「親戚のおじさま」としては最高に理想的な失言王、麻生太郎氏 雑感

「親戚のおじさま」としては、大変理想的な方だと思うんですよね、現副総理兼財務大臣である麻生太郎は。



何と言っても先ずリッチ。
おじいさまが幼い麻生氏のためにわざわざ「麻生塾小学校」という小学校を作られたほどの、ウルトラお坊っちゃま育ち(その後学習院編入)。
服装もお洒落(オーダーメイドの背広にボルサリーノ、という少々時代遅れではありますが)。

クレー射撃元オリンピック日本代表選手。
海外留学、海外駐在の経験もあり、英語も堪能(海外の大学で学位をとっているわけではない模様)。
普通は敷居が高いホテルのバーにも連れて行ってくれそう(ついでに奢ってくれそうです)。
小難しい哲学や人生論について語ったりすることはせず、他の大人は眉をひそめる漫画やアニメについては理解がある。
そして、ガミガミうるさい親と違って、あの破顔一笑の笑顔で何でも受け入れてくれそう。


「親戚のおじさま」もしくは「知り合いのおじさま」としては、大変魅力的で理想的な方なのです、麻生太郎氏は。
「おじさま」じゃなくても、「親戚のおじいちゃま」としても同様です(麻生氏は今年72歳)。
ついでに、「お友達」としても、お育ちが良くて、お金持ちで、性格は明るくて、東京と福岡にそれぞれ「御殿」と言えるような邸宅を構えている麻生氏は、「おれ、こんな奴と友達なんだ。」と友達風を吹かすのには、最高の人物です。


そういうご自分のチャームポイントをご存知なのか、麻生氏はそこに更にスパイスを加えようとするのです、偏にサービス精神からだと思いますが。
それは、幼少期は福岡でその後は皇室の藩屏たる学習院にて教育を受けられたというのに、何故か東京の下町育ちのような謎の「べらんめえ」調にも表れていますし、今回の「ナチス、ワイマール憲法」関連の発言においても見られるのですが、

「ちょっと他人が言わないような気の利いたこと、『そんな見方があったんだ』と聞き手に感心されるようなこと、『これが上質のユーモアというものか!』と聴衆が笑ってくれるものを提供する」

ということが、麻生氏の身に染み付いたサービス精神なのではないかと思います。
しかし、残念ながらそれは成功していないようです。麻生氏の口から出てくるそれはユーモアのレベルにも反語のレベルにも達していなくて、本人はイギリスのブラックユーモアを目指しているのかもしれませんが(祖父の故吉田茂氏やチャーチルのような)、実力が伴っておらず、不発もしくは自爆、というのが過去のおびただしい失言歴なのです。その理由は何かと辿っていけば、僭越ながら、深い教養と思索の裏打ちがないこと、目の前の聞き手や聴衆のみならずその背後の見えない国民がどう受け止めるかを洞察する力が、氏に備わっていないからだと思われます。要するに、漫画読んでたら駄目、ということかもしれません。


だから静かにやろうやというんで、憲法もある日気づいたら、さっき話しましたけれども、ワイマール憲法にいつのまにか変わってて、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わったんだ。あの手口学んだらどうかね。

今回のこの麻生発言(朝日新聞の「詳細」ではなしに講演の書き起こしです)ですが、まさに、「イギリス仕込みのユーモア・ウィット路線を狙ったサービス発言」だったのではないでしょうか?
結果、大いにすべっていますけどね。問題になったこの発言のちょっと前の部分でも麻生閣下は

ドイツは、ヒットラーは、あれは民主主義によって、きちんとした議会で多数を握ってヒトラーは出てきたんですよ?ヒトラーと言えば、いかにも軍事力で(政権を)取ったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから!ドイツ国民は、「ヒットラーを選んだ」んですよ?間違えんで下さいね、これ。


と言っています。麻生氏的には「普通の人は思いつかない視点」から「気の利いた」ことを言ったつもりだと思うのです、実は「ヒトラーは選挙を経て正当に選ばれた」ことなどちゃんと高校の世界史の教科書には書いてあって、大抵の人は知っていることなのですが。
もしかしたら、この部分で、麻生氏が予想していた反応、聴衆の「おおっ、そうだったのか!」という反応が、少なかったのかもしれませんね。そこで更にサービス精神を発揮して、そのすぐ後にワイマール憲法の話を持ち出して、

あの手口、学んだらどうかね。


という、「気の利いた一言」のつもりの問題発言になったのではないでしょうか?
現にこの部分では会場の聴衆の笑いをとってはいるようですし。
麻生氏の発言を読み解いて、「あれは反語である」と主張なさっている方もいらっしゃいますが、「反語」ならば、そして聴衆が「反語」と理解していたなら、そこで「笑い」が出るでしょうか?真面目に頷くところではないですか?
この発言がなされた会合の性格(櫻井よしこ氏が理事長を務める公益財団法人国家基本問題研究所JINF主催で行われた都内のシンポジウム)から言って、元々麻生氏に好意的な方々が、麻生氏のいつものサービス発言・・・ちょっと気が利いていてちょっと危険でちょっとニヒルな発言・・・を、落語の山場を待ち構えるように今か今かと期待していて、「それ来た!」とばかりにお約束通り笑ってしまったただけなのではないでしょうか。「反語」であっても「反語」でなくても、世間一般的には全然「笑うところではない」し「笑ってはいけないところ」であったのにもかかわらず。
まあ、麻生氏のファンが今までそうやって「笑うレベルにも達していない」発言にも笑ったりしてきたのがいけなかったのかも?です。だからいつまで経っても麻生氏は、いつものパターンの失言を繰り返しても、反省もなければまた同じような「気が利いた言い回しのつもりが全然そうではない」「ユーモアのつもりが全然ユーモアでない」サービスを繰り出してきて自爆するのですから、ファンの方々も考えものですよ。


色々な立場の色々な方が、今回の麻生発言について、数多くの分析・検討を加えていらっしゃいます。
最初は朝日新聞の報道に象徴されるように、講演の詳細(←書き起しとは違う)からの、従来の「麻生失言批判」と同じ様式の批判。
それを受けて、文章を細切れに分析しての批判。
講演の動画から、麻生氏が喋ったままを書き起して、あれは「反語」であったのだという擁護。
フロイト理論の「言い間違い」を援用して麻生氏の心理に迫った分析。


色々と読ませて頂きました。私は節操がないので、どれを読んでもふむふむと頷いてしまいます。
が。
実はもっと単純なことなんじゃないでしょうか?


書き起こしを精読するまでもなく、音源を静聴するまでもなく、大体、自民党タカ派の国会議員でさえ「ナチスの手口に倣うことまでして、憲法を改正したい」という人間がいるのでしょうか、いや、いない(←反語)でしょう。戦後の民主教育を受けた国会議員ですからね。当然麻生氏もそんな思惑は全くないはずで(笑顔が素敵な親戚のおじさまですもの)、それを疑って発言書き起しを細々と切り分けて分析すること自体が不毛です。魅力的な「おじさま」麻生氏は、そういう分析の外にいらっしゃるのです。


では何が問題かというと、御歳72歳になられても、
「自分には、気の利いたユーモアやウィットを繰り出すための教養や思索の裏打ちはない」
ということに無自覚でいらっしゃることであり、
「『ナチス』や『ヒトラー』という言葉を使う時は細心の注意を払わなければならない」
ということさえ外務大臣を経験した身でも理解していらっしゃらないことであり、両方を足して言えば、
「いかにサービス精神を発揮したい衝動にかられても、『ナチス』や『ヒトラー』という要注意度最高レベルの言葉を使いつつ、一線を踏み外さずにユーモアやウィットを繰り出す才能はないので、やってはいけない」
という事実を、長い政治家としてのキャリアを以てしても未だに自覚していらっしゃらないことです。




麻生氏を見ていると、ブッシュ・ジュニアことブッシュ第43代アメリカ大統領を思い出してしまいます。
麻生氏と同じく、生まれながらにしてお金持ち、おじいさまは上院議員、パパも秀才でならした元第41代アメリカ大統領という、毛並みの良さでも麻生氏と似ているブッシュ・ジュニアですが、ご存知の通り、大統領まで登り詰め、且つ、9.11後のイラク戦争時に国民を率いた大統領であったのに、評判の良い大統領だったとはお世辞にも言えません。失言癖や、難読の漢字ならぬ難読の単語が読めなかった(イェール大卒なのに)ことも似ています。一方野球好きであったり、フットボールの試合を見ながらプレッツェルを食べていて喉に詰まらせるなど、意外に庶民的なところも。若い頃は、薬物乱用やら飲酒運転やらでかなりの放蕩ぶりだったのが、ローラ夫人の影響で熱心なメソジスト信者に改宗して更正した過去は、優等生の見本のようなパパ・ブッシュに比べて余程親近感が湧きますし、そして、何より笑顔が魅力的で、

「親戚のおじさま」としては最高に理想的な人物であるところも同様です。テキサスを意識して、ダークスーツやタキシードにウェスタンブーツを合わせるところなどは、ヨーロッパ人が見たら眉をひそめそうですが、私は好きです。

最低の支持率を記録し、巨匠オリバー・ストーン監督に「ブッシュ」という映画で散々にこき下ろされ、「アメリカ史上最悪の大統領」とジャーナリストに酷評されたブッシュ大統領ですが、しかし、

選挙で選ばれたんだから!アメリカ国民は、「ブッシュを選んだ」んですよ?間違えんで下さいね、これ。


そうなんですよね。アメリカ国民は「二度」ともブッシュを選びました、ゴアやケリーではなく。
知性や教養や弁舌の爽やかさは、どうみてもゴアやケリーの方に軍配が上がりました。けれども、一挙手一投足360度を見られるテレビ討論を経て、それでもブッシュは選ばれたのです。私が思うにブッシュが彼らに勝っているとしたら、それは「理想的な親戚のおじさま度」しかないのですが、まあアメリカ国民が何に依ってブッシュを選んだのかはわかりません。でも結果、「理想的な親戚のおじさま」は、多くの失政にまみれて任期を終えました。


で、本邦を代表する、「理想的な親戚のおじさま」ランキング1位の麻生氏に戻ります。
麻生太郎氏もそうなのです。1回落選経験があるものの、衆議院議員11期目ということは、実に11回の選挙で有権者に選ばれているのです、総理大臣になったのは、自民党総裁選で選ばれたからです、間違えんで下さいね、これ。



問題は、麻生氏にあるのではなく、「親戚のおじさま」「お友達」としては最高に理想的だけれども、今の時代の政治家としては大いに疑問が残る人物を、選挙で選んだ側にあるのではないでしょうか?
麻生氏の選挙区民のことだけを言っているのではありません。
ローゼン閣下」と彼を持ち上げて、「俺は若者にも人気がある」と変な勘違いさせているネット民だけのことでもありません。
麻生氏を領袖として担いでいる、為公会という名の麻生派閥の面々だけのことでもありません。
日本人全体が、今まで麻生氏に引導を渡せずにいたのです、あのキャラ、あの笑顔に負けてしまって。
でも、今度こそ、「引導渡すなら、今でしょ!(←既に時代遅れですが)ではないでしょうか?
氏の失言歴を振り返ってみると、それは「反省して治るものではない」という性質のものだということがよくわかります。
それに、逆にもし麻生氏が反省して、一切サービス発言を止めてしまったら、それはもう、私たちの理想的な「親戚のおじさま」ではなくなってしまいます。
初当選された頃(1979年)は、少々失言してもそれが瞬時のうちにネットで広まるということはありませんでした。
今は、悲しいかな(←麻生氏的には)日本国内のみならず世界中に広まってしまうのです。
そしてそれは本人のみならず、内閣にも、日本という国にも、国民にも極めて不幸な影響を及ぼす時代なのです。
十分素晴らしい人生を積み上げていらっしゃった麻生氏は、今こそ政治家を引いて、フツーの「理想的な親戚のおじさま」に戻って頂きたいと、強く思います。


麻生氏よりも6歳若いブッシュ元大統領は退任後、もう何年も前に愛するテキサスに戻って人々に歓迎されて暮らしているようです。
↓ 日米「魅力的な親戚のおじさま」対決。