と顔が剣呑な顔に変わっていき、大人になる頃には、立派なドイツ人の顔になる。

だって、8月から暗い季節が始まり、翌年イースターが終わる4月上旬までそれが続くのだから。その間ずっと歯を食いしばって寒さに負けず鬱病寸前になりながら耐え抜いているわけで、1年12ヶ月のうち8ヶ月もそんな状態で生き抜いていれば、可愛かった天使が、剣呑な顔に段々変化していっても不思議はない。だから冬を重ねた回数ほど、可愛らしさが失われていくのだろう。

・・・・・・???ちょっと待って。

かく言う私もドイツ滞在3年の間に、冬を経験すること3回。いや、本当に冬は辛かった!「明るい春は永遠に来ないのではないか?」と最初の年は思ってしまったほど。きっと剣呑な顔して暮らしていたのだろう。私の顔にも、3年分だけ「ドイツの冬」が刻まれているのかもしれない。

とにかく日本もドイツも今日は「Schönes Mai」(美しき5月)なのであった。

*1:参照:Im wunderschönen Monat Mai Heinrich Heine: Im wunderschönen Monat Mai, als alle Knospen sprangen,da ist in meinem Herzendie Liebe aufgegangen. Im wunderschönen Monat Mai, als alle Vögel sangen, da hab' ich ihr gestanden da mein Sehnen und Verlangen.

*2:

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

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テルマエ・ロマエ II (ビームコミックス)

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テルマエ・ロマエ III (ビームコミックス)

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