「貸家が日本を救う」を実践してしまったこと


今朝の朝日新聞のオピニオン欄は、

「貸家が日本を救う」というタイトルの神戸大学大学院教授、平山洋介氏へのインタビュー、

だったのですが、実は我が家も丁度一ヶ月前に、横浜の賃貸マンションから都心の賃貸マンションへの引っ越しを敢行!致しました。
ただ情けない事に、ポリシーがあっての貸家暮らし、というのではなく、成り行き上の貸家暮らしなのですが、それでも貸家暮らしのメリットをひしひしと感じる毎日です。


そもそもは、平均的サラリーマン世帯として、第一子が小学校に入る前に30年ローンでマイホームを建てた訳なのですが、海外転勤でマイホームを賃貸に出したところまでは普通というかよくある話だと思いますし、帰国した時に賃貸の契約年数とタイミングが合わずに自宅に戻れず子どもが帰国後通うことになった高校に通学が便利なところに賃貸でマンションを借りる、というのもこれまたよくある話だったのですが、成り行き上のその環境が意外に心地よいというか便利だったのですね。

海外転勤の辞令が出た時には、今大学生の娘もまだ小学生だったのですが、それから3年の月日が経ち、帰国して入った高校は小学校の頃は考えもしなかった場所にある高校で、逆に自宅に戻れなかったからこそ通学に便利な場所にマンションを借りることになった、とも言えます。自宅に戻っていたら、通学には片道一時間半はかかっていたはずでしたから。
マイホームがある湘南の地は、確かに子育てにはとても環境のよい場所でした、その分都心まで片道一時間超の通勤時間を夫に強いてはいましたが、まだ夫も若かったのでできたことかも・・・(湘南にマイホームを構えているお宅はどこもパパが通勤頑張っています)。
しかし。
子どもが大学受験を控えた高校生、ということになると、塾に行くのにも予備校の講習に行くのにも、マイホームが建っている場所は今から考えれば不便だったのでした。何だかんだ言って、より都心に近いほど塾や予備校の選択肢も多くなるし、帰宅時間も遅くならないのです。勿論、我が家と同じような場所にマイホームを持っている方は、その環境の中でお子さんを塾や予備校に通わせており、通塾に時間がかかり帰宅が遅くなって本人が疲れたり、送り迎えで親も疲れたり、ということは当然のことなのですが、これが「貸家」だったら、より便利で、本人や家族が無駄に疲れたりしなくてよいところに移ることもできる、というのを、図らずも我が家は出来てしまったのです。つまり、マイホームを賃貸に出した結果得られる家賃で、現在の自分たちの状況に便利なところにマンションを借りる、ということが可能になった訳です。勿論、マイホームの固定資産税は勿論、家主としてクレームがついたらその都度修理もしなくてはならないので、マイホームから得られる家賃と、借りているマンションの家賃はイーブンではありませんけどね。


そして今年の3月11日。
被災地でなくても多くの人々がそれぞれの人生観が変わったというこの日、我が家は、京都に下宿している息子を除いてもその他の3人ですら別々の場所にいました。
私は横浜のマンション。2年前に賃貸で引っ越したマンションですから、元々縁もゆかりも無い場所であり、知り合いなど一人もいません。マイホームがある地ならば10年住んでご近所付き合いもありましたし、子どもを通じてのご縁で地元に沢山頼れる友人もいました。それがそういうものが全くない地で地震に遭ってしまったのでした。もし被災地ならば、私は誰一人知り合いのいない場所で避難しなければならなかったのでしょう。
夫は都心の職場。ご存知の通り、交通機関が全てストップしたので、帰宅難民となり帰宅できませんでした。
娘はたまたま横浜駅。3時間近くかけて歩いて帰ってきましたが、その後都心の大学に通うことになったので、もし地震発生時に大学にいれば、夫と同じく帰宅難民になることは必定。
そういう状況にある家族が、地元に何のご縁もなく通勤・通学に一時間以上かかる場所にこの先住み続ける必然性が果たしてあるのか?ということが、今年の夏、猛暑の中節電中の私の頭を稲妻のように鋭くよぎりまして(暑さで頭が放電していたかも)、「思い立ったが吉日!」とばかりそこはもう検索しまくって資料請求のメールを送りまくり、結果として思い立ってから二週間後には今住んでいる引っ越し先のマンションの賃貸契約を交わし、一ヶ月後には引っ越ししていた、ということに相成りました。
引っ越しは確かに重労働で面倒臭いこと極まりないのですが、一方「断捨離」とまではいかなくても、家財の整理ができてかなりさっぱりしました。2年前の引っ越しでは捨てられなかったもの(子どもたちが小さい頃使っていたものとか)も、2年経つと心の整理もできて捨てられたりしますし、本や食器も「今」の視点で「要る/要らない」を見ることができてかなり捨てることができました。それでもモノが多い我が家なのですが・・・。

子どもが小さければ、近くに子どもを遊ばせられる公園があるか、近くにどんな幼稚園があるか、校区の小学校はどんな様子か、近所の環境はどうか、ということが住む場所を決めるのに一番気になったことですが、今回は物件選びにそんなことはま〜ったく考えることもなく、とにかく「通勤通学が便利」、「大地震の時に会社や大学から歩いて帰れる」、ということだけを重視して決めました。その時々で住まいに求めるものが違ってくるのならば、冒頭の平山氏の「賃貸が日本を救う」ではありませんが、その都度やどかりのように住まいを変える、というのはとても理にかなっているのではないか、と実感しました。まあ我が家だって最初から「賃貸派」であった訳ではなく、海外赴任をした結果持ち家にタイミング良く戻れなくて成り行き上賃貸族になってわかったことなので自慢できたものではないのですが。


また朝日新聞の一昨日の夕刊*1には、

「災害怖い 中学受験減? 『自宅遠いと帰宅困難に』」

という記事が出ていて、

9月にあった首都圏中学受験の3大模試(四谷大塚日能研、首都圏模試)の受験者は計約4万2千人で、昨年同期より約2300人(5%)少なかった。(中略)今年の減り幅は、別の大手塾が模試を新設した10年を除くと、最大だ。

そうで、

1時間以上かけて子どもを通学させるべきなのか、震災以降、迷っている。

という親の声も記事に出ていました。

中学受験そのものの是非については、今までに書いてきましたが*2 子どもの個性、家庭の事情様々なことを考慮して中学受験を決めたご家庭にとっても、合格後に「1時間以上の電車通学」が不安であれば、「学校の近くに転居する」という選択肢もあるのですね、「賃貸」ならば。


平山氏のインタビューに戻ると、

東北地方は持ち家率が高く、一人暮らしの高齢者が多い。再建には負債が過度に膨らまない支援策が必要です。

とのことなのですが、こういう視点で支援と復興を論じたものを私は初めて見ました。「持ち家率が高い」ということは、災害が起こっても被災した自宅から遠くに行けないということなのですね。ローンを組んで建てたマイホームが全壊して、「建て直す」と言っても二重ローンに耐えられる人はごく僅かでしょうし、持ち家での高齢者の一人暮らしということは、大人数で暮らしていた往年のままの家に一人で住んでいるということで、その家が被災して倒壊してしまったら行き場がないばかりか再建のための負債など到底負担できないということが、今更ながらわかりました。
地震津波だけでなく、福島第一原発事故によって放射能の危険に晒されている地域も、家や地域に対する愛着は勿論ですが、「持ち家」であるが故に、そこを離れてしまったら、長年収入の多くを注ぎ込んできたものを捨てて「ゼロ」に戻るのと同じことになるので、危険がわかっていても離れ難いのではないか、と我が身に置き換えて考えさせられました。我がマイホームがある土地は、子育てをした土地ですので愛着はひとしおですし全てが思い出ですが、地震であれ津波であれ原発事故であれそこに住むことができなくなった時、愛着と思い出だけなら寧ろそれを胸に他の地に移り住むことができるかもしれませんが、自宅の価値が限りなく下がりゼロに近くなり「自宅を失う」というかそこに注ぎ込んだお金を全て失う、ということになってもきっと身動きがとれないのではないか、と思います。これは決して他人事ではなく、地震国であり全国で原発52基を持つ日本ではどこで起こってもおかしくないことですから。


校庭の土を剥いだり、雨樋などを高圧洗浄機で洗い流して、「除染」した学校にマスクをして通う福島県の小中学生を見ていると、いつも胸が痛むのですが、県外に転校していった友達もいる一方で、放射線量の高い福島にとどまっているのはそれぞれのご家庭にそれぞれの理由があるからなのでしょうが、その理由の中に「ローン返済中のマイホームを捨てて他のどこかに行く経済的余裕がない」という理由があるとすれば、それは「賃貸住宅」だったら解決することなのですね。2ちゃんねるの初代管理人といわれる、ひろゆきこと西村博之氏がやはり、

949 :ひろゆき ◆HiROpooa8o (秘境の地):2011/10/13(木) 20:57:37.06 /vn/JKv40 ?S★(1076202)
福島の放射線の強い地域に残ってる人は、
覚悟を決めてるのか、楽観的なのか、何も考えてないのか
3つのうちのどれかだと思うのですが、
「仕事がある」とか言ってる人って、
目の前の日銭と自分や家族の人生を天秤にかけて、
日銭を取ってるってことですよね。不思議。

967 :ひろゆき ◆HiROpooa8o (秘境の地):2011/10/13(木) 21:03:56.80 /vn/JKv40 ?S★(1076202)
だから、お金と引き換えに自分や家族の人生を諦めたってことですよね?

生活レベルが下がっても、生活保護貰いながら暮らしたほうがいいと思うんですけどねぇ。。
参照:【速報】 ひろゆきニュー速に降臨★2 (1001)


と発言して物議をかもしていましたが、持ち家率が高い地域だからこそ、親御さんの中には「目の前の日銭」というよりは「福島から離れたくても持ち家に縛られて仕方なくとどまっている」人も多いのではないかと思いました。


平山氏のインタビュー続き、

私自身、神戸で阪神大震災に遭いました。それでも、賃貸住宅だったので、別の賃貸に移ればよかった。災害時に身軽に動け、すぐに入居できる賃貸住宅があれば、被災者にとり大きな助けになります。


私たちはもうあの阪神大震災のことを忘れてしまっていたのだとこれも今更のように思い出されましたが、阪神大震災の後、被災したマンションを補修するか建て替えるか、というのはとても大変だったんですよね。今東北の被災地で起こっていることが縮図のように一つのマンションで起こっていたわけで、容積率の問題、二重ローンの問題、高齢者が建て替え費用を負担できない問題、等々、既に「マイホーム至上主義」の弊害が現れていたのに、首都圏その他の地域では、せっせとマンションが建設され、サラリーマンがローンを組んで購入していたという訳です。今東京及びその周辺では20階以上のタワーマンションがそれこそ「雨後のタケノコ」という形容ぴったりに建設されていますが、地震じゃなくてもこういうマンションは壁の補修とか、遠い将来の建て替えとか、どうやってやるのでしょうね?施工会社はそこまで考えて建設しているんでしょうか?30階建てのマンションをどうやって解体するのか、というくらくらする問題に加えて、更にくらくらしてしまうのは全て分譲の場合、どうやって所有者のコンセンサスを得るのでしょうか?それとも数十年後のその頃には、現在のゼネコンやデベロッパーの幹部の方々は皆鬼籍にお入りになっていて知らぬ顔、東京は老朽化して廃墟のようになったタワーマンションが林立することになり、そのツケもこれまた今の子どもたちの世代が背負うことになるのでしょうか?


横浜から都心に引っ越ししてきて驚いたのは、大人は勿論子どもや中学生、高校生でも残暑の時期なのにマスクをしている人が多いことです。1年前には想像もできなかった世界が現実のものとなっていることを、思い知らされます。
大学生の娘が「いつもネットをよく見ているママなら(←失礼な!)知っているかもしれないけど、これ知ってる?これ見て泣いちゃったんだけど。」と教えてくれた動画を最後に貼っておきます。私も泣きました。娘が何を思って泣いたのか、と思うと・・・。

http://www.blind-film.net/