民主党が大敗した2012年の暮に

自民党大勝、民主党ボロ負けの第46回衆議院選挙が終わって早くも二週間が経ち、そうして2012年も暮れようとしています。

選挙後、勝者と敗者の入れ替わりがはっきりとわかる議員会館の引っ越し風景とか、落選した途端にクビになった、民主党元議員の秘書の方々がまるで、平家から源氏へ、関ヶ原の西軍から東軍へ、のように、ついこの間までは敵であった自民党の新人代議士のところに「転職」する、などと、新聞もテレビも報道していましたが(どういう意図なんでしょうか?)、そ〜んなこと、政権交代した2009年の選挙の後にもあったことなんですけど。

2009年の政権交代の選挙の時に、自民党候補者の事務所でボランティアをし、大方の民意とは違って自民党に投票した私は、政権交代して高揚感溢れる中、次々と繰り出される民主党の施策を苦々しく見ておりました。まさか、3年3ヶ月後に逆の思い(民主党に投票して、大勝した自民党が始めた政策を苦々しく眺めること)になろうとは!・・・でも投票結果から言うと、日本国民の大多数は私と逆、つまり、前回は民主党に投票して自民党にお灸を据え、今回は自民党に投票して民主党を諦めた、有権者だったわけですから。

ほっんと、私にとってはわからないことばかりですよ。
元々保守主義に近い考えを持っていた私は、2009年政権交代の選挙当時は民主党が掲げる政策にはことごとく反対でした。「子どもは社会で育てる」という考えも賛成は出来ませんでしたがそれはともかく、小学校から私立に行かせる余裕があるような家庭にまで「子ども手当」や「高校授業料無償化」が必要とは思えませんでしたし(所得制限を付けるべきだと思っていた)、「高速道路無料化」や「農家個別補償」もバラマキにしか見えませんでした。何より、既に10年以上も懸案となっている消費税増税について、鳩山代表(当時)が「消費税は上げない」と言っていることが胡散臭く感じられ、更に選挙を仕切っていた小沢幹事長(当時)が「社会民主主義の実現」を理想としているとは、保守の立場から見てもとても思えなかったからです。
そんな私が3年3ヶ月で変節したのは、一つには勿論福島原発の事故。そして民主党政権の間に気がついたら世の中に醸成されていた空気を良しとしたことからでした。
1000年に一度の大地震が、地球の年齢から考えると殆ど誤差と言えるほんの数年前にズレて自民党政権下、例えば麻生総理大臣の在任中に起こっていたら、今よりもマシだったでしょうか?麻生氏は、東京電力からパーティー券購入など厚遇を受けていた国会議員のトップ10人の筆頭でありましたし、麻生内閣官房長官として内閣の最前線で対応したであろうは、再稼働賛成派の河村健夫氏であったはずですし*1、経産大臣は海江田氏ではなく「あの」二階俊博氏だったんですよ。「あの」というのは、ちょっとググればわかりますが、1.共産党の吉井英勝議員が国会で福島原発を含む全国の原発津波対策を指摘したのに放置した経産大臣、であり、2.大飯原発の再稼働を関電に要請した和歌山自民党県連の会長、でもある二階氏なのです。
勿論、「菅総理大臣、枝野官房長官、海江田経産大臣」のチームも失策だらけでしたが、「麻生総理大臣、河村官房長官、二階経産大臣」とどちらがマシだったか?
加えて、原発事故後、それこそ未曾有の事故対応においての不備や、食品の放射能汚染などの問題で、もし自民党政権だったら、もっと素早くもっとオープンに情報を公開して対応していたかどうか?残念ながら、私はその逆ではなかったかと思います。自民党の後援者でもある電力会社からは圧力がかかり、同じく農協からは「出荷できなくなるから数値は公表しないでほしい」と圧力がかかっていたのではないでしょうか、自民党政権だったなら。勿論住民の避難や救助捜索などにおいて、民主党政権の対応は失敗も山ほどありましたが、旧ソ連チェルノブイリと比べるのは違うかもしれませんが、私たち国民は大体において知りたいことを知ることができたのではないでしょうか?それが、自民党政権で可能だったか?まだ民主党政権の方がマシであったのではないかと私は思わざるを得ません。それは遡ると、私自身は当時「パフォーマンスに過ぎない」と苦々しく見ていた民主党事業仕分けなどによって、何となく「よりオープンに」「情報は隠さずに公開」という、自民党と違った民主党的空気があったからこそかも、これが自民党に戻ったらまた元の木阿弥かも、と思うに至ったから、人生で初めて民主党に投票したんですけどね・・・。

結果は民主党惨敗です。


では、民主党が大敗した原因は何だったのでしょうか?

「近いうちに」という言葉を使ったために、国会でも野党から執拗に「『近いうちに』と言ったのにまだ解散しないのは、嘘つきである!」と攻撃され、(多分)実直な人柄であり、鉄面皮でそれを退けることもできず、「嘘つき」呼ばわりされ続けて悪役になっても踏みとどまるには、松下政経塾出身の野田前首相は純粋すぎて、「正直者」でいたいがために任期満了を待たずに解散をしてしまったことが、民主党惨敗の原因だったのでしょうか?
それも原因の一つだとは思います。自民党の総裁に安倍氏が返り咲いた時点で、大いに警戒心を持って、来年の7月まで時間稼ぎをするべきでした、民主党的には。日本人は「新物」が好きなのです、初堀りの筍、初鰹、新ジャガイモに新ごぼう。去年から首相をやっていて、お膝元の与党から大量の離党者が出たり、経済もじり貧で、くたびれて見える与党の党首よりも、中古ではあるけれども目新しい野党の党首の方に、新もの好きの国民がなびくことは、野田元首相は予想すべきでした、実はご本人も去年の民主党代表選の「どじょう演説」の中で、「私はルックスは見ての通りなので、支持率はすぐには上がらないと思います。だから解散はしません。」と言っていたのですけどね。


しかし、民主党惨敗の一番の原因は、不況が続く現在において選挙の争点が「景気対策になってしまったことでしょう。不況下でなければ、争点は「原発・エネルギー政策」であったかもしれませんし、「中国・韓国との関係を中心とした外交政策」であったかもしれません。大体、史上最悪の原発事故後初の総選挙であったのに、「原発・エネルギー政策」が争点にならなかったのは、民主党の大失策です。「景気対策」という争点は、野党自民党に圧倒的に有利でした。景気を良くする、ということに関して反対する国民はいませんし、大企業を敵視する共産党だって社民党だって今回の選挙では「景気を良くする!」ことを一番に言っていますしね。しかし、平均年齢57歳になんなんとする投票者(←恐ろしい数字です!)にとっては、まだ自民党政権下の高度成長期の美しい思い出も記憶に残っていますし、景気対策」ならば民主党より自民党という選択になるのは至極当然の結果だったのです。
増税やTPP参加問題は勿論、エネルギー政策や外交政策は、いわゆる「国論を二分する」論点であり、これを争点にするのは、選挙対策としては自民党としてはマズかったのです。

小泉政権を思い出してみるとよくわかると思うのです。そもそもは安倍前内閣が「最初は華々しく就任しても支持率がボロボロになって1年で辞任してしまう」という最近の6人の総理大臣の先鞭をつけたのでしたが、「5年半に渡って総理を務め、高い支持率のまま任期満了での辞任」、という、政治家ならば誰しも夢見てしまう理想型のような小泉政権ではあったのですが、よ〜く記憶を辿ってみると、小泉氏は総理になる前はそんな名宰相になるような政治家であったかどうか?
最初に国民に名前を知られるようになったのは、人徳の山崎拓氏、政策の加藤紘一氏、と同期当選であるということで、政局の小泉氏(以上は私が言っているのではなく、Wikipedia様がそう言っている)を加えて、YKKと称されるようになった頃からだと思うのですが、それだって自民党総裁になれる可能性は誰が見ても殆ど見込みがなかった(その後山崎氏がスキャンダルで倒れ、加藤紘一氏も今回落選という、世の中わかりません)のであり、それ以降どういう経緯からか自民党の総裁選に何度か出馬した時もまさに「変人」として面目躍如というか、都知事選におけるドクター中松マック赤坂氏に近いものがあったと記憶しています。選挙制度改革を議論していた時にはで小選挙区制の導入に反対(郵政選挙で圧勝できたのは小選挙区制のお陰ですが)、そして当時の国民には別に喫緊の課題には到底思えなかった郵政民営化をいつも声高に主張している変な人、というメージで実際総裁選では二度とも最下位だったのが小泉氏、であったことは私の記憶にあります。そんな彼が総理大臣どころか自民党総裁になろうとは、当時誰もが予想できなかったでしょう。対照的に、若くして「自民党のプリンス」と言われながら今回落選した加藤紘一氏や、同じく「プリンス」と言われながら前回の選挙で落選して今回復帰した船田元氏を思うと、「政策通」というだけでは自民党総裁にはなれないのだと思わされます。
小泉氏の巧みなところは、選挙において争点を「自民党をぶっ壊す」「郵政民営化」という、積極的賛成者もいないけれども積極的反対者もいない、どうでもいいことに据えたからではないでしょうか?自民党員でないのならば、別に自民党を壊そうがどうしようがそれは自民党内部のことでありどうでもいいけれども「壊す」というのならば反対しない、否、壊してみても面白そうかも?というレベルだったと思いますよ、一般の国民は。郵政民営化自民党国会議員の方々にとっては死活問題だったかもしれませんが多くの国民にとっては郵便局の現状に決定的な不満があるわけではないから民営化されようがどうでもいいが民営化されサービスが向上するのならば反対はしない、というスタンスだったのではないでしょうか?そしてここがミソなのですが、有権者は「自民党をぶっ壊す/現状維持(抵抗勢力)」の二択を迫られればどうしたって「ぶっ壊す」に投票しますし、「構造改革なくして景気回復なし、だから郵政民営化/現状維持(抵抗勢力)」の二択でも民営化賛成に投票してしまいますよ、何故なら、反対する理由がないから。更に、政治に何か劇的な変化を見たい有権者のもやもやとした不満を上手く吸収したとも言えます。

今回安倍氏が選挙でやったことは、このバリエーションです。「原発推進」「TPP参加」と言えば賛成する人と同じくらい反対する人がいるでしょうが、「景気を良くする」ということに反対する人はいません。しかも、「景気を良くする」ことに関して、過激なことを言えば言うほど盛り上がる、逆に言えば、いくら過激なことを言っても、誰もが反対しない「景気を良くする」という争点ならば、ダメージになるどころか話題になる、ということです。不景気こそが、安倍氏自民党の追い風になったのです。

景気が良くて、否、ここまで酷くなくて、選挙の争点が、「原発・エネルギー政策」だったら選挙結果はどうだったでしょうか?エネルギー政策に原発は必要だと考える国民も少なくないのですから彼らの支持を自民党はは集められたと思います。しかし「原発には反対だけれども、今は何より景気を良くしてほしいから自民党に入れる」という票(←実は今回はこれが一番多かったのでは?)は集まらなかったでしょうし、同時に原発反対派からは思いっきり反発され、ここまでの票は獲得できなかったでしょう。「外交政策」や「憲法」でも同じです。2012年の暮、誰もが反対しない争点とは「景気対策であり、しかもこれは自民党の得意分野ですから、これを争点にされた時点で民主党はもう負けていたのです。

おまけに、愚直な民主党パブリックコメント原発の存続に関して国民の意見を聞いてみたら、「『松・竹・梅』では真ん中の『竹』を選ぶのが日本人だから、『ゼロ・15%・20~25%』の選択肢ならば、役所が想定した落としどころの『15%』になるだろう」という予想を裏切って実に9割が『ゼロ』を回答したことを受けて、民主党は真面目に(当然ですが)選挙公約を「2030年代に原発稼働ゼロ」にしたわけですが、これだけ見るとまあ評価できるのですけど、そこに「10年後には原発をなくす」という「卒・原発」やら、「即時原発ゼロ」を唱える老舗共産党社民党の「反原発」やらで、その愚直な取り組みがすっかり色褪せて見えてしまった、という、悪い冗談のような結果になってしまったのでした。ですから、この教訓から学んだであろう自民党は、原発の再稼働や新設に関して「国民の意見を直接聞く」、という愚行(自民党にとっての)を避けるでしょうね。

そして、安倍氏に関して更に「小泉流」だと思わされるのは、人事です。「サティアン」発言をした石原伸晃氏を環境・原発担当大臣、林芳正氏をTPPで泥をかぶることがわかっている農林大臣、石破氏を参院選で負けたら責任をとらされる幹事長、谷垣氏を135名の死刑確定囚と向き合わなくてはならない法務大臣、ですからね。郵政民営化に異論を唱えた自党の議員を選挙で公認しなかったばかりか「刺客」を差し向けた小泉氏のやり方と相通じるところがあるような気がします。一見理にかなっているように見えて、実は「人の道」を踏み外しているのではないかと思わされるやり方です、安倍氏は元々そういうキャラではないと思っていたので、こういうやり方は残念です。名門に生まれた本物の紳士ならば、やらないことだと思います。


野田元総理は、「ちゃんと説明すれば、有権者はわかってくれる」という信念の下、国民を信じていたのだと思います、ご自分が真面目であるだけに。けれども結果は大敗。民主党の政策が劣っていたわけではなく、選挙の時期と争点が最初から間違っていただけですけど、それも含めての「選挙」であり「政治」であることを、もしもう一度民主党が政権を目指すのならば理解しなければならないと思います。野田氏は国民を信じ過ぎたのですが、とは言え、今後の民主党には、例えそれが勝つためであっても、今回安倍氏がとった小泉氏の手法は、決して真似してほしくないところです。
そして今回、人生で初めて民主党に投票した私ですが。
小選挙区では海江田氏に投票したんです、ついでに比例も民主党。本当は、テレビ中継が入った国会で泣いた大臣に投票するのは大いに抵抗があったのですが、「苦渋の選択」というヤツで、彼の過去を無理矢理忘れての一票でした。その甲斐あって(?)、小選挙区では自民党の新人(自民党の新人なのに「(自民党を除名された)与謝野先生の跡を継いで」と言っていたのが超不思議)に競り負けましたが、比例で復活しました。しかし私が民主党に投票したのは、何も海江田氏を民主党の代表にしたかったわけでは決してない、のですよね、寧ろ「民主党復活」を望むならばとてもマズい人選だと思います。一部では民主党葬儀委員長」とも言われていますが、むべなるかな・・・。次の選挙の時に、「民主党」が残っているのかどうか。


安倍内閣の閣僚の半分以上が世襲だそうで、このリバイバル自民党政権のどこが「反省」しているのか、全く疑問ですし、折しも選挙があったこの12月、日本経済新聞朝刊に連載されている私の履歴書」は森喜朗元総理大臣ですが、これが想像を絶するくらい酷い!のです。森氏ご本人が、前述の小泉氏と同じく、「政策」ではなくて「政局」だけで自民党総裁、総理大臣になられた方、というのがご本人の筆で語られています。「人として許される内幕暴露」を軽々と超えて、亡くなった方、存命中の方、関係なく、森氏による一方的暴露に晒されています。何より、長年自民党という政党はサッカーのパスを回すように総理大臣の椅子を回していたのだということが、元総理の口から堂々と語られていることが、驚愕です。森氏のこの「人として許される内幕暴露」を無神経に超えるところは、もしかしたら小泉氏と相通じるところがあるかもしれません。高潔な紳士ならばやらないことだと思いますし、紛いなりにも嘗ての同士についての一方的な暴露話は、これを読んだ人の、森氏ご本人だけでなく政治家全体への信頼を損なってしまったと思います。先ほどの安倍氏の人事といい、こういうことが政治の世界では普通のようになってほしくないところです。それにしても、選挙期間に民主党が公約なんかではなく森氏の「私の履歴書」を印刷したビラを街頭で配りまくっていたなら、ここまで自民党が大勝しなかったであろう、と思われるほどの酷さです。



アメリカの民主党、イギリスの労働党、フランスの社会党、ドイツのSPD、のような政党が、日本にあってもよいはずで、都市部の知識層が共有できる価値観や政策は必ずあるはずです。小沢氏の一派が党を去って、鳩山氏も引退した民主党は、やっと本来の社会民主主義政党らしく出発できるのかもしれません、次の選挙まで生き延びていれば、の話ですが。世襲議員のような理不尽で前近代的なシステムを許さず、男女が等しく社会参加でき、子育て・老後のケアは手厚く、環境に配慮し、近隣を含め他国との関係を尊重する、という価値観を政治に託すには、次の選挙でどの政党に投票すればよいのか、1年の終わりに無力感が漂う今日この頃。