*「何が何でも中高一貫」の必要は全くない

本来はフツーに公立小学校に通っていた子供は私立中学に進学することなくフツーに公立中学校に進学するのが真っ当、だった時期もあったのだ。ついこの間までは。
それが今は、成績が良い子から私立へ、それも共通一次以来の「偏差値輪切り」で、自分の偏差値で行ける最もレベルの高い私立中に行く、のがデフォルト化している。そういう風になってしまったのは、塾の煽りと私立中学の太鼓持ちのような評論家*1のせいもあるだろうし、「一億総中流」の延長線上で、「隣りが私立中学受験させるならウチも」という日本人特有の心理が働いて、現状になってしまったんだろう(あくまでも首都圏の話ですが、地方に住んでいる親にも参考になるかも)。

ここでもう一度根本から考え直してもいいのでは?

ウチの子はどうしても私立に行かなければならないのか?どうしても私立に行く理由があるのか?

今や「中学受験に首を突っ込むパパのエッセイ」の古典である三田誠広氏のもの*2とか、石原千秋先生のやはりご子息との二人三脚の中学受験もの*3とか、その他中学受験に関する星の数ほどの「親の受験ブログ」が示すまでもなく、

中学受験は親の受験

である。

塾選びに始まって、そうそうそもそも「中学受験する」こと自体、親による決定か「誘導された」本人の意志(?)で決まっていて、塾の宿題を消化するための計画もテストの結果の分析も、第二志望第三志望の決定も悉く親が介入する。しかも、最近は「パパ」の介入が目立つ。パパはプレジデントFamily*4とかにまたしても煽られて、本人以上の熱心さ。ムスメなら、そのパパとの二人三脚も悪くないと思う。どちらも抑制がきくだろうし、受験が終わってムスメが「JC(女子中学生)」になれば、パパなんて捨てられるだけだろうから。しかし、ムスコの場合は大いに問題があると思う。長らく「教育ママは悪」と言われてきたし、二昔前には「冬彦さん」なる言葉が流行ったが、父親がムスコの中学受験にかくも深く介入して、合格要因の何割かを担ってしまったとしたら・・・。それは長い目で見て父とムスコの関係としていいのだろうか?きっと自分の介入によってムスコが中学受験に成功した父親は、ムスコが中学生になっても当然のようにムスコの勉強に成績に学校生活に介入したがるだろう。それは決してよくないことだ。これが母親ならば、ムスコが中学生になれば、母親はどんどんムスコに置いていかれる。冬彦さんの頃と違うのだ。携帯やパソコンを母親よりもずっとずっと上手く扱いあっと言う間に母親なんて超えてしまう。それは極めて正常なことであり、だから意外にも今の方が、母親離れは早いかもしれない。ところが父親は違う。「一緒に掴んだ中学入試成功体験」をいつまでも引き摺ってムスコに介入する。これはアブナい。入学した中学校でムスコの成績が悪かろうものならば、きっとムスコを教唆するに違いない、ムスコの気持ちも考えずに。ムスコは当然の如く反抗する、それを押さえつける父親。そんなことを繰り返していると、奈良で点数が悪いテストを医者である父親に見せられなくて家に放火して継母と弟妹を焼死させた名門私立高校生だった男の子のケースのようになったり、金属バットで殺されてしまうかも。


それに比べて

高校受験は本人の受験

である。昔、元服は15歳くらい?だったことを思うと、「高校受験」はある意味本当に親離れをするいい機会であるのだ。

中学受験の時は、親がスケジュールを組んで「ゲームは塾がない日は一日30分だけ、テストが終わったら1時間」とか規制をかける場合が圧倒的に多いだろう。「ゲームやるのも遊ぶのも全て子供に任せている」なんて親はいないだろう。でも高校受験になると、もう親は関与できなくなるから、ゲームや漫画の誘惑にも自分で勝たなくては、勝って勉強しなくては、仮に誘惑に負けることがあってもどこかで歯をくいしばってその穴埋めをしなくては、高校受験では希望の学校に合格できない。部活と勉強の両立も、中学校入学と同時に身にふりかかってくる。中高一貫に入学した中一の生徒にとって次の受験である大学受験ははるか彼方、全然切羽詰まってないので、中学入学時のまんま、14歳、15歳、と年を重ねていくのである。そこに「中学受験成功物語」を一緒に紡いだ父親の関与が介在してくると、ますます自立できない。どころか、父親の関与が、中学校に入学してからの成績降下のカンフルになってもそれは一時的で、寧ろ本人の成長を阻害してしまう。するとまた注入される父親のカンフル・・・と泥沼に陥る。それに比べて、高校受験は、それが例え親から見たらつたなくて要領悪い方法であっても、また親でなくて塾の先生に丸抱えして貰っているにしても、とにかく本人が、
親の力を借りずに受験をしていく、ということが大事
なのである。


開成高校灘高校も、公表はしていないが、高校から入学してきた生徒*5の方が、大学受験で東大に行く確率が高いと聞いたことがある。逆に両校の進学実績を見ると、「えっ、開成でも(灘でも)こんな大学に行くんだ」というような大学に進学して行く子もいるが、それは中学受験組に多いらしい。
高校から生徒募集をしない、或る中高一貫進学校の先生がこうおっしゃるのを実際に聞いたことがある。
「東大合格者数を30名増やそうと思ったら、簡単なんですよ。高校で60名とればいい。でもウチはそれはしません。6年間で生徒を育てたいから。」

つまり。
高校受験を経て難関校に入ってきた生徒は、自分で勉強するやり方も身につけており、自立しており、自分を律することもでき、また現に難関校目指して頑張ってきた実力と実績があるのだから、東大に入る可能性が極めて高い生徒である、ということ。
言い換えれば、中学受験において驚異的な偏差値をとり最高の学校に入学しても大学受験までにしぼんでしまう子もたくさんいる、ということ。進学校中高一貫私立校から見れば、「とって失敗した生徒」かもしれないが。私としては、学校側の怠慢、というか、中学受験時にあれだけ高い偏差値をとる子たちを集めて大勢入学させておきながら、全員を東大に入れてもおかしくないのに、4分の1以下の生徒しか東大に入らない教育って*6?と思ってしまう。前にも書いたが、最終的に大学で早稲田慶應に行かせたくて、軒並み難関の附属中が不合格であっても、何も他の中高一貫の私立中学に入れる必要は全くない。高校受験でもっとラクに早稲田や慶應の付属校に入ればいいのだから(男子)。そして高校に入学して、大学受験がないのだから、スポーツに音楽にはたまた勝間和代さんではないが会計士目指して(高校生でも受験できるようになった)勉強してもいい、そっちの方がずっと有意義な10代の送り方ではないだろうか。

要は、

中学受験で第一志望に不合格だったからといって、何が何でも中高一貫校に行く必要はない

ということなのだけど。

頑張れ!

*1:http://www.presidentfamily.com/details.php?pmid=121&psid=718

*2:

*3:

*4:

*5:開成は100名、灘は40名高校で募集するから本当の意味では『中高一貫』ではない

*6:例えば開成高校の、卒業生数に対する現役東大合格者数