猛暑の中の「N」バッグを見て憂えること

気温≒体温の異常な猛暑の中、電車に乗ると、揃いの「N」のマークのリュック

を背負った小学生たちをよく見かけます。高学年ばかりではなく、まだ3年生くらいの子供もいますね。ネットで見てみたら、「N」バッグの日能研はそれでも夏期講習は3年生からのようですけれど、SAPIX早稲田アカデミーは1年生から、四谷大塚に至っては何と「年長さん」から(幼稚園生です、念のため)「夏期講習」のプログラムが組まれているようで、あざとさを感じて思わず暑さを忘れて柄にもなくこの国の将来を憂えてしまいます。
我が家の子供たち二人も一時期お世話になった馴染みある四谷大塚ですが、東進の傘下に入ってから、「校風」というか「塾風」が変わってお商売色がとても強くなった気がします。
さて、この夏期講習、低学年のうちは日数も少なく、講習費も意外に安いのですが、学年が上がるにつれてどんどん日数は多くなり、講習費はうなぎのぼり!6年生の夏には、最低でも10万円以上は塾に奉納!という次第になります。

日能研 SAPIX 四谷大塚 早稲田アカデミー
年長 - - 4日 -
1年生 - 5日 5日 4日
2年生 - 5日 5日 4日
3年生 7日 10日 5日 7日プラスα
4年生 11日 15日 16日プラスα 12日プラスα
5年生 13日or21日 20日 16日プラスα 12日プラスα
6年生 29日 18日プラスα 20日プラスα 24日
3年時夏期講習費用 20,422円 52,500円 45,150円プラスα 16,000円
6年時夏期講習費用 117,705円 182,700円プラスα 172,200円プラスα 124,000円

注)「プラスα」というのは、オプションで、「志望校別対策」とか「理科実験教室」とかを選ぶシステムになっていることを示す。マクドナルドでハンバーガーを注文して、「ポテトとお飲物は如何ですか?」とスマイル0円で聞かれたら断りきれないように、親としてはフツーどうしたってこのオプションも追加してしまうことになるのだけれど。


そして3年生からでも4年間、「年長」からだと実に7年間の「入試準備」が必要な「中学受験」。そして数百万円を塾に投じて行う「中学受験」。
中学受験って必要なんですか?どうしても私立中高一貫校じゃなきゃ駄目なんですか?
と、「N」バッグか他のバッグかを背負って暑い中頑張っている小学生の受験戦士に負けぬよう、仕分けっぽく考えてみることにします。



さて。
今日の朝日新聞の朝刊「リレーおぴにおん 子どもと受験⑨」では、その「N 」のバッグの日能研代表、高木幹夫氏が登場。今を遡ること10年くらい前に、中学受験についての高木氏の話をどこかの日能研で私は聞いたことがありますが、今も昔も変わらない高木氏の主張は、
「公立中学に行ったら、子どもはダメになる。どんな私立でも私立に行った方がマシ」
ということだと思いますし、そして「その受験のお手伝いは日能研が致します。」なのです。
高木氏はとことん公立中学が嫌いのようです。

私たちの塾では公立一貫校受験向けのクラスを開講していません。建学の理念が感じられる学校があまりないからです。

とおっしゃるほどですから。しかし、公立中学の「建学の理念」は教育基本法なのでは?日本人として宗教・思想関係なしに一番フラットに読める「建学の理念」だと思いますけど。私立の「建学の理念」は、各学校のホームページに載っていますがそれぞれ、明治の頃欧米から帰国した人物が「我が国にも欧米並みの教育を願って設立」、とか、「宣教師◯◯◯(外人)がキリスト教精神を養う教育機関として設立」、とか「良妻賢母を目指し、礼と学びの女子教育を願って設立」とか(注:全て以上は架空の「理念」です)、「建学の理念」は様々ではありますが、日本国民の中にも読む人によってはかなり違和感がある場合も多々あるわけで、翻って「教育基本法」がそれらに比べて遜色あるかというと、いやいやなかなか立派だと思います。
また、高木氏は

2002年度の学習指導要領改訂で「自ら考え、自ら学ぶ力」をつけさせるため、「総合的な学習の時間(総合学習)」が鳴り物入りで創設されました。<中略>PISAで日本の順位が下がって学力低下批判が高まると、早々と方針を転換した。<中略>その点、私学には国の方針のブレには関係なく、今でも総合学習や恊働学習の取り組みを続けている学校がたくさんあります。

と述べていますが、実際は逆というか、私立の「受験校」と言われているところは、「ゆとり教育」時代にも、土曜日授業を行っていました。それには幾つか理由があるそうです。
文科省の方針にすぐ対応できるほど、小回りがきく私立校は少ないこと
・寧ろ土曜日に授業を行うことによって、公立よりも英語や数学の時間数が多いことを受験者にアピールできること
しかし、文科省の方針に逆らうと補助金を減らされるらしく、土曜日に生徒を登校させるものの授業は行わず「総合学習っぽいこと」を行う私立中学も増えて来た矢先に、文科省の方針が変わってしまった訳で、これで「総合学習っぽいこと」を止めてしまう学校があるとしたら、それはまるで「理念」がないことになるでしょうけどね。
更に高木氏は、

頻繁な人事異勤がある公立校で建学の理念を貫くことができるでしょうか。

と述べているのですが、逆に人事異勤が殆どない私立学校の方が、問題が多いのではないかと思います。多くの私立では未だに教師の「縁故採用も多く、また数十年前に縁故採用された教師が十年一日の授業を行い誰もそれを止めることができない、というホラーまがいの話も聞きます(特に女子校)。教師の能力に差がありすぎて、優秀でヤル気のある先生にあたった年はラッキー、化石のような先生にあたるとハズレ、しかも公立と違って数年経ったら先生も移動する、ということもなく、だから日能研を経て「建学の理念」ある私立中高一貫校の有名校に入学した生徒たちでさえも、中学入学後はこぞって鉄緑やらSEGやら平岡に行くのではないでしょうか?

私は私立中高一貫校を否定するものではありません、我が息子はそこでお世話になりました。けれども、今の風潮、即ち日能研的な考え方
「公立はダメで、どんな私立でも『私立である』というだけで、公立よりは数段マシである。」
という考え方には疑問を感じます。この考え方こそが、公教育を良くする機会を奪い、また本来存在意義がある私立の中高一貫校の受験や教育方針さえも歪めていると思うのです。私立の中高一貫校を子どもに受験させようと考えているお母様方には(最近は子どもの受験にしゃしゃり出るパパも多いようですが←これの問題点についてはまた別に書きます)、
塾の煽りや洗脳に振り回されないで、よく見極めてほしい
そう、経験者としてと言いたいです。

塾や予備校の説明会に行くと、本当に先生方のトークの上手さには感心を通り過ぎて感動します。どこの塾でも「喋りでお母さんのハートを鷲掴み」できる、みのもんた顔負けの講師が、ネタを披露し笑いをとりつつ時には恫喝して恐怖心を煽りつつ、保護者に話をします。これってナントカ商法と紙一重、じゃないかと思うことがありました。気がつくと、周囲の多くのお母様方の間には何かに酔ったような高揚感が漂い始めるんですから。我が子が、恐ろしく馬鹿になってしまう公立中学校ではなしに、この塾に通って中学受験すれば超有名校に合格することが約束されているかのような錯覚に陥っているのでしょう。塾の煽り主張に絡み取られそうになったら、冷静に以下のことを考えてみてください。

・小学校3年生から日能研に塾通いして開成中学に合格した子がいたとして、その子は日能研だったから」開成に合格したのでしょうか?そうではなくて、仮に「SAPIX」でも「四谷大塚」でも「早稲田アカデミー」でもはたまたもっと規模の小さい塾へ行っていても合格していたかもしれない、ていうかきっと合格していたでしょう。
・そしてその子は、「3年生から塾通いをしたから」合格したのでしょうか?5年生からの塾通いでも大丈夫だったかもしれません。もっと優秀な子ならば、6年生からでも合格していたかもしれません。遊びやスポーツやお稽古事を犠牲にする年数は、何年ならば、「合格」と引き換えにできますか?3年生からだと4年間ですよ。長過ぎると思いませんか?

そして受験勉強の期間にかかる費用、他の兄弟姉妹への皺寄せ、家族で夕ご飯が食べられる日が一週間に何日になるのか、を考えてみて、それでも
「我が子には私立の中高一貫校での教育が必要だ。」と思える人のみ中学受験を考える、
というのが本来の姿ではないかと思います。そして信念を持って「中学受験」の道を選んでも、
第一志望合格を目指してあらゆる努力をしても合格がかなわない場合も大いにありうる、
という現実を先ず保護者である母親自身が見据えなくてはなりません。「努力しなければ合格しない」かもしれないけれど、「努力しても合格しないこともある」ということを先ず親がしっかりわかっていないと、不合格を手にした時、子どもは「努力が足りなかったんだ」と自分を責めることになるのです、12歳の子どもにそれは余りにも酷ですから。「中学受験」は、実は「第一志望合格!万歳!」のハッピーエンドに終わる方が、ずっとずっと少ないのです。その理由は塾の指導なのですけどね。


「塾」は「教育産業」なんて自称していますが、結局のところ塾は「お商売」なのです。本当に日本の教育を憂えているのならば、いつまでも「塾」じゃなくて、理想の教育を実践できる「学校」を設立したらいいのです。それができるくらい、今の塾は巨大化していると思います。それをしないでいて、又、「塾」がそんなに批判する公教育を良くする提言もしないで、寧ろ公教育で学ぶべき子どもを私立へと無定見に導いているのはどんなものなのでしょうか。

ここのところ、朝日新聞のこの「リレーおぴにおん」の「子どもと受験」シリーズを興味深く読んでいたのが、今回が最終回のようです。何故そこに、「N」のバッグの日能研代表を持ってくるのか、理解に苦しむところですけど。