さかもと未明氏による「再生JALの心意気」と、それに対する非難に関して時間をおいて考えてみること  ① 赤ちゃん連れの母親の大変さが本当に理解されたのかどうか?

再生JALの心意気/さかもと未明(漫画家)


漫画家さかもと未明氏が、飛行機で乗り合わせた赤ちゃんに関してJALにクレームを付けた一件を雑誌「Voice」12月号に寄稿したものが、ネット上でゴーゴーの非難を浴びて、そして台風のように過ぎ去って行きました。
さて、暴風雨が通り過ぎた後、穏やかな日常に戻ったところで、冷静にこの問題について考えてみたいと思います。



数ヶ月前にネットでこういう記事を見ました。

双子の赤ちゃんを連れて飛行機に乗ったパパママの斬新な「気配り」が大反響を呼ぶ|ロケットニュース24

が、正直私はこれを読んで、記事にあるように

彼らの配慮の気持ちとちょっとしたユーモアは、乗客たちの心に届いたようだ。

などとは感じることはできず、逆に不快になりました。

そこまで気を遣わないと、赤ちゃん連れて飛行機に乗ってはいけないのか?

と思ったからです。
それと、何だか
「精一杯の努力と気遣いをしている母親に対しては寛大になるけれども、何の努力もしていなくて(していないように見えて)赤ん坊を泣かせている母親に対しては寛大になれない。」
という、変な圧力を感じてしまうから。
この目に見えない「変な圧力」があるからこそ、もうずっと以前よりネット上では「赤ちゃんや幼児と飛行機に長時間乗る時のノウハウ・アドバイス」のようなものがそこかしこに溢れているのです、今回色々とコメントなさった方々の中でそれをご存知の方がどれくらいいるかわかりませんが、男女問わず独身の方、既婚ではあるが子供がいない方、既婚で子供はいるが子育ては妻任せの男性の方、間違いなく昔子育てしたはずなのに何故か子連れの母親に厳しい中高年の方、どうぞご覧になって頂きたいものです(「子連れ 飛行機」とか「赤ちゃん 飛行機」でググると山ほど出てきます)。


チケットを取る時からその「気配り」は始まっていて(座席を指定、キッズミールやバシネットを予約)、赤ちゃんならば搭乗前は極力寝かさないように、小さな子供ならば空港で思いっきり遊ばせてくたくたにさせて(どちらも機内で寝てもらうための準備)、加えて赤ちゃんや幼児を退屈させないためのおもちゃを多量に手荷物に入れるだけでなく、お気に入りのビデオをビデオカメラに録画して持ち込む、とか、ポータブルのDVDプレイヤーを持ち込むとか、本当に涙ぐましい「気配り」をしています。これは飛行機ではありませんが、赤ちゃん連れて一人で新幹線に5時間乗らなければならなくなった友人が、「車内でトイレに行かなくてもいいように、私は前日から水分を控えた。」と言っていたことがありました・・・。そして「機内で泣かないように、睡眠薬のようなものを飲ませる」ことまで考えている母親たちが少なくないことに、驚いてほしいのです。母親たちにここまでの過剰な「気配り」(←を既に超えた次元だと思いますが)をさせるのは、何かおかしい!と思います。




今回のさかもと未明氏の一件に関して、多くの著名人がコメントしていますが、気になるのは、コメントした有名人に男性が多いこと、と、そしてコメントしている男性諸氏の、さかもと氏と飛行機に乗り合わせた赤ちゃんのパパに対する同性としてのコメントがないことです。
さかもと氏が書いている文章を読む限り、赤ちゃんの父親は飛行機に乗っていなかったようですが、そこを突っ込んでほしかったですね。赤ちゃんを飛行機に乗せるならば、理想は万障繰り合わせて父親・母親揃って乗ること、です。今回のように泣いたりぐずったりした場合、母親だけでは大変であること。のっぴきならない事情で母親一人で赤ちゃんと飛行機に乗らなければならない場合、何事もなくても母親はものすごく大変であること。赤ちゃんが泣いたりぐずったりすれば、その大変さは人知を超えること。更に今回のように、見ず知らずの乗客(さかもと氏)に

あなたのお子さんは、もう少し大きくなるまで、飛行機に乗せてはいけません。赤ちゃんだから何でも許されるというわけではないと思います!

と面と向かって言われた場合のショックを母親一人で受け止めるのは酷であること。等々に何故言及しないのでしょうか?「事情もあるだろうけど、赤ちゃん連れならばママだけでなくパパも一緒に飛行機に乗った方がいいよ。」とか、「一時間半の間、泣き続ける赤ちゃんのケアでへとへとなった上に『赤ちゃんを乗せるな。』と言われた奥さんがショックから立ち直れるように、いたわってあげてほしい。」とか。そういうコメントがないということは、この問題についてどこか傍観者のように私には感じられるというか、問題の本質を理解しているのかどうか、疑問を持ってしまうのです。
前述の「赤ちゃんや幼児を飛行機に乗せる場合のノウハウ」なども、母親たちのみが必死で情報交換しているのであり、父親には「今度赤ちゃん連れて飛行機に乗るんだけれど・・・」という悩みは存在しない(少なくともネット上では)かのようです。第一さかもと氏がクレームをつけた当のJAL

お子さまをお連れの方には、機内でのマナーをまとめた『mama&baby』という冊子をお渡しし、ご協力をお願いしています

と言うところのこの冊子のタイトルからして「mama&baby」であって、「papa&baby」でもなければ「parents&baby」でもないんですから。勿論、「mama&baby」で飛行機に乗る場合の方が「papa&baby」よりも圧倒的に多いのでしょうけど、そこはそれ、「再生JALの心意気」で、せめて「parents&baby」にしてほしいところです。赤ちゃん連れの時は、ママだけでなくパパも一緒に飛行機に乗ってくれた方が、再生JALの営業的にも、そしてCAの労働量から言っても大歓迎ではないかと思いますけど。
そして、電車やバスの中のベビーカーの母親に関してネット上で再々話題になっていた時は、今回の件についてコメントした諸氏は発言していたのでしょうか?まさか飛行機の中の赤ちゃん連れの母親だけを援護しているわけではないと思いますが、影響力がある諸氏に是非率先して、電車やバスや街中の赤ちゃん連れの母親にも同じく理解を促すような啓蒙的コメントをして頂きたいと思います、今回誰が見ても一方的に非があるさかもと氏に対する批判は、或る意味容易で安全なのです。本当に赤ちゃん連れの母親に理解があるのならば、批判を覚悟でもう一歩踏み込んで頂きたいものです。というのも、つい先日もJR渋谷駅中央改札から東急の改札口に降りる階段のてっぺんで、ベビーカーを押した若いママが途方に暮れていて、周りを背広姿の男性やら大学生らしい男の子が沢山通るのに誰一人手助けしないのです、皆、茂木氏やつんく♂氏や乙竹氏の、赤ちゃん連れの母親に理解あるコメントを読んでいないのでしょうか?飛行機の中で泣く赤ちゃんと途方に暮れる母親に理解を示すのならば、何故目の前で困っているベビーカーを助けないのでしょうか?夏前にぎっくり腰を患った不肖私が下まで一緒にベビーカーを持って下りたのですが(ちなみに横を通行するお元気そうなオバサマ方、女子大生も無関心)、空の上はともかく地上ではこれほどまでに赤ちゃん連れの母親に冷たい世間様を本気で啓蒙して頂きたい!と思うのですが、如何でしょう?

ところで「再生JAL」とは思えない、民間会社なのに相変わらずの官僚的で形式的な冊子「mama&baby」のネット上で読める内容についても、一言言っておきたいのですが、先ず、機内で安全にお過ごしいただくためにおでかけ必需品リスト は、毒にも薬にもならない当たり前のことが出ているだけで、先輩ママたちがネット上で公開しているノウハウやアドバイスの方が百万倍役に立ちます。JALの担当者はそういうページを読んで大いに勉強するべきですし、「機内で迷惑をかけないためには睡眠薬を飲ませる方がいいのか。」というところまで、ママたちの「気配り」が暴走していることに是非危機感を持って頂きたいところです。飛行機に乗って頂く側である航空会社の「気配り」が足りないから、そういう暴走を招いている面もあるのでは?加えて、機内で快適にお過ごしいただくために というページに至っては、何ですか、これ!?

座席につく時に周囲の方にご挨拶をしておくと、周りの方に好印象を残すこともできます。

すご〜く口臭がきつくて、ガーガー鼾をかいて、おまけに肘掛けを越境してこちら側に上体傾けて寝るオジサンは、事前に是非「周囲の方にご挨拶」をして頂きたいものですが、再生JALは、それはお客様にリクエストしないわけですよね。何故、それを赤ちゃんや幼児連れの「mama」だけに要求するのか?そして冒頭にも書いたように、この一見「気配り」に見えること、実はそれがCA風の浅知恵というか、逆に赤ちゃん連れの母親に無用の圧力をかけ(「気配りしないと、泣いたり騒いだりした時に冷たくされる」)、更には、周囲の乗客にも実は不快感を与えていることもあるのです。以下のページの一番下を見て頂ければよいのですが、この筆者は、「座席につく時に周囲の方にご挨拶をしておく」ことについて、このように言っています。
子連れ海外旅行マニュアル 飛行機内をクリアする方法

挨拶されてしまった側は、先に挨拶という名の「おことわり」をされてしまったので、本当にうるさくて迷惑だったとしても、我慢しなくてはいけない状況になりそう。なんだかそこに「言ったもん勝ち」のような匂いを感じてしまうのです。うまく説明できませんが・・・。
(中略)
この挨拶で相手に何を望んでいるんでしょう?突き詰めていくと、言いたいことは「我慢してほしい」のです。つまり私の違和感もそこにあります。初対面の人にいきなり「我慢してね」と言っているのに等しい挨拶なのです。
(中略)
挨拶をすることで気が楽になっているのは自分達だけではないでしょうか。相手は、先に謝ってもらっても、迷惑は迷惑でしかありません。 やっぱり迷惑を最小限にする努力、近くの席の人が望むのはこれではないでしょうか。

↑ これが普通の感覚ではないでしょうか?百歩譲って、事前に周囲の人に挨拶(キャンディとお手紙でも添えますか?)したい人はすればよいと思いますが、それを航空会社がmama=母親に推奨するのは、とてもおかしいことだと私は思います。乗客である母親に丸投げって、如何にも形式的官僚的で、全然「再生JAL」じゃありませんよ。

この考えてくると、さかもと氏に対しては、企業として鮮やかすぎる見事な対応をした(とされる)JALですが、航空会社の側にも、責任の全てをクレーマーと「mama&baby」に押し付けるのではなく、快適な空の旅を全ての乗客に提供するために改善する余地がまだまだあるのではないでしょうか?

さかもと氏への批判は旺盛だけれども、再生JALに対しては口を噤んでしまっている、ネット上で今回の件についてコメントした男性諸氏とは違って、次のエントリーでは、航空会社に対して、少々言わせて頂こうと思います。
それは、多少なりともさかもと氏の立場を理解することにもなるので、大いに地雷なのですが。


さかもと未明氏による「再生JALの心意気」と、それに対する非難に関して時間をおいて考えてみること  ② さかもと未明氏のクレームの真っ当な部分

さかもと未明氏による「再生JALの心意気」と、それに対する非難に関して時間をおいて考えてみること  ③ 赤ちゃんは本来泣くものであること