そろそろH&Mは下層対象のブランドだと言っておこうか。

この「そろそろ〜○○と言っておこうか」係り結びを一度使ってみたかったのだが、先ず下のリンク先の地図を見てほしい。
http://www.hm.com/de/unseregeschfte__storelocatorhtml.nhtml#
そして「Suche」(検索)のボタンをクリックしてほしい。この赤いタグが全てH&Mドイツ国内のショップを表している。
最後のタグの番号は「348」。言うまでもなく、
ドイツ国内にH&Mが348軒ある」
ということです。セレブなブランドならば、一国内にこれだけの店舗は構えはしまい。
私が住んでいたデュッセルドルフには2004年に既に3軒あり、この2004年はGAPがドイツから撤退した年なのだが、他のドイツのショップと同様、デュッセルドルフのGAPの店舗はH&Mになり、現在は更に南部の駅近くの再開発ショッピングセンターの中と、市内一番の目抜き通りにも新しく開店したので、合計6軒!もある。
余談だが、決してファッションに詳しくない我が夫は、ドイツに行った当初、至る所に「H&M」の看板があり、ショップの袋を持った人が歩いているのを見て、ずっと、

「モリ・ハナエ、って、ヨーロッパでスゴく売れてるんだなあ。」

と感心していたんですと。そういえば、頭文字は「H&M」で一緒。

デュッセルドルフ自体、州都ではあるが、人口はたかだか59万人くらいで日本でいうと、船橋市、八王子市、あたり。ここに6軒もあるのだから。
もうこれだけで、日本におけるH&Mのポジションが変だ、ということは言わずもがなだと思う。「何時間も列を作って並んで入店するような店」では決してないのである。
H&M
原宿店

や銀座店


や横浜店

の開店に人が並ぶ光景なんて、恥ずかしくて恥ずかしくて。どうぞその映像がヨーロッパに配信されてませんように、いや既にされてるか。

そうやって「素敵な光り輝くH&M」に行列した善男善女の皆様に是非お届けしたい、

H&Mが下層ブランドである理由。

1.その圧倒的物量。日本のショップだと感じないが、ドイツのH&Mの店内は、例えばハンガーラックでもハンガーにかかった服が取り出せない程ぎっしりとハンガーが詰まっている。同じデザインのものでも色違い、サイズ違いがそれこそこれでもかこれでもかとぎっしり並んでいる。そこにあるのは、「ハイソなブランド」ではなく、とにかく物量を以て勝負、という姿勢。

2.幅広いサイズ展開。ドイツで或る日私はパン屋で並んでいた。私の前の若い女性は、たまにドイツで見かけるのだがとにかくそびえる岩のように巨大な女性だった。「こんな大きなサイズのジーンズ売ってるんだ、日本でもお相撲さん用のお店があるらしいし。」とか考えながらその女性の大きな壁のような後ろ姿をぼんやり眺めていた私だが、彼女が着ているカーディガンに目が移って一瞬の間の後に絶句した。というのは、パン屋に出かける前まで私が家で着ていたカーディガンと全く同じものだったから!H&Mで確か19euroくらいでお買い上げのモヘアっぽいインクブルーのカーディガン。彼女が着ているものはどう見ても、毛糸使用量が私のサイズの2倍はありそうだったけど。事程左様に、H&Mにおける幅広いサイズ展開、というのは凄まじい。H&Mのドイツ向けonline shop*1を見てみると、下は32号から上は実に58号。日本人女性の9号が、この一番下の32号ですからね(ウエスト60cm、バスト76cm)、58号とはウエスト120cm,バスト140cmであるということは、これだけの幅の女性を対象にしているということであり、これは言うまでもなく、小さい方も大きい方も、アングロサクソンの平均的体型の女性では実はなく、小さい方はトルコなどからの移民の女性(アジア系は少ないので)、大きい方はポーランドなどの東ヨーロッパ系からの移民の女性向き、ということだと了解される。そう、移民向けのブランドなのである。

3.ドイツのH&Mに行くと、もう皆必死で商品を選んで、山のように抱えて試着室へ向かう情景が見られる。で一度に何点も(10点以上レジで買っている人もざら)お買い上げなのだが、日本と少し違うのは、例えばレジに5人お客が並んでいるとして、割合としてそのうちのそう2人は返品で並んでいる、ということだ。下層のお客は沢山買ってくれるけれども、返品も多いのである。返品された山のような商品をまた店員がそれぞれの売り場に戻している。合理的と言えば合理的なのだが、極東の奥ゆかしい国から来た身には抵抗感は、ある。「買っても必要のないものは返せばいい」「返品された商品はまた売ればいい」ということなのだろうが、お客もお客だが店側もいともたやすく返品に応じてくれる、殆ど機械的に。勿論未使用でタグが付いていることとレシートがあることが条件だが、店にかかっている商品の中には「試着したくらいでこんなに香水(もしくは体臭)が服につくもの?」と思うくらい、臭うものもあることからして、使用してから返品(何せ27日以内返品OKだから)したものもあるのではないかと私は疑ったこともあるけど。「後で返品できるという変な安心感で沢山買ってしまう」お客と「返品自由でとにかく沢山買わせる」店側の思惑が一致、ということ。

4.横浜のH&Mにはコドモ服もあるということだが、ドイツでH&Mを着ている子供は、はっきり言って下層。我が家も最初は日本にないデザインが珍しいのと、とにかく商品の量が多くて安いので、「下層」が陥る落とし穴=「安いから沢山買える嬉しさ」にハマって娘にと買っていたのだが、そのうちにインターでH&Mを着ていると馬鹿にされる、というか、「あ、それH&Mね」と言われる言われ方に、或る種感じるものがムスメでもあったらしく、買わなくなった。まあ、トドラーというよちよち歩きのサイズから大人同然の16歳サイズまでの服が同一デザインでだーっとあるわけで、例えばカワイイと思ったTシャツを着ていたら、電車でよちよち歩きの子が同じものを着ていた、というような、「同じものを誰かが着ている確率」が高くなるわけで。お嬢ちゃまお坊ちゃま向けでは全くない。


というようなことが、H&Mの日本以外での本当の姿ではないだろうか。
で、「下層」なんて言ったが、ヨーロッパでは私も立派な「下層」で、H&Mで買った服は今でもクローゼットの中の大きな部分を占めている。日本で言うところの「格差」とはまた全く違った、自分ではどうしようもない「格差」、言い直せば「階級」というものがまだドイツでも厳然としてあり、その意味ではいくら経済大国日本からの駐在員でも「下層」であることは自明であり、またH&Mは決して「階級の上層を狙ったブランド」では、ない。

でも、ドイツのH&Mで、ごった返すH&Mのセールで見回したところただ一人のアジア人として必死で洋服をあさったり、トルコ人やらポーランド人らしき人々に混じってレジの列に並ぶのは楽しかったかも。


ユニクロや無印より遥かにお洒落であることは確かだし。