神無き国のクリスマス&神在る国のお正月


去年のクリスマスイブのイブ、即ち23日から東南アジアはタイに出張に行っていた夫が、降誕祭の朝、即ち25日に帰国して言ったことには、

「南国タイでもデパートや商店ではクリスマスツリーやなんかで飾ってじゃんじゃんクリスマスやっているのは日本と同じなんだが、クリスマスツリーの横に托鉢僧がいたりすると、すんごい違和感なんだよな。」

私はそれと同レベルの違和感を、お正月用品とクリスマス用品が平然と混在する日本のスーパーで一ヶ月の長きに渡って味わってますってば!



何故キリスト教徒でもないのに、日本人樅の木(つまりクリスマスツリー)飾るんでしょう?
何故、クリスマスには日本国民こぞってチキンを食べなくてはならないの?
それも町の肉屋でもスーパーでもはたまたファストフード店でも「クリスマスにはチキン」の大合唱!
近所の某◯ンタッキーのお店に張ってあったクリスマスのチキン予約販促(?)ポスターに笑ってしまったのですが、◯ンタッキーによると、

・12月23日は「ホリデークリスマス」(「ホリデー」ってもしかして天皇誕生日のこと?)家族みんなでチキンでパーティー
・24日は「クリスマス・イブ」恋人同士でチキンで乾杯
・25日は「クリスマス」友人とチキンでわいわい盛り上がろう

まさに「裁きの日は近い」感がしてきました・・・


スーパーでは、「クリスマス用」として、生ハムやらフランスからの直輸入チーズやらテリーヌやらパテやらスモークサーモンやらフランスパンやら生チョコやら売ってるんですけど、これのどこが「クリスマス用」なんでしょう?キリスト教徒、クリスマスにこんなもの食べませんよ、てか欧米人が日常的に食するものなんじゃないでしょうか?こういうところが、悲しき日本人です。

しかし同じアジアの隣国である韓国は日本と違って十分にクリスマスを祝っていいのですよ。知る人ぞ知る(?)ですが、韓国の最大宗教はキリスト教で人口の三分の一がクリスチャンです(例の怪しげな教祖様の宗教ではなく、ホンモノのプロテスタントカトリックで)。
ですから、毎年12月に町中がクリスマス一色になり、彼らがクリスマスを祝い、教会で結婚式を挙げても当然です。
然るに、対して日本におけるキリスト教徒の数は、仏教&神道の足下の足下にも及ばない数なのですから*1、これだけ国を挙げて、ツリーを飾りチキンを食べプレゼントをばらまきフランス料理を食べホテルはカップルでいっぱいで一部の民衆の怨嗟によりリア充が爆発している日本の情景は、どうなんでしょう?


という疑問を抱いてしまうのは、やはり数年ドイツで生活したからでしょうか。
私も嘗ては筋金入りのキリスト教徒(夫の実家は浄土真宗、私の実家は神道)のクリスマス厨だったのですけど、キリスト教徒が大多数を占める異国(ドイツ)で暮らして、私の内なるナショナリズムが目を覚まし(?)、一挙にクリスマスが厨が冷めた、という訳です。
ドイツに知り合ったユダヤ人の家では、これっぽっちもクリスマスを伺わせるようなものはありませんし、子供同士が交換するプレゼントに付いたカードさえ、「クリスマスカード」ではなくて普通の「グリーティングカード」なんですよ。「意地でもクリスマスを無視」という気概さえ感じました。
トルコ人も家も同じくで、ツリーもなければチキンも食べないしましてやリア充爆発していません。
ところが韓国人の友人は、勿論日頃から毎週日曜日教会に行く人なのですが、クリスチャンなのですから当然クリスマスを祝い、クリスマスのミサにも出かけていくわけです。
そういうのを目の当たりに見ていると、日本国内では哲学的なことなどこれっぽっちも考えたことがなくても、「私は誰?」ということになってくるわけです、またドイツ人の素直過ぎる質問攻勢

「何故、日本人は仏教徒(ドイツ人はそう信じている)なのに、クリスマスを祝うのか?」

に辟易した、ということもあり、大八州に帰国後私のクリスマス熱はすっかり冷めてしまったのです。

さてでは、クリスマスの本場?と言ってもよいドイツにおけるクリスマスですが、クリスマスにはそれはそれは力が入っていて、一ヶ月前から町中のあちこちの広場でクリスマスマルクトという、クリスマス用品と「グリュー」というホットワイン(日本人にはスパイスがキツ過ぎてはっきり言って超マズい)や毎度お馴染み、いも、ソーセージ、焼き栗などを売るお店がそれはそれは盛大に出ています。そのクリスマスマルクトは日曜には未だに商店が閉店しているという(←享楽的な日本人には信じられない話ですが)ドイツにしては珍しく日曜日もやっていて、どちらかというと子供より寧ろオトナが嬉しそうに、厳寒の戸外で(気温は日中でも零度前後だったりする)買い物をしたり昼間っからグリューやビールをぐびぐび飲みながら(これはいつものこと)大量に何か食べてる(本当に食べることが好きな国民です、フランスやイタリアなどの食通の国とは違った意味で)のです。
しかし驚いた事に!24日の、日本でいえば「クリスマス・イヴ」の朝には、ないっ!ないっ!昨日まであった、マルクトの屋台(日本のテントの屋台と違って屋台といえどもドイツ人らしく頑丈に作ってあったりするのですが)も、クリスマスマルクトを鮮やかに飾っていた電飾付きの大きなクリスマスツリーもないっ!クリスマスマルクト全体が神隠(ここにおける「神」は天狗なのか?)に遭ったかのように何もないいつもの広場に戻っているのです!どうやら前夜撤去した模様です。ドイツ人の力業を以てすれば、秀吉の一夜城の逆くらい簡単なことなのです。
しかし一体全体どうしてなのでしょう?貴方達ドイツ人が人生賭けてるクリスマス(実はカーニバルにも人生賭けている)は明日じゃないの?何で前日に全て片付けちゃうの?とびっくりしてしまうわけです、事情を知らない日本人。
後日ドイツ人に聞いたところ、それはこういうことらしいです。クリスマスは故郷に帰って家族で祝うため、マルクトをやっていたテキ屋さんたちも前夜全て店じまいして24日の朝には帰省列車に乗り込んでいる、というわけで、テレビでも帰省ラッシュらしい光景を映してました。日本のテキ屋さんたちはお正月三が日が勝負なんですけど。いやぁ〜、お国柄ですかねぇ(何だかオッサン臭い言い方)。家族で過ごすどころか、リア充してたり友達と騒いだり二次元の嫁とケーキ食べてたり(←後述)、という本邦のクリスマスの情景とはかなり違うのです。「家族で故郷で」というのを無視して宗教を無視しているのが、日本のクリスマスなのですね。
ドイツ滞在中は例年クリスマス(ドイツ語では『Weihnachtenヴァイナハテン』という、ドイツ人以外にはわからん言い方をしますが)当日は、我々異教徒は静かに家で過ごしていたものなのですが、テレビ、ラジオはあちこちの教会で行われるクリスマス・ミサの中継なんです。何と言ってもキリスト教徒の国ですからね。カトリックプロテスタントが混在するドイツなのですが、日本でのイメージ(ルターと言えばドイツ、って感じで新教)と違ってカトリックが多い印象もありました。私の乏しいヒアリング力(英・独)と想像力豊かなテレビ・ウォッチング力(?)を総合すると、ローマ法王のクリスマスのメッセージを初めとして、フランス、イギリス、スペイン、イタリア等々ヨーロッパ各国の首脳がクリスマス休暇に入る前に出したメッセージが、ミサの中継の合間に次々と読み上げられるわけです。日本にいた時はわからなかったけど確かに『ヨーロッパ』という共同体意識はあるみたいですよね。今トルコがEUに入るべく加盟を申請していますが、この『ヨーロッパ』共同体意識の中にトルコは入っていけるのかね(←又してもオッサン口調)。前にも書きましたが、ドイツ語の先生(親の仕事の関係で幼少期トルコで過ごしたことあり)が言によると、トルコでは12月にクリスマスを思わせるような飾り付け、イベントは全くなくフツーの日々だそうで、『クリスマス』というヨーロッパ人即ちEU人共通の『年に一度の人生傾ける盛大なイベント』に共感できないトルコがEUクラブの会員になれるのでしょうか。
しかし一方アジアの日本の周りに『アジア人』という文化的な共同体意識はない気もします。日本が今の新暦のお正月をやめて中国や韓国と同じく旧暦でお正月をすれば、「アジア」という共同意識が芽生えてちょっとはアジアに近づくかも・・・。
日本の主婦にとっても「クリスマスの一週間後がお正月」という殺人的スケジュールから解放されて、クリスマスもお正月もそれぞれのんびり楽しめるのに・・・。
そもそもドイツの『正月三が日』ともいうべきクリスマス前後の24,25,26日の三日間は完璧に商店は休みなんです。せめて日本のお正月もこれを見習ってほしいものです。元日から開いてるスーパーはそれは便利ですが、ということはそこで働く人も大勢いるわけで、その人たちに本当の意味での「お正月」はないのに、やれ「お節料理」だ「新年の抱負」もないものです。元日に営業している店が増えるということは、元旦を家族揃って迎えられない家庭がどんどん増えるということで、これでいいのかしらといつも思う私です。


一方ドイツではクリスマスが終わったら、ドイツ人何だかしゅーんとしちゃって生気が抜けた顔して人々はつい数日前までクリスマスの飾りで華やかだった通りを歩いているのでした。日本のように「クリスマスの次は正月だっ!」という殺気(?)はありません、「宴の後」って感じ。
さてドイツのお正月は、はっきり言ってなあんにもありません。大体クリスマスでドイツ人は全ての力とお金を使い果たした、って感じ。しかし、実利を重んじ合理主義に長けたドイツ人、クリスマスがを終わるとすぐに、「不要なプレゼントを買い取ります」てな広告があちらこちらに出るんですね、それもかなり大っぴらに!クリスマス前には山のようにプレゼントを買い込むドイツ人(彼らは決してエコではありません!)なのですが、ちゃんと合理的に換金しているのでしょうね、ん?これってエコ?
ドイツ語では大晦日は「Silvester」と言いますが、日本人にはあまり知られていないドイツ人ならではのSilvester慣例の国民的テレビ番組があります。子供から大人まで家族で観るそうです。けれども「紅白歌合戦」みたいに一局が独占して放送するのではなく、ほぼ全部のチャンネルが時間をずらして、大晦日ほぼ全時間帯に放送しているのです。それは「Dinner for one」


これ、英語ですよ、不思議なことに。で、ドイツ人に言わせると「これを観ないとSilvesterという気がしない」とか。訳わかりません。大体ベタな内容で、どこが面白いのだか・・・。ドイツ人のメンタリティ(単純なはずなのですが)はわかりません。
さて「ドイツのお正月はなあんにもない」と書きましたが、前言撤回!ありました、ありました!異教徒が異国の自宅で迎えた大晦日、感慨に耽りつつ、そろそろ除夜の鐘ならぬカウントダウンかなと思っていたところ、いきなり闇をつんざき鳴り響く花火の音!ドイツ人は新年になった瞬間花火をぶっ放す打ち上げるのだそうです!!!町中の大きな広場や通りは勿論、日頃静かな住宅街の住民たちが各々のお庭でやっているのです!ドイツ人のことですから、生半可な量ではありません。日本だと絶対個人の庭ではやらないようなミニ打ち上げ花火的なものをぼんぼん打ち上げてるのです!どーなってるのでしょう?特に我が家の西隣の上品な老夫妻がお住まいのお庭から激しく鳴り響く花火の音!あのご老体のおじいちゃまとおばあちゃまが二人で打ち上げているのでしょうか?ウチの庭木に着火しないかと心配してしまうような大音響です!我が家の西面は一階も二階も全て木製のシャッターになっていて勿論真夜中ですから全部閉めてあってお二人がどんな形相、もとい様子で花火をぶち上げているのか覗き見できなかったのがとても残念でした!一体あの『老後を静かに暮らすドイツ人』を絵に描いたようなお二人がどこでどうやってあれだけの量の花火を買い込んで、よく寝込んでしまわずにカウントダウンと同時にぶっ放したものだと感動してしまいました。私も老後は是非じいさま(夫)と実践してみたいものです、でも日本であれをやると新年どころかパトカーが来るかも。

まあ何事も「所変わればなんとやら」なんですけど。



「所変われば」と言えば、今年のクリスマスに私は凄く感動(?)したことがありました・・・。
それは・・・。
俺の嫁とのクリスマス」
という一連の画像です。これがどういうものを指すのか、私と同世代の人々で理解できる方はごく少数ではないでしょうか。
二次元の嫁たちの画像やフィギアや等身大のクッションの前に置かれたクリスマスケーキやチキン(←出ました!ここでもチキンなのですね、何故か)やワイングラスやキャンドル。
この聖なる夜にお生まれになったイエス・キリストの存在はどこに?
極東の国で繰り広げられる、世界のどこにもないクリスマスの風景です。