*「中学受験に向いている子」と「私立中学に向いている子」とは違う話

実は

中学受験に向いている子

私立中学に向いている子

全く別物だと思う。
それなのに、何故かいつからか、首都圏では、「成績がいい子から中学受験」というのがデフォルトになってしまっている。それもこれも、塾の巧みな営業と煽りのせいである。では、似ているようで全然違う、この二つのタイプの子とはどんな子かというと・・・

①「中学受験に向いている子」
意外かもしれないが、学力よりも先ず何と言っても体力のある子。10歳〜12歳で週に4日も6日も塾通いができる体力がある子。修学旅行から帰って来たその足で塾に行くのも全然平気な子である。体力があるということはつまり体格のいい子、成長の早い子。身体の成長が早いということは、精神的にも成長が早く、オトナの理屈を素早く理解する子である。要領がよく、学校と塾との二足のわらじをちゃんとはける子。塾がハードでも、学校でもそこそこ上手くやれる子。運動も得意で、クラスでもリーダー的存在で、学校の先生の受けもいい子。つまり12歳の段階で、全方位的に成長している子である。
こういう子が中学受験を勝ち抜いていくタイプの子なのである。
ところが逆説的なのだが、こういう子は実は公立中学でも十分やっていける子、なのである。何も私立中学に行く必要などない。こういう子こそ、公立中学校に行って、クラスや部活や生徒会でリーダーを努め、本人も自分に自信を持って二度と来ない青春を過ごしていけばいいのだ。
しかし、こういう子でも私立の超難関中学に入ったらそのようなバラ色の青春が待っているかどうかはわからない、何故なら周りは秀才だらけ、だから。通っている小学校で成績は1番で児童会長で、○○塾の○○校舎でも1番、だった子が難関中に入ったら、「タダの人」になって6年間を過ごす、という例は沢山ある。


②「私立中学に向いている子」
こちらは逆に、頭はいいかもしれないが、小学校6年生の段階で幼さがまだ残り、体力がまだついていない、運動もそれほど得意でないか全く運動音痴で頭でっかちの子、である。要領が悪くて、塾に軸足を置くと、学校の課題がこなせなかったり先生や友だちと上手くいかなかったりで、逆に学校の方に軸足があると塾の宿題ができなかったり疲れて塾を休んだりする子。こういうタイプの子は、ゆっくり成長していく。成長するに従って、体力もつき、要領もよくなり、人と比べてではなく自分として自分に自信が徐々に持てるようになっていくのである。また他方、こういう子は①のタイプの子と違って、万遍なく物事をやることは苦手だが、勉強でも趣味でもお稽古事でも、好きなことにはとことんのめり込むタイプである。こういう子こそゆったりと中高一貫で学ぶ、というのが向いているのではないか。
ところがこういう子は、体力がないし、精神的に幼いので、なかなか12歳の受験では上手くいかないのである。15歳の受験でもまだまだ本領は発揮出来ず、大学受験になって化けるタイプ。だからこそ、逆に中高一貫が向いているのであるのに、中学受験が上手くいかない、という皮肉な堂々巡り。



親にとっても見極めが難しい。子供の幸せを願わない親はいないと思うけれども、「何がウチの子供にとって幸せか?」というのは、案外考える間もなく、中学受験に突入してしまってはいないだろうか?
以下は、実際に聞いた話だけれど、ぼかす所はぼかして書いてみた。中学受験の寓話として読んでほしい。



関西のある都市に住んでいる優秀な一卵性の双子の兄弟がいました。揃って名門難関中学を受験しましたが、弟の方は受験日当日熱が出て不合格、兄だけが東大・医学部進学で有名なその中高一貫の私立に合格し入学しました。弟は公立中学に進み、サッカー部のキャプテンとして県大会まで出場、生徒会長もつとめ、女の子にもモテました。そのまま公立のトップ校に進学し、大学は京大法学部を受けたものの不合格、予備校に入りました。さて難関校として知られる私立中学に入った兄の方がどういう中高生活を送ったかは定かではありません。現役時には地方の国立医学部を受験したもののやはり不合格、弟と同じ予備校に入りました。さて次の年、弟は今度は見事京大法学部に合格。兄は、浪人中遊びすぎて文転し、弟と同じく京大の文系学部を受けたものの不合格、二浪となりました。その後兄の方がどうなったかは聞こえてきません。


一卵性双生児というのは、遺伝子が全く同じなのだから能力的には二人は同じだったのだろう。では何が?と考えてしまう話。



東京で代々医者をやっている家に生まれた一人息子がおりました。小さい頃から病気がちで身体も小さくて弱く、母親は「医者なんて継いでくれなくてもいい。サラリーマンも無理だろうから何か好きな道で学者になってくれればいい」と思っていました。お受験こと小学校受験なんて身体が弱くて無理、中学校で早稲田の系列校に入ってくれれば大学までそのまま上がれるから、と中学入試を頑張ったものの、不合格。泣く泣く、マーチの系列中学校に進学しました。ところが、彼は中二になる頃には学年で1位の成績をとるようになりました。成績優秀者は張り出され、保護者会で発表され、特待生として優遇されました。「学年トップの生徒」ということで周囲の見る目も違います。そのまま系列の高校に入る頃には、自分にすっかり自信がつき、やっと成長期に入って体力もつき身体も大きくなってきました。高校3年生まで学年でトップを通し、生徒会長もつとめた彼は、何と推薦で地方の国立大学の医学部に進学したのでした。「あの時、早稲田の系列中学に受かっていたら、医者にはなっていなかったでしょう。人生わかりません。」とは、彼の医学部合格を泣いて喜んだ母親の言。



人間万事塞翁が馬」っていう言葉はこういう時に使うのかもしれない、と思った話。



どこの塾も、「○○中学合格△△名」と数字が派手に踊る新聞広告を出してくる今日この頃。本当に「塾ってお商売」なのだと思う。この国の教育をマトモに戻すにはどこから手をつけたらいいのか、暗い気持ちになる。