大学入試の季節 雑感


人間、渦中にある時にはシステムに疑問や憤りを感じていても、いざ当事者を離れてしまうと「もう自分には関係ないから」と無関心になるものです。

中高の部活で、1年生の時は部活の上下関係の理不尽な伝統を押し付ける先輩たちに服従しつつ「私たちが3年生になったらこんな決まりは変えて、1年生ももっと自由に練習に参加できるようにしようね!!」と固く誓い合ってもいざ自分たちが3年生になると3年生に美味しいシステムはなかなか変革できない、というような。ましてや卒業してOB/OGになってしまうと、どんなに1年生が理不尽なシステムで苦しんでいても正に「もう関係ない」ですよね。
子育てをする中で感じた矛盾や理不尽なシステムにその時は怒っていても、この時期が過ぎてしまえば遠くない将来、ていうか早々にも「もう私には関係ない」状態になりそうな予感がするので、そうなってしまう前、今年で終了する(予定の)「大学受験生の親」である今のうちに、現在の大学受験のシステムについての疑問と憤りを書き留めておきたいと思います。

「受験システム」と言っても、センター試験を改革すべきとか(絶対にすべき!)、前期後期制度を変えるべきとか、私立大学の試験のあり方について、といった壮大な(?)枠組みについては、話が広がりすぎるので、「大学受験時の手続き等に関して」の理不尽なことについて、考えてみたいと思います。


①私立大学の受験料について 

一言:余りにもそして根拠なく高過ぎやしませんか?

大学 一般入試受験料 センター利用入試受験料
早稲田大学 35,000円 20,000円*1
慶応大学 35,000円*2 19,000円

※1 文化構想学部は 30,000円
※2 医学部は60,000円


参考

  二次試験受験料 足切りになった場合の返還額
東大、京大 17,000円 13,000円

しかもセンター試験を受験するために、受験生は

3 教科以上を受験する場合 18,000 円
2 教科以下を受験する場合 12,000 円

を既に払っているのですから、結構な負担です。

早稲田大学も慶応大学も受験料は、一般受験の一学部当たり35,000円なのですが、国立大学の二次試験は東大も京大も(他の国立大学も?)17,000円です。しかも東大も京大も、足切りに遭ってしまって二次試験を受けられない場合はそのうちの13.000円が返還されます。ということは、受験料17,000円のうち実際に二次試験を受験することに関してかかる受験料が13.000円で、「センター試験の点数の審査プラス事務手続き」には4,000円しかかっていないということだと思いますが、同じく「センター試験の点数審査プラス事務手続き」で、早稲田大学(20,000円)と慶応大学(19,000円)の受験料は国立大学の5倍近い金額です!この「センター利用入試」にかかる金額、即ち早稲田20,000円、慶応19,000円なのですが(この1,000円の差は企業努力の差?)、もうそれだけで国立大学の「センター試験プラス二次試験の検定料」を上回っているのですから、これは何とも不可思議です。各大学が大学入試センターに払う「成績提供請求料」は一人一回あたりたったの570円です。これは国立私立関係なく同じです*1。わかりやすく言うと、各受験生のセンター試験の成績を、それぞれの私立大学が大学入試センターに570円払って請求し、それを元にして合否を決めるのが私立大学の「センター利用入試」であり、国立大学も同じく受験生一人当たり570円払って請求したセンター試験の成績を足切りや最終的合否に使っているわけです。
東大や京大が4,000円で済ませている審査に20,000円(早稲田)、19,000円(慶応)の受験料がかかる、というのは如何なものか?
まあそれを言うのなら、国立大学が17,000円で済ませている前期試験の審査に、同じようにそれぞれの大学での入試の審査に35,000円かかる早稲田慶応をはじめ私立大学(これってカルテルなのでしょうか?どこも横並びでこの金額)は、「効率が半分以下」ということなのでしょうか、民間なのに?
私立大学の受験料の金額の根拠に、疑問を抱いてしまうのです。

仮に私立大学の経営が芳しくない状態であったとしても、現在キャンパスで学ぶ学生に負担を課すのならともかく、入学するかどうかわからない受験生から徴収する受験料にそれを課すのは違う気がします。その大学を目指してくれる受験生には、できるだけ負担を少なくして門戸を開くべきであり、寧ろ受験料は低く設定して受験しやすい方向に進むべきではないでしょうか。それは「地方に受験会場を設定する」よりも遥かに効果的だと思いますけど。
受験料にデフレや安値競争は起こらないのでしょうか?少子化が更に進むと、同じレベルの大学ならば、一回の受験料で5,000円の差があれば、数校数学部受けるとしたら、絶対に単価が安い方を選ぶようになると思うのですが。
私は、いわゆる「出羽の守(でわのかみ)」、即ち何でも「アメリでは」「ヨーロッパでは」というのは好きではないのですが(と言いながら知らないうちになっているかも?)、アメリカでは、各大学の受験料は*2、下は無料(!)から始まって、一番高くても$75(日本人の大好きなHarvard大学など)です。$75と言えば、1ドル=82円としても、6,150円ですよ。世界大学ランキング第一位のHarvard大学*3が受験料6,000円ちょっとで受験できて、本邦を代表する私立大学の早稲田大学と慶応大学(ちなみにこの両大学ランキングの200位以内には入っていないのですが)が35,000円というのは如何なものでしょう?

そしてそれこそ自分自身が大学生の時期を過ぎてしまって寡聞にして最近まで知らなかったのですが、入学辞退をした場合の既に払い込んだ授業料の返還については、3月31日までに申し入れれば返還されることになったのですね*4。私の朧げな記憶では、昔は(いつだ!)、いわゆる滑り止めの大学に合格した場合、入学金と授業料の一部を「押さえ」のために振込み、それは第一志望の大学の合格がわかっても、返ってきませんでした。それが今では、入学金のみを「押さえ」に振込めばよいことになっています、もっともそれによって大学は返還しなくてよい「入学金」の金額を巧みに値上げしているような気もしますけど。考えてみれば、昔の制度、即ち「受けもしない授業料の一部を払い、入学を辞退しても返還されない」というのはいかにも理不尽な制度だったのですが、当時はそれが当然だと思っていたわけで、現状の受験料の金額についても、今受験まっただ中の受験生と保護者(お金を払うのは親ですから)だけではなく、これから受験生の保護者になる人も、もうとっくに受験生の保護者を卒業してしまった人も、関心を持つことが、大事だと思うのですね。


アメリでは、家庭の事情で受験料を払うのが厳しい受験生には(英語の表現で、students for whom payment of SAT® and SAT Subject Tests™fees may be a barrier to testing and applying for college.となっています、まさに「barrier」ですね)先ず日本のセンター試験(以上に大事なものですが)の受験料を免除し、その手続きをとればそれ以上の面倒な手続きなしに、各大学へのアプライにかかる受験料も免除、という「Fee-Waivers」という制度があります。
個人的には、「アメリカ的なもの」はあまり好きではないのですが、アメリカのこういうところは痺れてしまいます。「アメリカンドリームなんて妄想よ」と言い切れない、少なくとも経済的な理由で夢と能力がある若者の道を断つことはしない、という大学側の決意が見てとれるではありませんか。東大も京大も、早稲田も慶応も、そういう形で社会貢献というか、アカデミックな世界への門を最大限開いていてほしいものです。



②受験料、入学金、授業料の払い込みについて

一言:激混みの銀行窓口でなく、ネット振込、クレジットカード、せめてコンビニで払わせてほしい!



さて、高額の受験料、入学金、授業料ですが、可愛い我が子のために脛を削って支払う段になって、又しても立ちはだかる理不尽の壁。クレジットカード使えません。ネット振込も使えません。ATMからさえ振り込めません。ではどうするか?
昔と変わらず、銀行の窓口で振り込む・・・んですが、昔と違うところはATMのお陰でどこの銀行もどんなに混んでいても窓口は最低限しか開けていないことです、何故なら、公共料金などの振込の手数料は儲からないから、だそうですが。3年前我が家は息子の大学受験と娘の高校受験のいわゆるダブル受験だったのですが、それぞれの滑り止め校、本命校の受験料、入学金、授業料を払い込むために銀行の窓口で、それこそ発狂しそうなほど長時間待たされましたよ、全く。銀行も郵便局も、本当にお年寄りが多いのですよね。それをどうのこうの言う気は毛頭ないのですが、じゃあそれならばネットショッピングのようにクレジットカードやネット振込で払いたいわけなんです。私のような暇人でさえ、神経に異常をきたすほどの無駄としか思えない手間、なのですから、普通のビジネスパーソンの方は、憤死しちゃうと思いますよ。

あっ、唯一受験料は最近はコンビニで払えるのです(私立大学のみ)、ご存知ですか?私の両親のような年配の人にとっては、「学校関係のお金をコンビニで払うなんて信じられない!」という人(これは決して「便利さ」に驚いているのではなく、「神聖な学校関係のお金をコンビニ如き(!)で払うなんて!」という方向の驚きなのです、念のため)も多いようですが。銀行や郵便局に比べれば遥かに空いているので、私は主にファミマことファミリーマートの「ファミポート」でせっせと受験料だけは払わせて頂きました。しかし私は二度までも目撃してしまったのですが、ファミポートの前で操作がわからなくて立ち往生している中高年の方々を(ファミポート操作できる私も客観的には立派な中高年かも、ですが)。受験生本人ならばそんなことちょちょいのちょい、なんでしょうけど受験生自身、超多忙な時期ですし、お金に関することくらい保護者がやってあげたいところです。その日(受験料を払う日)のために、日頃から頑張ってファミポートと親和していきましょう、中高年の皆様!
ですから。関係者各位にお願い致します。
是非、ネットで振込、クレジットカードで振込、を実現させてください。ネット銀行の営業の方、クレジットカード会社の営業の方、是非大学/高校に働きかけてこれを実現して下さいませ。ネット銀行、クレジットカード会社がぼやぼやしているようならば、コンビニ本社営業の方、ファミポートでもロッピーでもマルチコピー機でもいいですから、コンビニから入学金、授業料が振り込めるようにしてくださいませ。よろしくお願い致します。




③願書について

一言:願書にお金とるのはやめてほしい。全大学形式を統一してダウンロードでOK、にしてほしい、将来的にはオンライン出願に向かってほしい。

「当日の試験一発勝負!」が大好きな日本の大学の一般試験では、願書と言っても書くことはどこの大学でもどこの学部でも同じです。
一般入試の願書に書かされるのは、
氏名、生年月日、性別、住所、電話番号、保護者氏名、出身高校、卒業年次
くらいなのですが、これを何枚も「手書き」で書くのは結構面倒臭いものです。振仮名を平仮名で書くのか片仮名で書くのか、黒ボールペンで書くのか鉛筆で書くのか、また一部にマークシートがあって鉛筆で塗りつぶすところもあり、内容が無い割には煩雑です。手書きですから、1枚ならまだしも何枚も何枚も書くのはなかなか時間と手間を取るのです。国立でも前期と後期受けるのなら仮にそれが同じ大学でも2枚。私立だと同じ大学の複数学部を受験する時には願書は1枚でOKのところもありますが、数校受けるのならば、またそれぞれ必要です。
問題は、殆ど同じことを書かされるのに大学によって願書の様式が異なることです。勿論願書はお金を払って買ったり取り寄せたりするので、修正不能に間違えたならもう一度買い直しです。内容は殆ど一緒なのに履歴書のように市販の物に書き込んで、どの大学にも送る、ということができません。そして何より問題なのは、総理大臣が森喜朗氏であった頃「IT立国日本」とか言っていたこの21世紀の日本で、何故オンラインで出願できないのでしょうか?大学入試で願書が統一され、オンラインで出願できるようになれば、受験生の負担は随分減ると思うのですね。オンラインで一度、氏名やら住所やらを打ち込めば、それを何校にも送れるようにすべきではないでしょうか?理想は出願もオンラインで。それが出来ないのならば共通フォームにウェブ上で記入して家庭のプリンタで印刷してそれぞれの大学に出願。これくらいのシステムが何故実現できないのでしょうか?ちなみに早稲田大学の一部の学部や入試方式では、願書を購入しなくてもウェブページから書式をダウンロードして記入することができます、それを郵送で出願するのですが。慶応大学だと帰国生入試で同じくウェブページからの願書ダウンロードが出来て、その上オンラインで出願できます(息子が受験した2008年度入試は郵送だけでしたからすごい進歩)。しかし、この出願方法を受験生全員にまで広げる覚悟が両大学にあるのかどうか?何故なら前述したように、願書販売によって得られる収入がゼロになってしまうでしょうし、オンラインの出願で、受験料35.000円を課す、というのは余りにも暴利だと思われてしまうでしょうから。

そして又しても「出羽の守」で恐縮なのですが、アメリカでは、「Common Application」*5というのがあって、400以上の大学がこれを採用しており、受験生はオンライン上でこれに書き込んで、オンラインで出願できます、一つ作成すれば同じものを何校にでも利用できます。手書きと違って容易にエッセイの手直しができるし、しかもオンラインで出願すると、受験料も免除になります。

Most colleges prefer online applications, which are often quicker and easier for them to process. One benefit of applying online is that it is easier to correct a mistake on an electronic application than it is on a paper version. It can also save you money; many colleges waive the application fee if you apply online.
             College Application FAQs

技術革新で得られたものは、こういうところで利用されるべきなのではないでしょうか。確かに昔はインターネットなどないですから、アメリカでも受験生は何度も書き直した手書きの願書を郵便で郵送料払って出願し、大学は送られてきた願書を事務整理するには膨大な人手がかかったでしょうから人件費が受験料に上乗せされて、という今の日本と同じ状態だったことでしょう。でも今インターネットの時代に、その旧いシステムはアメリカではちゃんと改善されています、皆が便利に幸せになっています、技術ってそういうものでしょう?なのにどうして、「IT立国」とかいう日本はこういうところで未だにその恩恵が蒙れないのでしょうか?



さて、終わりに。
こうして、受験生の親として気づいたことを書いてきて思い至るのは、
大学入試センター*6の怠慢
日本の大学の怠慢
そして勿論、
・いつも「教育について考えること」が後回しになってしまってここまできた、政治家だけでなく日本の大人全体の怠慢
です。

来週の国立大学の前期日程合格者発表で、我が家の受験が終わるのか、後期までもつれこむのか、はたまた年を跨いで結果は来年まで待たねばならないのか(!)、はわかりませんが、「去る者日々に疎し」で忘れてしまわないうちに、また今の受験制度についての疑問を書いていきたいと思っています。
塾や予備校(の阿漕っぷり)について書きたいことは山ほどあるのですが、今はまだ書けない、前期発表前の3月の週末です。