ギリシャのユーロ離脱は免れたけれども。オリンポスの神々も楽しみにしてる、2012サッカーヨーロッパ選手権準々決勝 ドイツ対ギリシャ@グダニスク

恐ろしいことが起こってしまいました、やはりギリシャの神々も、キリスト教の神様も、それをお望みだった(「見てみたいな〜」)のでしょうか。というか、言霊というか、言葉にしてしまうとそれが実際のことになってしまうのでしょうか。
東洋のオバサンである私が戯れに言ってみたことが(参照:ギリシャがユーロを離脱するかどうか、個人的感覚的及び独善的に考えてみることなど。 )が本当になってしまいました!

「それ」というのは。
今行われているサッカーのユーロ選手権2012の決勝リーグのグループリーグにおいて、
ギリシャはA組を二位で通過し、
ドイツは「死のB組」を一位で通過し、
ということは、来るべき6月22日にポーランド(開催地)のグダニスクギリシャ、ドイツ両国が対戦すること、なのです。(参考:UEFA EURO 2012


島国ニッポンの感覚ではぴんとこないかもしれませんが、大陸の感覚では「ドイツからポーランドまでは普通に車で行ける距離」ですから、さぞや多くのドイツ人サポーターが車を連ねて、ポーランド侵攻否、不謹慎を失礼、東を目指してアウトバーンをひた走ることと思います。
逆に、ギリシャからの応援団は国も家計もかなりヤバい緊縮財政の中、遠いポーランドまでの旅費やガソリン代を捻出できるのでしょうか?
しかし、ギリシャにとって「ドイツをコテンパン叩きのめす、それも何ら国際法に触れることなく!」という機会は、まさに千載一遇、しかもこのタイミングで!この機会を逃すと、歴史の果てまでいってもこんな好機は訪れないでしょう。望んでもここまでピッタリ嵌まるものでしょうか?やはり神(々)のご意志を感じざるを得ません。


さて、こちらは神(々)のご意志ではなく、ギリシャ国民の意志であったのですが、17日に行われたギリシャ再選挙では、無事(?)に、「緊縮策を受け入れ、ユーロ残留」を公約にした中道右派の政党が勝利して(あのギリシャ版橋下市長のようなチプラス党首じゃない方)、世界中が安堵の溜め息をついたのでありますが。
プライドが高いことにかけては、あのフランス人にも勝るというギリシャ人にとっては、「屈辱的な緊縮財政を受け入れる」と、「ユーロを脱退して、古色蒼然とした小国に戻る屈辱」と、どちらを選ぶのも苦渋の選択だったと思います。
一方、再選挙前(5月末)のドイツの世論調査(公共放送ZDF)では、

ギリシャがユーロ圏に残留することに賛成と回答した人は31%にとどまり、反対が60%に達した。

そうですが、合理主義者であることでは世界一番であるドイツ人にとっても、「ドイツ人が働いたお金がギリシャの救済に使われることは合理的ではないので許せない」という思いと、「通貨ユーロの統合によって、政治的安定が保たれているのは合理的である」という思いとの狭間なんでしょうね。


ギリシャから遠く離れた東洋のまたその端っこに位置する日本の子供にとって、ギリシャを知る機会は、「ギリシャ神話」のお話を小さい頃に読む他は、中学や高校の世界史での「じゃーん、ギリシャ文明!」の授業くらいしか、普通はありません。私も殆どそうだったのですが、今回ギリシャに注目が集まっていることで、小学生の時に読んだ、記憶にあるたった一冊のギリシャの児童文学、それも第二次世界大戦後のギリシャに生きる子供のお話を思い出しました。
今ではアマゾンのマーケットプレイスでも見つからないその本とは、

アレキ・ゼイ著(掛川恭子訳)岩波少年少女の本 「ヤマネコは見ていた」

軍事政権時代の、児童文学にしては余り明るくないお話だったような記憶があります。トルコに占領されるよりはマシだけど(大体、ギリシャがトルコに占領されていたことがあるなんて、東洋の私たちからしたら遠いお話ですよね)、軍事政権もよくない、みたいな。「ヤマネコ」は誇り高いギリシャ人の象徴として描かれていたと思います。

まあ「誇り高い」とはいうものの、何十年もの間続いてきた公務員天国、汚職・脱税はゼウスやアポロンもびっくりだったようで、2004年のアテネオリンピックの時には、開会式一ヶ月前になってもメインスタジアムが完成していない、という状態で、その時には「何故なんだろう?」と思っていましたが、今ならその原因は簡単に推察できますけどね。


さてさて。
もう一度ヨーロッパのサッカーに話を戻すと、前回のユーロ選手権の時、偶然私はドイツにいました。全然サッカーファンなんかじゃないので、ドイツに行ったら、たまたまユーロ選手権の真っ最中だった、という訳だったのですが、興味がないというのは恐ろしいことで、私はドイツ在住のお友達(東洋のマダムこと、日本人のオバサン)とあろうことか、ドイツ対ポルトガルの試合がある日のしかも夕方、ライン河畔のビアホールで待ち合わせをしたのでした。ビアホールと言っても、夏の間は半分「外」みたいなもんですが、待ち合わせの場所に行った途端、「しまった」と思いましたね。特大のディスプレイが設置されていて、既にお店はドイツのユニフォームや、赤・黄・黒のどぎつい三色コントラストのシャツや帽子を身に付け、顔にペインティングを施した、「あの」*1ドイツサッカーファンで溢れていたから、です。私たち二人、東洋人のオバサンは、場違いなことにはお構いなく、ビールをじゃんじゃん飲む事以外は周囲のドイツ人とは何も共有することなく、旧交を温めたのであったのですが。覚えているのは、19:00くらいがキックオフだろうと思っていたら、かなり待たされてやっと始まった、ということと、周囲のドイツ人が巨体で狂喜乱舞するのとブーイングするのとがかなり頻繁にあったシーソーゲームだった、ということです。今調べてみたら、キックオフの時間は20:45でした。6月のヨーロッパは日没が22:00過ぎくらいですから、十分明るくて気持ちがよい時間です。狂喜乱舞とブーイングが忙しかったのはさもありなん、で、その試合(ポルトガル戦だった)では、

22分 シュバインシュタイガー(ドイツ)*2
26分 クローゼ(ドイツ)
40分 ゴメス(ポルトガル
61分 バラック(ドイツ)
87分 ボスティガ(ポルトガル

が点を入れてるんですから。特にドイツは、シュバインシュタイガー、クローゼ、バラック、という、労働者系大男3人組が揃って点を入れたのですから、ドイツ人が狂気乱舞するはずですね。
ただ、この2008年のユーロ選手権も、東洋人の私にとっては色々と考えさせられる「スタジアムの外の話」もありました。
この時は、今のギリシャ危機と同じくらいの危機感(?)を以て、「トルコEU加盟の是非」がドイツをはじめとしてヨーロッパで議論されている時でした。一口に「ヨーロッパの統合」と言っても、色々とご事情があるようで、例えばトルコはサッカーの「ヨーロッパ」選手権には出場しているわけですが、以下の地図を見ればわかるように

勿論ユーロ圏ではありませんし、シェンゲン条約が適用される国でもありませんし、EUのメンバーではないのです。そのトルコが「EUに加盟したい」と申請してきたのでした。困ったのが、EU側であるドイツやフランスです。文化や宗教の違いを理由にしては断れないし(「ムハンマド風刺画事件」の後でしたし)、経済に関してはトルコの方が今回崖っぷちまで行っているギリシャに比べて余程好調だし、「トルコ国内の人権問題が解決していない」という訳のわからない理由でもじゃもじゃやっていた時でした。
ところが、このヨーロッパ選手権2008では、そのトルコとロシアが快進撃だったのです。
何と準決勝は、一試合が「ドイツ対トルコ」、もう一試合が「ロシア対スペイン」だったのですよ!
この組み合わせだと、可能性として、ヨーロッパ選手権の決勝が「トルコ対ロシア」になったかもしれないのです、くわばらくわばら。
この時期に夫が仕事でドイツ人がわんさか集まるレセプションに出たそうなのですが、お腹回りが半端ないドイツ人のおじさんたちが口々に「トルコもロシアもヨーロッパじゃない」「ドイツがトルコに負けたら、次回からトルコをヨーロッパ選手権に出場させなければよい」「ロシアがヨーロッパクラブに入ってくるのは我慢できても、トルコがヨーロッパクラブに入ってくるのは我慢できない」と、ビール片手にPoliticallyにはcorrectじゃないことをばんばん言いまくっていたそうです。これがドイツ人の本音なんじゃないかと思います、良いか悪いかは別にして。
まあ、肝腎の準決勝はそれぞれドイツとスペインが勝って事なきを得て(?)、決勝は「ドイツ対スペイン」というゲルマン対ラテンの戦い、というヨーロッパらしい対決になったのですけどね。


ドイツ人、ヨーロッパ人にとっては、イスラム諸国の中ではとびきりリベラルなトルコでさえ相容れないものであり、トルコに隣接するギリシャは、そのトルコに対するヨーロッパの「砦」のようなものなのでしょう。ギリシャがユーロを離脱し、古色騒然の小アジアの小国になったら困るのは、ドイツ人、ヨーロッパ人なのかもしれません。

で、す、か、ら。
合理主義者で空気を読まないドイツ人ですが、今度(22日グダニスクでの対ギリシャ戦)ばかりは、空気を読んで、東洋と西洋の間、キリスト教と異教(←キリスト教から見て)の間に在って、ヨーロッパの「砦」となってくれているギリシャに感謝の気持ちを以て、ボールを蹴ってほしいですし、サポーターの応援もそうあってほしいですね。
これでドイツがギリシャを完膚なきまでに叩きのめしたりするとしたら(3-0とか4-0とか)、ギリシャはもう一度ユーロを離脱しようとするかもしれませんからね!!!


改めて、ヨーロッパ選手権2012でギリシャとドイツを戦わせるという、神(々)の勇気ある大胆な配剤に、畏れおののき、そしてその試合をかなり心待ちにしている今日この頃。

*1:過去に書いたドイツでのワールドカップの思い出① ②をお読みください。http://d.hatena.ne.jp/souheki1009/20100616/p1 http://d.hatena.ne.jp/souheki1009/20100704/p1

*2:以前この人について書いたエントリー ドイツのサッカー選手から「豚」つながりで思い出したこと