Mandarin(中国語)の波、が文科省には見えているのか?

先日、東京駅中央コンコースを歩いていて、仰天した。構内アナウンスで中国語が流れたからだ。
我に返ってよく考えてみると、「仰天した」私が今更おかしいのであり、これが今の日本社会の実情によく即しているのであった。

乗降客として東京駅を利用する中国人が多いから、自然と構内アナウンスに中国語が必要になるのだろう。決してそれはフランス語やドイツ語ではないわけで。
家電量販店やらホテルやらデパートやらはたまた全国各地の観光地など、中国人観光客のおかげで何とかこの世界的不況を凌いでいるところも多いと思われる。
勿論、日本語を喋れる優秀な中国人を社員として雇う、という選択肢もあるだろう。
けれども、どうして高校までの公教育の中で中国語を学べる機会がないのだろうか?
在日米軍基地よりも、教育において戦後ずっと第一外国語は米語(英語でないことに注意)、ということの方が問題の根が深い気がする。

上記の東京駅のようなことが、他の地方でも顕著だという。
九州の観光地はどこに行っても韓国語が飛び交い、旅館やレストラン、土産物店の関係者にとっては、韓国語はもう避けては通れない言語である。大分の観光業に関係する人々にとって、一生のうち数回行くか行かないかの海外旅行で使うかもしれないし全く使わないかもしれない英語を中高で勉強するよりも、韓国語こそ一番身近で必要な文字通り「第一外国語」なのではないだろうか?
一方、今やロシア領事館もある新潟や、北海道沿岸の地域では、これから先ロシア語の方が英語よりも必要になってくるところもあるだろう。
ああ、それなのにそれなのに、何故「第一外国語」は未だに英語なのだろうか?
国家的戦略というものから遠く離れている(と彼らが思っていることが問題、『教育』は大きな国家戦略なのに!)文科省は、脳天気にも程があるのだが「小学校からの英語教育」(生徒側よりも寧ろ教師側に大いに問題があるのに)という愚策を進めようとしている体たらくである。


第二次世界大戦が終わって65年、冷戦が集結してからでさえ20年。「アメリカ英語一辺倒の教育」こそ、本当に見直すべき時期なのではないか?
あまつさえ、21世紀は中国の存在感が今まで以上に大きくなることは見えているのに、何故この大国である隣国の言葉を、義務教育の外国語で教えないのか不思議である。
2,3年前にNHKで見たのだが、ジョージ・ソロス投資ファンドを立ち上げた大富豪であるアメリカ人投資家ジム・ロジャーズが、歳がいってから得た生まれたばかりの娘のためにニューヨークの自宅にわざわざ中国人の乳母を雇っているとのこと。その理由は、
「21世紀は中国の時代だから、幼い頃より中国語を学ばせるため」
何と今現在は、ニューヨークの豪邸を売り払ってシンガポールに移住し、その娘を今はシンガポールの中国人系の幼稚園に通わせているとのこと。
そういえば、我が家が子供たちをドイツのインターナショナルスクールに通わせていた最後の年に、学校から校長名で保護者宛の手紙が来たことがあった。

「本校で学ぶ子供たちが大人になる頃には、Mandarin(Chineseじゃないことに注意)が大変重要な言語になることは間違いない。保護者の希望があれば、来年から中国人教師を招いてMandarinの授業を行うが、あなたの子供にMandarinの授業を受けさせたいか否か?」

というアンケートだったのだが。その時は、海外にいて殊更ナショナリストになっていた(駐在員症候群の一種。逆の症状を呈し自虐史観に陥ることもある)ので、「日本語でなくてMandarin」というその事実だけが悔しくて、「受けさせたくない」方にチェックを入れて提出した記憶がある。

それはたった3年前だけれども、今の私は考え方が全く違う。現在大学3年の息子が大学に入学する時には、「折角3年間過ごして素地があるのだから」とドイツ語を勧めたが、今高三の娘には、「大学に入ったら、中国語をやるといい」と勧めている。本来は彼女の方がドイツ語も達者でフランス語も少しかじっているのだけれども、公平に見て、これからの時代生きていくのに、中国語を喋れる/喋れない、読める/読めない、仕事で使える/使えない、というのは大きな差になってくると思うから。それはとりも直さず、このたった3年の間に、それくらい(ヨーロッパ志向の私の頭を揺さぶるくらい)中国の存在感が増したということだと思う。そして21世紀の今後は、それがもっと大きくなるのだろう。

我が日本の進む道は、
貿易立国(少々古臭くも感じるが)、
観光立国(少子化が進んでも外貨が稼げる?)、
というのならば、先ず学校教育においての語学教育から戦略的に考えたらよいのに!
とは、最近出かければ出かけた先で必ずといっていいほど感じる、圧倒的中国語の波、中国の存在感を前にして思うことである。
勿論、中国語を学校で学ぶ外国語の選択肢に入れるのならば、同時にロシア語やアラビア語、韓国語も入れるのが、本当の意味での「戦略」だと思うけれども、念のため。


※外国語教育についての、拙ブログ「英語はそんなにスゴい言語か? ①〜⑤」を読んでくださると有り難いです。