大学受験 「不合格」になった我が子を前にして親の在るべき姿 in 2012 とは?

今年の大学入試の季節も終わりました。


新聞は「合格おめでとう!」と合格者の名前とコメント付きの予備校や塾の広告が花盛り。新聞のチラシも華々しく合格者一覧を載せています。週刊誌もかき入れ時とばかりに「出身高校別大学合格者一覧」を節操なく大きく見出しに載せています。

けれども合格者がいるということは不合格者もいるということです。
子どもの受験が「不合格」という結果になり、そういったマスコミの賑わいを辛い思いで見ている親御さん、今まで子どもの受験を応援してきて報われない結果を突きつけられて気持ちの整理ができない親御さんも多いと思います。

昨年我が家の娘は国立大学を受験して不合格でした。
震災の前日が発表。ショックが収まらない翌朝成績開示の紙が届いたのですが、その午後、震災が起こりました。
去年は特別な年だったとは思いますが、今の時代、不合格のショックは昔に比べて更に大きいのだということを、娘を間近に見ていて思いました。
親の時代にはなかった2chmixitwitterというものがその原因です。リアルタイムで「合格しました!」という友人や知人の報告が携帯に入るのです。合格発表の時だけではありません。合格者がそれからの入学手続きやら、語学の選択やら、どのサークルに入ろうか、とかを語っている全てが流れてくるのです。そして不合格だった受験生はその中で、浪人するにせよ第二志望に進学するにせよ、時を過ごしていかなくてはならないのです。こんな残酷な「不合格」は親の世代ではなかったものです。
思えば昔も「不合格」というものはありました。けれども昔は自分一人の中で受け止めて心の整理をして力を回復してから、合格した友人の吉報に触れたものでした。今という時代はそうではありません。不合格のショックに加えて、情報によってもまた傷つけられるのです、そして多くの親はそれを理解していません。

中学受験における不合格についてのエントリー( 不合格だった受験生のお母様に向けて 「ここが、母の踏ん張りどころです!!!」 )でも書きましたが、一番ショックを受けて傷ついているのは受験生本人です。更に大人に近い年齢である大学受験生は、表面的にはともかく(不合格が全然こたえていないように振る舞ったり、親に強がってみせたりしていても)、いじらしいほど親に申し訳ないと思っているようですよ。突然ですが、大学受験生の親御さんの皆様、Twitter検索なさったことありますか?合格発表の前後、検索をかけてみると、「第一志望落ちちゃって今まで応援してくれたかあちゃんに申し訳ない」とか、「これ以上親に負担はかけられない」「仮面(他大学に入学しつつ、もう一度第一志望を受けること)したいけど、経済的に無理」といった、いじらしい呟き(Tweet)が沢山見受けられました。親御さんがこういった受験生の心、「不合格」という人生初の大ショックを受け止めつつ親を気遣う受験生の心を本当に理解して、温かく接してあげていればよいのですが。

そして更に今は「大学のランキング付け」というものが厳然としてあり、受験生は可哀想なほどそのランキングにとらわれているように感じます。
「昔だって、大学のランキングはあった。」と言う、そこのお父さん!では「Fラン」という言葉をご存知でしょうか?「偏差値」を完全に理解していらっしゃるでしょうか?今年の大学受験期にTwitter上で「偏差値119の男」というアカウントが話題になったことをご存知でしょうか(彼がアップした画像によると、本当に「偏差値119」というものが存在するようですが)?「昔」と言っても色々ありますが、共通一次以前はランキングは曖昧なものでした。詳しくは「「センター試験」雑感 大学入試は今のままでいいのでしょうか?」を読んで頂くとして、今は各予備校が偏差値に基づいて無慈悲に作った大学のランキング表が受験生の頭に叩き込まれているのです。「俺はFランだから」と自嘲する学生がいるのも、「自分の学部の方が偏差値が高い」と同じ大学の他学部の学生を見下す学生がいるのも、全てこの悪しきランキングのせいなのです。今の受験生に、「大学の価値なんて自分で決めるもの」「自分がやりたいことができる大学へ行けばよい」と言っても、「そんなの綺麗事」と片付けられてしまうでしょう。「Fラン」という言葉に象徴されるように、入学した大学のランクは動かし難いものであり、その後の大学生活においても就職活動においても、どんなに頑張ったところで「越えられない壁」があることを既に今の受験生は知ってしまっているのです、情報によって。そのようなランキングがあるからこそ、「不合格」の残念さ無念さも増幅されているような気が私にはします。

そのランキングを作ったのは他でもない塾や予備校ですが、受験制度を含めてそういうシステムを放置してきたのは、これこそ他でもない私たち親世代の大人なのではないでしょうか?「日本の教育はどうあるべきか」ということに関して長らく本格的議論は行われず、政治課題にも上がらず、21世紀を既に10余年過ぎてもガタガタの教育システムです。義務教育である小学校、中学校でさえ、裕福な人々(政治家含む)は公立を選ばず私立を選ぶ風潮が高まり、だからこそ増々「公教育をどうすべきか?」という問題は後回しにされ、小学校、中学校がガタガタなのに「公立高校無償化」という愚策。国立大学の入学試験であるセンター試験でさえ、予備校なしでは回らないというお粗末さ。分数計算ができない大学生がいたり、アルファベットの書き方から教える大学がある、という状況は果たして学生自身の責任なのでしょうか?そして一旦大学に入学してしまったら「敗者復活」という道が殆どない、という、これって自分がその中にいたら悪夢としか思えないような教育システムではないでしょうか?
でも、ずっと放置してきたのです、大人は。


その責任を思う時、そして志望大学に落ち、IT時代の溢れる情報で二度傷ついている我が子を前にした時、もう少しだけ優しく接してあげてください。

「ちっとも勉強しないでゲームばかりやっていたんだから、落ちて当然。少しは反省すればいい。」
ネトゲやっていても大学に受かる子は受かるので、こういうことを言っても本人の反省ややる気を失わせるだけ)


「真面目に塾に通っていた近所の◯◯ちゃんは、ちゃんと国立に通ったらしいわよ。」
(国立>私立、という親(の財布)本位の価値観を押し付けないでください)


「国立落ちて私立になったんだから、バイトはちゃんとしなさいよ。」
(バイトをすることと「国立落ちた」ことをどうして結びつけるのでしょう、何かいいことありますか?)


なんて言葉を可愛い我が子に(あんなに痛い思いして産んだ我が子です←母親限定)不用意に浴びせていらっしゃらないことを願うのみですが。


個々の親御さんも本心は、「何も偏差値が高い大学に受かってほしかった訳じゃない、我が子の努力が報われる結果が出てほしかった。」と思っていらっしゃるのだと思います。よ〜〜〜くわかります。でも結果は出てしまったのです、今はその思いはしまっておいて、あと少しだけ、我が子が「不合格」から立ち直って再び自分の足で歩き始めるまで、我が子を見守り、寄り添ってあげてほしいのです。ていうか、もう自分よりも背が高い我が子にしてやれることはそれくらいしかないことに気がついて寧ろ愕然とするくらいですが。そうなんです、新たな道を選ぶのも、もう親の自分ではなく我が子自身、実際にもがきながらも進んで行くのも我が子自身なのですから。


去年は私自身色々なことを考えました。もし順調に合格していたらそんなことは考えなかったでしょう。どころか、「娘はあんなに頑張ったんだから合格して当然」と思っていたかも、いえ、きっと思っていたでしょう。そういう意味でも、恥ずかしながら私も娘の経験を通して教えられたことが多々ありました。
去年、娘が不合格になった大学に合格した受験生たちが、「受験勉強に使った参考書や問題集」の一覧やら「自分がやった勉強法」やらををTwitterなどに公開しているのを見ながら娘が言っていました。
「もし私があと◯点とっていたら私の参考書も『合格した人の参考書』になってて、『合格した人の勉強法』になって、mixi やらTwitterやらに書いてたんだって思うと、何だかそういうことがつまらないことに思えてきた、私がやってきたことには変わりないんだから。」
と。そうなんですよね、頑張ったことに関しては「合格」も「不合格」も関係ないのです、ただ「結果」が異なるだけなのです。今まで知り合いのお子さんの受験の「結果」だけで判断していた私は何と愚かだったことか。
今年、浪人していた娘の友人たちの結果も悲喜こもごもでした。浪人して第一志望に合格した人もいれば、不合格の人もいました。きっとそのショックは現役での「不合格」よりも更に大きくて心の整理にも時間がかかると思うと、胸が痛みます。今年現役で不合格で、捲土重来を期して一浪を決めた受験生の親御さんに申し上げたいのですが、浪人して合格することもあればそうでないこともあります、だから「浪人したから来年は合格」とは逆に思わないでください。そうでない時には、受験生本人は現役の時よりも更にショックを受けるリスクがある、ということを、親だから、親だからこそ考えておかなくてはならないと思います(予備校の先生はイケイケドンドンのお商売ですから、そんなことは考えてもくれません)。


けれどもこの「不合格」という経験、正確に言うと、「不合格」から立ち直って新たに一歩を踏み出す経験は人生において必ずや力になると思います。たった3年後、このお先真っ暗な時代の「就活」が彼らには待っています。大学入試で努力が報われて「合格」という結果を出した学生でも、「お祈りメール」*1を山ほど貰うかもしれません。「努力が報われない」経験を「就活」で初めてする学生もいることでしょう。また就職してからだって、山あり谷ありが人生です。そういう事に思いを巡らす時、「転んでも立ち上がる」力、いえいえ「転んでもタダじゃ起きない」力をまさに今、身につけている我が子を応援しなくては!


子どもが巣立つ日までもうそんなに日はないのですから、暫くは子どもが「転んでもタダじゃ起きない」逞しさを身につけるのを見守りませんか?あと少しの「親業」です、大学受験の「不合格」なんかで生まれてきてから今までの親子関係をぶち壊しにしたりしないで、「親業」に専念しましょう。欧米人ならば幾つになっても子どもをハグして「I love you!」を連発すればよいのですが、シャイな日本の親はハグも出来ず「愛してるよ」と言えなくても、子どもを理解して見守り、そして子どもが進む大学に喜んで学費を払いましょう!!!・・・学費を払い終わって子育てが終わった時に、果たして私たちは年金がちゃんと貰えるのか、は、また別の問題ですが・・・。

*1:http://dic.nicovideo.jp/a/お祈りメール