勝間氏とひろゆき氏の対談を見て、雑感 ひろゆき氏の議論の巧みさについて

勝間さんのすごさと、残念な日本のWEB
↑のモトログ氏の意見に共感して、勝間氏について書いてみた(勝間和代をバッシングするような世の中になったら、日本もお終い 碧(あお)い日記)のだが、今度はひろゆき氏について書いてみたい。
ひろゆき氏の発言は、それが無意識にか意識的にかは別として、もの凄く巧みに効果を計算されたものだったと思う。

発言だけでなく、先ず視覚に訴えるというところからしひろゆき氏は最初から1本とっていた。これはひろゆき氏にとっては「敵失」だけれども、勝間氏の黒い革の襟なしジャケットに黒のインナーの組み合わせはスタイリストの大失敗だと思う。いかにも「悪役」「ダースベーダーに見えてしまう。カジュアルで明るい色でそれでいてお馬鹿及びオバサンに見えないコーディネートはなかったのか?と思う。それに彼女は腕や手のボディーランゲージも派手に使って議論しているのに対して、ひろゆき氏は目立たない服装、両肩を落とし手はテーブルの下でいかにも「従順」な印象。二人のこの絵を見ただけで、攻撃=勝間、守備=ひろゆき、は明らかで、野球でも芸能ゴシップでも何故か判官びいきなのが日本人なのだから、これだけで、もうひろゆき氏の作戦のあらかたは成功したようなものだった。

二人の対談を何度か見直してみると(もう今はどこも削除されてしまったようだが)、相手を挑発しているのは、ぼんぼん議論をふっかけている勝間氏ではなく、実はひろゆき氏だということがわかる。勝間氏の問いかけが終わらないうちに、「はいはいはい」とひろゆき氏。これをされると大抵の人はいらっとくるはず。また「はい、いいえ、で答えてください。はい、いいえ、のどちらですか?」と畳み掛けるところなどは、確信犯かも。勿論その挑発に乗ってしまう勝間氏も意外にまだまだ若くて熱い人みたいだけど。

聞いていて、一番問題だと思ったのは、今の現状に恵まれていない若い人たちが、ひろゆき氏が自分たちの代弁者、自分たちのヒーローみたいに錯覚すること。

私自身がひろゆき氏について知っていることは、巨大掲示板ひろゆき氏個人の掲示板だった、というがその真偽は?)2chの設立者であり元管理人である、ということと、その掲示板絡みの訴訟で一切裁判に出廷しない、賠償金も払わない人物である、ということくらいだったけれども、今回改めてちょっと検索しただけで、裏読みするまでもなく、彼は決して「若者の側」ではないことがわかる。
どうやらひろゆき氏は、もしかしたら勝間氏以上の年収があり、会社を幾つも持ち(議論の中では「ペーパーカンパニーとして細々やってますよ」とのことだったが)、それも学生時代に起業したものもあり、また企業や団体は勿論、怪しい筋の人が欲しい情報を貯め込んでいる人、ということもわかる。
若い人たちには、そういう彼の実態を踏まえて、彼の発言を聞いてほしいものである。

そして、ひろゆき氏の発言の中身には、巧みに事実が誤摩化されているものが多いのである。
例えば勝間氏が「日本人の幸福度が低い」と言ったのにひろゆき氏が反論して、「日本は現在既にとてもいい国である」ということを強弁し、「このままの日本ではいけない、もっといい国にしなくては」と意気込む勝間氏をまたしてもイラつかせるのだが、例えば、下記のように彼は言うのだ。

「10代の人が携帯電話持ってバイトして10万くらいのバッグ持ってるって、他の国ではありえないじゃないですか?」
「女の子が夜中の12時くらいに町を歩いていても襲われないじゃないですか?」
「(日本は)水と安全が確保されていて・・・」

全てとっても解りやすい発言なのだけど、そもそも、「10代の人が持っている携帯」とは、お父さんお母さんが買ってくれたものであるだろうし、携帯料金も同じくお父さんお母さんが払ってくれているのだろう。それにはお父さんお母さんが安定した収入を得ることができる産業に従事していることが大前提なのだ。そしてバイト代を「10万くらいのバッグ」につぎ込めるのも、住むところや食べ物の心配がないからこそ!「夜中の12時くらいに町を歩いていても安全」というのも同じ。不況不況といっても今の日本はまだ「働いてお給料もらっている人」が大多数なのである。仕事がない大人の男が昼間からやることもないのに街角に集まって所在なげに煙草を吹かしているような国や地域は、夜中の12時どころか昼間でも人通りが少ないところは危ない!大人の男たちが、仕事があって仕事に忙殺され給料で養える奥さんもいる、という状態だと、「女の子を襲う」というところまでなかなかいかないわけで、今の日本はかろうじてそのレベルはクリアしているというだけなのである。最後の「水と安全」というのも、コストがかかっているのを無視している。水は水道というインフラを維持できるだけの財政力がなければ確保できないわけだし、安全も前述の「女の子が襲われない」レベルの社会であり、且つ、安全にもそれを維持する財政力が必要なことは明らか。


つまり、ひろゆき氏の「日本がジンバブエを始め、飢餓や貧困が残り治安も悪い国に比べて、既に遥かに幸せな国なのであるから、幸福度を上げなくてもよい」という主張も、それは今刹那の砂上の楼閣であり、このまま日本のじり貧が続けば、「10代の子が携帯を持つ」ことも「バイト代で10万くらいのバッグを買う」ことも「襲われることなく夜中の12 時に歌舞伎町を歩く」ことも「水と安全はデフォルトである」ことも、全て不可能になるのである。つまり最低でも今の状態を未来永劫続けたいと思うのならば、産業や経済のレベルを維持しなくてはならないことを、わかっていてわざと語らないのか、本当にわかっていないのか、はわからないが、とにかく議論の中で示してはいない。

またこういう発言もあった。
「世界トップレベルで幸せにならないといけないんですか?」
この蓮舫もどきの発言はまさに民主党寄りの考え方だと思うのだが、一方で、
「年取っている人が社会経験もあってお金も持っているわけじゃないですか。年取った人が起業すればいいんで何で若い人に起業させたいのかがわからない。」
「大企業は優秀ですから。」
と今度は、自民党森喜朗元総理大臣(1937年生まれ)や「参議院のドン」こと青木幹男参議院議員(1934年生まれ)が手を叩いて喜びそうな発言。勝間氏がころころ勝手に話題を変えて「議論のための議論」をしているように見えたことは事実だけれども、ひろゆき氏もどうしてどうして、「為にする議論」に巧みである。

それからひろゆき氏の上手さに唸ってしまった発言もあった。もしかしたらひろゆき氏は、政治家になって演説をさせたら意外に大衆の心を鷲掴み!というタイプかもしてない、曰く、

「大企業も新商品出してますよ。ポッキーとか毎年変わっているじゃないですか?」
「シャネルのデザイナーが誰かわかってなくて買ってるじゃないですか?」

ポッキーという卑近な例と、シャネルという高級ブランドを両方出してくるところが巧み。
「ネットの匿名性」や「国民の幸福度を上げるために若者の雇用促進」といった議論にさえついていけない若者でも、「ポッキー」と聞いたら自分もわかった気になり俄然ひろゆき氏に親近感を抱くだろうし、「シャネル」という単語は同じ効果をDQNの女の子に及ぼすだろう。勝間氏はこの辺のところがまだまだ下手である。小泉元総理大臣がこの大衆心理を知り尽くしていたようだが、「総理大臣がX JAPANを聞く」「ラルフローレンのシャツを着る」というのと同じ効果を及ぼすことをひろゆき氏が言っていることに、私は感動すら覚える。
でも、一言付け加えると、ポッキーを製造しているグリコという会社は現社長の父親が、牡蠣からグリコーゲンを取り出してキャラメルに入れる、という画期的発想を得て起業したベンチャー企業である。シャネルだって、ご存知の通り、ココ・シャネルという一女性が文字通り身一つゼロから築いたブランドである。勿論、日本の今の大企業も、それぞれ創成期は若者が起こしたベンチャーであったのだ。

本来ならば、若者が誰しも賛成するであろう「起業しやすい日本にしよう」とか「起業して経済を活性化して幸福度を上げよう」という提案を、一見自然体を装って変質させる芸風、が、ひろゆきと解釈すればいいのだろうか。

最後にひろゆき氏の議論のやり方を見ていて、すごく既視感があって、それが何だったのか暫く思い出せなかったのだが、やっと思い出したことを書いておく。それはその昔、オウム真理教の広報部長で今はアレフを経て「光の輪」の代表である上祐氏、である。当時「ああいえばじょうゆう」と言われた彼の議論のやり方とすごく印象が似てるかも、と思ったことであった。

そしてこれはおまけ的なことだけれども、勝間氏とひろゆき氏の対談を見てから、まだまだひろゆき氏に歯が立たない勝間氏の代わりにこのリングの上に上げるとしたら、誰だろう?と考えているのだけれど、なかなか思い浮かばない。
守備範囲を無視しても、議論が仕事である政治家の中で、ひろゆき氏に対抗できる老練なディベーターは?と考えてみると、勿論我が総理大臣ではないのだが、では、与党民主党にいるだろうか?枝野氏、前原氏も、沸点が低そうなので勝間氏と同じ運命を辿りそうだし、強弁の猛者、といえば亀井静香氏?彼ならばかなりのところまでひろゆき氏と対抗できると思うけれども、視聴者の共感は得られまい。私は国会中継、中でも予算委員会の中継をよく見るのだけれど、意外に自民党のベテラン議員、伊吹氏、町村氏、離党した与謝野氏等は、「議論」が上手いのである。でもこの3人を束にしてもひろゆき氏相手だと負けそうである。では、ジャーナリストの中にいるか、と言えば、これもまた思いつかない。男性ニュースキャスターなど全員1分ももたないだろう。かろうじて思い浮かぶのは、NHKクローズアップ現代」の国谷裕子氏。彼女の冷静で落ち着いた議論ならば、ひろゆき氏が馬脚を表すかも?

それから、もう一つ自明なことは、今回のような討論番組を皆求めているのではないか、ということである。「言葉で説明する」「言葉で説得する」ということが今とても重要になってきているから。普天間の問題も、小沢さんと首相のお金の問題も、全てそうであって、「言葉で説明や説得ができない者は去れ!」ということかもしれない。