確かに小保方氏の問題は「リトマス紙」であること 2ヶ月で打ち切られた理研の調査について 雑感 

STAP細胞会見がえぐり出した日本社会の二極化 ロンドン電波事情 WirelessWire より

愕然としたことの一つは、あの会見のリアクションがえぐり出した日本社会の二極化であります。事実を客観的に批判できる知性のある人々と、そうではない人々です。

私も、このご見識に全く同感です、全く違った意味でですけど。

元々、1月の末に華々しくSTAP細胞発見 ネイチャー誌に載る」と報道された時には、私は全く関心がありませんでした、「世紀の発見をしたリケジョ」「末はノーベル賞」と当時はもてはやされた小保方氏個人についても、全く関心はありませんでした。
ですから、大新聞のどれもが「割烹着」「ムーミン」という文字を一面に踊らせている浮かれぶりは如何なものか、とは思いましたが、誰がどのように熱狂していたのか、それもよく覚えていません。
文系ですしね、STAP細胞とやらで再生科学の何が変わるのかさえ、よくイメージできませんでした。
やがて、「科学者コミュニティ」の方々が匿名及び実名でネット上で論文の幾つもの箇所に疑義を挙げられるようになりました。
それは小保方氏と彼女の出身大学である早稲田大学の博士論文の大量コピペが暴かれるところまで至りました。
それらの記事も流し読み、文系ですからね。
ところが、俄然興味を持つようになったのは、3月半ばの、理研調査委員会中間報告です。
理研のホームページから報告書をダウンロードして、ニコニコ動画で中継を見ました。
文系ですからね、文章は読めるのです。調査委員会が考えていること、やろうとしていることを、文章中に展開される論理にそって理解はできます、文系ですから。
同じく、3月末の調査委員会最終報告書も読みましたし、勿論会見も最初から最後まで全て見ました。
そして、4月9日の小保方氏の会見になります。この会見は大変長いものでしたが、これも全部見ましたし、書き起されたものもネットで読みました。
この小保方氏の会見の後ですが、世間の論調は奇妙なものになります。
代理人である弁護士が調査報告書に対して反論した内容ではなく、小保方氏の言葉尻(「200回以上成功しています。」「STAP細胞はあります。」)を捉えて揶揄したり、2時間半以上の会見の中で小保方氏がハンカチで涙を押さえた5秒を捉えて「泣いた」と言い募る一派、かたや「一生懸命やっているではないか。」と的外れな応援をする政治家やら、会見の目的やら内容とは離れての論調にどんどん変質していきました。
その変質はとどまるところを知らず、いつの間にか、「ネイチャーに投稿した論文の正当性」やら「理研の規定に照らし合わせて『研究不正』なのかどうか」ということは問題にならなくなり、「STAP細胞はインチキであり存在しない」「小保方氏は詐欺師である」「そんな人物が博士号を持ち理研で高給をとっているのは許せない」という方向に変わってきたのです。
小保方氏本人が、消費されるコンテンツになってしまったのです、それも骨までしゃぶり尽くされるような。
それに加えて、冒頭に示したように、変な枠組みを作る動きも出てきました。
「リトマス」と呼ぶ人もいます。
そのリトマス試験紙だか枠組みは、このようなもののようです。

小保方氏を擁護する人
→事実を客観的に批判できず知性のない人、ニセ科学やオカルト、陰謀論を信じる人、引用と盗作の違いすら知らないノウタリン、愛国の人、反日を攻撃する人、放射脳の人、科学を理解しないヤンキー、お馬鹿な政治家、
小保方氏を批判する人
→事実を客観的に批判できる知性のある人、マトモな研究者や科学者、経験豊富なサイエンスライター
リトマス試験紙どころか踏み絵も超えた、この暴力的とも言える枠組みの設定は、それこそ「空気を読まなければ生きていけない」日本において、少なくともこの問題に関して、自由な発言を妨げるものになっています。
自称を含めた科学者の方々、評論家や有識者と呼ばれる方々、芸能人やコメンテーター、マスコミ、市井のおじさん、おばさんまでが、今、見事に空気を読んで、小保方氏非難・批判・攻撃に、一億火の玉となっているかのようです。

理研の調査委員会の報告書及び会見、小保方氏の会見の全容と不服申立書、及びその後出された補充書、そして先日の調査委員会、これらを読むなり一部ではなく全体を観るなりして、判断しているのなら、それは人それぞれで、様々な感想、判断があっていいと思います。
しかし、どうも、種々の報告書は読んでいない、会見もサワリしか見ていない、数分のニュースにまとめられたものしか見ていない、twitterで有名人が述べている意見を鵜呑みにしているだけ、というものもかなり散見されるのです。
市井のおじさん、おばさんが、お茶の間やら井戸端会議で喋っているのならまだ罪はありませんが、一知半解の意見がさも賢しらにtwitterやブログで述べられているのには、一人の市井のオバサンとしても沸々と腹が立ってくるのです。

例えば、冒頭のtweetをなさった、めいろまこと谷本真由美氏ですが、他にもこの問題について色々と酷いtweetをしているのですが、不思議に、調査報告書と不服申立書の内容について、彼女がtwitterやブログで書いているのを見た記憶がありません。
谷本氏ご本人にも事実誤認があるようですし、そもそも各会見を全て見た上での発言ではないようです。
・ネイチャー論文に「民間企業からのコピペがある」と谷本氏が誤認されている件
小保方氏に対する、めいろま(May_roma)こと谷本氏の暴走&迷走があまりに酷いので 
・小保方氏の会見についての谷本氏の偏見
小保方氏の会見に対する、May_roma氏こと谷本真由美氏の批判は、公平でないと思うこと
そもそもの論点に当たらずに、以下のようなtweetをすることは、慎むべきではないでしょうか。
もっとも、これもある意味、「リトマス」なのだと思いますが。

こういう発言を見ていると、本当にこの小保方氏の問題は「リトマス試験紙であると思います、冒頭の谷本氏が言っていることとは全く違う意味で。
批判・擁護どちらの立場に立つにせよ、
「ちゃんと、出された文書を読み、行なわれた会見を見て、自分で感じ考えた意見を言っている人」
「編集意図を以てパッケージされたものを見ただけで、若しくはネットに落ちている威勢のいい意見を見ただけで、深く考えることをせずに意見を言っている人」
との二極化ですよね、まさに。


また、記者というプロの方々の中にも、「取材対象から出された文書を前もって読んでおく」ということすら怠っている方もいるようです。

Wmの憂鬱、隠し球が決めた小保方さんの研究不正確定【日経バイオテクONLINE Vol.2050】

5月8日の理研での「再調査の必要なし」という調査委員会の記者会見を経て書かれたこの記事の中で記者の宮田氏は

調査委員会が隠し球を投げたのは、報告書の6頁です。実はSTAP細胞の論文は2012年4月にNature誌に投稿し、掲載拒絶された論文(2012年論文)に加え、ほぼ同じ内容の論文をScience誌とCell誌にも投稿しており、それぞれ掲載が拒絶されていました。調査委員会はその論文とレフェリーの掲載拒否や論文に対する問い合わせなどに関するメールを証拠として調査していました。この事実は一切今まで明らかにされていなかったものです。

と、隠し球と言っていますが、これは5月4日に小保方氏代理人から出された「不服申し立てについての理由補充書(2)」の中で、既に書かれていることです。

その後、Cell誌やScience誌にも、同様の論文を投稿したが不採用となっている。理由補充書 要約版全文 

つまり、小保方氏側からの補充書に記載してあるものを、理研調査委員会の「隠し球」と呼ぶのは、甚だしくおかしいことで、宮田氏は補充書を読んでいない、としか思えません。
この記事に、「いいね!」が600近く押されているということは、これを読んで納得している人がこれだけいるんですね・・・。
しかも、会見においてのその後の朝日新聞の記者のやり取りの中で、どうも、理研側もこの補充書を読んで、Science誌とCell誌のことを知った様子もあるのです、それもごく近日に。
というのは。
先ず、この両論文の著者の一覧を調査委員会はその場では答えられませんでした。
更に、電気泳動写真に関するScience誌のレヴュアーからのコメントを、調査委員会は山梨大学の若山氏から入手したそうなのですが、それなのに「若山氏がこのレヴュアーからの回答を読んでいるかどうかはわからない」と朝日新聞の記者の質問に答えているのです。
もし若山氏がこのコメントを読んでいたのなら、小保方氏に対して「コメントに書いてあるのだから知らないはずがなかった」と言っているのと同様のことが、共著者である若山氏にも当てはまることになります。つまり、この場合若山氏の方から、自主的に調査委員会にこの「隠し球」を知らせるというのは、考えにくいですし、知らせる義務もありません。
逆に、若山氏がこのコメントを読んでいなかったのなら、当然その内容を知らないわけですから、ますます自主的に調査委員会に提出するはずもありません。ついでに小保方氏が「読んでいないこと」を怠慢というのなら、同様のことが若山氏にもあてはまります。
調査委員会が補充書を読んで(つまり「隠し球」などではない)、それから若山氏に問い合わせて、その「若山氏が読んでいるのかどうかわからない」コメントの提出を請求したという可能性が高いのです。
どちらにしても、調査委員会はこのコメントの内容に気を取られる余り、このコメントの存在によって若山氏が小保方氏と同じ責任を問われるということに関して、詰めて考えてはいなかったようで、朝日の記者の、「最終報告書では共著者は『容易に見抜くことはできなかった』とされているが、レヴュアーのコメントが存在するのなら、共著者の責任が変わってくるのでは?」という質問には、「その責任については変わらない」と強弁するにとどまっています。
このScienceとCellの論文に関するくだりは、まだまだ突っ込みどころが満載で、「(コメントを受け取ったであろう)2012年8月からネイチャーに再投稿した2013年4月までの9ヶ月間、ScienceやCellでは共著者ではなかったが最終論文の共著者ではあった、笹井氏や丹羽氏ですが、居住地や研究室の引っ越しで多忙という(←これは小保方氏)わけでもなかった彼らが、その長い期間にコメントを読んだ可能性はなかったのか?確認する義務はなかったのか?」という疑問も湧いてきます。
同じように文脈を理解し正当な突っ込みをしている方々も勿論いらっしゃいます。

こうなってくると、調査委員会が再調査の必要なし、とした判断の妥当性が疑われます、この一件だけでも。


他方、小保方氏側が明らかにした事実を調査委員会の「隠し球」と呼んだ宮田氏と同じくらい、おっちょこちょいの方もいるようで、

「常習犯」という言葉を使っていらっしゃいますが、調査委員会が論点としているのは、「悪意」を「故意」と解釈した場合、小保方氏はレヴュアーの回答を読んでいたに違いないから「故意」である、ということなんですけど、そこのところを全然わかっていらっしゃらない?

同じく、

池田信夫先生のお言葉ですが、同様に、ここでの論点は「科学」やら「常識」ではなく、「故意」の証明なんですけど・・・。


そして、再調査の必要なし、とした調査委員会に対する批判はとても少ないのです。
しかし、今回の問題の「論文不正」告発の端緒となった11jigen氏のブログに置いてさえ、今回の問題に関する調査期間が、他の「論文不正」の事例と比べても極端に短いことが指摘されています。
小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑
この中から引用します。

別の研究不正事件の調査経緯との比較

研究不正告発から調査結果発表までの期間 まとめ
理研:約2ヶ月
東北大:約10ヶ月
東大セルカン:約3ヶ月〜2年3ヶ月
獨協医大:約1年
名市大:約1年1ヶ月
東京医科歯科:約9ヶ月半-1年1ヶ月
三重大:約2年2ヶ月半
筑波大:約2年1ヶ月半
東大分生研(中間報告):約1年11ヶ月半

調査期間が、極端に短いどころか、本当に調査と審査が尽くされたのか?という大きな疑問が残ります。

しかも、調査委員会が最終的に二つに絞った「不正の証明」箇所ですが、

電気泳動写真については、調査委員会は、小保方氏がやったやり方(一方を拡大ではなく縮小して「目視」で二度ずらした)を再現してやってみることなく、「完全な一致が見られない」「データの真正さを欠くことには変わりない」と結論を下しています。どうやら、小保方氏が器用にやってしまった「目視」で、というのが、お気に召さないような報告書の書きぶりです。この実験はデータも(珍しく)小保方氏もきちんと把握できているようですし、「きれいに見せたい」という小保方氏の「お・も・て・な・し」精神があだになった、という感あり、です。そもそも(珍しく)真正で好ましいデータがあるのですから、ズボラならズボラのまま、2枚並べて貼っておけばよかったんですよね。
更に、「切り貼り」という件に関しては、「その言葉で全てのデータ処理を一括りにしてはいけない」ということは文系の私でもわかりますが、前調査委員長の石井氏も、現調査委員会メンバーの田賀哲也東京医科歯科大教授も、行なっていたことが明らかになり、それぞれの所属機関で「不正ではない」と認定されていますが、文系の私には窺い知ることはできませんが、どうやら、その「切り貼り」がセーフかアウトか、ということについては、はっきりとした基準はないようですし、いみじくも田賀氏は、「10年前はOKでした」と自らの「切り貼り」について発言していました。同じ「切り貼り」ですが、小保方氏はどう「切り貼り」すればセーフだったのか、それを示して頂かないと、文系人間には納得が難しいところです。


画像の「取り違え」については、こちらの方がより話が複雑なのですが、一番わかりやすい調査委員会のポカは、3月末の最終報告書で、「早稲田大学の学位論文と似た配置の図から切り取った跡が見える」と、多分ネット上の情報を鵜呑みにして決めつけたのですが、実はそれは、「ラボミーティングで使ったパワーポイントの資料から取られたものであった」と不服申立書で明らかになったということです。このポカについては、当然スルーしている調査委員会ですが、文系一般人から見たら、これは心証を大きく左右することなのですけどね。「早稲田の学位論文から、画像を取ってきてそれを天下のネイチャー論文に使うなんて、ふてえ野郎だ!」となるのですが、これが、「ラボミーティングで使ったパワーポイントの整理がぐしゃぐしゃで間違えた」、ということになると、受ける印象が全く違います。


上記2点だけに関しても、まだ調査はし尽されたとは言えないと思いますし、これだけの騒動になったのですから、小保方氏と調査委員会と、見える形で、調査と弁明を続けるべきだと思います。

小保方氏が懲戒委員会にかけられ、(多分)免職などの処分を受けるとしたら、それは誰が見ても当然!の理由を以て行なわれなくてはならないと思います。
小保方氏にとっても、ぐうの音も出ないほどの証拠と証明を出されての、辞職なり免職なりでないといけません。
たった二ヶ月の調査で打ち切るというのは、小保方氏の被害者意識を無用に募らせるだけではないでしょうか?
「何を言っても通らない」と小保方氏がコメントしているのなら、小保方氏は納得などできていないということでしょうし、それならばこの問題は、今後、理研の調査委員会を離れて、法廷で争われる可能性もあるということです。

科学者コミュニティの方々は、それを良し、とするのか?

その意味で、今回理研の調査委員会がたった2ヶ月そこらで調査を打ち切ったことは、逆に日本の科学史における大きな汚点になるでしょうし、野依良治理事長が唱える「信頼の回復」からはほど遠いものであると言えます。