「東大秋入学」のニュースを聞いて 雑感 秋入学に移行したくらいで東大に留学生が集まるのでしょうか?  

東大、秋入学移行へ 懇談会が積極検討を提言
入学時期の在り方を検討している東大(浜田純一学長)の懇談会が、学部の春入学の廃止と秋入学への全面移行を積極的に検討すべきだとの中間報告をまとめた。


このニュースを見ての私の最初の感想は、

学生の就職内定率を心配しなくていい東大だからできることよね〜

というものです。東大は就職においても最強ブランドであるからし

「9月入学6月(7月?8月?)卒業になっても、企業がどんな形であれ東大生を採用しないはずがない」

と東大が踏んでいるからできるのであって、この先の見えない不況の中、学生の就職に頭を悩ませている他大学では、現行の採用スケジュールから外れることによって学生が蒙る不利益を考えるととてもできないのだと思いますし、それがまともな判断だと思います。

 早稲田大の内田勝一副総長は、「すぐ大学で学びたい学生もいるのに、全員を半年間も待たせるべきではない。4月入学と秋入学を併存させるのが現実的な選択ではないか」と疑問を口にしていた。 読売新聞

というのが*1東大以外の大学の現状でのベストな選択だと思います。
大体、その東大にしたって、では東大が合格者数で圧倒的トップを走る「国1」と呼ばれる国家公務員試験についてはどう考えているのでしょう?試験自体は、秋入学の東大の生徒も3年生の終わりから4年生にかけて受験するとして、次の年度始めの4月には、晴れて合格した学生の中で東大生だけが「まだ大学を卒業していない」状態ですから、新年度から東大生だけが就職できなくなるのではないでしょうか?省庁の入省時期が変わらないとしたら、国家公務員志望の東大生は、大学入学までに半年待った上に卒業(6〜8月)してから更に半年以上待って就職するとすると、他大学に4月に現役で入学した学生に比べて、東大生は現役で入学しても合計1年間遅れることになるのではないでしょうか?そして何より、この「秋入学」の制度は、「半年」であれ「1年」であれ貴重な20代前半の時間と引き換えにするほど価値があるものなのでしょうか?この懸念は他の国家試験や大学院入試でも当てはまります。他大学に比べれば大学での勉強時間が半年短くてもそこはそれ東大生のことですから、他大学の4月入学の学生と一緒に試験を受験し合格するのは容易なことでしょうが、働き始める時期や大学院入学には「大学卒業資格」が要求されるのですからどうなるのでしょう?法科大学院に進みたい東大生は、秋始まりの年度の4回生になるかならないかで受験して合格しても次の年の4月から入学することはできませんよね?医師国家試験は?他大学の大学院は?等々、ド素人の私ですらこれだけ疑問が出てくるのですが、今回「秋入学」の提言を出した賢明なる「入学時期の在り方に関する懇談会」ははそれも折り込み済みなのでしょうか?もしくは、
「東大が秋入学に移行すれば、全ての大学、大学院、国家試験、官庁採用もそれに追随してくれる」
と考えているのかもしれませんが。


民間企業への就職に関しても疑問がいっぱいです。
「東大秋入学」が就職に関して良い方向に向かうと物事を想像してみると、例えば企業の採用も東大の9月入学に連動して、現行の
「新年度4月始まりで新卒一括採用」
を柔軟化して、
「通年採用」とか「新卒・既卒関係なしに9月採用あり」
とかになるとよいのですが、それは未知数というよりも、この経済の現状を考えるとやはり甚だ悲観的にならざるをえません。それは東大が「秋入学」をぶち上げただけで解決する問題ではなく、企業が採用にかかる費用・手間をどう考え、どう変えていくかにかかっており、今日本の企業にそれだけの余裕があるかないか、という問題ですから。



そもそも海外からの留学生を呼び込むためならば、この「秋入学」という方法はどうもピントがズレているとしか思えません。今まで4月入学の制度の範囲でしかるべき努力をしてきたのでしょうか?
「東京大学」のトップページと 「Harvard University 」「Oxford University 」のトップページを見比べると、その格差たるや歴然です、これだけでもう世界のトップ大学に相当な周回遅れ、って感じです。今世界のどこの国の学生であっても、留学を考えている大学を先ずネットで調べてみるのではないでしょうか?東大が日本トップの大学を自負するののならば、このしょぼいホームページは国辱ものです。っていうか、東大こそが頑張るべきであり、頑張ってほしいのですけどね。
そして何より留学生を呼び込むことに関して、決定的に東大に欠けているのは「Housing」つまり留学生の住む場所に関する大学のケアではないでしょうか?しょぼい東大サイトの中で何故かここだけ鮮やかなブルーが基調の英語サイトに留学生に対して住まいの説明をしているページがあるのですが*2、「shikikin」「reikin」「chuukai tesuuryoo」(ローマ字はサイトの表記そのまま)などと、外国人には理解できない日本の賃貸住宅の慣習を説明するヒマがあったら、学内にどっか〜んと世界レベルの学生寮を建てるぐらいしてみてはどうでしょうか。この「Housing」に関して、前述のHarvardやOxfordのそれと比べてみると、どちらも大学内もしくは大学にごく近い場所に、世界最高レベルの学生が住んで勉強するのに相応しい住居を提供しているのに対して、東大のこのしょぼさではこれだけで世界各地の大学生はそっぽを向いてしまうのではないでしょうか、アカデミックな部分以前に。いえいえその前に、
福島第一原発250km圏内にある東京での学生生活が安全である。」
というアピールが大事でしょう、
「直ちに健康に被害はない」
と断言してくれる御用学者の先生方には事欠かないでしょうし。

というか、この唐突で思いつきのような(←こう非難されて退陣した首相が昨年いましたっけ?)「秋入学」の提案は、見方を変えれば、

国内の受験生を見限って、海外からの留学生の方に目が向いている

とも言えるのですね。課題満載の(予算も莫大にのぼる)留学生招致よりも、先ずは、この過酷な環境(3.11後の放射能汚染、国家財政の危機、先の見えない不況)の中で、更に過酷な受験戦争を戦って「東大で勉強したい」と頑張っている国内の受験生のことを日本のトップ大学である東大には先ず第一に考えてほしいものです。きらびやかなキャリアを築いている卒業生から寄付をじゃんじゃん募って、奨学金制度をもっともっと充実させるとか、おエラい方々の「自分たちが学生の頃は、四畳半一間で風呂なしトイレ共同の下宿だった」という古き良き高度成長期の感覚ではなく、21世紀に東大で勉強するに相応しい学生寮を構内に作るとか、いくらでもやることはあると思うのですけどね。



さて、このエントリーを書き始めた後に、ネットで以下のような記事を読みました。

東大は秋入学に移行すべきか? 統計学+ε: 米国留学・研究生活
このブログの主であるWillyさまに大いに賛成の箇所もありますが、誤解されている点もあるようなので、その点を挙げながら、私自身の意見も書いてみたいと思います。

Willy さまが「東大秋入学」に反対する理由の、1「高校卒業から大学入学までに5ヶ月のギャップを作るメリットが不明」と3「海外からの学生は結局増えない」は全く賛成です。しかし、2「入試時期に問題が生じる」については誤解があるようで、東大は入試時期は従来と同じ春入試を維持、と言っているようです、だって、偏差値最高の学生をとるためには、他大学との比較の中での入試を行わなくては意味ないですから。
次にWiilyさまによる「東大の秋入学に移行するということ」と「セットで行われる」べき「2つの施策」についてですが、1の「入学試験、授業を英語で行う」ですが、英語での問題作成はともかく、短期間での英語での採点、日本語受験の答案との得点調整などを考えると、官僚的な組織ではそのような改革は不可能ではないでしょうか。加えて、2の「全ての学校の年度を変更する」というのは、「東大秋入学」に応じて幼稚園から大学院まであらゆる学校も「秋入学」になり就職のタイミングや国家試験のタイミングも全てが一度に変われば、一番合理的な施策だと思いますが、余りに大掛かりな改革で、今の日本では無理でしょうし、Willy さまが提案されている「高校3年生で秋入学の東大に合格した生徒を多量(定員の半分程度?)に飛び級させて、秋から入学させる」というのも、旧制中学や旧制高校では行われていた「飛び級」は*3戦後民主主義の「平等」を旨とする日本社会では、どうも広くは受け入れられない制度のようですから、これも実現は難しいのではないかと思われます。

ただ、Willyさまの最後の文章、

この報告が提起していることは、単に
入学式に満開の桜がみられなくなる、
といった小さな問題ではないことは確かだ。

には激しく同意します。そもそも東京以南では、温暖化のせいかもう長らく桜は3月の末には満開になってしまて、入学式の頃にはとっくに散っていますからね。・・・という問題ではなく、少子高齢化財政赤字大国、放射能汚染、という問題を抱えた我が日本国は、真剣に教育と教育システムについて考えることに関して、もう情緒に浸っている場合ではない待ったなしの状態である、という問題なのです。
春入学だろうが秋入学だろうがそんなことはもうどちらでもよいことであり、そんな小手先の変更などでは留学生なんて集まりはしないでしょう。私の意見は、

「先ずは国内の日本人受験生を念頭において、少子高齢化時代の貴重な若く優秀な学生に21世紀を生き抜く高度で革新的な教育を授けることができる大学と入試のシステムを作る。」

ということです、もしそれが実現できて、我が国の若い世代の真に優秀な層が東大で幸福に勉学に励むことができる日が来るならば、自ずと世界中から素晴らしい留学生が集まってくると思いますから。

*1:早稲田大学はかなり以前より、4月入学と9月入学を併存させるシステムになっている

*2:http://www.u-tokyo.ac.jp/en/

*3:今でもごくごく一部の大学では行われているようですが