反日デモの長い夏が終わって ③ 次の世代には隣国の言語を学ぶ選択肢を


反日デモの長い夏が終わって ① 鬱々としてしまうのは 
反日デモの長い夏が終わって ② そもそもこんな展開になったのは




韓国にしろ中国にしろ隣国から憎悪されている日本という国を次の世代に残すことになるとは、全く鬱々としてしまいますが、一人の平均的(?)日本人として考えてしまったことがあります。

8月のことですが、
李明博大統領は、天皇陛下訪韓に関する発言をした時に、実は『日王は韓国民に心から土下座したいのなら来い、重罪人に相応しく手足を縛って頭を踏んで地面に擦り付けて謝らせてやる 重罪人が土下座もしない、言葉で謝るだけならふざけた話しだ、そんな馬鹿な話しは通用しない、それなら入国は許さんぞ。』というもっと酷い言い方をしていた。」
という情報がネット上で飛び交いました。あっと言う間にTwitterでも広まりました*1。ところが、拡散している人たちも、ソースであるとされるソウル日報の記事を「自分で韓国語の原文を読んで確かめた」わけではないようなんですね。私もソウル日報のリンク*2までは行きましたが、勿論私はハングルが読めないので、魚拓に何が書いてあるかは全く分からない訳です。前掲の「発言の直訳」とされているものが、一語一句同じ文言で拡散しているところを見ると、全てコピペだと思われます。全く全部読むのが疲れるほどの、Twitter 上の議論なのですが、根拠がないのに(自分が実際に読んで確かめたわけでもないのに)反韓感情に溢れていることに驚きます。
これって、韓国語を読めて、また韓国語の言い回しのニュアンスを即座にネット上で解説してくれる人がいれば、「言った/言わない」で議論することもないのに、何故無益で根拠のない感情論だけが拡散していくのでしょう。


また、激しさを極めた中国の反日デモですが、映像や画像で沢山のプラカードを見ました。日本語の一部になっている漢字で書かれているのですから意味が理解できるものもありますが、簡体字が混じっているものは全くわかりません。中国語の基礎的な文法も知らないので、辞書があっても調べることもできないでしょう。暴徒がテレビカメラに向かって何か叫んでいる内容もわかりません。勿論ネットで中国の人たちの意見を読んで知ることもできません。


隣国の言語なのですから、例え自分が読めなくても、家族や友人を見回して韓国語や中国語ができる人がいてもおかしくないはずなのに、私の場合だと、韓国語ができる知り合いはいなくて、中国語にしても大学で第二外国語で中国語を学んでいる娘だけ。一年半やって中国語の必修単位は取り終わっている彼女の実力がどれくらいなのか、私には見当がつきませんが、英語で言うと中一で習い始めた英語の中三レベルには達していない感じです。勿論親である私の世代では、当時大学の第二外国語は大抵の場合フランス語かドイツ語の事実上二択であったことを考えると、時代の流れを感じはするのですが、でも隣国の言葉なのですから、「第二外国語」のままでこの先よいのでしょうか?今のままだと、何年経ってもせいぜい「『第二外国語』で1年半やった」程度の語学力を持った日本人が増えるだけです。それは、第二外国語でフランス語やドイツ語をやった人が大学卒業後は殆どきれいに忘れてしまうのと同じことになるでしょう。


隣国同士が、戦ったり、占領したりされたり、という関係はヨーロッパでも勿論繰り返されているのですが、ドイツに駐在している時に知り合ったご夫婦(ドイツ人)にこういう方がいました。奥様もご主人も大学卒、ご主人は何と工学系のDoctor(博士)であり、肩書き至上主義のドイツでは勿論高学歴の方々です。ところが、そのご夫婦がご主人の学会出席を兼ねてアメリカへUrlaub(休暇) に出かけることになり、東洋の彼方から来ている私に聞くのです、何と「英語の勉強法を教えてほしい」と。英語はサバイバルレベル(死なない程度)を自認する私ですが、私の経験では、ドイツ人はどうも美しい誤解をしているようで、

日本人はドイツ語が出来ないからドイツに来てドイツ語を一生懸命勉強する(←それでもなかなか喋れるようになるものではありませんが)、確かに彼ら日本人はドイツ語は下手くそである、しかし彼らは英語はできるに違いない、英語くらいはできるに違いない、大学卒の人間ならば。

と思っている節があるのですが、ほっんと美し過ぎる誤解です。しかし私も疑問を持ちました。ドイツで出会った高学歴と思われる人々、お医者さんとか歯医者さんとかは、日本人感覚だと「ネイティブ並みにぺらぺら」英語を喋りますから、何故そのインテリのご夫婦が英語を喋れないのか全くわかりません。「ギムナジウムや大学で、英語を学ばなかったのか?」と聞いてみると、何とご夫婦とも、外国語は「オランダ語」を選択していたのだそうです。「オランダ語は普通に話せるし、読み書きできる。オランダの大学に単位交換で通っていたこともある。」のだそうです。ギムナジウムの外国語教育と言えば、私がイメージしていたのはギリシャ語やラテン語でしたが、そのご夫婦の世代(アラフォー)の頃もそうであり、それら古典外国語に加えての現代外国語がオランダ語だったようです。2000年代になってから、英語を選択する生徒が多くなったそうですが(フランスはドイツに先駆けて1990年代から英語教育に力を入れたので英語を喋る人がドイツよりも多いらしい)。
アンネの日記」を読んで、ドイツは第二次世界大戦時に、中立を宣言していたオランダにドイツは侵攻し占領したことは知っていました。日本が韓国を併合し、中国を侵略していたのと似ているといえば似ています。その占領していた側のドイツの戦後の学校教育の中で、オランダ語を選択することが可能で、アビトゥアを受験可能であった、ということが驚きです。英語を選択する生徒が多くなった今でさえ、オランダ語を含めた他のヨーロッパ言語(ドイツが嘗て侵攻/占領していた多くの地域を含む)を選択することができるそうです。

また、ドイツでVolksschuleというコミュニティカレッジのようなところで英語を習った時の先生の一人は、オランダ人のおばさんだったのですが、彼女はドイツ語と英語とオランダ語をそのVolksschuleで教えていました。この三ヶ国語はどれも極めてよく似てはいるのですが、それぞれ別に教える資格を持っているのです。

更にドイツで知り合ったフランス人女性は、フランス語とドイツ語のバイリンガルで、お母様がリセのドイツ語の先生であり、フランス国内の某大学で、英語で言うところの「Germanics ドイツ学」*3、ドイツのみならずドイツ語が話されているオーストリア、スイスを含めての、言語、文学、歴史、政治経済の全てを学ぶ学科を専攻したそうです。

これまたドイツのイタリアンレストランで隣のテーブルで熱心に何やら議論しながら食事をしていた、若いご夫婦プラスおじさんの三人組の会話の仕方が面白かったのですが、ご夫婦はドイツ語で話しているのですが、おじさんはフランス語で話しているのです。つまり、推測するに、「込み入った話を相手の言語で議論することはできないけれども、相手が相手の言語で言っていることは理解できる。」ということなのだと思います。

これらは、やはり学校教育で「隣国の言語を教える」という裾野があってこその結果だと思います。放っておいて自然に両国民が互いの言葉を学んでいくことはとても難しいですが、教育のシステムの中に組み込めば、たった1世代で一定の割合で隣国の言語、文化に詳しい国民が生まれてくるよい見本だと思います、中国や韓国は反日教育をした結果逆に1世代で「反日」感情の強い国民を作り出したわけですが、これは悪しき見本と言いたいです。
確かに、今センター試験も東大・京大の二次試験も中国語や韓国語で受験できます。けれども、その前段階の高校や中学の学校教育の中で、中国語や韓国語が教えられていなければ、連続した教育にならないわけです。

また「学校教育」ではないですが、ドイツ、フランス両国には、共通のARTEというテレビ局があり、この局はドイツとフランスが半々出資してできた局で、番組もまたドイツ語とフランス語が半々で放送されています。日本と中国、日本と韓国でこういう取り組みがあっても不思議はないと思うのですが・・・。

翻って、去る9月23日のNHKスペシャルで、「対立を克服できるか〜領土で揺れる日中・日韓〜」という番組が放送されました。
元外交官の田中均氏、ジャーナリストの櫻井よしこ氏、そして日中・日韓問題に詳しい学者が一人ずつ、日本側の論者として出演していました。
中国に関しては議論の場はなかったのですが、韓国との問題に関しては、韓国の論者3人をスタジオに招いて、日本側(田中氏、櫻井氏、そして学者の方)と韓国側双方が直接向かい合う形、という画期的な形で討論が行われたのです。
韓国側の三人の論者*4は、日本語でこの討論に参加していました。
しかし、もし逆の機会が与えられた時、中国のテレビで中国語で(←こういう機会があるとは思えませんが、ネット上でならあるかも?)、韓国のテレビで韓国語で、日本の立場、日本の主張を相手方と議論できる人材が、果たしてどれくらいいるでしょうか?
残念ながら、田中氏と櫻井氏ですら、それはできません。「相手の国の言語で、日本の立場を主張できる日本人」として私の頭に今浮かぶのも、韓国語だと芸能人の何人かと、中国語だと中国では有名かもしれませんが、どこかしら怪しい経歴のあの日本人*5しか思いつきません。

もし、これが英語が言語の国相手ならば、日本には(国際的には英語力が低いと言われていてもどっこい)あらゆるレベルで英語を使える人材がいます。外交官だけではなく、アメリカやイギリスの大学や大学院に留学した人(政治家や官僚や学者やビジネスマン)、学生時代英語が得意科目だった人、趣味で英語を勉強している人、辞書をひけば何とか英文が読める高校生や中学生、それぞれのレベルで、反日デモに関しての政府の発表を理解したり、一般の市民のTwitterFacebookへの書き込みを読んだり、反日デモのプラカードの文字を読んだり、デモをする人々が叫んでいる内容も聞き取ることができるでしょう、英語ならば。太平洋戦争の時代には、それが出来る日本人も手段も限られていたから、いつまでも「鬼畜米英」だったのでしょう。

ということは、第二次世界大戦終結してから70年経とうというのに、同じ道を歩もうとしているのでしょうか?隣国というのに、中国語や韓国語がわかる日本人が少なくて、義務教育では教えない、高等教育でも殆ど教えられていないのです。21世紀になり、テレビもインターネットもあるのに、自分の語学力で情報を直接確認することもできないまま、ネットでは「鬼畜米英」の「米英」を「中韓」に入れ替えたかの如くの酷い言説だけが溢れています。
もし、これからも日本の教育における中国語や韓国語が今のままの扱いならば、つまり言い換えると、日本の外国語教育が英語一辺倒のままならば、何年経っても何十年経っても、今の私の世代以上の日本人と同じ日本人しか育たないでしょう。二国間で何か問題が起こっても、お仕着せの翻訳された情報でしか判断できない日本人、日本の立場を主張できない日本人を生み続けてよいのでしょうか?一世代のせめて2割、いえ3割の日本人が、「第一外国語」として中国語や韓国語を学ぶべきでは?そしてたった10年、20年で教育の成果は確実に表れることでしょう。
中学1年生から義務教育で3年間、高校を卒業した時点で6年間、大学でも「第一外国語」として、中国語なり韓国語なりを学ぶ日本人が増えたならば、どれだけのメリットがあることか。

同じ世代の中に、ある一定の割合で中国語や韓国語が堪能な人間がいて、相手の国の事情をよく理解している人間がいれば、物の見方さえ、外交政策さえ変わってくるのではないでしょうか?未来は彼らの肩の上にあるのですから、変わって当然ですし、それで新しい道が開けるでしょう。
凝り固まった偏見で中国や韓国のことを見下している癖に、相手の言語はからきし出来ない世代は、もうそろそろ退場して頂いて、新しい世代に次の国家間の関係を託すには、先ずは言語教育からだと、それだけを強く思う今日この頃。





*1: http://togetter.com/li/357176

*2: http://megalodon.jp/2012-0814-2013-43/www.seoul.co.kr/news/newsView.php?id=20120815003005

*3:Germanics focuses on the language, literature, and civilization of the German-speaking countries; on the role of their history, literature, and philosophy in Western civilization; and on linguistic analysis, especially historic, of the Germanic languages.

*4: 鄭在貞チョン・ジェジョン 韓国政府の研究機関「東北アジア歴史財団」前理事長、日韓の近代史が専門  陳昌洙チン・チャンス 韓国を代表するシンクタンク セジョン(世宗)研究所に本研究センター長、張済国 トンソ(東西)大学総長 

*5:http://katoyoshikazu.com/profile/index.html