誰が誰をネグレクトしたか? 所在不明高齢者について雑感

足立区で、生きていれば111歳のはずの男性の白骨化した遺体が家族も同居する自宅で見つかったのが7月29日。
それ以来、次々の行方不明の高齢者が「見つかり」(本人が発見されたわけでなく、行方不明であることが『判明した』、という意味で)、全国で75人(8/7現在)の100歳以上の高齢者が「所在不明」だそう。

議論を巻き起こしたちきりん氏のエントリー、誰が何をネグレクト? に習って、

誰が誰をネグレクトしていたか?

と言えば、先ず第一に挙がるのが,

A ) 行政が高齢者をネグレクトしていた

ということ。数年以上、介護保険医療保険も利用していない、訪問しても会えない、つまり生きているのかどうかもわからない100歳超の高齢者の銀行口座にせっせと年金を振込み、祝い金やら記念品やらをせっせとバラまいていたってどういうこと?他に優先すべき仕事があったとでも?それも何十年もの間?
「訪問しても家族の同意がなければ面会できなかった。」
「個人のプライバシーの問題に役所は踏み込めない。」
「家族に『元気にしている』と言われたり、住所確認のハガキが本人名で返送されてきたらそれ以上は、信じるしかない。」
きっと行政の担当者がこのネグレクトに罪悪感を持ちつつ何もしなかった日々の間に、いつか事実が露呈した時に備えてしっかりと用意されていたとしか思えない言い訳の数々。
ん?これって最近の何かに似ていないだろうか?
大阪市で若いシングルマザーが育児ネグレクトで3歳と1歳の子どもを殺してしまった例の児童虐待も防げなかったケースと同じじゃないだろうか?「通報があったのでマンションを5回訪問したけれど会えなかった。」「保護者と児童の特定ができなかった。」という理由で、救えたはずの子ども二人をみすみす見殺しにした児童相談所。こちらも、この件よりも緊急性が高い仕事が2ヶ月以上も続いていたとは思えないのですけどね。前述のちきりん氏によると、「行政による国民保護のネグレクト」。
これと同じで100歳を超える長寿の高齢者が行政からネグレクトされていた、ということがはっきりした。選挙になると候補者が唱える「お年寄りに優しい施策」やら各自治体のホームページの「高齢者に優しい町」だのは何だったのか?そして同時に、

B ) 行政が若者=納税者をネグレクトしていた

としか思えないのですね。この猛暑でへたっている私にはとても無理ですが、今私が若者ならば、怒りの余り国会議事堂でも厚労省でもデモ隊組んで押し掛けていって、「所在不明の高齢者」に払われてきた年金を全て洗い出し最後の一人から返還してもらうまでびた一文納税も保険料の納付も致しません!と、twittermixiでキャンペーンを張って、ガンジー以来の大規模な不服従運動を展開しちゃいますね。納税者&保険料納付者は全員怒ってもいいですが、特にこれから何十年も払い続ける若者は、特に怒るべきでしょう。彼らにこれからも納税&保険料納付してもらうためには、先ず、
所在不明の高齢者に(無駄に)どれくらいの年金が支給されてきたのか?
を明らかにして、その上で「最後の一円まで」回収してほしいものです。そうでないと若者が、納税と保険料納付をネグレクトしても文句言えません。この状態のままで、
「20歳になったら国民年金
なんて、言えないのと同様に。


さて、少し話しは逸れますが。
毎年9月、「敬老の日」が近づくと、必ず市長さんとか知事さんとかが、地域最高齢者の家を訪ねて、「長寿お祝いの金杯だの「長寿お祝い金」をにっこり笑ってお年寄りに手渡ししているところ


が、テレビで放映されるけれども、市長さんだって知事さんだって、家族に囲まれて暮らすそのとても幸せな高齢者の他に、
「所在は確認できないけれど、書類上は生きていることになっている高齢者が存在する」ことを知っていた
のではないでしょうか?例えば、足立区の自宅で白骨化して見つかった男性と共に、今回ニュースになった、杉並区最高齢(113歳)のはずの女性。1999年から10年以上も杉並区長を務めた山田宏は、毎年杉並公会堂で行われていた敬老会・半寿顕彰式典には出席していらしたのですから、区長就任以来、区内最高齢者の名前も(今回所在不明がわかった113歳の女性)、毎年一歳ずつ加えられる年齢も承知していたはずではないでしょうか?おまけに、以下は山田氏のどうやら「コストカッター」としての自画自賛の自慢話のようなのですが、

敬老会の際に区がお年寄りに配っていた紅白饅頭を廃止したこともあります。「高齢者に冷たい」などと散々な悪評でしたが、当のお年寄りからは「その分の経費を若い人達のために役立てて欲しい」との温かいお言葉をいただきました。日本創新党党首 山田宏ホームページ

この紅白まんじゅうとは、以下のような意味合いもあったといいますが。

杉並では山田区長により、9月の敬老会の紅白饅頭やプレゼントが廃止され、区の職員や民生委員がそれを渡すことで安否確認をしていたこととりやめとなりました。
杉並区議会議員 けしば誠一ブログ

年に一回「紅白まんじゅう」を配る時にしか、確認のチャンスがないという行政の在り方も貧しいと思いますけど、事情はどうあれ、区長として10年以上にわたって杉並区の首長だったのですから、山田氏から何らかのコメントがあってもいいのではないかと思いますけどね。彼の施策次第で10年前に「所在不明」ということがわかったかもしれなかったのですから。それに確か杉並区は、この山田氏が区長時代、住基ネットに接続しておらず最近になってやっと接続したのではなかったかしら?年金の支給という点では、大いに問題ありの施策だったということですね。

ついでにもう一つ脇道に逸れると。
国勢調査って意味あるんですか?

今年は奇しくも国勢調査の年(総務省統計局ホームページ/国勢調査)なのですよ。オリンピックやワールドカップ並みの5年毎に行われるそうですが、過去20年くらいの間の国勢調査では、今回の所在不明高齢者は統計上どう処理されていたのか、是非とも教えてほしいです。もし「生存している高齢者」の一人として処理されていたなら、本当にこの調査自体に意味はないので、事業仕分けでどんどん切っちゃってその分、もっと実になる事業に振り分けてほしいものですが。


やっと「ネグレクト」に戻りますが、「全国で所在不明の100歳超のお年寄りが何十人も存在する」という今回の事件の一番のモラル崩壊の危機とは、

C ) 高齢者(70歳〜80歳)が親の世代の高齢者(100歳超)をネグレクトしていた
ということではないでしょうか?
「今時の若者は年寄りを敬わない」「核家族化で家族の絆が薄れた」「日本の古き良き美風と伝統が失われている」と日頃散々ブーイングしている一番の世代がこの世代なのではないでしょうか?「たちあがれ日本」のように。100歳超の長寿高齢者の子どもたちの世代が、この世代なのですね。「親孝行」「家族を大事にする」という彼らが唱える価値観はどこに行ったのでしょう?
テリー伊藤が、日本テレビ系のワイドショー「スッキリ!」で、杉並区内に住む都内最高齢者(113歳)の女性が所在不明ということで同区内に住む長女(79歳)にインタビューに押しかけた報道陣に対して怒りを向け、

だって、何も悪いことしていないですよ、この長女は。長女は『母は弟と住んでいるかもしれない』と言っているんですよ。マスコミが年配の長女宅に行って、どうなっているのか聞く意味があるんですか。
弟と住んでいるかもと言うのだから、杉並区は発表する前にその先をきちんと調べるべきで、やることはいっぱいある。弟とは仲が悪いなんて、何で言わなきゃならないんですか。この長女に落ち度はまったくない。失礼ですよ。*1

と述べたとのことですが、本当にそうでしょうか?
大阪市の二人の幼児をネグレクトして死に至らしめた母親である23歳女性と同じく、

「放っておいたら生きてはいけないとわかっている、第一親等の身内をネグレクトしていた」という点では同じ

ではないのでしょうか?
毎日各地の自治体で明るみになる「日本の平均寿命を計算し直さなくてはならないほどの」国辱ものの驚くべき数に上りそうな、所在不明高齢者(100歳超)の数々の後ろには、
平気で親をネグレクトしている子どもである高齢者(70〜80歳)の存在がある、
ということです。モラル崩壊、とはまさにこのことです。
そしてこのモラル崩壊は、これだけに留まりそうにもありません、更に「年金不正受給」という問題が絡んでくるからです。
「自分たちも年金を受給しながら、所在不明の親の年金を引き出して使っていた」
という、トンでも事例は既に報道されているだけでも何件もあります。これを全てのケースにわたって徹底的に洗い出して、勿論全額返還して頂きましょう。
万引きは犯罪です
と言いますけど、この
年金不正受給も立派な犯罪です、
しかも長年、悪意を以て、という点で数段質の悪い犯罪です。しかも、悲しくなるのは、自分たちも年金を貰っていながら、更に100歳超の高齢の親の年金まで不正に取得する、ということです。この世代は確かに「戦後の日本の復興につとめてこられた世代の方々」かもしれませんが、「親をネグレクトする」だけでも十分にモラル崩壊していますが、更にここ数年来ずっと政治のトピックでもあり日本人全体がその制度自体に危機感を抱いている年金を不正に受給していて良心が痛まないのでしょうかね。
3歳と1歳の幼子を育児ネグレクトして死なせてしまったかの若い母親ですら、ネグレクトしつつ「子ども手当」はしっかり貰う、なんてことはしていなかったんじゃないかと思います。
木走正水氏の主張
建前論を捨てベクトルを即刻「犯罪」報道に転換せよ!!
その通りだと思います。100歳超の高齢者である親の年金を不正受給していた70~80歳高齢者の最後の一人から、不正に支給されていた年金を返還してもらうまで、前述のように、「保険料不払い運動」したっていいくらいです。





親からも行政からもネグレクトされて亡くなった子どもたち

子どもからも行政からもネグレクトされて所在不明の100歳を超えるお年寄りたち


お盆を前に、暗鬱たる気分になることである。