3.11後にやめたこと二つ、 そして「ER緊急救命室」を全シーズン通して見る私的プロジェクト


「3.11以前にはしていて、3.11後にやめてしまったこと」
というものがあるとすれば、私の場合、

高層ビルのレストランでの食事

と、

映画館での映画鑑賞

ですね。

「高い場所にあるレストラン」といえば、横浜ロイヤルパークホテルの68階だったかのフレンチ(その名も「ルシエール(le ciel フランス語で『空』)」が多分私が経験した中で一番高い場所にあるレストランだと思いますが、他にも東京ならば高層ビルの最上階近くのレストランには事欠かず、丸ビルやミッドタウン、かなり古くなってはいますが新宿の高層ビル、渋谷ならマークシティセルリアンタワー、お台場なら・・・というよりもこの画像を見て頂ければ、首都圏では事ほど左様に高層ビルがまさに言葉通り「林立」しているわけです*1
実は私は「閉所恐怖症」でエレベーターが恐いくせに、近年はその恐さよりも、非現実的なくらい高い場所でのランチやディナーに魅せられて行く機会が多かったのですが・・・、
3.11以降、すっぱりきっぱり「高層ビルでの高層階での飲食」はやめさせて頂いております(キリッ 
考えてみれば、人間にとって「食事する」には不自然とも思えるくらいの高い高い場所で安くはない(地上のお店と比べればどこも「高さ料金」を上乗せしている気がします)料金を払って食事する、って、しかも首都直下型地震が近い将来起こる危険性を誰もが知っているのに、何故私たちはそんな気違いじみた行動をとり、3.11後も何事もなかったかのように(メニューやウェブページには、「このたびの震災により被害にあわれた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。被災地域の一日も早い復興をお祈り申し上げます。」というステレオタイプな言葉を言い訳のように入れるだけ入れて)常識外れの場所でご飯食べているのは何故?有り体に言ってしまえば、私たちは狂っていた、し、今も狂っている人が沢山いる、のではないでしょうか?控えめに言っても、正常な感覚が麻痺していたのかも。
ドイツに住んでいた時にフランス語を習っていたフランス人の先生は(←ややこしいですが)、頗る親日家ではあったのですが、近年来日した折に、それこそミッドタウンの展望台に行って下の景色を眺めた時に、「ニホンジン、クルッテルト、オモッタ。」と日本語で話してくれました。
繰り返しますが、地震のない国ならいざ知らず、地震国日本で、しかも近々巨大地震が起こる可能性が言われている東京に摩天楼と建て(高さ100メートル超のビルだと400棟以上)、食材や美酒を地上200メートル以上のところまで運び上げて、ゲストに供する「食事」って何?あらゆる意味での制圧感?征服感?だとしたら、それは間違っており、歪んでおり、確実に訪れる破綻を深層心理では待っているとしか思えません。
これって、地震国でありながら、地震が殆ど起こらない国に伍して原発をばんばん造っていたのと同じ構造なのかもしれません。
今回の大震災は、3月11日の午後2時46分に起こりましたから、レストラン的に言えば、
「ランチタイムが終わり、ラストオーダーの時間も過ぎて、お客もまばら」
という時間だったのがもっけの幸いでした。震災後友人や知り合いとも随分話しましたが、「丁度その時に高層ビルのレストランで食事中だった」という人の話は未だ聞いていません。しかし、レストランでなくても、高層ビルがどれだけ揺れたか、というのは、ちょっとYoutubeを検索してみれば、いくらでも恐い動画があります。三陸地方を襲った津波原発事故で蔭に隠れてしまっていますが、なかなかに恐い映像です。
シェフや料理長とは、美味しい料理でお客を幸福にするのが仕事であり、お客はレストランにそれを味わいに行く、それが親しい人とだと更に幸福になるということなのだと思いますが、もし日本が地震国でなかったならば、そこで話は終わると思いますが、高層ビルの高層階にあるレストランの場合、レストランで食事中に起こる「想定外の巨大な天災」にはどう対処するのか?端的に言うと「大地震が起こった場合のお客の安全」という事は考えてはいない(少なくとも第一意的には)と思うのですね。それは私たち一人一人が、今回の震災が起こるまで、生活の色々な局面でま〜ったく考えていなかった/考えようとしなかったのと同様に。そして既にあれだけの震災が示した意味も、日々の生活の中の目先の事柄の中で、見失われて行く今、レストランにもそれを求めることはできないでしょう。ステイタスはあるかもしれないけれど不自然に高い高層ビルの高層階のお店をテナント解約して、もう少し地面に近い場所でお客を幸せにしてほしいのですが。となると、自衛というのか、(キライな言葉)自己責任というのでしょうか、今まで何度か訪れた、気持ちを幸せにしてくれるレストランがあっても、そのレストランが「高層階にある」というだけで、お気に入りのレストランから外さざるをえないのです。
ともあれ、地震後5月の連休明けくらいまでは外出する気にもなれず、友人と会うことも殆どありませんでしたが、5月くらいからお互いに連絡を取り合い、「地震の時にどこにいて、どうだったか?」を報告し合う日々です、勿論地面に近いところにあるレストランで。




で、先月代官山の「地面に近いところにある」レストランで1年ぶりに会った友人は、地震の時、新宿で映画を観ていたのだそうです。私と共通の友人で、海外生活が約20年というもう一人の友人と一緒だったそうなのですが、地震発生時は、映画が始まったばかりで、まだストーリー展開もわからないうちに何だか揺れ始めたそうで(@新宿ピカデリー)。最初は地震と気がつかなかったのだけれど、揺れがどんどん酷くなるので、徐々に席を立って逃げ始める人が出始めたのに、その海外生活が長い友人が、

「日本の技術はスゴいんだってば!映画と座席が連動していて振動するって聞いたことあるから、きっとそれよ。だいじょーぶ、だいじょーぶ!」

と言って、どっしり深く座席に腰掛けたままで、そう言われればそういう気もして(これは正常化バイアス!?)座り直してみたものの、揺れは更に酷くなり、「これは『日本の技術』なんかじゃない」ということに気がついて、最後の最後に避難した、という話を聞きました。

「『地震だ』と確信してからの方が恐かったわよ、電気が点いていたからまだマシだったけど、あれが停電して真っ暗だったらどうだったかと思うと。」

と語ってくれました。映画館から逃げてきた観客や付近のビルからやはり降りてきた人たちは、誰に誘導されたのかわからないけれども、とにかく新宿御苑に向かって避難したそうです。中には、美容院から出てきた、頭にパーマのロットを沢山巻いたままの人もいたらしい。そして遠くに新宿の高層ビル群がゆら〜りゆら〜り左右に揺れているのが見えて、「とても現実を見ているとは思えなかった」と言っていました。
↑ この話を聞いたこともありますが、3.11以前は月に一度は映画館に足を運んで映画を観ていた私が、何故かしら足が向かないのです。いつも行くので会員になっている映画館、109シネマズMM横浜ワーナーマイカルシネマズみなとみらい横浜ブルク13 のどれを思い浮かべても、地震が起こった時、お世辞にも気休めにも「堅牢な建物」とは言えないし(館内って構造上どこも柱が極端に少なくなっていますよね)、第一全部思いっきり埋め立て地にある建物だし、たまさか「揺れ」に耐えたとして、液状化やら停電とかあれば、一体どーすれば!?!・・・という妄想が働いて、
3.11以降、映画館での映画鑑賞は個人的に自粛させて頂いております
今回の地震で東京23区内は停電がなかったから、前述の友人も新宿ピカデリーから無事に外に脱出できたのだと思いますが、もし停電になっていたら大パニックだったと思うとぞっとします。神奈川県方面では、私が住んでいる横浜市東部は停電にならなかったのですが、西部や三浦半島方面は、地震と同時に停電になったそうです。私が通っている美容院が鎌倉にあるのですが、そこの美容師さんに聞いた話では、地震があって即停電になった時、店内にいたお客さんのうち、もう仕上げに入っていたお客さんは停電が回復しないのでそのまま帰って頂いて、パーマ液やら毛染めで「流し」が必要なお客さんに対しては、ポットにあった熱湯を水で薄めてできるだけ流してタオルドライでなんとか乾かし、電車も止まっているし、生乾きの頭で風邪でもひかれたら申し訳ないので、従業員の車で手分けして自宅までお送りした、とのこと。それを聞いて、
「パーマのロットを頭につけたままで、停電して電車も止まっている街の中を逃げまどって避難するのだけは避けたい。」
と思ったことでしたが。


話が逸れました、とにかく映画館で映画を観るのをやめて、最初はITunesで映画を買って観ていたのです。しかしリストの中には過去に見た映画も多く、ホラーはキライだし、邦画も好みではないし、そして何よりこの3.11以降はハリウッド映画の壮大な予定調和の物語が何とも嘘臭くて、見る気になれなかったところに、以前から「いつかやりたい」と思っていたプロジェクト!即ち


ER緊急救命室を最初から最後まで(シーズン1からシーズン15まで)全部見る」

という、壮大にして無謀なプロジェクトに着手することを決意した次第です*2


で、iTunesのドラマのリストにはないんですね、これが。それで行き着いたのが、
TSUTAYA DISCAS
というDVDとCDのネット宅配レンタルのシステム。
先ず例によって(?)「無料お試し」というのがあって、
「入会日から30日間、最大8枚まで無料でレンタル」
なんですが、とにもかくにも先ず「入会」しなきゃならないので正確には「お試し」ではないんですけどね。「お試し」して「やっぱり入会しないことにした」ということはできません。

無料お試しサービス終了後、お手続きなしで自動で有料サービスをお楽しみいただけます。

ってそういう意味=「無料サービスで釣って、そのまま会員に囲い込んで課金する」でしょ?そしてその後は、ネットで検索してどんどんDVDやCDを予約すれば一ヶ月に8枚まで自動的に郵送されてきて、返却はポスト投函。このシステムは良くできていて、前述のように「無料お試し」という名の誘導期間が終わると自動的に会員になって課金されるだけでなく、
「入会金ゼロ」「送料ゼロ」「延滞料ゼロ」
とうたっていますが、「退会」しない限り永遠に月々の利用料金がとられる、という仕組み。「良くできている」というのは、利用するお客の側にとってではありませんよ、TSUTAYAにとって、という意味です念のため。ですから極端なことを言うと「1枚も借りなくても自動的に永遠にお金をとられちゃう」システムなんですよね、ホント、良く出来ています。そういう「幽霊会員」が増えれば増えるほど、利益が上がるようになっているのですね。
しかし。
私の前述のプロジェクト「ER緊急救命室を最初から最後まで全部見る」には最適です。既に私はシーズン4まで予約済みですから、意地でも「幽霊会員」にはならないので絶対に損はしませんし、このプロジェクトが終わり次第、即、退会する予定ですからね(←ミョーに肩に力が入っていますが)。


さて、「ER」です。
思えばこの十数年、私は本来の自分の人生と、そしてもう一つこの「ER」と二つの人生を生きてきたような気がします、←と、オーバーでクサい言い方をしてしまうくらい、このドラマをずっと欠かさず見てきました。Wikipediaで確かめると、NHKのBSで放送が始まったのが、1996年。この頃は子育てが忙しいので見逃さないように、必ずビデオで録画して、子供が寝静まってから正座して見てましたね。
シリーズ前半の固定メンバーだった、当時はまだ無名のジョージ・クルーニー(斜めに構えた小児科医ダグラス・ロスの役)が、今じゃハリウッドの大スターにして監督やプロデューサー、平和活動までしているセレブなんですから!
私の「全部見る」大プロジェクトは、ただ今やっとシーズン2が終わりかけているところです。TSUTAYA DISCASは、定額1980円で一ヶ月最大8枚まで借りられるのですが、一枚につきSide AとSide Bそれぞれ2話ずつ入っているので、DVD1枚視聴するのに1話45分で3時間。2枚ずつ借りて返す仕組みなので、送付・返却にかかる日数を考えると、一週間に2枚、一ヶ月で8枚、は丁度いいペースかもしれません。毎日見るわけでもないですし。
今(シーズン1,2)大活躍の内科医マーク・グリーンは、先では脳腫瘍で死ぬことになるのですが、彼の最初の妻との間にできた娘ジェニファーが今まだ5~6歳。この子は、二度目の妻とマークが再婚した頃は反抗期真っ盛りの手イーンエイジャーで、「絶対にヤクはやっていない」と言ったのに鞄にコカインを隠し持っていて、それを義理の妹である赤ちゃんが誤飲してあわや死にかける(嗚呼、アメリカ!)、という騒動を起こしたりするのですが、最終回では医学生として現れるんですよね。(←殆ど親戚のおばちゃん目線)
ウィーバー先生も、性格はこの先もずっと悪いまんま(!)ですが、先では先鋭的なレズビアンになりパートナーとの間に子供まで作るんですよね。
看護士のキャロルも、最後にはジョージ・クルーニー扮するロス先生との間に双子をもうけるんですが、まだ恋多き看護士さんです、シーズン15でまた出てきますけど。
何と言っても、医学生ジョン・カーター君をシリーズ全編を通して注目していきたいと思っています。シーズン15の最後の最終回まで観て初めて、「ER」は彼の成長の物語でもあることが了解されるのですが、このカーター君、この先山あり谷ありで、彼も一度は薬物中毒になってぼろぼろになり施設に入ったり、ダルフールに行ったりするんですよ。そして、勿論シーズン15の最終回では、彼のライフワークの完成で締めくくりとなります。しかし、シーズン1や2では、まだまだ駆け出しの医学生です。この「ERを全部見る」というプロジェクトと共に、私はもう一度、彼の人生を「一緒に生きる」ことになります。

思えば、「小説」という形態で、誰かの人生、それも時間と空間を飛び越えた人物の人生を、「一緒に生きる」ということは、想像力を紡ぐことができる人間だけに与えられた楽しみであり、特権だと思います。嘗ては、ロマン・ロランの「ジャン・クリストフ」、同じく「魅せられたる魂」、ロジェ・マルタン・デュ・ガールの「チボー家の人々」、トーマス・マンの「ブッテンブローグ家の人々」、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」、等々を、何かに取り憑かれたように読んだ時期もありました(遠い目
それらを読んでいる数週間の間は、私自身の人生と共に、住んでいる場所も時代も私とは全く隔たっているはずの主人公や登場人物の人生も同時進行しているような感覚だったのですが、この「ER」というテレビドラマは、15年間という時間のスパンで、同じ感覚を私に抱かせるものであったのでした。長編小説を一編読むのとは時間の長さが違いますから、その間に私の人生においては、幼稚園や小学校だった子供たちが今や二人とも大学生!だし、夫の転勤でドイツで3年暮らして帰国して、と、人生において多分最も充実した期間だったのかもしれません。
世の中も、15あるシーズンの丁度半ばで「9.11」が起こりました(アメリNBCで放送時)。その後のイラク戦争ダルフールの紛争も、このドラマには描かれています。

そして、日本における最終回は、NHKのBS2で放送されました。それは今年の3月10日。大震災の前日の夜だったのでした。

*1:他にもたくさんあります。http://www.eonet.ne.jp/~building-pc/tokyo/to.htm

*2:http://ja.wikipedia.org/wiki/ER緊急救命室