「センター利用試験 受験料安くして真価問うべき」という朝日新聞「視点」の投稿に対して、受験生側から考えてみる


今日の朝日新聞朝刊「私の視点」にフェリス女学院大教授であり学生部長という、高田明典氏が

センター利用試験 受験料安くし真価問うべき

というコラムを書いていて、何と大学関係者であるのに、

「センター利用試験」の受験料について、高すぎると思ってきた。
個別試験なしの「センター利用試験」の受験料は、せいぜい2千円が妥当と考える。

と全国紙の紙上で爆弾発言をなさっているのです。他人事ながら、大学の中の方がこのようなことを発言されて大丈夫なのか、心配してしまいます。
実は私も同様のことを親の立場で書いたことがあります。
「センター試験」雑感 大学入試は今のままでいいのでしょうか?



ただ、高田氏のこのコラムの最後の締めが

(※センター利用試験の受験料が2千円程度になった時に)この制度(※センター利用試験のこと)に参加し続ける大学がどの程度あるかによって、この制度の真価が問われることになるだろう。この制度がなくなっても多くの大学は何も失うものはなく、得るものが多いはずだ。

となっているのは、少々疑問です、否、はっきり言って反対です。
センター利用試験の受験料が2千円になったら、私立大学は受験料の収入が見込まれないのでセンター利用試験に参加するのをやめてしまうのでしょうか?そしてそれは受験生にとって良いことなのでしょうか?
私はそうは思いません。
受験生及びその保護者の立場で書いてみます。

多額の税金を注ぎ込んで作られた「センター試験」というシステムの恩恵を全国の受験生が広く受けるとしたら、先ず2点。

・地方にいても、受験シーズンに上京することなく大学を受験できる(大概の場合、それが第一希望でなくても)
・「国立用」「私立用」と受験する大学の傾向に合わせて勉強しなければならない負担が減る

ということであり、それと「私立大学がセンター利用試験の受験料で暴利を貪っている」というのは別のことです。善良なる納税者の子弟である受験生にとっての当然の権利は

努力が報われる受験の機会が、適正な価格で、尚且つ、公平に与えられる

ということです。噛み砕いて言うと、塾や予備校に行かなくても高校で学習した勉強の範囲で受験でき、また、一度センター試験を居住地最寄りの受験会場で受験すれば、その結果を使って遠い地域にある大学にも出願できる(厳寒の受験シーズンに、交通費宿泊費をかけて受験しに行かなくてもよい←地方と中央の格差ですよ、これ)、ことこそが、与えられて当然の(何故なら、それは今あるシステムを使って私立大学がやろうと思えば今すぐできることであるので)権利なのです。つまり受験生(及びその保護者)にとって一番望ましいことは

より多くの学部・大学が、受験料2千円で「センター利用試験」で受験できること

ということであり、高田氏の主張は一見、受験生の立場に立っているようで、実はそうでないのではないでしょうか?受験料収入のために「センター利用試験」を採用する大学の経営を批判しつつ、逆に大学教員の立場から、それも、

私は、たとえ第一志望ではなくても、前向きに入学を希望する学生たちとともに学び、教えたいと考える。

という幾分センチメンタルな理由で、元の制度(各大学がそれぞれ大学入試をやる)に戻った方が、「得るものが多いはずだ」と言っているのだとしたら、それは全く受験生のためにはなりません。本当の意味で受験生のためを思うのならば、以下のことをすぐにでも実施すべきなのです。


・センター利用試験の受験料を適正価格にする(上限2千円、というのは高田氏に賛成)
・大学によって違う願書を統一する
・そして統一した願書はオンラインで出願できるようにする
センター試験の成績開示を、センター利用試験で受験できる私立大学の出願以前に行う



最後の項目について、現行のシステムに詳しくない方のために説明すると、1月の半ばに行われるセンター試験ですが、出願は前年の10月にします。その時に受験料(科目によって違う)と別途800円を払って「成績開示」を申し込むのですが、フツーの常識から考えると
「800円払って成績開示して、その結果によって『センター利用試験』で受験できる私立大学への出願を決める」
ということに極々当たり前になると思うのですが、それが違うんです、成績開示は受験も終わって合格発表も終わって入学式(もしくは浪人生活スタート)も終わった4月半ばに開示されるのです!!!4月半ばに1月に受験したセンター試験の結果を聞いて何の役に立つというのでしょう?日本の技術では3ヶ月経たないと受験生に成績も開示できないのでしょうか?前掲の私のエントリーにも書きましたが、アメリカのSATは受験後二週間強でオンラインで受験生は自分の成績を見ることができるのです。日本は3ヶ月、しかも郵送!これはもう国辱ものです。

そして、「『センター利用試験』の受験料を実費に近い2,000円にすると、受験料収入のうま味がなくなるから、『センター利用試験』を廃止しよう」という私立大学が出てくるとしたら、時代に逆行しているというか、真に受験生のことを考えていない大学として少子化が更に進む遠くない将来、受験生が減り、優秀な学生が入学しなくなり、そういう大学は淘汰されていくことでしょう。


民主党政権マニフェストから離れて迷走している「子ども手当」ですが、今調べたら現行では*1

(支給対象年齢) (支 給 月 額)
0歳~3歳未満 15,000円 (一律)
3 歳~小学校修了前 10,000 円(第 1 子・第 2 子) 15,000 円(第 3 子以降)
中学生 10,000 円(一律)

だそうです。
しかも同じ今朝の朝日新聞によると、来年度からの子ども手当は、所得制限がつき(←これには賛成です!)年収960万円以上の世帯は月5,000円になるとか。高田氏も指摘されているように、「センター利用試験」の一校あたりの受験料は、各大学がカルテルを結んでいるかのように、同じくらいのランクの大学はほぼ同じ価格で15,000〜20,000円なのです、その大学独自の試験を受けるのではなくて「センター試験の成績を『利用する』」だけで!これって、子ども手当の金額と照らし合わせても暴利だということが言えると思います。子どもにお金がかかるのは、ミルクやオムツや衣服ではなく、この国では寧ろ教育に関してなのです。

嘗て森喜朗総理大臣が懐かしくも「IT立国」とぶち上げてからもう10年以上も経ちました。大学入試の願書を統一したり、オンライン化したり、センター試験の成績をオンラインでもっと早期に開示したり、ということは「IT化」というのもおこがましい「当たり前」であるのが、今の時代のはずです。しかもこれは殆ど国の財源なしでやれることなのです。

それが行われていないこの国。大学や大学院のレベル云々よりも、この受験制度の一点だけで「アメリカに負けて当然だ!」と思ってしまいます。センター試験が一ヶ月後に迫った今日この頃。