猛暑の日々に思い出す「エアコンの無い世界、ドイツ」

連日の猛暑でいよいよ地球も終わりも近い、という感もあるここ一週間の日本ですが、ドイツで3年暮らして実感したのは
日本はエアコンという逃げ場があるだけマシ、ということです。
一般にヨーロッパは日本よりは夏も涼しいと思われていますが、ここ10年くらいは数年毎に猛暑にやられています。
記憶に新しいのは、2003年の猛暑でしょう。ヨーロッパ、特にフランスでお年寄りが14,000人も熱中症で亡くなった猛暑です。フランスほどは猛暑が続かなかったとはいえドイツでも7,000人が亡くなっています。ひと夏でこの数字は驚くべきことですが、これは「水分補給を個人で心がける」というレベルではなく、もっと構造的な問題だということで、それは実際に住んでみて体感しました。

フツーの家庭にはエアコンがない

ことが唯一にして最大の原因だと思います。ドイツ滞在3年の間、色々なお宅にお邪魔する機会がありましたが、「エアコンがある家」というのは一軒もありませんでした。というか、住居としては一般的なマンションのような中層のWohnugを外から見ても室外機や配管など、見かけたことすらありません。大体、電気屋さんにエアコン売っていないと思います。
では、エアコン無き世界で人類はどうやって猛暑を凌ぐのか?
2006年の夏は2003年ほどではなかったにせよ、7月末のドイツは連日37度の猛暑の日が続きました。それをエアコン無しでどう乗り切ったかというと・・・それは穴熊』生活でした。


穴熊』生活とは、普通の家庭でエアコンを付けている家は全くない、と言ってもよいドイツ(もしくはヨーロッパ)での、猛暑対策のことです。
先ず、朝起きると家中の全ての窓をしっかりと閉めます。南側はカーテン、ブラインド、シャッターもしっかりと下ろします。少しでも照り返しの熱を防ぐためです。で、日中、絶対に窓を開けることなくひっそりと暮らすのです、穴熊さんみたいに。一度窓を開けたら最後、外の熱風が家の中に入ってきて、穴熊さん逃げ場がなくなります。夜の間に家の中に溜め込んだ冷えた空気で、猛暑の日中を乗り切るのです。日本の猛暑との最大の違いは、良いのか悪いのかわかりませんが、「湿度は低い」ということです。湿度が低いと、オーブンの中にいるような感じではありますが、汗でべたべたになって消耗する、ということはありません。汗をかいてもかいた瞬間乾いていく感じです。ところで家の中でも涼しいのは、Keller(ケラー)と呼ばれる地下室です。一軒家じゃなくても、日本で言うテラスハウスのようなReihenhausでは必ず地下室がありますが、地下は確かに涼しいです。そこにテレビなどを置いて、日中を過ごす人もいます。かく言う我が家も、DVDプレイヤーを持ち込んで日中はそこに籠っていました。だって「エアコンがない」ということは、窓を閉め切った室内で(開けていたら熱風が吹き込んできて大変なことになります)家中どこに行ってもぬるま湯に浸かっているような感じなのですが、唯一ほんの少しの冷気を感じることができるのが、Kellerこと地下室なのです。
そして夕方5時くらいになったら、穴熊さん、のっそりと穴から這い出て、庭に水をじゃんじゃん撒き始めます。ご近所の大抵の家は水圧で自動的にスプリンクラーになる水撒き機を芝生に突き刺して水を撒きまくっています。この年イギリスは猛暑の上に水不足で地域によっては庭に水を撒くことは禁止されたようですが、水量豊富なライン川のおかげか、幸いにもたっぷり撒いてもドイツでは何のお咎めもありませんでした。芝生に突き刺した位置を1時間ごとに少しずつ変えて、満遍なく水がたっぷりいきわたるように撒きます。最高に暑かった数日間は、私は家の屋根、壁、にもじゃんじゃん水を撒きました、気化熱で少しでも涼しくなるように。
水を撒いている時点では、まだまだ外気の方が気温が高いので、窓は締め切ったままです。カーテンとブラインドは太陽の照り返しがなくなる夕方になって初めて開けます、いつもと反対。
日没はこの時期夜10時頃なのですが、まだ安心はできません。12時前くらいになって、すこおし窓を開けて、外気の方がす涼しくなっているのを確かめて初めて窓を開けます。防犯用にシャッター(といってもブラインドのように風が通る隙間があってそこから風は入る)がついている窓のみを一晩中開けておくわけです。日本だと猛暑の時期は「熱帯夜」で真夜中でも25℃から気温が下がらなかったりしますが、ヨーロッパではどんなに猛暑の日でも、真夜中から明け方にかけては「高原の涼しさ」になるので、朝起きたときには嘘のようにまるで高原のようにひんやりした冷気が家中に満ち満ちています。穴熊さん、この時間帯が一番好きです。でも悲しいことに、また穴に籠もる一日が始まるのです・・・以下繰り返し・・・


我が家は一軒家で地下室があったので何とか乗り切れましたが、マンションのような集合住宅に住んでいる知り合いは、「温風を掻き回す扇風機(エアコンどころかこれがある家さえ珍しい!)とアイスノン(のようなもの)だけで乗り切った」らしいです。あとちなみに、最新のものを除くとオフィスビルにもエアコンないです。信じられないでしょう?デパートは辛うじて冷房が効いていますが、一般商店は勿論エアコンなどなく入り口のドアを開け放っているのみ。この年この時期に、私は何をとち狂ったのか、市がやっているカルチャーセンターのようなところで、英語とフランス語の講座をとっていたのですが、勿論ここにもエアコンはありませんでした。受講者は皆、机の上に、ガス入りの水か炭酸飲料の1,8ℓペットボトル

を、どんっ!と置いて授業を受けるのです(元々こういう場でも「飲み食い自由」がドイツですけどね)。ちなみにドイツでは飲み物が、日本の様に「きんきんに冷えて売っている」ということはありません。せいぜい牛乳売り場くらいの温度ですか?大抵は常温にて売っています。暑くて乾燥している時に、生温い飲み物は飲めないはずなのですが、それが炭酸だと飲めるのです、水でもソフトドリンクでも。日本ではコーラなぞ飲まない私ですが、この年の夏はどれだけコーラやビターレモンやショルレ(Schorle)を飲んだかしれません。



さて、オフィスには冷房がなく、あっそれから地下鉄とかにも冷房はありません。これはパリのメトロもそうでしたね,
今現在もないみたいですが、2005年の7月にパリに行った時、地下鉄の余りの暑さに、「これで2012年のオリンピック開催地に立候補したなんて図々しいにもほどがある!」と友人と毒づいていたのですが(日本語で)、実は2012年のオリンピック開催地ロンドンの地下鉄にも冷房はないのですよ、嘗ての丸ノ内線や銀座線のように。こんな有り様だと、暑さに対する市民の怒りが爆発して、もう一度フランス革命とか清教徒革命とか起こってもよさそうなものですが、何故革命も起こらなければ、オフィスや地下鉄や家庭の冷房化が起こらないのでしょうか?それは、

バカンス(ドイツ語ではUrlaub)の季節で、皆どこかに出かけていて、都会にもオフィスにもいないから

なのです。2003年のフランスの猛暑の時も閣僚たちはパリにいなくて皆それぞれ山や海でヴァカンスを楽しんでいたので対応が遅れたということです。閣僚なんかじゃなくても、一般の市井の人々もそもそもこの時期に自宅にいないのです。働いていないのです。のんびりヴァカンスの時期なのです。だから、年にせいぜい一週間から10日そこらの「猛暑」ならば、エアコンを買う気にもなれないし、オフィスや地下鉄に冷房を入れる気にもならないのでしょう。

翻って日本はどうでしょう?この暑さの中クールビズとはいえ、ワイシャツにズボンはいて電車に乗って働きに行かなくてはならないから、この猛暑はこたえます。これが、山の中の温泉宿で、海辺の民宿で、のんびり過ごすのなら、また暑さの感じ方も違うのではないでしょうか?勿論異常な暑さです。けれども、暑いのにオフィスで仕事をするから、どのビルも空調全開、地下鉄もレストランもデパートも全て冷房がんがんにしてますから、その分の熱気が放出されます。子供たちも、小学校お受験する子たちにとっては夏は天王山、冷房が効いたお教室で最後の追い込みですし、今や小学校低学年から夏休みも塾通い。高校受験する中学生も、大学受験する高校生も、皆冷房の中でお勉強です。塾はどこも競うように冷房効かせてます。勿論熱を放出しまくっています。外が暑いので、食料品を扱うお店、スーパーは更に店内を冷やしています。そしてまた熱が排出され、ますます都会は暑くなります。皆が皆、都会を人間が住めないくらいの炎熱地獄にどんどんしているようです。どこかおかしいです。都会に暮らす人口の半分、せめて3分の1でもこの時期に、都会を脱出すれば、都会に残って仕事する人にとっても少しは快適になるのですけどね(お盆の時期のオフィス街のように)。
7月下旬から8月中旬まで、仕事も塾通いも全て中断して都会を離れて、どこかエアコンがなくても過ごせるところに出かける、というのはどうでしょうか?それも有名観光地などに一泊や二泊滞在するのではなく、山でもいい海でもいい、普段は「過疎の村」とか「限界集落」と呼ばれているようなところに少なくとも一週間エアコンなしで暮らせるところに滞在する、という、猛暑対処法というか夏の過ごし方があってもいいのではないでしょうか。一週間から10日ならば、マクドナルドがなくてもコンビニのお世話にならなくても生きていけるでしょう。受け入れ側も、都会の住人が夏の間に落とすお金が、当てになる現金収入になったら、地域の活性化(余りの常套句で恥ずかしい)になるのでは?

ヨーロッパの2003年の猛暑の後、次々と日本の空調メーカーがヨーロッパに進出したそうです。現にドイツの我が家にも、日本人家庭をターゲットにしたのでしょうか、家庭用エアコンのダイレクトメールが送られてきました。企業としてみると、俗にいう「ビジネスチャンス」ですか?でも、ヨーロッパ人が、日本のように各家庭でエアコンを使い始めたら、どうなることか?日本だって以前は「クーラーは一家に一台」の時代もあったのです。「子供部屋にクーラー」なんてありえませんでした。でも今は、「一部屋に一台」ではないでしょうか?その調子で、ヨーロッパでもエアコンが普及し、そしてもっとコワいのは、中国やインドで「一家に一台」のみならず「一部屋に一台」エアコンが普及した日には、排出される熱で地球はどうなってしまうのか?はい、勿論これは先進国のエゴですね。


今、マンションの5階に住んでいるのですが、日中は暑い暑いと言いつつエアコンを付けずに暮らしている原始人の私です。が、気温が下がるはずの夜は逆にエアコン無しでは過ごせません。原始人とは違って、冷房の効いたオフィスから真逆の炎熱地獄を通って満員の電車に乗って汗だくで帰宅する夫と、同じくカーディガンを着ていても身体が冷えきってしまう予備校の自習室から熱風の吹く道を帰ってくる娘を迎える我が家だけでも、夜はエアコンが2台夜通し稼働しています。このマンションだけで各戸の各部屋の数の分のエアコンが稼働しているわけで、そのせいか熱気というかもはや熱風がマンションの壁伝いに流れているような感じで、窓すら開けられないほどの「熱帯夜」です。

これって、

どこかおかしい!

気候の変動や異常気象は変えることはできなくても、夏の一番暑い時期の過ごし方は変える余地があるのでは?と思いつつ、ヴァカンスに出かけなくても夏は過ぎて行くのが日本かもしれません。