*極めて個人的意見:中学受験で第一志望が不合格だったらどうするか?

首都圏の私立中学入試も1日校は昨日あたりで合格発表も終わり、一山超えたところか。
この不況にも拘らず、首都圏では6万人を猶に越す小学校6年生が中学受験の渦中にいるらしい。

受験者が第一志望としている場合が多い1日校(わかりやすく言えば、開成、麻布、駒場東邦桜蔭、女子学院、慶應普通部、等々、誰もが知っている『有名私立』中学は、大抵入試を2月1日に行うのである)でも、塾の先生から「絶対大丈夫!」と太鼓判を押されて(煽られて)受験した最優秀な子供たちが競う入試で、倍率がどこも軒並み3倍〜5倍なのだからして、必ず大半は「不合格」という残念な結果を手にすることになる。それぞれの子供は塾ではきっと最優秀のクラスに属していたエース級の子供たちばかりだろうからプライドも高いだろうし、何より今まで長い間(中学受験の準備期間が長くなっている)一生懸命努力してきた上でもたらされた「不合格」のショックは、親や大人が想像する以上だと思われる。1日入試の有名校に限っても不合格者数は合計すると何千名、になる、皆きっと模試では上位を占めてきた子供たちばかりだろう。心が痛いことだ。それまで頑張ってきた挙げ句に何故12歳でそんな思いをしなくてはいけないのか。

まあ私立中学は定員があって、そこに入学するのに競争が生まれるのは当然であって、その競争に勝ち抜き、ストレスなど微塵も感じない鈍感力でそのまま突っ走っていくような輩ではないと、エリートにはなれないのだろうが。

さて。
1日校で不合格だった何千名の秀才、きっと合格した子たちと比べても遜色ない学力を持っているだろう秀才たちは、それではどこの中学に行くのだろうか?併願校の平均数は、去年の5校は割っているらしいけれども、それぞれ、第二志望、第三志望の中学校に進学していくのだろうか? 
というか疑問を今更持つまでもなく、塾に洗脳されているのか、他の思考が出来なくなっているのか、当然のように、「開成不合格だと、海城とか巣鴨とか城北、神奈川県まで通学できるのなら、栄光か聖光」「桜蔭不合格だと、豊島岡か歐友」に進学していくのがパターンか。勿論、第二志望にも合格しない子もいて、更に樹形図のように進学先が広がっていく。

でも、それって本当にそうしなければいけないのか?

中学って義務教育じゃなかったっけ?

思えば、今年成人式を迎えた息子を中学受験させるかどうかを考えていた頃、即ち今から10年前くらいの時、色々な塾が主催する「中学受験説明会」なるものに行くと、どこの塾でも談合したかのように同じことを聞かされた、即ち

公立中学はダメだ、英語が週に3時間しかない、学校は荒廃している、先生の面倒見は悪い、すぐに高校受験がある、どんな私立中学でも公立に行くよりはマシだ!

という迫力ある説得であったことだ。しかし今、自戒をこめて思うのだが、本当にそうなのだろうか?先ず、それがいいのか悪いのかわからないが、今公立中学の生徒はそもそも学校に勉強の軸足はなくて塾で勉強しているのが実態だから、学校の英語の授業数なんて関係ないし、学校の環境はかなりよくなっている(何と言っても税金が投入されているから)、先生も意外な程に熱心な先生が多く、少なくとも私立の無気力な教師よりはマシ、である。公立中学の是非はこの際おいておいて、今私立中学入試の合格不合格を目の前にして、以下三つの点は考えてみるに値すると思う。


① 偏差値と合格可能性だけで、上の学校から、第一志望、第二志望、第三志望、と割り振っていくのが本当に子供にとっていいのか?塾は建前では、「学園祭や説明会に足を運んで、校風を確かめてください」とは言うが、それは中堅以下の学校、つまり塾にとっては、言い方は悪いが「どうでもいい」学校に関してのみ、であって、やはりその塾でダントツトップの子が、「ボク、開成(例えば)の校風は合わないと思うので、学習院か暁星に行きます。」と言っても絶対に「開成受験」を勧めてくるに決まっている。週刊誌が毎年3月に高校のランク付けを「高校別東大合格者数」で示すように、中学受験の塾のランク付けは「開成○○名合格」なのであるから。私は頭のいい子にとってこそ、学校選び、は重要だと思う。通っている小学校でトップの成績、塾でもトップの成績、の子でも開成に入ったら、「one of them」、周りはそんな子ばっかり、否、自分よりできる子ばかりの環境であることは間違いないわけで、そんな中でもトップをとっていける子か、もしくは「one of them」の環境に甘んじてでもやっていける精神力がある子ではないと中高6年間のそのキツい環境はツライだろう。今までは小学校でも塾でも彼自身がエースであり中心だったところが、開成中に入って勉強も学校生活でもエース、という子はほんの一握りで、かつてのエースが今度は「劣等生」&「エースの引き立て役」、になるのである。開成に我が子を入れたいと思っている親御さんの殆どは、開成中でも我が子はエースのポジションにつく、と思っているかもしれないけれど、これは相対性の問題だから、開成でも学年ビリ、は存在する。逆に成績もトップだけれど小学校でで児童会長をやったりリーダー的な役割をこなしてきた子ならば(そういう子はプライドも高い)、寧ろずっとそのポジションにいられる環境の方が本人もモチベーションが高まり成長する、ということも考えてみたらどうか。女子校は、更に学校によって校風、親の階層が様々なのだから、偏差値だけで第一志望、第二志望、と学校を決めることは、絶対に危険である。「中高一貫」というのは、見方によっては
「6年間そこから逃げることが出来ない牢獄」
なのであるから、その学校が合わなかったら、その子の青春は暗い。そんなことを子供に望む親はいないだろう。


② 子供の心にとって、それまで親や塾の先生と共に「開成(例えば)、絶対合格!」とかけ声をかけてやってきたのに、不合格で別の学校に進学する、というのは、心が分裂してしまわないだろうか。子供なりに、逆に子供だからこそ純真な気持ちで、親の期待もひしひしと感じていただろうし、親の期待を裏切ってしまった、という、持たなくても良い自責の念を持つだろう。そんな気持ちに子供を追いやってしまっていいのだろうか?


③ この不況下、投資に対する効果、ということを考えると、「開成(例えば)に中学から子供を入学させる」というのは、「ペイする」ことかもしれない。それだけの価値はあることかもしれない。しかし、同じ金額をこの先6年間学費として払い込む先が、第二志望、第三志望、の学校だった場合、本当に「ペイする」と親自身が感じることができるか、もう一度考えた方がいいかもしれない。親の思い通りになるかどうかは別として、子供に6年後に進んでほしい大学を漠然とイメージして、そこの大学に都立高校からどれくらい合格しているか、ググってみるといい。都内の国立大学、早慶上智、への合格者数だと都立高校も捨てたものではない。おまけに、都立高校は授業料が年額で13万円かからない、年額である、念のため。


「行きたい私立中学があった。そこに行くために全力で頑張った。でも結果は不合格だった。でも全力で頑張ったのだから、これを励みに公立中学に行って、今度は高校受験で頑張る」

というのが、シンプルで合理的で子供の心にとってもとてもいいと思うのだが、どうだろう?
というか、それこそ15年前くらいまではそういう子も結構いたらしい。

「開成中だけ、もしくは、慶應普通部1校だけ受けて、不合格だったら区立中学に行って、高校入試でまた開成を、慶應塾高を目指す」

といった、受験パターン。今、どこの塾の先生が、このような真っ当な進路指導をしてくれるだろうか?やはり塾はどこまでいっても塾、営利企業でありお商売なのだ。

本当は、これが最も合理的な進路なのである。中学受験と違って、首都圏の私立高校受験は美味しい。大体、中学受験熱の高まりのおかげで、小学校6年生の時の模試における上位層がごっそり抜けている、皆第一志望だけでなく、第二志望、第三志望の私立中学に進学してくれているので。しかも例えば男子校なら、開成高校が募集定員100名(実際には約170名に合格を出している)、海城も巣鴨も城北も桐朋も募集しているし、選択肢は広い。大学付属校だともっと美味しい。早慶のどここかにとにかく入ろうと思うならば、高校受験が一番入りやすいのではないだろうか。定員は多いし、大学受験と違って、全国区ではなく首都圏内だけの戦い(しかも上位層は中学受験で消えている)なのだから。女子の場合は、「高校受験だと受験できる女子校が少ない」という見方もあるけれど、区立中学に通った後、高校生活を送る場所として好んで私立女子高を子供が選ぶかどうか。男子にしたって、区立中学で当然の如く共学で学んだ後、男子校でなく共学を選ぶ、という選択もある。学芸大学附属や筑波大附属、渋幕、都立高校、の共学校だって受験できる。

それから、「私立に行かせたら塾に通わせる必要はない」というのは、もう過去のもの。私立の中高一貫に行っていても、いまや塾(それも複数)に行っている子の方が圧倒的に多いのではないだろうか。私立中学に学費を払うだけでなく、これから大学受験まで塾にもまた延々とお金を払うわけである。そういう諸々のことを考えて、子供の進学先を考えた方がいい。私立に6年間払う学資、生半可な額ではないが、村上龍*1ではないけれど、それと同じ額で色々なことが子供にしてやれる。旅行だってクラシック・コンサートだって留学だって何だって、自分の子供だけのためにカスタマイズしてしてやることができる。


今年、まさに今、合格不合格に直面している中学受験性と保護者にとっては急には今までの考え方を転換させることは難しいかもしれないけれど、来年、再来年受験する子供に関しては、塾に踊らされることなく、

「もし第一志望に不合格になった場合、清々しくしかも子供にとって精神衛生上よろしくてしかも親にとっても経済的に合理性のある身の振り方」

を予め考えておくことは、子供に「勉強しなさい!」とお尻を叩くより優先だと思われる。どんなに優秀な成績をとっている子供でも、受験では「まさかの不合格」はある(これから出てくる今年の入試結果を見たら一目瞭然)。その「万が一」、の時のことを考えてやれるのは、塾の先生ではなく、親しかいないのだから。

*1: