マーゴン去った後、やませが運んできた涼しさと放射線

やませ(山背)とは、春から秋に、オホーツク海気団より吹く冷たく湿った北東風または東風(こち)のこと。特に梅雨明け後に吹く冷気を言うことが多い。 やませは、北海道・東北地方・関東地方の太平洋側に吹き付け、海上と沿岸付近、海に面した平野に濃霧を発生させる。やませが長く吹くと冷害の原因となる。なお、オホーツク海気団と太平洋高気圧がせめぎあって発生する梅雨が遷延しても冷害となる。
Wikipedia 「やませ」

関西育ちの私が「やませ」という地理用語?気象用語を知ったのは、中学校の社会の地理分野の教科書だったかと思うのですが、今は中学受験の参考書や問題集には必ず出てくる用語なのですよね。
そもそも、大学生になって関西から東京の大学に来ていた私は梅雨の季節になってびっくりしたことを覚えています。7月になっても梅雨時の東京は肌寒いことが結構あるのです。関西はそんなことはありません。4月から5月、5月から6月と季節が進むに連れて順調に気温が上がり、それは梅雨になっても同じ事。しかし、東京の梅雨時は、この数日間のように半袖では寒くて長袖か羽織ものが必要なくらいの気温の時があるのです。東京が、関西に比べてうんと緯度が北にあるわけでもなし、それは何故?と思っていたら、答は「やませ」だったのでした。

マーゴンこと超大型台風6号が太平洋上に去ってからこの3日間、その前の猛暑が嘘のように涼しいのは、この「やませ」のお陰です。涼しいと頭も働きます。猛暑の日々は団扇で仰ぎつつアイスコーヒー片手にソファでぐだぐだしていましたが、こう涼しいと何か生産的活動をしようかという気に(私でさえ)もなります。東南アジアやアフリカ諸国の経済活動が近年活発になっている最大の原因がオフィスにおけるエアコンの普及、ということも、身を以て実感されます。

しかし。

この数日の涼しさを味わいつつ、素直に喜べない私がいます。

首都圏に住んでいない方はわからないと思いますが、いつのまにか普通に私たちの生活に入ってきたものがあります。それはいつからなのか気がつかないうちに毎日見るテレビ放送の中に紛れ込んできていました。
今、関東地方では夜の7時の全国ニュースの前のローカルニュースでは必ず

東京電力管内の明日の電力予想」*1

「今日の各地の放射線量」*2

というのが、アナウンサーによって読まれるんですが。3.11以前ならば「SFの世界」です。アナウンサー個人の意志ではなく、NHKとしての姿勢なのか政府からの指導があるのだと思いますが、アナウンサーは「明日の電力予想」については、まるで「天気予報」やら「花粉予報」のように僅かに笑みさえ浮かべて読み上げるのです。私が今まで見てきた中では、ピーク時における供給可能量に対する予想電力使用量の最大値は89%くらいが最高だったのではないかと記憶していますが、万が一95%を超えるようなことになれば、今度は「台風中継」のように切羽詰まった形相で読み上げるのか、と思ってしまいます。




「今日の各地の放射線量」に関しては、不気味さを通り越して「何らかの作為」を感じてしまうのですが、

・「原発事故以前の標準値」よりも今日の値が下回っている時のみ「標準値を下回りました」とアナウンス
・「原発事故以前の標準値」よりも今日の値が上回っている時は「今日の値は◯◯シーベルトでした。」と「値が上回っていることには決して言及せず」値をアナウンスするのみ

なのですね。ぼ〜っと見ていると聞き逃してしまいます。私、NHK好きなのですが、というか殆どNHKしか見ないのですが、この報道の仕方には欺瞞を感じてしまいます。何故って、視聴者の注意を喚起すべきである「上回っている」事実をアナウンスしないのですから。
我が家は小さな子どもがいる家庭ではないので、毎日熱心に見ている訳ではないのですが、ここ数日涼しいので、勿論「明日の電力予想」ではピーク時の予想使用量は低い値になっていますが、この涼しさは「やませ」によってもたらされているのだとしたら、それは喜べないことです。何故なら、

この数日は南関東各地で「原発事故以前の標準値」よりも高い値が放射線が計測されている

からです。それはきっと、福島原発のあの瓦礫のような原子炉建屋


(1号機)


(3号機)


(4号機)

から今も尚確かに立ちのぼっている水蒸気に含まれている放射能(19日の東電と政府の発表によると、事故当初の「約2000兆ベクレルと比べ約200万分の1の10億ベクレルに減少」したそうですが)が、

この涼しさを運んでくる「やませ」によって一緒に運ばれてきている

からなのだと思います。それに気づくとこの涼しさも素直に喜べないのです。

我が家は全く「放射能conscious」ではありません。私自身はとっくに成長期は過ぎ(笑、妊娠・出産も終え、子ども二人も大学生になっていますから。今日も気持ちのよい爽やかな風の吹くベランダに洗濯物を干しました。夫はゴルフ(笑、子どもたちはそれぞれ大学で試験があるので、いつもと変わりなく外出しています。

それでも「一服の清涼剤」のような台風一過の涼しさにも素直に喜べない「SF紛いの日常」が原発事故によってもたらされているのです。

明日からはまた猛暑、だそうですが。

*1:東京電力のWebページでも見られます。http://www.tepco.co.jp/forecast/index-j.html

*2:朝日新聞にも毎日「各地で観測された大気中の放射線量」というのが毎日掲載されています。