オリンピックの応援とは違う愛国心が、家電メーカーリストラのニュースで芽生えたことなど


連日の酷暑とオリンピック報道一色の中で、オリンピック以外のニュースへの反応度が、平時の三分の一程度に低下している私ですが、このニュースには驚きました。

パナソニックが10月に「小さな本社」 150人の戦略本社に
2012.8.3 18:41
大手電機メーカーのパナソニックが2012年10月に始動する「新本社」の人員を、現在の7000人から一気に数百人規模に縮小することがわかった。*1

シャープ、人員削減は国内外で5千人規模に
2012.8.2 10:07
 シャープは2日、国内外の従業員5千人を早期退職の募集などで2012年度中に削減する方針を固めた。液晶テレビ事業などの不振により大規模な人員削減が避けられないと判断した。*2


「本社社員150人」て、どこかの中小企業のお話ではないですよね?天下の松下さんの話ですよね?暑さで幻覚が見えている訳でも、数字を読み間違えている訳でもないんですよね?昨年でしたか、NHKで「神様の女房」という、松下幸之助・むめの夫妻のドラマをやっていましたが(キャスティングは、経営の神様が筒井道隆、糟糠の妻むめのさんが常磐貴子)、あのドラマの中だと、どの辺りが「右肩上がりのグラフにおける『本社社員150人』」くらいだったのでしょうかね。今回は「右肩下がりのグラフでの『本社社員150人」」なんでしょうか?松下さん、改めパナソニックがそこまでの状況に至っているとは!
 そして我が家のテレビは「世界の亀山」なんですけどシャープさん!去年地デジ化の時に買い替えたので、次にテレビを買い替えるのは5年後?10年後?その時に、シャープ製と言わず、日本製のテレビが買えるのでしょうか?
 SANYOが無くなってしまったのも記憶に新しいところです。ニュースでは知っていても、それがどういうことなのか、昨年のクリスマスにやっと私は実感しましたね。鶏をオーブンで焼こうと思ったら2年前に買ったSANYO製オーブンレンジの鉄板専用の網を引っ越しで失くしてしまったことに気付き、SANYOのウェブサイトを開いたら・・・

当社電子レンジは生産終了致しました。
ご購入いただきましたお客様のお問い合わせ・サポートは引き続き継続致します。


という寂しくも悲しい文字が。高度成長期の日本に生まれた私は、ですからこれまでの人生においてこのような悲しい思いをしたことはなかったのでした。誰もが知っている日本のメーカーが、社業から撤退している(パナソニックに買収されたのですが)という事実は、かなりショックでしたね。国内の同業他社に買収されたのですらショックなのですから、それが海外資本による買収だとどんな気持ちになるのでしょうか?
実はそのちょっと前に、小泉今日子が、元SANYOの「AQUA」というブランド、実は現在はハイアールの洗濯機のCMに出ていることについて、友人たちとちょっと話題になったことがあって、


小泉氏のイメージをフルに利用したそのCMは広告代理店の思惑が全く外れて、その場の私たちオバサンたちのハートをこじ開けるには至らず、私たちの意見は圧倒的に
「私は日本のメーカーを応援したいから、これから先、買い替える時でも、洗濯機も冷蔵庫もテレビも必ず日本のメーカーのものを買うわ!」
「若い子は、『AQUA』が最早日本のメーカーのブランドじゃなくて、中国企業のブランドって知らないから、コイズミのCMにだまされて買っちゃうかもしれないけど、私はだまされないわよ。」
という、戦時中の報国婦人友の会も真っ青の鼻息の荒さだったのですが(パナソニックやシャープの経営陣の方々にとっては力強い限りでしょう?)、SANYOが電子レンジの生産から撤退しているのならば、数年後には洗濯機だって「日本のメーカのものを買う」という選択肢があと幾つ残っているのでしょうか?また、その報国婦人の会で或る友人がこう言ったのですが、
「実は私は掃除機は外国製を使っているんだけど(彼女は、ルンバとダイソンを所有)。それは自分的には許せるの。日本のメーカーの掃除機は掃除機の癖に機能が複雑すぎて私が欲しいものがないから。でも冷蔵庫とか洗濯機とか、特に生活に密着していて長く使うものは、数万円高くてもやっぱり絶対に日本のメーカーよね。自分が中国のメーカーの冷蔵庫を買う、という想像ができないもの。」
この模範的報国精神に、残りのオバサンも「ごもっとも!」と大きく頷いたのであったのでした、が・・・。
この春、私は100歳超の祖母が入居する老人介護施設を訪れたました。そこは少人数でアットホームな介護を目指す施設で、入居に当たっても自分の愛用している家具を持ち込むことも可能で、各居室も出来るだけ「施設」の要素を出さないように作られていて、最小限の電動ベッドや冷蔵庫だけが「施設」の備え付け、という風になっているところだったのですが、お見舞いに持っていた水羊羹をその備え付けの冷蔵庫に入れようとして、私は気付きました、「冷蔵庫がハイアール製」ということに。そういうことなのね、と妙に納得してしまいました。これは小泉今日子のCMが老人介護施設への営業において功を奏したわけではないと思います。イメージなんて関係ない「価格」の問題なのでしょう。「数万円」も安ければ、施設の備品担当者は日本のメーカーのものでなく、外国のメーカーの冷蔵庫を選ぶでしょう、選んで当然です。この小規模な老人介護施設でもそうなのですから、もっと何十台もの冷蔵庫を備品として購入する病院やオフィスは、遠くない将来、皆日本のメーカーの製品でなく、安い外国のメーカーの冷蔵庫を選ぶでしょう。その結果、益々日本のメーカーのシェアは下がり、益々機種は減り、やがては冷蔵庫の製造・販売から撤退していくのでしょう。そうして日本のメーカーの冷蔵庫という選択肢がなくなり、「外国メーカーの冷蔵庫か、氷冷蔵庫か」という究極の選択肢しか示されなくなるのでしょう。テレビや洗濯機も同じ運命を辿る可能性は大です。水羊羹を冷蔵庫の棚に入れながら、私には暗く悲しい未来が見えてしまいました。ジグゾーパズルのパズルをはめて絵を完成させるのとは反対に、完成したジグゾーパズルから、記憶のピースが一つずつ欠落しているような今の祖母ですが、この祖母こそ嘗て
「電化製品は、やっぱりナショナルが長持ちするわね。」
と言って愛用していた人なのでした・・・。


さて、80年代に学生時代を送った私の世代は、服やバッグや化粧品を選ぶ時に最早「日本製か、外国製か」という意識すらありません。デパートの化粧品売り場のブランドは、日本のものの方が少数派で、圧倒的に海外ブランドに占拠されていますが、私も件の報国婦人の友人たちも、化粧品は海外ブランドを使っています。車を選ぶ時も、「その車が好きかどうか」が選ぶ主眼であり、「どうしてもトヨタじゃなきゃ」などとは考えません。私なんて、iPhoneMacbookと買う時に何の逡巡もなかったですし。ということは、化粧品も車も携帯もPCも、消費者の感覚がグローバル化しているということで、その結果衰退していった日本のメーカーがある一方、資生堂トヨタはその中で生き残ってきたのだと思います。家電メーカーもその道を歩むべきなのでしょうか?家電量販店に並ぶ家電の殆どが海外メーカーのものであることに違和感を感じない消費者に私たちはなれるのでしょうか?今の状況を考えると、何れ否応無くそうなるのでしょう、もう秒読みかもしれません。
でも、冒頭のニュースなどを読むと、何故かしらもう一度日本のメーカーには頑張ってほしいと願う愛国心がむらむらと湧いてくるのです。円高とは関係ない国内の消費者が、報国婦人をはじめとして、まだこれだけいるのですから。


ところで、何故日本の企業は「日本製を買おう!」という運動をしないのでしょうか?
80年代、若かりし私は一時的にケーキ作りにのめり込んでいて、作ったホールのケーキをお店並みに美しくカットしたくて、先生が持っていらしたアメリカ製の電動ナイフが欲しくて、アメリカに出張に行く父に頼んでその電動ナイフを買ってきてもらったことがありました。そのナイフは昨年の引っ越しの折に捨ててしまったので、今は手元にないのですが、その電動ナイフは、箱にも本体にも「Buy,American!」という星条旗を模したステッカーが貼ってあったのを覚えています。当時のアメリカは、80年代前半のドル高を引きずっていました。

また、90年代の円高の折、私はせっせと海外通販で子供服を買っていて、中でも「Cyrillus(シリリュス)」というフランスのプチブル向けのブランドには「円」を沢山貢がせて頂きました。当時は、葉書でカタログを請求して、FAXでフランスに注文、という今では信じ難いアナログな方法でオーダーしていました。このブランドは一時日本にも出店していて日本語のカタログもあったのですが、数年前に日本からは撤退してしまい 、最近知り合いの赤ちゃんにお祝いを差し上げることになったのを機会に、再び今度はネットで注文するようになったのですが、以前のカタログにはなかった記述に驚きました。全ての商品という訳でもありませんが、ものによって以下のような説明があるのです(悲しいことに、カタログから日本語が消えました、まだ中国語はありません)。

Tissu Europe et Confection France.

面白いことに、英語バージョンやドイツ語バージョンだと、「France」ではなく

European fabric. Made in Europe.
Europäische Herkunft und Herstellung.

と、「France」が「ヨーロッパ」に変わっています。なかなか抜け目のないフランス人です。「フランス製」と言わず「ヨーロッパ製」と言って(嘘ではありませんからね!)ドイツ人やイギリス人をはじめとしたヨーロッパ人にもこの製品をアピールしています。アメリカ人のように露骨に「Buy,American!」とは言わないけれど、やっている内容は同じなんですね。日本企業が「日本製を買おう!」とやらない理由は、それをやった途端、アメリカやヨーロッパから文句言われるのが見えているからだと思いますが、彼らだってやっているのですし、彼らが警戒する対象は今や日本ではないでしょうから、日本国内の報国婦人たちに向けて「日本製を買おう!」とやっても全然構わないと思うのですけど。
ちょっと前にこういう本が話題になりました。

チャイナフリー:中国製品なしの1年間

チャイナフリー:中国製品なしの1年間

何故「チャイナ」なのか、中国だけをターゲットにしたのは如何なものかと思いますが、「日本製」、また部品は海外で生産されていても「日本のメーカーの製品」を意識して買ってもらうような、穏やかなキャンペーンくらいはやってもよいのでは?

まあ実際のところ肝腎なのは、愛国心に訴えて日本の消費者を日本の製品に繋ぎ止めるののが最終的な目的なのではなく、それを生かしてまた世界でも売れる製品を作っていただくことです。いくら報国婦人の会員とて、何らかの納得できる付加価値がないと、「機能は外国製品と一緒で値段だけ高い」のでは、日本のメーカーの冷蔵庫も洗濯機も買いません。今なら、何と言っても「節電」。以前の「エコ」よりもより具体的な機能を付けてほしいですね。

「夏場、電力消費のピークである午後2時になったら自動的に節電する冷蔵庫やエアコン(3時になったらまた自動的に作動)」
「同じく夏場午後2時になったら自動的に切れるテレビ」
「一人暮らしの高齢者がこの先更に増えることも頭において、家中の電気製品のコントロールを遠隔で操作できるシステム」

とか、これくらいの機能なら新たに巨額の投資をせずとも今までの技術の延長で簡単に付加できるのでは?日本市場のシェアを死守して時間を稼ぎ、満を持して設備投資をして、その間に「次の次のステージ」くらいでサムスンやLGやハイアールと勝負できる製品を開発して頂きたいものです。
オリンピックで日本を応援する愛国心と、日本のメーカーを応援する愛国心は異なるものではないと、私は思うのですけど。


・・・暑いので、これしきのエントリーなのに一日では書き上げられなくて先週以来一週間にわたって毎日ぐだぐだ書いていたら、その後シャープの株価が連日安値更新で、本当に我が家の次のテレビは「世界の亀山」にできなくなりそうな立秋の翌日。