夏休みに考える、「中学受験」させるべきか、否か。

そして昨日(猛暑の中「N」バッグを見て憂えること、)に引き続き、「中学受験」をもう一度冷静に考えてみるに、高木氏(日能研代表)が主張されているように、本当に
「公立中学校はダメ!」
なのでしょうか?
私立中学の場合、建学の理念を守り校風を維持し、そして時代に合わせた教育、学校経営をしているところは確かに存在はしますがそれはほんの僅かな気がします。大半は、縁故で採用した教師が長年変わらぬ授業を行い、生徒指導をやたら厳しくすることで無理に権威を作ろうとしていたり、中には「伝統だから」と体罰を行っても私立だからもみ消され表に出ない学校もあるといいますから。そして「公立はダメ」というのならば、私立中学がない地方、当然そこは日能研もない世界である訳なのですけれども、そういう地方で公立中学から公立の高校へ進み、東大を始め難関大学に進学して行く子たちのことはどう説明するのでしょうかね?事程左様に「塾」の存在というのは、実は吹けば飛ぶように蔭が薄いのです。だからこそ、「塾」はその存在理由を殊更アピールするのでしょう。

では、我が子に中学受験をさせるべきかどうか、というのをどう考えたらいいのでしょう?


そもそも中学受験時に楽々と優秀な成績をとる子どもたちは、皮肉なことに私立中学に行かなくても、公立コースでも十分やっていける子が多いのです。つまり表にしてみると、

中学受験のシステムに向いている子 中学受験のシステムに向いていない子
体力がある 体力がない
考え方が大人 考え方が幼い
やるべきことのために遊びを我慢することができ やりたいことを先にやってしまう
要領がよい 要領が悪い
成長が早い子 成長が遅い即ち遅咲きの子(親ばか含む)

一方今の公立中学校の現状を考えた場合、

公立中学でもOKな子 公立中学が辛い子
運動が得意、少なくとも得意な競技がある 運動が苦手、音楽関係も苦手
異性とも話せる、それなりに人気や人望もある 異性に人気がない、オタク気味
リーダーシップがとれる、協調性がある マイペース、ディープな趣味をとことん話せる友達が必要
満遍なく9科目で点がとれる、少なくともとろうとする 特定の科目は出来るが、興味のない科目や保健や技術家庭科などはさっぱり


よく上の表を見比べて下さい。中学生時代というのは、自意識も芽生え異性を意識する年頃で何かと難しいのですが、日本の公立中学というのは、この年頃特有のコンプレックスや悩みや羞恥心をまるで考慮していない造りになっている
のです、もうずっと戦後何十年もの長きにわたって。揃いのジャージを着せられて、容貌も体型も運動神経も同性のみならず異性にも先輩にも後輩にも晒されるような体育の授業であり運動会、そして集団行動ばかりの行事。これを変えるだけでも公立中学の居心地はずっとよくなると思います。色々なタイプの子どもが学べる場になるでしょう。また、最近高校入試の試験日当日の学力試験重視に傾いてきたとはいえ、合格不合格を決定する悪名高い「内申点」を上げるには、要領の良さが要求されるのですが、仮に数学が天才的にできる生徒でも、体育ダメ、音楽ダメ、部活も委員会もやらない、のでは、トップ校への進学は難しいシステムになっています。公立中学とは実は、今の現状ではどんな子どもにも合うところではなく、逆にオールマイティの秀才、もしくはオールラウンドにおいて平均的に何でもできる生徒向けに出来ているといってもいいくらいです。そうではなくて、一芸にだけ秀でた子ども、不器用だけれど能力はある子どもは、今の公立中学では、自意識もプライドもずたずたにされてしまいます。本当はそういう公立中学が時代に合わせて変わってくれればいいのですが、当面それは望めない。ということで、そういう子どもを持つ親は、理念のある私立の中高一貫校でゆっくりマイペースで成長できれば、と思うわけなのです、お金がかかっても、通学時間がかかっても。
ところが逆説的なのですが、多くの場合、
「公立中学が辛い子」は、「中学受験のシステムには向いていない」
のです。12歳の時点での属性が被ってしまうのです。母親に「あなたの将来のために今勉強するのよ。」と言われてもぴんとこない、「塾の宿題やってから、漫画読みなさい。」と言われても快感原則に支配されまくっているこのタイプの子どもは、それができなくて先に漫画を読んでしまう。かなりオトナの物の考え方をして要領よく立ち回らなくてはならない今の「中学受験システム」に全く向いていないそういうタイプの子を、その子が向いている私立中学に入れるために勉強させることが、どんなにストレスフルであるか!・・・私は経験からよくわかります。でもだからこそ塾の煽りに乗ってはいけないと思います。志望校の選び方も受験勉強の進め方も、塾の言いなりにならないことが先ず大事です。ウイークデイには通塾しないまま受験勉強をし、そして息子自身が選んだ私立の中高一貫男子校で、息子はオタク趣味全開で話せる友達を色々な分野で見つけることができました。彼に最適の学校に通わせることができた、ということだけが親の満足感です。確かに息子のような、女子にからかわれやすいタイプの子にとって男子校はとても居心地がよかったようです、それが本当に良かったかどうか、ということは保留つきですが(これについては、男女共学がよいのか、男女別学がいいのか、改めて考えるつもりです)。ただ言えるのは、息子の友人にアニオタが多いのは、やはり男子校だったからだと思うのは間違っているでしょうかね。


逆に、もしあなたのお子さんが、上の表でいうと「公立中学でもOKな子」ならば、
「絶対に中学受験しなければならない」ことはない、
と思います、勿論それでも私立の学校の「建学の理念」に共鳴して「中学受験」を選択することはできますが。子どもを見ていて、勉強だけでなく運動も音楽も得意で、同性にも異性にも好かれ、集団の中ではリーダーシップもとれ、塾の宿題を済ませてから漫画を読んだりテレビを見るお子さんならば、逆に公立中学に行って、勉強でも部活でも生徒会でも活躍し、地域トップの公立高校に進んでそこでも青春満喫しながら勉強&スポーツ、というのが、実は向いていると思いますよ。そう決断すれば、小学生の今、思いっきり好きな事をさせてあげることができます。サッカーや野球もやめる必要ありませんし、ピアノやバレーも続けることができます。極論すれば、大学受験に繋がる勉強は実は中学・高校になってからでもできますが、身体を使い身体で覚えること、スポーツや楽器・踊りなどは、10歳前後という年齢は、やりこむことによって、将来の基礎ができる大事な時期です。中学受験でそれを中断させるのは如何にも勿体ないことです。そして更に高校受験は中学受験と違って、親は介在せず、本人が自覚を持って臨みます。昔元服は15歳くらいだったといいますが、よくできてますよ、今の高校受験。大人が想像できないくらい、中学生は高校受験に関して、不安を持ち、悩むそうです。大人は、口ではともかく、内心では「もし第一志望に落ちてもどこか拾ってくれる高校はきょうび必ずある。」と思っていても、本人中学3年生は、「義務教育じゃない高校の入学試験に落ちたら自分はどうなるのだろう?」と誰しも途轍もなく真剣に不安を感じるみたいです。この不安は「乗り越えるべきチャレンジ」としての有益な不安です。中学受験ではこの不安はないですよね。幼いタイプの子はそもそもそんなことは考えないし、大体「全落ち」しても中学校は義務教育ですから公立中学へ行けばいいのですから。でもその15歳の不安を乗り越え、部活や委員会と勉強を両立させて高校受験をする、というのは、或る意味現代の「元服なのです。残念なことに中高一貫校ではこの「高校受験」という「元服」はないのです。このイニシエーションを経た子どもは、大学受験にも自分から能動的に取り組めます。娘は高校受験をしたのですが、娘及びその学友を見ていてそれはとても強く感じることです。「親の受験」とも言われる中学受験と違って、高校受験とは「自らがもがいて頑張って突破した受験」ですから、高校に入った時点で既に自覚があるということなのですね。後は、又しても費用対効果ということになりますが、今は現役高校生でも塾や予備校に行く時代ですが、私立の中高一貫校、それも開成や桜蔭をはじめとする難関校の生徒ですら、あれほどの競争を勝ち抜いて入学した学校の勉強では不十分で、早い時期から塾や予備校に通う時代です(じゃあ、その学校に入るために中学受験時に費やした努力と費用はどうなるのか?という疑問は置いておいて)。

公立高校 私立高校
高校無償化で授業料なし 授業料は民主党様でも12万円までしか補助なしそれ以上は自己負担
プラス塾・予備校の月謝 プラス塾・予備校の月謝

どちらが安いか、それも格段に安いかは一目瞭然。私立の中高一貫校に行くためには、受験までにかかるお金だけでは済まないのです。入学してからも、授業料、塾の費用、そして更に実は義務教育を子どもに受けさせるための税金も払っているのです。つまり、
あなたが払う税金は公立中学の教育にも使われている
のです、子どもを私立に通わせていようがいまいが。受験にかかるお金、入学してからのお金、税金、全部を足し込めば、実は相当な額になり、もし中学受験をせずに公立コースに進めばそのお金で相当なことができる、ということも想像してみてください。そこまで考えて、
「うちの子は、公立でも十分やっていける。」
と思うか、
「それでも、うちの子は私立に行かせたい。」
と思うか、なのではないでしょうか、「子どもに中学受験をさせる」ということは。
「中学受験しない選択肢」については、決して塾は言ってはくれないですけどね。
そしてそういうタイプの子ども本人にとっても、私立の男子校/女子校、に行くよりも、共学の高校の方がずっとずっと楽しい青春が送れますよ。世の中社会に出れば、男性女性入り混じっていて当然なわけで、そこで異性の見極め方が必要になるのですが、学校生活というのは、いい練習になります。詳しくは、よしながふみの「フラワーオブライフ*1をお読みください。母親父親であるあなたが今すぐに「公立高校」へ行きたくなりますから。


人生で二度と来ない中学高校時代。子どもにどんなコースを選ぶか、どんな学校を選ぶか、はとても重要な選択です。それをくれぐれも塾任せにしてほしくないと思う、子育てが終わろうとしている今日この頃。

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