後味の悪い映画2本「2012」と「ザ・ウォーカー」 雑感

昨日(1月25日)の朝日新聞の夕刊にあった記事

太陽表面で大爆発   地球の磁気、乱れる恐れ

太陽で23日昼過ぎ、比較的大規模の爆発があり、放出された高エネルギー粒子が地球に向かっている。米気象衛星は2005年以来の規模の放射線を観測した。名古屋大の上出洋介名誉教授は「地球の磁気が乱される大磁気嵐になりそうだ」と話す。


を読んで、年末に見た2本の後味の悪い映画のことを思い出しました。
(ネタバレどころか、映画のストーリーそのものについて書いていきますので。)


1本目は、

Googleで「太陽 磁気嵐」で検索すると、ナショナルジオグラフィックニュースでは以下のように出ているんですね。

地球は現在、8年ぶりの規模となる強力な太陽嵐にさらされている。太陽から放出された荷電粒子の巨大な波が1月24日午前(日本時間24日深夜)、地球の磁場に衝突した。
 NASAソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリー(SDO)が太陽フレアからの極紫外線フラッシュをとらえたのは23日未明。それに続いて巨大なコロナ質量放出(CME)が発生した。CMEは太陽から放出される超高温ガスと荷電粒子の雲で、時速約500万キロのスピードで地球に向かい、わずか35時間で到達した。
Ker Than
for National Geographic News
January 25, 2012


(これはCGではなく、NASAによる太陽フレアの写真です)

この映画は、マヤ文明の暦が「2012年に世界が終わる」と予言していることを下敷きに

「太陽の異常な活動の影響で地球の内核が溶けて(!)地上が崩壊する」

という設定なのですが、

「SFというよりはハリウッドにありがちな荒唐無稽な設定なんじゃないの?!」

と思っていたら、冒頭のニュースです。

「もしかして、本当に起こるかもしれない?」

とほんの少しでも考えてしまうのが、「想定外」の地震を目の当たりにした後の日本人としては仕方ないのかもしれませんが。この映画はストーリー的には、

「主人公を含む、賢明にして勇敢なアメリカ人多くを含む少数の人類が生き残る」

という、これまたハリウッドにありがちな結末に至るのですけど。
この映画の公開は2009年ですが、その時に観ていたならば、他のハリウッド映画と同様、どんなに迫真の地震津波のCGシーンが出てきてもその迫真の映像を楽しんで(作り物ですから!)「絶対に最後はハッピーエンド」というお約束を無邪気に信じて観られたと思いますが、3.11以降の今観ると逆に、CGとわかっていても地震津波のシーン、ホワイトハウスやサンピエトロ寺院が倒壊するシーンを「作り物」として楽しむことなんてできませんし、登場人物群の中の家族が暮らす東京が襲われる凄まじい地震のシーンには気分が悪くなってしまいました。それは3.11以降、テレビで、「作り物でなく本物ーその中では本当に人が暮らす家が破壊され本当に人の命が失われるーの映像」を見てきたからだと思います。
折しも東京大学地震研究所が

「M7クラスの首都圏直下型地震が起こる確率は向こう4年間で70%、向こう30年では98%である」

という予想*1を発表しましたが、それは

「私及び子どもたちが生きている間に必ず大地震が起こる

ということですよね。この地震研究所のサイトでは、その数字をふまえて各個人が取るべき対策、例えば「家具の転倒防止」「火の元の始末」「家族との連絡方法の確認」等々、今までも言い古された諸々のことも書いてありますが、それを全て行ったとしても首都圏に住む人々は、実際に地震が起こった時にハリウッド映画の中のようにハッピーエンドに辿り着けはしないでしょう。それどころか、

「大きな不安の中でこれから何十年も生きていく」

「明日にでも地震が起こる」

かという、人類が未だかつて経験したことがないストレスフルな究極の二択の状況にあるのです、否、これからずっとずっと直面して生きていかなくてはならないのです。Wikipedia地震の年表_(日本)と見ると、有史以来これほど地震の被害を受けた国は日本以外にはなかったのではと今更ながら思わされますが、けれども貞観の大地震(869年)の時も関東大震災(1923年)の時も、

地震が起こるその1秒前までは、何も知らずに平和で穏やかな気持ちで生活していられた

ことは確かでしょう。今のように「この先4年間で70%の確率で大地震が起こる」という情報のストレスはなかったのですから。おまけに私たちは地震とセットで、「福島第一原発を筆頭に日本中にある原発地震でどうなるか?」という心配もしなくてはならないのです、全く。

この映画は「インデペンデンス・デイ」(1996年)

インデペンデンス・デイ [DVD]

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デイ・アフター・トゥモロー」(2004)と同じローランド・エメリッヒ監督

による作品です。この2本も状況設定こそ違え、主にアメリカ人である登場人物はトンデモ危機に打ち勝ち最後には
「主人公を含む、賢明にして勇敢なアメリカ人多くを含む少数の人類が生き残る」
というストーリーです。というか、この監督の映画においては、本当の「主人公」はCGで撮られた迫力のシーン、それは「大都市と文明の崩壊」「巨大台風」「津波」といった映像こそが本当の主人公であるのですが、エンターテインメントではない「3.11の本物のcatastrophe映像」を彼はどんな気持ちで観たでしょうか。
ただ、例えば「インディペンデンス・デイ」から「2012」に至るまで、今見比べると興味深いストーリ上の違いもあります、それは「未曾有の災害に対してアメリカ合衆国大統領の身の処し方」です。
「インディペンデンス・デイ」では、地球を襲う異星人への総攻撃に際して、元パイロットという設定ではありながら、現職アメリカ大統領が戦闘機に搭乗して先頭に立って戦う、という、アメリカ人にとっては感動ポイント、アメリカ人以外にとっては爆笑ポイントがあったのですが、「デイ・アフター・トゥモロー」では、アメリカ大統領は避難の際に遭難・行方不明、ということになっており(事実上は「死亡」であるのでしょうが)、更に「2012」では、黒人であるアメリカ大統領は確実に死ぬことがわかっていても自らホワイトハウスに残って最後まで国民に語りかけるのです。

そこで疑問:
もし首都圏直下型地震が起こったら、若しくは、福島原発4号機の使用済み燃料プールが地震で崩壊して核燃料が露出してしまったら、日本国総理大臣はどうするのか?ということです。
いち早く安全な場所に避難して、そこから指揮をとる
のか、
東北関東地方に住む国民全てが安全な場所に避難するまでは官邸にとどまり続ける
のか、どちらなんでしょう?
いや、私たちが知らないだけで決まっているはずです、ていうか、決まっていないと困ります、そうでなくては危機に対応できないですから。
加えて、映画「2012」では、各国の指導者がいわば「現代版ノアの箱船」に乗るべく集まってくるのですが、勿論大多数の国民は置いてきぼりです。その集まってくるまさに選ばれた「セレブ」の中に、コーギー犬と思われる犬を何匹も連れ、きちんとコートを着た銀髪で上品な老婦人がいるのですが、これはイギリスのエリザベス女王を暗示していると思われますが、では本邦の皇室の方々に避難して頂く計画はできているのでしょうか?これも政府首脳と同様、決まっているはずで、逆に決まっていないと困ります。それこそ次世代の皇族の方々だけでも京都に避難して頂くとか。っていうか、今更ながら京都というのは、津波もこなければ、大きな震源域の近くでもない、という日本では稀有な場所にある都で、明治になって東京に遷都し皇族の方々にも東京にお移り頂いたことは、もしかしたら悠久の歴史から見れば、浅はかで愚かなことだったのかもしれません。
とにかく、政府全体が「正常化バイパス」にかかったように「粛々と」仕事に励んで頂くだけでは困るのです。東京大学地震研究所が「4年以内に70%」と予想しているのですから、首都機能及び政府の一部を大阪でもいいし、過去に首都移転構想の候補地に上がった都市でもいいし、とにかく「東京一極集中」のリスクを分散してほしいものです。本当に今年2012年が、この映画「2012」と同じようなcatastropheにならないことを祈るのみですね、今は。





閑話休題
そして「太陽磁気嵐から連想したもう1本の後味の悪い映画」、というにはちと長い連想で、さよなら三角またきて四角の次、「四角は豆腐」から「光るはオヤジのはげ頭」に至るくらいの飛躍がある連想なのですが、それはこの映画です。

ザ・ウォーカー [DVD]

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冒頭、森の中の光景が映し出されます。緑の光線に満ちた森の中、何かが静かに降っています、落ち葉でしょうか。静かな森、木々の幹や枝の上に落ち葉の上に茂った苔の上に何か、落ち葉が静かに、けれどもはらはらと絶えず降っています。映画の冒頭すぐですからまだ何の説明もなされていないのですが、その森が何故か「『豊穣』とはほど遠い」「どこか『死』の気配がする」印象なのです。すぐに私の頭に浮かんだのは、目に見えない放射能に汚染された森のイメージでした。そしてすぐに画面には、狩りをする防護マスクをした男が現われるのです。
映画「2012」や、同じ監督が撮った「インディペンデンス・デイ」「デイ・アフター・トゥモロー」は、「(色々ごちゃごちゃあっても)人類の危機に打ち勝つ」ところまでの映画です、その先は「They lived happily ever after.(彼らは幸せに暮らしましたとさ)」という根拠のない楽観主義で映画は終わります。
この「ザ・ウォーカー」は、「根拠のない楽観主義」が本当に「根拠がなかった」と示される「終末映画」です。すぐに
「マッド・マックス2」

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を連想してしまいました。世界観は似ています。この映画「ザ・ウォーカー」は、世界の文明を破壊しつくしてしまった戦争(多分核戦争)が終わって30年後の世界を、「世界中でたった1冊残った貴重な本」をひたすら「西へ」歩いて運ぶ男(デンゼル・ワシントン)、即ち「ウォーカー(歩く人)」のお話です。ハリウッド映画ですから、人々が殺し合いをしてまで奪い合うこの本が、「コーラン」ではなくてあの本である、というのはすぐに想像できるのですが、その上でのどんでん返しが映画の最後にあります。
まあこの映画も、3.11以前ならば、アメリカの現代文明を表すもの(ハイウェイや建物や「シャンプー」に象徴される快適な生活)が全て破壊された後をイメージする映像を楽しむこともできたでしょうし、まるで西部劇の舞台のような砂色の景色の中を主人公のデンゼル・ワシントンが歩いていく筋立てを「面白い」と思うこともできたでしょうが、今となっては見れば見るほど胸が悪くなります、それでも画面に見入ってしまうほどの映像なのですが。
この映画から少しでも学ぶとしたら、文明が破壊し尽くされてしまった後の世界の壮絶さと絶望、ということでしょうか?物理的破壊だけではありません。映画内で、人々は、目を保護するために常にサングラスをかけ、汚染されていない水と食べ物をめぐって殺し合いをしています。目には見えない環境破壊が進んでおり、主人公が歩いて行く道の両側は文字通り不毛の大地であり、そこでは人肉食さえ行われているのです。

野田政権は16日の原子力災害対策本部で、東京電力福島第一原発の事故収束に向けた工程表ステップ2(冷温停止状態の達成)の終了を確認した。野田佳彦首相は記者会見で「発電所の事故そのものは収束に至ったと判断される」と事故収束を宣言した。
asahi.com

とのことですが、3.11での震源域の「割れ残り」の地震や首都圏直下地震で、4号機の使用済み燃料プールが冷却不能、もしくはプールを支えている建材が物理的に崩壊したら、一体どうなるのか?今までなら「荒唐無稽」と思うであろうこの「ザ・ウォーカー」という映画が、俄然「フィクション」ではなく極めて有りうべき近未来に見えてきます。福島だけではなく、全国の原発全てについても言えることです。もう一度はっきり整理しておくと、3.11の地震による福島原発の事故は、

「ベストの対処とベストの経過」を辿ってはいないけれども「最悪の対処と最悪の経過」は幸運にも免れた

ということであって、

1〜3号機全ての原子炉で水素爆発が起こり、4号機の使用済み燃料プールの燃料が露出して、破壊的規模と量の放射性物質が放出されて、首都圏を含む東日本全体が未来永劫住めない土地になる

というシナリオも十分ありえたわけですから。
とすると、この「ザ・ウォーカー」という映画は、そういう最悪のシナリオの結果、

日本がこんな世界になってほしくない!

と思わせる映画なのですね。




で、それで、と言う訳ではないのですが、遅まきながら署名してきました、

みんなで決めよう「原発国民投票

同時に大阪でも行われているようですが、大阪は市民投票実現に必要な署名数を突破したそうです*2
東京は?
東京都民は、住民自身が原発について考え決定する機会さえ、自分たちに望まないのでしょうか?
ザ・ウォーカー」の冒頭の森のシーンが頭から離れない私です。

『ザ・ウォーカー』本編冒頭シーン